あたし、奥沢美咲は面倒事に巻き込まれやすい体質にあるらしい。
まあそれが嫌って訳じゃない。
ハロハピの面々……主に3バカの独特のペースには慣れつつあるし、花音さんもフォローしてくれるし、何よりあたし自身がハロハピが好きって言うのもある。
それでも時々、何となく疲れちゃって癒しが欲しくなったり、1人になりたくなる時はある。
そんな時、あたしは決まってある場所に向かう。山吹ベーカリーから少し歩いた所にある穴場のようなお店……『
「いらっしゃいませ〜」
暖簾を潜ると甘味処のイメージ通りの和を基調とした雰囲気が広がっていた。明るめの木目調の机や椅子にい草のクッションにどことなく気分が落ち着く間取りが心地よい。
あたしはカウンターの席に座り、メニュー表を広げた。
「また来たな奥沢さん」
「別に良いでしょ?」
カウンター越しに話しかけてきた彼にあたしは素っ気なく返す。このやり取りは言わば社交辞令の様なものだ。
断っておくが彼とは恋人とかそんな関係ではない。彼はこのお店の店員で、何となく通っていたら意外と波長が合い、ここに来て普段の最近の事や愚痴などを話し合うようになった。
「御注文は?」
「やわらか抹茶と特製冷やし白玉ぜんざい」
「あいよ」
彼はそのまま厨房に戻った。中から食器がなにかに軽く当たる音等が聞こえ、そのまま店内を見渡しながら待ち続ける。
気がつけば壁に飾られている絵が変わっていた。今までは油絵具で書かれた森や甲虫の絵だったが、今は地中海風の絵になっている。
「お待たせしました。やわらか抹茶と特製冷やし白玉ぜんざいです。」
目の前にあたしが注文した抹茶と白玉ぜんざいが入った器が置かれる。
おしぼりで手を吹き、まずは抹茶を少し口の中に流し込む。ほろ苦い風味と抹茶独特の香りが鼻を刺激する。しかし、その刺激が良い。
「なんか前より口当たり良くなった?」
「ちょっと隠し味を加えてみた」
「へえ〜。一体何使ったの?」
「決まっているだろう。企業秘密だ」
うん、知ってた。
このお店……というか彼は何かとこういう事は答えたがらない。……まあマスターに聞けばすぐ教えてくれるんだけどね。
お次に白玉ぜんざいの餡だけをスプーンで掬い1口食べた。小豆そのものの味を活かし、しつこくない甘さが堪らない。そのまま白玉も1つ掬い口に入れる。もちもちとした食感が堪らなく美味しい。彼の話によれば、美人のお姉さんが良くここに来ると決まってこれを食べるらしい。ついでにお持ち帰りで幾つか買って帰るんだとか。
「こっちは相変わらずだね」
「それは褒め言葉でいいんだよな?」
「いつもの事じゃん」
他のテーブルを拭いていた彼にそう言って、あたしは再び抹茶を飲んだ。
暫くすると厨房から彼が戻ってきた。その手には緑色の大福の様な物が1つ置かれていた。
「これは?」
「今度新メニューにしようと思ってる緑茶大福だ。良ければ試食してくれないか?」
「へえ〜、じゃあ遠慮なく」
あたしはこのお店の常連であり彼とは話をする事が多いからかこういった事を頼まれるのはよくある話だ。
「うん。風味はいいと思う。でも餡子の甘味はもうちょっと抑えた方が良いかもね」
「成程」
サービスの大福を食べ、あたしは率直な感想を述べた。その意見を彼はすぐ様メモに取っていた。
「それにしても良いの? こういう役目はもうちょっと下が肥えた人にお願いした方がちゃんとした意見貰えるんじゃない?」
「いや、奥沢さんの意見にはいつも助けられてるからな。俺としては君の方が信頼性がある。だから滅多なことが無い限り君に頼みたい」
「よくそんな台詞スラスラと言えるね……」
「思った事をそのまま言ってるだけだが?」
やれやれ。聞き手次第では勘違いされそうな台詞を『そう思ってるから』といった理由で息を吐くように言える彼には尊敬を通り越した感情が生まれそうになる。
まあそこが良いところではあるんだけどね。
「そう言えば、この間5丁目の商店街ハロハピで路上ライブしたんだよね」
「もしかしてあの雑貨屋の向かいの所か?」
「よく知ってるね」
「たまたま通ったからな。残念ながら先を急いでいたからじっくりと見ることは叶わなかったけどな」
そうだったのか。その時はお客さんはかなりいて遠くの方まで見てる余裕は無かったけど、まさか彼もそこにいたとは。
「というかなんかボーリングのピンみたいなのだけは見えたんだが、あれは何をしていたんだ?」
「あれね〜。実はミッシェルの姿でジャグリングしてたんだよね……」
「よくやろうと思ったなお前……」
「うん、こころの発想には驚かされるんだけど、不測の事態の事を考えて念の為に練習してて良かったよ……」
