自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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盗難事件の犯人を追え

 鈴奈庵に到着した私と小兎姫先輩は小鈴に話を聴いた。

 

「いつも通り店番に出た時には既に店内は荒らされてたのよ!」

 

 大切な書物と店内を荒らされた事に憤慨する小鈴を宥めるながら私は、

 

「それで盗まれた本が何か分かる? 妖魔本じゃないよね」

 

 何を盗まれたか質問する。

 すると小鈴は何故か私の手を握り締めた。

 どうしたんだろう? 大切な本が盗まれたとは思えない反応、さっきは憤慨してたのに。

 私が疑問を浮かべると小鈴は何を盗まれたか語り出した。

 

「……アガサクリスQの原稿用紙を」

 

「へぇ……原稿を盗み出すなんて、続編を心待ちにしてるファンや先生を侮辱する行為を……やってはならない禁忌を犯す輩が現れるなんて」

 

 いま私は犯人に対してかつてない程の怒りを感じている!

 よりもよってアガサクリスQ先生の続編原稿を盗み出すなんてぇ!!

 私が怒りに身体を震わせていると、先生が私の肩に手を置いた。

 

「妖魔本じゃないだけマシと考えなさい。そりゃあ怒りたい気持ちも分かるけど、今は犯人の行方を捜すことが先よ」

 

 そうだった。私が怒っていても仕方ないんだ。

 今は早急に犯人を見付けて盗まれた物を確保するのが先決なんだ。

 ついでに犯人を吊るしても誰にも文句は言われないよね?

 

「それで小鈴は犯人の姿を見てないの?」

 

「見ては無いけど、だけど本に犯人の足跡が遺されてたよ」

 

 そう言って小鈴は泥で汚れた外来本を取り出してはため息を吐く。

 これじゃあ売物にもならないなぁ。そう思いながら本の表紙に遺された足跡に視線を向ける。

 

「やっぱり犯人は猿なのかな?」

 

「猿だって? 猿にうちの大事な本を粗末に扱われたの?」

 

「まだそうとは決まった訳じゃないけど、目的がますます判らない」

 

 小鈴は犯人に明確な怒りを現しながらも何か疑問に思うのか首を傾げていた。

 

「動物が目的を持って犯行に及ぶ事なんて有り得るんですか?」

 

「動物は賢いからね、何かを知らせたいが為の犯行か冬篭りの準備の為かも」

 

 動物は賢いから不思議には思わないけど、同時に人間の害を加えるとどうなるかも動物は理解しているはず。

 霧雨店と鈴奈庵で盗まれた物を考えると、犯人が人間であるなら愉快犯って説も有る。

 逆に妖怪の可能性は限りなく低くなったと言える。

 妖怪が鈴奈庵から妖魔本を盗み出さない。なんて事は少々考え難い。

 特に妖魔本は古い妖怪が封印されてる事も有るから力を得たい妖怪にとっては正に宝物と言える。

 だけど犯人ははアガサクリスQ先生の原稿を盗み出した。

 妖怪にも人気が有る小説だけど……いや、仮に本人が猿だとしたら益々目的が判らない!

 私があれこれ悩んでいると先輩が、

 

「もう少し調査を続けてみようか」

 

 私に微笑んでそう語りかけた。

 何だろう。もしかして先輩はもう真相に気付いてるんじゃないかな?

 

「先輩はもう犯人の正体と目的を知ってるじゃないの?」

 

 敢えて質問すると先輩は肩を竦めて、

 

「理解はしたけど、こういう機会も早々無いからね。これは絢音の成長の為よ」

 

 そう言って鈴奈庵の外に出た。

 

「はぁ〜、こういう時は厳しいんだから」

 

 むろん私だって自警団だ。調査を重ねて犯人に辿り着けないようじゃあ話にならない。

 

「じゃあ小鈴、原稿を取り戻せたら直ぐに返しに行くから」

 

「気になって読んじゃダメだよ?」

 

「読まないよ。そんな野暮なマネなんてしたらファン失格よ」

 

