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「倭さん……!」
セシリアの視線の先には、バロンのリーダーとシカの怪物の激闘を余所にダンスチームの仲間(倭からは水依と呼ばれていた)に助け起こされる倭の姿があった。
「気もそぞろといった所か。 どうする、今日はもう上がるか?」
「え? い、いえ、問題ありませんわ」
「本当に大丈夫ですか? 橘君が心配なら、今日の所は起動テストだけで済ませるという手もありますよ?」
「いえ、折角先生方がわたくしの都合に付き合って下さっているのに、この上私的な事情で中止という訳には……それに、沢芽市までISで飛んで行く訳にもいきませんし」
「許可なら出してやろうか?」
「あら、織斑先生も冗談を仰られますのね」
第二アリーナ・Aピット。
本来ならセシリアは深琴達と共にサウスステージにて倭のセコンドに付く予定だったのだが、前日に急遽本国からブルー・ティアーズの新型と「クラス対抗戦迄に運用データを送れ」との通達が送られてきた為、休日返上で運用テストを行う羽目に。
流石に不憫に感じたのか、織斑先生と山田先生がテストを手伝ってくれた為、休憩がてら<ビートライダーズホットライン>にて生中継されているチーム鎧武とチームバロンの決闘を観戦出来るだけの時間的余裕を確保出来たのがせめてもの救いか。
「それにしても、駆紋があの赤いアーマードライダーとはな。 やれやれ、また厄介な事になりそうだ」
「そうですね……今回は変身する場面を放映されてしまいましたから……」
予想される国際IS委員会や女権団体の息が掛かった企業からの追求、及びそれに伴う圧力等の厄介事に、教師二人の顔が目に見えて暗くなる。
「せめて橘は自重してくれると助かるのだが、望み薄だろうな」
「で、ですが倭さんはお怪我をーー」
「肋の二、三本程度で止まるような奴なら、私ももう少し楽だったんだがな」
言葉とは裏腹に、モニターを心配気に見つめる織斑先生。
「倭さん……どうか、ご無事で……!」
セシリアもまた、祈るような面持ちでモニターを見詰めていた。
◆
「ハッ!」
「ブルォッ!?」
一方、サウスステージではバロンとシカインベスとの激闘が繰り広げられていた。
とは言っても、バロンにとっては既に一度勝利した相手。
パターンも弱点も把握している以上、苦戦する道理は無かった。
「いいぞー、やれー!」
「素敵ー!!」
先程まで逃げ惑っていた観客も、バロンの活躍ぶりにすっかり熱狂している。
「全く……ここの住人ってホンット肝が据わってるというか、野次馬根性だけは一人前なんだから……」
「ま、仕方ないっしょ。 それより倭さんを病院に連れてかないと」
「待てよ<ラット>、まだ避難が終わってねえってのに俺だけ逃げられるかよ!」
「倭ちゃんだって怪我人でしょ!? ほら、もうすぐ救急車が来るからじっとしてて!」
怪我人の避難に加わろうとする倭だったが、ラットと呼ばれた男子中学生と水依の二人がかりで止められる。
「今はチームバロンのリーダーに任せた方がいいっすよ! あんな化け物相手に何が出来んすか!」
「そうよ! 大体こんな事態になったのだってチームバロンのせいなんだから、任せとけばいいのよ!」
「そうですよ! 卑怯な真似ばっかりしてきたんだから、責任を取らせるべきです!」
口々にチームバロンを罵るチーム鎧武のメンバー達。
その時、不意に倭の口から呟きが零れる。。
「ーーじゃあお前ら、さっきみたいにもう後が無いって状況で、「反則だけどそれを使えば絶対勝てる」って切り札が手元にあった時、絶対それを使わねえって自信があんのかよ」
「え?」
「や、倭さん?」
「確かに、反則はやっちゃ駄目な事だし、チームバロンの奴等にやられたあれは俺だってちょっと嫌な気分になったさ。 けどな、俺達がチーム鎧武を守りたいように、あいつらだって自分達の
「倭さん……」
「ヤマト……」
「だからって、チームバロンの反則を無条件で許す理由にはならないわよ?」
「ですよねー」
武と倭のやり取りにより、場の空気が一気にグダグダになる。
「まあ、とりあえず一方的に罵るのは止めにするわ。 皆もそれでいいわね?」
「武さんがそう言うなら……」
「俺は納得いかないんすけど……」
「まあまあラット、私達だけとんがっててもつまんないじゃん」
チーム鎧武内に先程迄流れていたギスギスした雰囲気が解けていく中、深琴は苛立ち気味に倭を睨んでいた。
