自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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吹雪の幻想郷

 朝から見回りを開始した私と先輩だけど、人里は深夜の吹雪が嘘の様に晴れていた。

 念の為真っ先に龍神像を確かめに行ったら、龍神像の眼が赤く光っていた。

 青は雨、紫は野分、そして赤は異常事態を示す。

 今は晴れているけど、人里の外はきっと異常に見舞われてるのかもしれない。

 

「先輩、一応里の外を見る?」

 

「異常事態と言ってもどんな事が起きるか分からないからね」

 

 さっそく私と先輩は人里の外に向かう。

 すると外は目の前が見えないほどの吹雪に見舞われていたのだ。

 これは里の外に出られないなぁ。

 私がそう思いながら吹雪を見つめていると。

 一瞬だけ吹雪の中を何が動いた様な気がした。

 視界が悪いことも合わさって正しく視認する事はできなかった。

 私の見間違いの可能性も有る。そう思って隣に居る先輩に聞く。

 

「さっき影が動いた様に見えたんだけど」

 

 先輩も吹雪の中を凝視しながら首を傾げて。

 

「私も見た気はしたんだけど、一瞬だったから分からないわ」

 

 二人で何かの影を見た。

 一人だけなら偶然や勘違い、見間違いの線が濃厚だけど先輩も見たとなると話は違ってくる。 

 

「吹雪の中に何かが居るのかな?」

 

「居たとしてもこの吹雪じゃどうにもならないわね」

 

「自然に止むのを待つしかないのかな」

 

「如何だろうね? 何にせよ見回りしながら様子を見ましょう」

 

 こういう時は経過観察が大切だ。

 私と先輩も例に倣って、朝の見回りを開始した。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 朝の見回りは意外と楽に終わった。

 龍神像の眼が赤く、人里の外は吹雪に見舞われているにも関わらず人間は落ち着き払っていた。

 何故かと思ったけど、深夜に吹雪が有った程度で今は晴れているから危機感が薄いのかもしれない。

 

「むー、混乱されるよりは良いけど」

 

 もう少し危機感を抱いて欲しい。

 それが私の正直な本音だ。

 

「良いんじゃないかしら? 下手に混乱されるより楽で良いわぁ」

 

 確かに先輩の言う事にも一理有る。

 私と先輩は人里の通りを歩いていると、困り顔を浮かべる文さんとはたてさんと道端でばったりと出会った。

 そう言えば昨夜は人里で飲んでたんだよね。

 

「文さんとはてたさん……人里の吹雪に付いて何か分かる?」

 

「……実はその事ではたてと相談していたのです」

 

「外の吹雪は人里にとって危険性は皆無なのよー」

 

 人里にとって危険性が皆無? どう言うことだろう?

 野分の時みたいに天狗が嵐から人里を護ってるんじゃないの?

 

「人里が安全なのは護られてるからだと思ってたけど」

 

「あやや? そんな親切な方が居るんですかね? まあ、何に護られているか詳しくは聞きませんが」

 

「あ〜、外の吹雪を鴉天狗の力で晴らせないのかしら? このままじゃ年末年始に博麗神社に行けないわぁ〜」

 

「山の仙人と魔理沙と何か用意してる様だったけど、このまま吹雪が続けば中止ねー」

 

 ふむ、霊夢さんが華扇さん達と年末の準備を!

 前の博麗ランドは斬新で楽しかったけど、他の人達からは不評だったなぁ。

 

「それで話の続きだけど、文さんの力でどうにかできないの?」

 

「単なる吹雪なら私の力でどうにでもなるんですけどねぇ……今回は触らぬに越した事はありません」

 

 さっきはたてさんは人里は安全だと取れる言葉を言っていた。

 だけどどうにも天狗が関与してないことも窺える。

 なら如何して安全と言い得るのか。

 

「じゃあ質問を替えるけど、如何して吹雪は人里にとって安全と思えるの?」

 

「……まぁ、コレには敵意や害が無いと言えるのも大きいですが、吹雪を発生させてる者が幻想郷のルールを理解してるからですよ」

 

「あー、それは確かに安全ね」

 

