突然だが、皆さんには付き合っている人という人物が存在するだろうか。彼氏や彼女、パートナーとか呼ばれる存在である。あるいは、結婚している人もいるかもしれない。
「なんでそんなこと聞くんだ」とか、「いるわけねえだろ爆発しろリア充」とか、「お腹空いた」とか、人によって様々だろう。最後の回答に至っては質問の答えになっていない。だが、食欲は人間の三大欲求の一つのため仕方がないことだと思う。
少し話が逸れてしまった。結論だけ言うと、皆さんがどう答えようと、俺にとっては関係がない。この質問は、この後俺が語りたいことの導入部分にすぎないからだ。
では、これから少しの間、俺の話__俗に言う惚気話__を聞いてもらうとしよう。
◆◇◆◇◆
「さっきから何一人でぶつぶつと言ってんの?」
「なんでもない気にするな」
「あー……もしかして厨二病?」
「失礼な俺は高二だ」
あの導入のテンションなんか疲れる。もうやりたくない。なんか厨二病疑われたし。
今の状況がわかっていない人がほとんどだと思うから端的に説明しよう! 俺は今、最愛の彼女・奥沢美咲とデートに来ている! 季節は冬! さっきまでイルミネーションを見ていて、今はレストランで食事を待つ間の雑談中だぞ!
「こんなやつがあたしと同い年、ねぇ……」
「ジト目やめろ」
ジト目くそ可愛い。おいそこ、言葉と考えてることが一致していないとか言わないの。俺が美咲超大好きなのが本人にバレたらどうしてくれるんだ。いやでも、俺の想いの強さを知って恥ずかしがる美咲も、逆にドン引きする美咲も、どっちも見てみたいとい気持ちはあるが……うん、まだその時じゃない。
「まあ、あんたが変人なのは今に始まったことじゃないし」
「ひどい言い様だな。美咲が俺に対して辛辣なのも今に始まったことじゃないが」
「よくわかってんじゃん。さすがあたしの彼氏」
「お褒めに預かり恐悦至極にございま~す」
「時代劇にでも影響された?」
「ご名答」
ここだけ見ると、俺が美咲に雑に扱われていると思う人もいるかもしれない。だけど、これは信頼の証ってやつさ。恋愛を始めた直後の時期とかだと、人は気を遣いすぎて、自分を出すことができない。実際、俺も美咲超絶ハイパーミラクル大好きな気持ちは隠し、普通に大好きに抑えている。交際を始めてまだ3ヶ月だししょうがない。あれ? もう3ヶ月も経ったのか。 楽しい時というのはあっという間に過ぎるってほんとだな。
一方、美咲は俺に対して素を出してくれている。これはもう、人が家族に見せる信頼感とほぼ同じと言っても過言ではないだろう。よって、美咲と俺は家族すなわち夫婦。この日本では法律上まだ結婚できないことが悔やまれるな。あーほんと美咲好き愛してる。
「あ、そうだ」
「ん?」
美咲が何かを思い出したかのように言う。どうしたんだ?
「ずっと前から聞きたかったんだけどさ」
「うん」
「……普段だと聞きにくいから、思い出した今のうちに聞こうと思うんだけど」
「美咲にしてははっきりしないじゃないか珍しい」
「聞きにくいことなの!」
「そ、そうか……」
少し顔を赤らめながら言う美咲。こんな急に雰囲気変えられると俺の美咲ラブモードが冷めてきて困る。でも、四六時中心の中で愛を叫んでいたらマンネリ化しかねないからな。こういう時は思考を愛から引き離さないと。まあ5分後くらいにはまた愛を叫ぶわけだし?