「ヤマトってば……」
「仕方ないよ深琴ちゃん、あれが倭ちゃんなんだから」
「わかってるわよ! けど、怪我を負わされた相手まで庇おうとしないでも……」
「うん……」
そんな最中、バロンの一撃がシカインベスを派手に吹き飛ばす。
「ブルォォォ!!?」
「ふん……遊びは終わりだ。 さっさと片付けてやる」
トドメを刺す為、バックルに手を当てたーーその時。
「戒斗……じゃねえ、バロン!! トドメは後だ、そいつをロックシードから遠ざけろ!!」
「何?」
倭の忠告にシカインベスの倒れている場所を注目するバロン。
すると、先程ペコが弾き飛ばして紛失していたイチゴロックシードがシカインベスの頭の近くに落ちておりーー
「ブルッ……!!」
それに気付いたシカインベスがイチゴロックシードを掴み取るとーー一気に丸呑みにしたのだ。
「何をやるのかは知らんが……やらせるか!!」
≪カモン!!≫
≪バナナ・オーレ!!≫
バックルのカッティングブレードを二回倒し、以前同個体を倒した技を発動させる。
だが、発生したバナナ型エネルギーの槍が放たれる直前、
「ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「な……んだと……!?」
突如、シカインベスが巨大化した。
「くっ、こけおどしを!」
辛うじて必殺技は放つも、
「ゴアァッ!!」
巨大化した腕に容易く弾かれてしまう。
「おのれ……なら、直接貫くまでだ!!」
「ゴアッ!! ガァッ!!」
だが、シカインベスはただ巨大化した訳では無い。
鎧の役割を果たしていた枝角が頭や背中、腕だけでは無く全身至る場所に隆起しており、加えて体格も異様な程筋肉質にバンプアップした為、生半可な攻撃は弾かれてしまう。
「ゴォアッッッ!!!」
「ぐあっ!!」
しかも、人間の4倍近い全長にも関わらず、寧ろ瞬発力は強化されており、先程とは比べ物にならないスピードで逆にバロンを翻弄していた。
「ち、ちょっと、あれヤバイんじゃない?」
「ちょっとどころじゃないっしょ!! リカ、ラット! 観客の皆をさっさと逃がして! チームバロンの連中にも手伝わせるわよ!」
「「了解!!」」
チャッキーの号令一下、インベスの変貌とバロンの苦戦で再びパニックに陥りつつある観客を避難させるビートライダーズ。
そんな中、水依がふとある事に気付く。
「あれ? 倭ちゃん?」
倭の姿が避難誘導の中にも避難民の中にも見当たらないのだ。
「深琴ちゃん、倭ちゃんは?」
「スイかチャッキーが逃がしたんじゃないの?」
「ううん。 私てっきり深琴ちゃんが逃がしたんじゃないかって……」
「ーーって、あいつまさか!?」
弾かれたようにステージの方に目を向けた深琴の目に飛び込んできたのは、戦国ドライバーを装着した倭の姿。
「やっぱり!」
あの位置では止めようにも間に合わず、声を掛けようものなら他の観客にも倭の変身の瞬間を目撃されてしまう。
「倭ちゃん!? あんな所で何をーー深琴ちゃん?」
咄嗟に水依の口を塞ぐ深琴。
その真剣な表情に、水依も反論出来なくなる。
「ヤマト……」
≪ソイヤッ!!≫
≪オレンジアームズ!! 花道・オンステージ!!≫
「おりゃああああああ!!」
「ゴアッッ!!?」
背後からの不意打ちに、強化シカインベスの巨体がよろめく。
「貴様……死に損ないが何をしに来た!!」
「死に損ないで悪かったな! 俺にだって意地があんだよ! 俺のポカで起こった騒動だってのに、他人任せで終われるか! うおおおおおおおおお!!」
「……ふん、何処までも目障りな奴め。 だが……少なくとも、弱者では無いか」
そのまま二人がかりで強化シカインベスに挑むが、縦横無尽に跳ね回る巨体を捉えるのはこの二人を以ってしても難しく(一人は怪我人なので仕方ないが)、
「ぐうっ!!」
「どっはぁーーー!?」
逆にカウンターを決められ、徐々にダメージが蓄積しつつあった。
「畜生、硬ってえんだよあいつ!」
「角が全身に生えた上にあのパワーとスピード……加えてあれだけ激しく動かれれば突きでは対処もままならん……せめて、あの邪魔な角さえ叩き折れれば……」
流石のバロンからも弱気な声が漏れる。
その時。
(ん?
バロンの言葉が妙に引っ掛かった倭は、右腰のホルダーからパインロックシードを取りだす。
(そういえば、最初に変身した時はオレンジをスライスしたような剣が出た筈……あれがロックシード毎に違うなら……!)