彼は「どんな不測の事態だよ」と苦笑いをしていたが、それはあたしも同意見だ。元々こころがパフォーマンスで用意していたのだが、「ミッシェルもやりましょ!」と投げかけてきた時はこれが夢であってくれと思わず願ってしまったくらいだ。
ジャグリング自体は何時ぞやのお正月で隠し芸としてやった事があるが、ミッシェルの姿でやるのは流石に骨が折れるかと思った。文字的にも物理的にも。
「……お前、サーカスに出た方が稼げるんじゃいのか?」
「言わないで。あたしもそう思った事あるくらいだから」
「見てみたかったな。お前らのジャグリング」
「止めといた方が良いよ。CiRCLEの皆に見せた時は笑顔になるどころか引かれてたから……」
「お前らって大道芸のグループだっけ? まあステージでよく見る服装はそれっぽいけど」
「ああ見えてガールズバンドです」
確かにやってる事といい、あたしたちがライブをする時に着る赤を基調としたステージ衣装といい「この人たちはサーカス団体の人です」と何も知らない人に紹介したら信じる人は多いかもしれない。
「俺もサービスの一環として手品でも取り入れてみるか」
「へえ〜、やった事あるの?」
「いや、無い」
いやあんだけ意気揚々と言って無経験なのかと思いあたしは半分呆れながらため息をついた。
「なんなら教えてくれ」
「いいけど授業料は高くつくよ?」
「給料3ヶ月分で良いか? 奥沢」
「いや流石にそこまでしなくていいから」
あたしの言葉を真に受けてるのか彼はそんな事を言った。元々彼は生真面目なところもあって時々冗談なのか本気なのかよくわかんない事を言い出す事がある。
「じゃあ今度暇な時にでも教えるよ。時間が出来たら連絡するから」
「助かる」
まあ普段ここに来て落ち着かせてもらってるし、たまにサービスしてくれる事もあるから今回は授業料免除って事にしておきますか。
「それにしてもさ、奥沢ってライブしてる時着ぐるみ着てるけどあれ暑くないのか?」
「それがあの中意外と快適になりつつあるんだよね〜」
「……遂に熱中症になったか?」
「違うわ」
なんか可哀想なものを見るような目でこちらを見てきたのだが、まあそう思われても仕方はなかろう。あんな外から見れば通気性も悪く熱気も篭もりやすい着ぐるみを来て「快適です」なんて言える人がこの世で何人いるだろうか?
「まあ……黒服さん達の改良とかもあって素材変えたり冷却機能付けてくれたりするから……」
「凄いな……」
「因みにこの間はそれ来てロケットみたいに空飛んだって言ったら信じる?」
「うん、それが本当ならもうそれは着ぐるみじゃなくてパワードスーツだな」
「返す言葉もございません」
確かにあれはもう着ぐるみと呼んでいいのか分からないくらい改造されている。あたし自身だいぶハロハピ脳になりつつあるせいか遂さっきまでそんな事も疑問に思ってなかったけど……冷静に考えるとやばいわ。
そんな事を考えていると彼はあたしの前に新しい品を置いた。
「これは?」
「ほうじ茶プリン。いつも頑張ってるお前に俺からのサービスだ」
「これはどうも」
スプーンを取り、プリンを掬い喉に流し込む。舌触りは滑らかで喉越しも良い。ほうじ茶の香りにクリームの程よい甘みが疲れた脳に効いている気がする。
プリンを食べ終わり、気持ちも落ち着いたところで時計を見ると既に1時間も経っていた。思っていたよりも長居してしまったようだ。
「ご馳走様でした。お会計お願いしまーす」
あたしがそう言うと彼はレジで手早く会計を行った。
「じゃあまた来るよ」
「ああ」
そのまま暖簾を潜り外へ出た。中から「ありがとうございましたー」と言う彼の声が聞こえた。
「ふう……」
甘いものに舌鼓を打ち、ハロハピの話聞いてもらったことで何となくこころが軽くなった。
偶にはこうやって、心を落ち着かせる時間も人には必要なんだなとここに来るといつも感じさせられる。
「さて、今日も頑張りますか……!」
こうして今日もあたしは足を進める。
「世界を笑顔に」と言う際限無く高い目標に向かって。
皆様どうもお久しぶり、もしくははじめまして。きずかなです。
私事ではありますがハーメルンにて小説を投稿するのがかーなーり久しぶりな為、今回の小説も結構悩みながら書きました。ヒロインが美咲ということもあり割と書いちゃ消して書いちゃ消してを繰り返しましたね。真面目な話、1回寝惚けて半分以上書いたのを間違って全部消しちゃったんですけど笑
個人的にしっとり路線で頑張ってみたつもりですがいかがだったでしょうか?
こんな小説でも「良かったなぁ」と思ってくだされば嬉しい限りでございます。
またこういう企画があれば参加したいと思いますので是非よろしくお願いします。
代表作『Dream Palette』
https://syosetu.org/novel/184944/