◆
「やめろおおおおおおおっ!!!」
「軽食」を終え、蘭達に襲い掛かろうとした犀の怪物を、その背後から飛び掛かった人影が間一髪引きずり倒す。
「二人とも、早く逃げろ!」
見ると、その人物は蘭の知り合いーーそれも、小学校からの幼馴染だった。
「し、真兄?」
「蘭、お前も早く逃げろ! こいつは俺が何とかする!」
「お前もってーー」
ふと辺りを見渡すと、先程まで蘭を恫喝していた女生徒は既に姿を消していた。
「で、でも真兄はーー」
「心配すんな、荒事には慣れてる! それにーー」
真司の台詞を遮り背後から迫る犀の怪物を、更に横手から異形の機械人形が殴り飛ばす。
「しんくん、大丈夫!?」
どうやら、機械人形を制御しているのは路地裏に駆け込んできた篠ノ之博士のようだ。
「ええ、何とか……篠ノ之博士、ちょっとお願いしていいですか?」
「皆まで言いなさんな。 この赤毛バンダナを安全なとこまで連れてけばいいんでしょ?」
「頼みます。 俺も頃合を見て逃げるんで」
「ちょっ、真にーー」
「しっかり掴まってなよ? しゅっぱーつ、しんこーーーー!!」
蘭が止める間もあればこそ。
篠ノ之博士は、人間が出せるか怪しいレベルのダッシュで忽ち路地裏の向こうへ消えていった。
「織斑先生も人間離れしてるけど、篠ノ之博士も大概だよな……まあいいや。 さてーー」
背後に向き直ると、犀の怪物は機械人形には目もくれず、挙動を伺うかの如く真司を凝視していた。
「〈メタルゲラス〉……って事は、〈契約者〉はあいつしか居ないな……」
怪物の正体、そしてその裏に居る「黒幕」に心当たりがあるらしく、憂鬱そうに溜息を吐く真司。
やがて、大きく息を吸い込むと、真司がメタルゲラスと呼んだ怪物の背後の
「出てこい!! 居るんだろーー
ーー返事は無い。
ーー場を沈黙が支配する。
ーー三秒。
ーー四秒。
ーー五秒。
ーーそして、十秒も過ぎただろうか。
「ーー何で、わかった?」
その言葉と共に鏡から現れたのは、銀色の鎧に身を包んだ重装甲の騎士だった。
真司の眼前で、その姿は無数の鏡像となって消え、後には蘭と同じ赤い髪をバンダナで纏めた青年ーー五反田 弾が立っていた。
「お前のシスコンは、重々理解してんだよ。 それこそ、
「そうか……」
「一応聞くぞ。 何でこんな真似をした」
その問いに、弾はあっけらかんと答える。
「妹に付く害虫を払っただけだろ。 どうせ生かしといたところで、被害者が増えるだけだったろうしな」
「ここ数日、羽振りのいいオッサンばっかり何人も行方不明になってる事件……あれもお前の仕業か?」
「蘭みたいな美少女にお酌して貰ったんだ。もうこの世に悔いなんて無いだろうよ」
「そうかい……」
その言葉を最後に、二人の間から会話が消える。
只、その手に握られたデッキケースを無言で翳しーー
「「ーー変身!!」」
バックルに装填すると共に、その姿は赤と銀の戦士へと変貌していた。
「後一人……あの女さえ消せば終わるんだ。 邪魔はーーさせねえ!!」
「止めてやる……
◆
「ーーアレガ、コノ世界ノ戦士……」
真司と弾の激戦を、路地裏から伺う一人の少女。
燃え盛るような真紅の長髪は、薄暗い路地裏では一際鮮烈な印象を放っている。
「シャビリェショボリャ フォンウデュブリョファ 〈ラウアウ〉?」
赤髪の少女に独特の言語で話しかけるのは、光を放つかの如き純白の髪をショートに纏めた少女。
見た所、年の頃は変わらないようだ。
「決マッテルデショ。話ダケデモ聞イテモラワナイト、私達ダケジャ幹部ニハ太刀打チ出来ナイワ」
「ウム ダウファンガフィ……」
「後、アンタハサッサトコノ世界ノ民ノ言葉ヲ覚エナサイ! チンタラヤッテル猶予ハ無イノヨ!」
「コショジュジブリョガ フェンミャ……」
そう言って、白髪の少女が見下ろす先には、先程メタルゲラスから逃げた女生徒が顔中の穴という穴から血を流して倒れていた。
「ナ、何ヨ……仕方ナイデショ、知識ヲ得ルニハ現地ノ民ノ脳カラ直線読ミ取ルノガ一番早インダカラ!」
「ファンショボリャジュジ シャバリャデュシャジャロ フォエフェンデェガ?」
「ウ……ト、トニカク私ハアノ二人ニ接触シテミルカラ、アンタハサッキ見カケタ書庫デ少シデモ勉強シトク事! イイワネ!?」
「コショジュジョ……」
それだけ言葉を交わすと、二人の少女はそれぞれ路地裏の奥に消えていった。
◆
一方、路地裏の戦闘は弾が優勢に進めていた。
「おらあっ!!」
「ぐっ!?」
右腕に装備した、ドリル状の衝角を備えた手甲の一撃が、真司を構えた盾ごと吹き飛ばす。
「ってえ……メタルホーンでの力任せは相変わらずか……この狭い中じゃ俺の方が不利だな」
瞬時に状況を判断し、打開策を模索する。
この戦闘スタイルは、真司が「仮面ライダー」となった時から変わっていない。
「あった!」
程なく、真司の観察眼が非常階段を捉える。
「くらえ!!」
「おっと!!」
弾の一撃を跳躍して回避、そのまま非常階段の中程へと着地する真司。
