自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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年末の博麗ランド

 今日で今年も終わる。

 今年は去年や一昨年に比べて異変の頻度は少なかったと思う。

 でも市場に流通したカードは自然に終息はしたけど、闇市場がカードを流通させてしまっていたためカードは未だ幻想郷で流行してる状態。

 一応全てのカードは魔理沙さんが集めたらしいけど……いつ新しいカードが流れるのか分かったものではない。

 私が重箱に御節を詰めながら今年の事を振り返っていると、

 

「ふむ、その焼豚なる物……唆られるな」

 

 真神様が重箱のおかずに興味を唆られている。

 特に焼豚が非常に気になる様子で、忙しなく尻尾を振ってるではないか。

 ……外の世界の料理本を参考に作ったけど口に合うかな?

 私は切った焼豚を一つ摘んで真神様に差し出す。

 すると真神様は無言で食べ始め……尻尾が千切るのではないか? そう思うほど激しく振っていた。

 この反応を見るに美味しいのだろう。だけど無言で作業に戻るのも神様に対して失礼かもしれない。

 

「美味しい?」

 

「うむ! これは美味であるぞ!」

 

 絶賛する真神様に私は小さく安堵した。

 はじめて作ったにしては上手くいったようで安心。

 そんな風に思っていると、重箱に伸びる手が!

 私は伸びた手を叩き、

 

「先輩、摘み食いなんてはしたないよ」

 

「あ〜? 真神はよくて私はダメなの?」

 

「真神様は試食、先輩のは摘み食い。天地の差が有るよ」

 

 とはいえ、流石に贔屓はよくない。

 それに今年は先輩も手伝ってくれたからね。

 

「はい、先輩」

 

 菜箸で摘んだ煮物を先輩に差出す。

 すると先輩は少しだけきょとんっとすると、やがて小さく笑って煮物を食べた。

 

「……んん! やっぱりこの煮物を食べないとねぇ! 朧家秘伝の煮物は最高だわぁ〜」

 

「秘伝って言う程でも無いよ。それにどちらかと言うとお母さんの祖母方の伝統……?」

 

 自分の家系図がよく分からない。

 この煮物はお母さんが祖母から、祖母もまた受け継いだレシピだと言うのだ。

 ただ、レシピは受け継がれはしたけど家系図は人里が結界に隔たれた影響で消失してしまったとか。

 

「……私の家系って代々退治屋を生業としてたらしいけど」

 

「ま、人里の先祖の大半は退治屋だったからねぇ」

 

 何処の家系が昔退治屋だったと言われても人里では不思議じゃないか。 

 

「それはそうと先輩は今年博麗神社で良かったの?」

 

 先輩は去年初日の出と初詣は守矢神社で護衛も兼ねて過ごしたけど、今年は護衛の依頼も来てなかったなぁ。

 

「物珍しいさで行ったけど、通い慣れが一番よ」

 

 そういうものなのかな案外私と霊夢さん達に気を遣ってるのかな?

 でも今年も博麗神社の境内で屋台は無いんだよね。

 殆どの屋台は守矢神社で開くって話しだし。

 

「今年も屋台は無いから、甘酒とか色々持参しようかな?」

 

「あ〜それが良さそうね。ついでにお賽銭もたっぷりと」

 

 そう言って先輩は大量の銭が入った財布を懐に仕舞い込んだ。

 ふと真神様はどうするのか気になった私は、

 

「真神様はどうするの?」

 

「冬の間は害獣も寄り付かぬゆえ、博麗神社に我も参ろう」

 

 真神様、ここ最近自警団に出入りしてるけどやっぱり暇だったんだ。

 それよりも御節はこれで足りるかな? 多分霊夢さん達も食べると思うから足すべきかな。

 

「うん、じゃあもう少し多めに詰めよ」

 

 こうして御節を詰め込んだ私達は、まだ初日の出には相当速い時間に博麗神社に出掛けた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 まだ昼の時間帯に到着した私達は絶句していた。

 今年も博麗ランドが開園するとは聞いていたけど、前回より比べてそのねぇ?