「それで、聞きにくいことっていうのは? 俺は何聞かれてもお前から離れるつもりはないけど」
「……そういうところだよ」
「え?」
「あんた、あたしのこと大好きじゃん」
「そうだな」
美咲が思ってるより1000000000000倍くらい大好きだな。
「………………なの?」
「聞こえないぞ?」
「あたしなんかのどこが好きなの?」
あらやだ美咲ちゃん顔を真っ赤にしちゃって。茹でだこのように真っ赤とはこのことか。恥ずかしがる美咲って普段とは別ベクトルの可愛さがあって素晴らしい。
だけど、俺は知っている。美咲がこういうことを聞くときというのは……
「……なんか嫌なことでもあったか?」
この少女、自分のことを卑下する時がある。嫌なことがあるとたまにこうなる。メンタルが弱ってるんだな。そんな美咲も愛らしいんだけど、美咲には笑顔でいてほしい気持ちの方が強いし、この状態の美咲を見れても素直には喜べない。
「デート中さ、周りにカップルたくさんいたじゃん」
「デートスポットだからな。人混みはちょっと辛かったか? だとしたら悪いことをしたな」
「いや、それは大丈夫。人が多い空間はライブで慣れてるし」
良かった。今回のデートプランを考えたのは9割俺だから、そのせいで美咲が辛い思いをしたのだとしたら切腹じゃ済まなかった。 拷問の末に打ち首は免れなかった。
「そのさ、カップルの人たちって、手繋いだりしてたじゃん」
「それは俺たちだってやってたぞ」
美咲の手はヒンヤリしてて気持ちが良かった。手が冷たい人の心は温かいってどこかで聞いたことあるし、つまり美咲はそういうことだ。一方、俺の手は温かかった。手ごときで人の性格ってわからないから俺は気にしてないけど(高速掌返し)。
「あーもうそういうことじゃなくて!」
しかし、美咲が言いたいのはそういうことじゃないらしい。ふむ……これは、奥沢美咲検定1級を持っている俺にとっても難問だ(余談だが、この検定の受験者及び問題作成者は俺だ。公平性に欠くとかそんなことは知らん。そういう細かいところ気にしてるとモテないぞ)。
「なんて言えばいいかなー……そういう人たちってさ、顔も可愛いしスタイルも良いしって人が多いじゃん?」
わかった。わかったぞ。つまり美咲は「あたしより良い人はたくさんいるのに、どうしてあたしなんかを選んでくれるの?」的なことを言いたいんだ。周りの人を見て自信を無くしちゃってるんだ。
「なるほど美咲の言いたいことはわかった。でもな……」
なんて返せばいいんだろう。
正直に言うと、美咲が神々しすぎて周りの有象無象の顔とかスタイルとか一切見てないからわからないんだよな。人多いな―、ってくらいにしか思ってなかった。とはいえ、この事実をそのまま言ってもいいのだろうか。愛の強さに引かれかねない。信じてもらえない可能性だってある。でも、ここで無言でいることは最大の悪手。俺が美咲の言葉を認めているかのように思われてしまう。それは最悪のパターン。それだけは回避せねば。さあどうする俺。
「……顔が良い、スタイルが良い、性格が良い、こんなのは所詮主観的な評価にすぎないだろ?」
「え?」
「例えば、美咲と別の女性を比べた時に、100人中100人がその女性の方が可愛いと言ったとしよう」
「うっ……」
「でも、それは100人の主観に過ぎない。好きとか嫌いとか、可愛いとか可愛くないとか、そんなのは個人の勝手だろ?」
「……でもさ、100人中100人がそう言ったらさ、それは正しい結果って言えちゃうんじゃない?」
「そんなことはない」
「なんで?」
「突然地面から現れた俺が101人目になって、美咲派になるからだ」
「うん、100人に聞くっていう前提覆すのやめよっか。あとなんで地面からなの? せめて空から来てよかっこ悪い」
ふっ……完璧。よくもまあ一瞬でこんな言葉が出てきたな俺。これで、美咲を立ち直らせつつ、俺の好意の強さもバレずに済んだ……バレてないよね? お兄さん急に不安になってきたぞ? これくらいの言葉をかけるのは恋人として普通だよね?
「……あー、でも、あんたがそう言ってるのを聞くとさ、悩んでたのがバカみたいになってくる」
「もしかして褒められてる?」
「8割はね」
「2割どこ行った」
ちょっと解せない点もあるけど、それは美咲がツンデレなだけだから仕方ないとして、一件落着。美咲を悲しませるなんて重罪は回避できた。よし。
「そんなことは置いといて、あたしにあんなこと言ってくれるならさ、さっきの質問に答えてほしいなー、なんて?」
「さっきの質問?」
「うん」
そう言って小悪魔みたいな笑みを浮かべる美咲。この表情はレアだぞ。咄嗟にスマホのカメラを構えるだけの反射神経がな自分を恨みたい。
「あたしなんかの……いや、あたしのどこが好きなの?」
来たぞーこの定番質問。さっき普通に流したけど、2回目は誤魔化せないよな。この手の質問がパートナーにされた時、中々答えられなくいという少し辛い方々も世の中にはいるみたいだが、俺にその心配は無用。この質問をいつかされることは想定内だし、仮に想定できていなくても、美咲の好きなところなんてこの広大な宇宙を埋め尽くすほど出てくる。
「……」
「もしかして答えられないの?」
いや、答えられるよ? その気になれば愛の言葉が流星群のように降り注ぐよ?