「〈ゴーレム〉、場所移すぞ! 来い!」
真司の呼び掛けに、メタルゲラスと力比べをしていた機械人形がフェイス部のランプの明滅で応じる。
「グロォッ!!?」
一瞬の隙を突き、メタルゲラスを殴り飛ばすと、ゴーレムと呼ばれた機械人形も非常階段を登り切った真司を追い、屋上へ姿を消す。
「チッ、逃がすかよ!」
真司を追い、弾もまた非常階段を駆け上がる。
だが、屋上には誰もいなかった。
「真司の奴、何処行きやがった……」
細心の注意を払い、屋上の様子を伺う弾。
と、その脳裏にハウリング音のような不協和音が響く。
「うおっ!?」
不協和音の響いてきた方向から飛んできた火球を、辛うじて横っ飛びで回避する。
「〈ミラーワールド〉から攻撃かよ……そこまでして俺を止めたいってのか……面白え、止めれるもんなら止めてみやがれ!!」
待ち伏せは承知の上で、火球の飛んできた鏡目掛けて飛び込む弾。
万華鏡のような空間に存在するマシンに乗り込み、空間を突っ切った先に広がる光景。
それは、かつて十三人の戦士達が己の願いの為に全てを賭けた、仮初の戦場。
戦士達はその戦場をーーミラーワールドと呼んだ。
◆
弾の乗るマシンが着地した場所は、先程まで居た屋上と殆ど同じ場所だった。
違う点を挙げるとするなら、先程の場所では屋上通用口右側に見えていた、円盤状の頂点を頂く建造物ーー通称〈ユグドラシルタワー〉が、この場所では左側に見える事。
そして、すぐ近くの雑居ビルの看板を含め、全ての文字が反転している事。
その場所は、正に「
「〈ライドシューター〉が此処にあるって事は、やっぱり真司もこっちに来てるって事か。 さて、何処に隠れたやら……」
『ギャオオオオオオォォォォォォォ……ン!!!』
「!?」
突然の轟音に、弾かれたかの如く振り向く弾。
その視線の先には、身の丈を遥かに超えた巨体の赤い龍を頭上に携えた真司の姿があった。
「〈ドラグレッダー〉か……お互い、相棒は「十年前」から変わってねえようだな」
「……やっぱり、お前も覚えてたって事か」
「ああ。 今でもはっきり思い出せるぜ。 自分の弱さを突き付けられたあの日の絶望を、真っ赤に染まった蘭の姿を、噎せ返るような血の匂いを、そしてーー」
その言葉に合わせるかの如く、弾の隣に降り立つメタルゲラス。
「ーーこの力を手に入れた時の歓喜を、な」
やけに芝居がかった口調で語る弾。
その声色に、狂気じみた響きが混じる。
「そういや、さっきメタルゲラスが喰ってた奴……確か、蘭を薬漬けにしてた奴だったよな。 時間が巻き戻っても、やる事は変わらないって事か」
「おかげで、家捜しもし易かったぜ。 何せ、あのクソ女も含めて、あの時ブッ殺してやった奴等と誰一人変わってなかったんだからな。 住む所も含めて、な」
そう言って足元にばら撒いたのは、蘭が見知らぬ男と共に映っている写真やネガだった。
「あの時、掴んでやれなかった手を、今度こそ掴んでみせる。 邪魔する奴は誰だろうが、お前だろうがーー」
《STRIKVENT》
「ーー叩き潰す」
その言葉を最後に、真司に歩み寄る弾。
「ーー悪いけど、お前に譲れない願いがあるように、俺にだって『仮面ライダー』として譲れない願いがあるんだよ。 だからーー」
《SWORDVENT》
「ーー俺は俺の願いの為に、お前をぶちのめす」
「……だったらーーぶちのめしてみやがれ!!」
台詞と共に繰り出されるメタルホーンの一撃を、バックステップで回避する真司。
「ゲラス、ドラグレッダーの方は頼む!」
「グルッ!」
弾の指示を受け、メタルゲラスがその巨体からは想像もつかない跳躍でドラグレッダーの横っ腹にしがみつく。
「ドラグレッダー!!」
「余所見してんじゃねえ!!」
弾の猛攻により、ドラグレッダーから分断される真司。
「だったら!」
《STRIKVENT》
以前、火球を放つドラグレッダーの幻影を呼び出した手甲を召喚する。
だが、
《CONFINEVENT》
弾が左肩のカードリーダーにカードを装填した瞬間、真司が呼び出した手甲は跡形も無く消えてしまう。
「一度戦った相手がどんなカードを持ってるかくらい覚えとけ、マヌケ!!」
「ぐあっ!!」
装備が消えた事による心理的隙を突かれ、マトモに蹴り飛ばされる真司。
「てめえみてえな薄っぺらい願いしか持たねえ野郎に、俺が止められるか!」
倒れたままの真司目掛け、メタルホーンを振り下ろす弾。
だが、
「誰の、願いが……薄っぺらいってんだこのシスコン番長!!」
「ガッ!?」
衝角部分を掴んで止められ、カウンターの頭突きをお見舞いされる。
「てめえ……やりやがったなちり紙野郎!!」
「やったがどうした!!」
密着状態では武器が使えず、お互い武器を放り出しての取っ組み合いを始める。
その姿は、とてもつい先程まで命のやり取りをしていたと思えない程滑稽だった。
その様子を、表の世界に取り残されたゴーレムのみが無機質に眺めていた。
決着は次回に
多分、後に手直しするかと思います
それではまた