 

「此処は神社なのか? 神社か……神社? 神社とはいったい……??」

 

 あまりにも風変わりな光景に真神様が混乱しちゃったぁ。

 それにしても観覧車、動物メリーゴーランドに動物アトラクションにハプニングハウス?

 それに森の方に見える巨大な神像は一体どうやって用意したんだろう?

 私と先輩は霊夢さん達に近付いて、

 

「こ、こんにちは〜。え、えっと前回よりもすごいね」

 

「いらっしゃい絢音ちゃん! あんたは来てくれると信じてたわ!」

 

 わぁ、すごい晴々とした笑顔だぁ。それに信頼してもらえてなんだか嬉しいなぁ?

 

「巫女さんや、巫女さんや? 私は無視なの」

 

「あ? 居たの小兎姫」

 

「私の扱い酷過ぎないじゃない? そんな態度だったら絢音のおせち食べさせないよ?」

 

 私のおせちが入った包みを霊夢さんに見せびらかすように先輩が不敵に笑った。

 作ったのは私だが?? 

 

「ごめんなさい! だから私から絢音のおせちを取らないで!」

 

 あっさりと先輩に縋り付く霊夢さんの姿に魔理沙さんが苦笑を浮かべた。

 

「霊夢はすっかり餌付けされてるなぁ」

 

 そこに華扇さんのため息も。

 あ、博麗ランドに着いても聞いておかないと。

 

「それで今年の博麗ランドは前回よりも豪勢だけど」

 

「ふっふっ! 前回の失敗を活かして今年は、よりスルリ満点にしてみたわ! 題して年最後の度胸試しよ!」

 

「度胸試し? 年明け前にやる事なの?」

 

 素朴な疑問から霊夢さんに質問すると、なぜか華扇さんと魔理沙さんも強気な表情を浮かべていた。

 この気迫、なんだかよく分からないけど期待できそう。いや、何に? と言われたら分からないけど。

 

「ふとした事で人は弱気になるじゃない? それならいっそのこと弱気を追い払うために度胸を付けて新年を迎えようってわけよ」

 

「な、なるほどぉ。じゃあ動物メリーゴーランドとハプニングハウスはその為に?」

 

「えぇ、前回同様同じ動物達だけど、今年は激しく動くわ!」

 

「ハプニングハウスは、私が考え抜いた演出と恐怖が待ってるぜ!」

 

 おお! 華扇さんと魔理沙さんもやる気に溢れてる!

 そんな三人の様子に先輩と真神様が、

 

「何にせよ、夜まで時間が有るからね。しばらく遊ばせてもらうわぁ〜」

 

「我は遊具には興味ないゆえ、適当な所で寛がせてもらおう」

 

 そう言って先輩と真神様がさっそく移動してしまった。

 すると霊夢さんは真神様の後姿を見て、

 

「神狼の寛ぎ、参拝客を呼び込めないかしら?」

 

 商売案が浮かんだのか、考え事をしていた。

 

「如何だろうね? 真神様が寛ぐ姿は珍しくないから」

 

「威厳も神秘も有ったものじゃないわね。そんなで存在を保つ信仰は得られるのかしら?」

 

「信仰も大事だけど、人間に恐れられる方が嫌だって言ってたよ」

 

「そう、そんな神様も居るもんねぇ。ところで絢音ちゃん? まだ入園料を払ってもらって無いんだけど?」

 

 先輩、さては此処が無料だと勘違いしてるな?

 全くここは後輩が先輩の分も持ちますか。

 

「じゃあこれで」

 

 私は先輩の分も支払うと霊夢さんは笑みを浮かべ、

 

「毎度あり! あっ! 森の方に神像が置いてあるから拝みたいなら行って良いわよ」

 

「あの神像……霊夢さんが建てたの?」

 

「あー、私のツテで初詣まで借りてるのよ」

 

「そうなんだ。気前の良い人が居るんだね」

 

 幻想郷にそんな人も居るんだなぁなって私は一人納得して、さっそく動物メリーゴーランドに向かった。

 さっそく虎の背中に跨ると、動物達は同時に円に沿って歩き出した。

 だけど虎をはじめとしとした動物達は唸り声を鳴らして、まるで威嚇してるような様子で次第に激しく動き始める……!?