でもさ、俺が本能のままに美咲の好きなところを言ったら、絶対引かれるじゃん? それは困る。俺は臆病な人間だからな、美咲に嫌われる可能性があることは極力排除する。
「……答えられなさそうだね」
「……悪いな。言葉を選んでるんだ」
「でもあたしの質問も良くなかったのもあるし、あんたを責めるつもりはないよ」
「……そうだ!」
「急に大声出さないの」
俺天才。この状況での最適解、思いついちゃいました! これはもうすぐに使うしかない。
「質問に質問で返すけど、美咲は俺のどこが好きなんだ?」
「……性格悪っ」
「えへへ」
「褒めてないからえへへとか言わないで」
さあ、どうする美咲? このまま曖昧になっても良し、美咲が俺の好きなところを言ってくれたら更に良し。どう転んでも悪くはならないだろう。お互いに好きなところを言い合うとかなら考えやすいから歓迎だぞっ。
「うーん……でも、言葉にするのって難しいな……」
「だろ?」
「だったら……あ、こうすれば……いやでも、これはかなり恥ずかしいし……だけど、これをやったら流石のこいつもびっくりするんじゃ……」
「どうした美咲」
「………………」
「おーい美咲ー?」
「………………」
「返事がない。ただの屍のy」
その瞬間だった。
俺のファーストキスが奪われたのは。
「……え!? み、みみ、美咲⁉ お、おま、な、なにして」
「言葉並べるより、こうした方が早いでしょ!」
顔を真っ赤、それはもう茹でだことかそんなのが比じゃないレベルに真っ赤にしながら、美咲は微笑む。
「あたしがあんたのこと好きなの、伝わったでしょ」
「つつつつつ伝わったけれどももももも」
「それでも伝わりきらないならさ、恋人同士がするコト……してもいいよ?」
「へあっ!?!?」
わー美咲大胆……って、おかしいおかしい。俺の知ってる美咲はこんなんじゃない。そうだ落ち着け俺。まずは素数を数えて……あーだめだ1は素数じゃない! なら般若心経を……ってそんなもの知ってるわけないだろこのバカ!
「……あははっ」
「な、何笑ってるんすか美咲さん?」
「なんか、やっと素を出してくれたなって」
「?」
美咲が何を言いたいのかわからないのは、俺の脳がオーバーヒートを起こしてるからか? 俺が素を出していなかった?
「いや、あんたが嘘をついてるって言いたいわけじゃないんだけどさ。なんていうか、今まであたしに何かを隠してるような気がしてて」
「俺が美咲に隠し事? 浮気はしてないけど」
「それは疑ってないよ。あんたが浮気するようなやつには見えないし」
なんで美咲という神という言葉では言い表せないほど最高の存在を彼女にしながら浮気するんだ。流石にここまで美咲のことを想ってるなんて口では言えないけど……そうか。俺が何か隠してるってそういうことか。
「でも、浮気ではないけど、隠し事なら心当たりがあるぞ」
「そうなの?」
「うん。むしろ浮気とは真逆のことだけど」
「そんな言い方されると気になるじゃん」
美咲は俺に対して正直に想いを伝えてくれた。キスという形で。いやほんと恥ずかしいなこれ。なんでこんなことできたのこの子。
それに対して俺はどうだ? たしかに、美咲に好きだという気持ちを伝えてはいる。でも、その大部分を隠しているのではないのか?
俺に対して誠実(?)に好意を示してくれた美咲に対して、俺のやっていることはあまりにも身勝手なのではないか?
「……気になるなら話す」
「いいの?」
「ただし、何を聞いても引かないと約束できるか?」
「内容による」
「そこは嘘でも約束してくれよ」
「できない約束はしないから」
「ははっ、現実主義な美咲らしい」
覚悟は決めた。今から、俺がどれだけ美咲のことを好きか、本人に聞いてもらうとしよう。第三者ではなく、当事者に惚気話みたいなのをするというのもおかしな話だけど。
結論だけ言うと、美咲に殴られた。解せぬ。でも、嬉しそうではあったし、照れ隠しのための行動ってやつだろう。きっと。
美咲は最高。異論は認めない。
弾正と申します。今回、半年ぶりに小説を執筆させていただきました。半年間何をやっていたのかというと、ちょっとリアルの方が忙しくて。
作者のどうでもいい近況はこのくらいにしておいて、本企画について少し。そもそもこの企画、僕とrain君が話していた時に出てきた企画なのです。だから僕も実質企画側だけど、全ての責任とか諸々をrainくんに押しつk……信頼して任せました。ありがとうrainくん。このご恩は1ヶ月くらい忘れない。
では、本作品について。美咲への愛が溢れた。以上。半年ぶりの執筆ってなると、やっぱり鈍ってて難産でした。ですが、少しでも多くの人に美咲の良さが届いていれば嬉しいです。
長文失礼いたしました。
・代表作
https://syosetu.org/novel/240288/
今話をもって、8月1日から投稿してきた
【奥沢美咲短編集】
この作品を終了とさせていただきます。
参加してくださったハメ作家の方々、ご愛読して頂いた読者の方々、大変、ありがとうございました。
【奥沢美咲短編集】企画者 Rainより