≪パイン!!≫
パインロックシードを解錠すると、召喚されたのは刺々しい外観のパイナップル型アームズだった。
「一か八か……使わせて貰うぜ、バロン!!」
≪Lock-on!!≫ ≪ソイヤッ!!≫
≪パインアームズ! 粉砕・デストロイ!!≫
戦極ドライバーにセットしたパインロックシードを斬ると、コールと共にパインアームズが装着される。
オレンジアームズより遥かに重厚なその姿は、巨大な城塞を守護する門番の如き威容を備えていた。
「こいつの武器は……鎖鉄球か! よし、これなら行ける! おりゃあああ!!」
倭が勢い良く振り回したパイナップル型の鎖鉄球は、回避し辛い孤の軌道を描き強化シカインベスに命中。
「ゴハァッ!!?」
頭部の角を片方へし折り、インベスの巨体すら派手に吹き飛ばした。
「おおっ、すっげ……これ、意外と重いのか? ……バロン、パース」
「何っ、うおおおっ!?」
鉄球のサイズは普通のパイナップル程度なのだが、思わず受け止めたバロンが耐えきれず尻餅を付いてしまった。
「あ、やっぱり結構重いのか」
「貴様……俺で試すな!!」
そんな漫才のようなやり取りの間に強化シカインベスが体勢を立て直し襲い掛かるが、
「甘い! おりゃっ!! でやあーーっ!!」
「ゴアァッ!? ガフォッ!!?」
拳の一撃は分厚い肩の装甲に阻まれ、鎖鉄球の連撃により全身の枝角は次々と叩き折られ、剥き出しになった本体に突き刺さる重い一撃が激しい動きに必要な体力を奪う。
「そらよっと!! これで動けねえだろ! バロン、やっちまえ!!」
そして、枝角の鎧を失った強化シカインベスを、鎖鉄球を繋ぐワイヤーが絡め取り動きを封じる。
「フン……」
≪カモン!!≫
≪バナナ・スパーキング!!≫
カッティングブレードを三回倒し、槍で地面を突くバロン。
すると、強化シカインベスの周囲からバナナ型エネルギーの槍が無数に飛び出し、全身を貫く。
「グウォアアアアアアアアアアアアァァァァ!!?」
全身引き裂かれまだ息絶えない巨体が、自らを地面に縫い付けるエネルギーの槍を引き抜くべくもがく。
「野郎、まだ倒れねえか!」
「フン……止めはくれてやる。 決めてみせろ、<仮面ライダー鎧武>!」
「……え? 仮面ライダーって、俺?」
倭ーーいや、「仮面ライダー鎧武」が自らの呼称に戸惑う間にも、背後の巨体は戒めを振りほどかんと暴れ回る。
「ーーやってやろうじゃねえか! 行くぜ!!」
≪ソイヤッ!!≫
≪パイン・スカッシュ!!≫
鎧武がカッティングブレードを一回倒し、鎖鉄球をボレーシュートで敵目掛け蹴り飛ばすと、巨大化した鉄球が頭に被さり視界と咆哮を封じる。
そして。
「うおおおおおおおおお、セイッハァーーーーーーーーー!!!」
空中で蹴りの体勢に入った鎧武が、光る液体のようなエネルギーエフェクトと共に突っ込みーー貫いた。
◆
「倭さん……良かった……」
強化シカインベスが輪切りパイナップルのエフェクトと共に爆散する様をバックにガッツポーズを決める鎧武の姿に、セシリアの口から安堵の溜息が漏れる。
「あの様子なら橘君の正体もばれていないでしょうし、一先ずは安心ですね、織斑先生」
「ええ、そうですね」
倭が無事だった事を素直に喜ぶ山田先生に返事を返しながらも、織斑先生の心中は穏やかでは無かった。
(倭が変身する際、明らかにカメラをステージから外した。 つまりは、この番組のスタッフも「彼等」の息が掛かっている……大方、他の被験者より立場の危うい倭がIS委員会に目を付けられるのを危惧したのだろう)
肋の痛みを堪えながら「正義のヒーロー」を演じる倭。
その姿に織斑先生は危うさと共に一抹の不安を覚える。
(私は何をやっているんだ……これでは、一夏を失った時と何も変わらない……)
自らの無力に、爪が掌に食い込む程強く拳を握り締める「元世界最強」。
その視線の先では、番組MCの<DJサガラ>が先程の戦闘シーン映像を交えて解説していた。
『ーーそれにしても、チームバロンのリーダーにも驚かされたが、突如乱入してインベスを倒しちまったこのクールな鎧武者にもビックリだぜ。 俺はチーム鎧武のメンバーらしい彼をーー」
「ーー<アーマードライダー鎧武>と呼ぶ事にしたぜ!」
文才が欲しい……
これで倭主体の物語は一旦終わりです
次回からは他のライダー達にスポットを当てていきます
それではまた