 実は内容が非常に気になるけど、やっぱり大好きな作家の本はちゃんと買ってから読みたいのが心情だ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 鈴奈庵を出た私と先輩は被害者リストの自宅を巡り歩き、そこで盗まれた物と同じ痕跡を発見したんだけど。

 

「やっぱり犯人は猿かな。だけど……鍋の蓋、筆、砥石、薬箱、帽子、羽織りって共通点が何一つ無いわね」

 

 盗まれた物のメモ書きに私は頭を悩ませた。

 これだけ共通点が無いけど被害は里の広範囲に及んでる。

 しかも慧音先生の帽子まで盗まれてると来た。

 それに足跡の痕跡から犯人は猿で間違いないのだろう。

 その目的が何か……。

 

「人に何かを知らせたいための犯行しか思い浮かばないなぁ」

 

「それ以外に動機は無いかもね。ほら幻想郷の猿は妖怪の山に住んでいる」

 

「そうなると山に何か起きてるのか、巣に帰れない何かが起きたとか?」

 

 妖怪の山で起きた問題なら私達は干渉できないけど、

 

「あ〜、それより一度戻って温かいお茶で一服しよう」

 

 確かに雪が降り積もる中を歩き回ったから先輩の身体が冷えるのも無理ないなぁ。

 私は先輩の提案に同意して、一度自警団の詰所に戻る。

 そしてお茶を淹れ、一息着こうという時に……寝室から物音が聴こえたのだ。

 私と先輩は物音を立てずに寝室にそっと近付き、そして戸を静かに開けた。

 そこには小さな子猿が私の私物を漁ってる姿が有るではないか!

 だけど此処で騒いで気付かれたら元も子もないか。

 私は極力声を押し殺すして子猿の様子を観察する。

 子猿は辺りをきょろきょろ見渡しては、人形やぬいぐるみ、本が有る中から私の寝巻きを掴んで、小窓に向かって飛んだ!

 そしてそのまま外に飛び出すではないか!

 

「追うよ絢音!」

 

「うん!」

 

 私と先輩は外に飛び出して、走る子猿を追い掛ける。

 

「ウキャ……!」

 

 子猿は私達に気付き、追い付かれまいと走る速度を上げた。

 私と先輩は逃がしてなるものかと速度を上げる。

 追いかけてる次第に人里の門が目と鼻の先というところで、子猿はそのまま人里の門を軽やかに飛び越えた。

 それに対して先輩は霊力で空を飛んで門を飛び越える。

 閉ざされた門を蹴り破ると修復が大変ね。

 だから私は門の塀を足場に飛び越えることで里の外に出た。

 

「子猿はどっちに!?」

 

 私は着地と同時に周囲を確認すると既に子猿を見失っていた。

 だけど宙を浮く先輩が指差して、

 

「子猿は霧の湖の方向に走って行ったわ」

 

 霧の湖? 妖怪の山じゃないんだ。

 少し疑問は残るけど、今は考えるより行動!

 私は先輩を先頭に霧の湖に向かって走った。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 子猿を追いかけて霧の湖に辿り着く。それから足跡を頼りに進むと岩陰に隠れる子猿の姿が在った。

 

「ふぅ、やっと追い付けた」

 

「流石に子猿を追い掛けるのは疲れるわぁ〜」

 

「途中から飛んでたじゃん」

 

 私がそう指摘すると先輩は地面に降り立って、

 

「飛ぶのも疲れるもんよ」

 

 そんな事を笑顔で言っていた。

 

「ウキャ!」

 

 子猿の鳴き声に顔を向けると、子猿は一匹の大猿を護るように立ち塞がっていた。

 大猿の側には人里で盗まれた物が散らばり、そして私の寝巻きが大猿に被されていたのだ。

 大猿は弱々しい様子で湿った石を舐めることで水分を得ていた。

 もしかしてこの大猿は怪我を負っている?