「えっ? それだけで納得するの?」

 

 はたてさんは意外そうな眼で見てくるけど、ルールを理解してる人妖なら人里に手を出さない。

 それはある意味で最大の保証とも言えるからだ。

 

「絢音は素直だからねぇ。それはそうと、吹雪の中に一瞬だけ影を見たわ」

 

 先輩が改めて二人に話しを切り出すと、

 

「おや、吹雪の中に……昨晩狼の遠吠えを聴きましたか?」

 

 私と先輩は頷いて答える。

 すると話が速いと言わんばかりに文さんはキャップ帽子を深く被り直して、

 

「あれは大口真神かもしれませんね。外の世界ではニホンオオカミと呼ばれる神狼です。ただ、私達が知る大口真神に吹雪を起こす能力は無かったはずなのですが……」

 

 大口真神様……確か小さい頃に阿求の資料で閲覧した事が有るなぁ。

 随分昔のことだから詳細は忘れちゃったけど、大口真神様は吹雪を操れない?

「能力に目覚めたとか?」

 

「その可能性が高いでしょうが、別の神霊を取り込んだのかもしれません」

 

 別の神霊を? 神霊に付いてあまり詳しくないけど、そういうことも有るのかな?

 

「あ〜、その大口真神だっけ? モフモフしてるのかしら?」

 

「は? あ、え? ……えぇ、狼ですからね。というか相変わらずずれてますね」

 

「先輩の事は気にしないで。でも何で大口真神様が人里を護るの?」

 

「作物を守護し、人の性質を見分け、善人を守護し悪人を罰する神と言われてますから」

 

 なるほど。それで人里に何が起ころうとして吹雪で護ってるのか。

 

「でも大口真神は、最近まで幻想郷には居なかったはずよ」

 

「うん? 居なかったの?」

 

 はたてさんの言葉に私は疑問から首を傾げた。

 

「最近幻想入りしたったことよー」

 

「……もしかして幻想郷のルールは知ってるけど、人里に妖怪が出入り自由なの知らないんじゃ?」

 

 出入りは自由だけど形でだけでも恐れ、退治する事が大事だからね。

 それに出入り自由だからといって妖怪が人里で悪さしないとも限らない。

 逆にそれは人間にも言えることだけど。

 

「ですから閉じ込められた私達は困ってるのです。萃香様は鯢呑亭で美宵さんの所に居ますし」

 

 なるほど文さんとはたてさんは、里から出られなくて困ってたのか。

 でも人間にとって無害そうだから放置しても……ちょっと待って?

 人里は安全でも博麗神社や妖怪の山、他の場所は如何なんだろう?

 

「博麗神社は大丈夫なのかな?」

 

「あそこは大丈夫でしょう。極地的な地震でもない限り倒壊しない程度には造りは頑丈、何せ萃香様が建設しましたから」

 

 そういえばそんな事も有ったなぁ。

 ま、言われてみれば鬼が建設した神社だから安全なのは道理かも。

 私が少しだけ安堵してると、里の外から狼の遠吠えが響いた。

 

「遠吠え、何かを伝えたいのかな?」

 

「帰る場所が無いじゃないのかしら?」

 

 先輩の言葉に私は振り向く。

 

「だって幻想入りしたばかりの神でしょ? 祀る物が無いんじゃねぇ」

 

 確かにこのまま祀る物が無いと大口真神様には宿る場所が無い。

 もしかすると帰る場所を用意すれば外の吹雪は止むのかもしれない。

 問題は人里で勝手に神様を……あっ、よくやってたわね。神様を祀るなんてこと。

 それに作物を守護する神様なら人里の為にもなるかな。

 

「じゃあ阿求と慧音先生に話しをして協力してもらおう」

 

「おや、では私とはたては人間に呼び掛けておきますよ」

 

「このまま帰れないんじゃ、上司に叱られるしねー」

 

 そう言って二人は里の中を羽ばたいた。

 

「じゃあ私は慧音先生の所に行くから先輩は阿求の方をお願い」

 

「分かった。集会所で落ち合いましょう」

 

 こうして私と先輩は二手に分かれて走り出した。

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