 

「う、うわぁ! ち、ちょっと!」

 

 上下に激しく動き出す虎に振り落とされまいとしがみ付く。

 そこに負け時と私を振り落とそうと暴れ出す虎。

 次第に動物達も走り出すではないか。

 こ、これが度胸試し! 確かに熊や虎に威嚇されるのは恐いけど!

 視界が激しく揺れる中、メリーゴーランドが10周目に差し掛かると。

 

「はい、そこまで!」

 

 華扇さんの声に動物達はぴたりと静止した。

 

「お、終わったぁ〜? 危うく振り落とされるところでした」

 

「絢音、良く耐えたわね!」

 

 そう言って華扇さんは笑顔だけど、私は一つ伝えなければならない。

 

「度胸試しも良いけどこれ普通に危ないです。普通の人間は振り落とされて怪我しちゃうますよ」

 

「……やっぱり? 何だか最初はいける気がしていたんだけどねぇ」

 

「でも虎のモフモフは最高でした!」

 

 モフモフを十分に堪能した私は緩んだ頬で伝えると、華扇さんが微笑んだ。

 それから次にハプニングハウスに足を運ぶ。

 天幕に入って、案内に従って進むと。

 私の頬に何が掠った!

 恐る恐る背後に視線を向ければ、壁に弾幕の痕が残されていた。

 ハプニングって物理的な!?

 私が戦慄を浮かべるも束の間、何処からともなく弾幕が展開されるではないか!

 走って避けて、何かに足を掴まれて転んで。

 

「いったぁ……何か居る?」

 

 辺りを見渡しても誰の姿も無い。

 いや、それよりも弾幕!

 私は慌てて立ち上がって、その場で横転して弾幕を避けた。

 これは出口まで突っ走るしかない!

 弾幕の中を走り抜けて、天幕の中を進む。

 途中頭上に影が差して、慌てて背後に跳ぶと……わぁ、金タライに入ったキスメだぁ。

 

「殺意高い! ハプニングじゃなくてスリル! これもうスリル!」

 

 はっ! まさかこれを企画して立案した魔理沙さんは、ハプニングと題してこと事態が罠?

 踏み込んだ人は何かしらハプニング的な現象を期待する。

 だけど実際は弾幕やら謎の存在、キスメのタライ落としによるスリルだ。

 そう、私は入った瞬間から魔理沙さんの術中に嵌っていたのだ!

 一先ずキスメを素通りして、出口が後少しという所で……私の目の前で出口が消えた。

 

「消えた? 目の前で? ここは天幕だから閉じられた?」

 

 近寄ると見えない壁のような物で阻まれる。

 見えない壁かぁ。

 取り敢えず蹴ってみよ!

 決心した私は見えない壁に向かって回し蹴りを放った。

 すると見えない壁は倒れ、その下敷きになって目を回すサニー、ルナ、スターの三人組の姿が。

 

「なるほど、三月精の仕業だったのね」

 

 一人納得した私はそのまま出口に向かって外に出た。

 

「ゴール! よく抜け出せたっと言いたいところだが、お前さんと小兎姫は物理的過ぎないか?」

 

「行手を阻む壁が現れたら時には蹴り倒せ! これも自警団として必要なことよ」

 

「自警団関係有るのか? ……まあいいさ、楽しかったか?」

 

 回避可能な迫り来る弾幕の嵐、足を掴む三月精、頭上からキスメによるタライ落とし。

 度胸試しという一環では成功とも言えるなぁ。

 

「うん! 弾幕を避けるが楽しかったかよ」

 

「おっと、次は難度をあげておくか」

 

「ところで先輩は?」

 

「彼奴なら颯爽とクリアするなり……ほれ、あそこだ」

 

 魔理沙さんの視線の先に眼を向けると、観覧車の天辺に先輩が腰掛けていた。

 良いなぁ、今日は天気も良いから景色も一望できるだろう。

 

「あそこから観る景色は素敵そうだね」

 

「度胸試しに観覧車に乗ってみたらどうだ?」

 

「やめておく」

 

「そいつは残念だな」

 

 魔理沙さんが本当に残念そうに肩を竦め、私は苦笑を浮かべるしかできなかった。

 来年こそは高所恐怖症も克服したいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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