 

「その子、怪我をしてるの?」

 

 そう尋ねると、

 

「キキっ!」

 

 子猿は頷くように鳴く。

 私と先輩は寝巻きを退けて、大猿の様子を見て言葉を失った。

 鉄砲で撃たれたのか、大猿は腹部に酷い怪我を負っていて明らかに衰弱していたのだ。

 このままでは大猿が死んでしまう。

 

「先輩! 急いで永遠亭に運ぼう!」

 

「大猿は私に任せて、絢音はソイツを連れて来なさい」

 

 そう言って先輩は大猿を抱えて永遠亭の方向に飛んで行った。

 

「じゃあ私達も後を追いかけよ」

 

 言葉が通じるかは分からないけど、肩を差し出すと子猿は頷いて肩に飛び乗った。

 この子は随分賢い子だなぁ。

 そんな事を思いつつ、私はその場を駆け出した。

 それから竹林で妹紅さんに事情を説明して永遠亭に急行して、大猿の治療を依頼したんだけど……。

 

「事実は分かりました。ですが次からは動物以外の急患をお願いしますよ」

 

 八意永琳先生にそう言われたけど、永琳先生は大猿を治療してくれたのだ。

 治療を受けた大猿は暫く永遠亭で静養することに。

 それから私と先輩は霧の湖に戻って子猿が盗んだ物を回収、それらを被害に遭った人達に返して周りながら一連の騒動を説明して周った。

 終わる頃にはにはすっかり夜が訪れ、

 

「事実を理解してもらえて助かったね」

 

 自警団に帰る道中で肩に乗った子猿にそう語り掛けた。

 すると子猿は私の頬に頬擦りをしては、

 

「キキっ!」

 

 嬉しそうに鳴いたのだ。

 

「絢音の頬に頬擦りなんて羨ましい子猿ね」

 

「先輩はしょっちゅう頬擦りしてくるじゃん。それより今晩は湯豆腐食べるでしょ?」

 

「あ〜、猿酒で一杯といきたいところだわぁ」

 

「猿酒は用意できないかなぁ。だいたい里で扱ってないし」

 

 私がそう伝えると先輩は仕方ないっと肩を竦めた。

 そして私の肩に乗る子猿に視線を向けては、

 

「それで、いつまで絢音の肩に乗ってるのかしらぁ?」

 

「ウキャ?」

 

 子猿は先輩の言ってることがまるで理解できないっと言わんばかりに首を傾げるではないか。

 むー、こういう仕草を見せられると情が湧いてくるなぁ。

 だけどこの子猿は大猿が完治したら山に帰るべきだ。

 

「君は大猿が治ったら山に帰るんだよ」

 

「ウキャ!」

 

 子猿はそう一言鳴くと地面に降り立って、竹林の方向に走り去ってしまった。

 

「行っちゃった……何か気に触る事を言っちゃったのかな?」

 

「絢音が心配する必要は無いさ。子猿だって理解してるのよ、巣に帰らないとならないってさ」

 

「そうかな? でもまぁ、無事に解決したからいいかな」

 

「……大猿は鉄砲で撃たれた。だけど弾丸は永琳曰く、里の猟師が使用する物では無いと言っていたわね」

 

 里の猟師以外が何らかの目的で大猿を撃った?

 しかも猟銃でも無いとなると犯人は一体?

 

「鉄砲を持った犯人が妖怪の山に居る可能性が高い?」

 

「案外妖怪が外の世界から流れ着いた鉄砲を誤って撃ってしまったって線も有るけどね」

 

「撃たれた大猿は気の毒だけど、今回の件は事故の可能性も有る鹿」

 

 子猿は私達に敵意を向けず寧ろ助けを求めていた。だから人間を恨んでいないってことも理解できる。

 今回の件は不幸な事故が重なって起きたってところなのかな。

 でも、これからは外の世界から流れ着く危険そうな物に付いて警戒を呼び掛けなきゃ。

 

 それから程なくして完治した大猿は子猿を連れて妖怪の山に帰って行った。

 その数日後、自警団の土間には猿酒が入った壺が置かれていたのだった。

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