といっても変身はしてませんが
◆
「「でやあああああああああっ!!」」
ビルの屋上を盛大に破壊しつつ、二人の戦士の激突は激しさを増していく。
『ギャオオオオオン!!!」
「グロロロロォォッ!!」
契約者に呼応するかの如く、モンスター同士もまた激しくぶつかり合う。
胴体にしがみついたまま、鼻先の角を突き立てんとするメタルゲラスを振りほどくべく、ドラグレッダーがその巨体を近場のビルの壁面に叩きつける。
メタルゲラスもまた、コンクリートとガラスを自らの体躯で砕き、その破片で激しく傷付きながらも、ドラグレッダーの鋼の皮膚に鉤爪を突き立て、振り落とされるのを防ぎつつ損傷を与えていく。
幾度となく繰り返されるその行為に巻き込まれたビル街は、巨大台風に襲われたかの如き様相を呈していた。
もし、現実世界でこれだけの戦闘を引き起こせば、予想される損害は考えるのも恐ろしい事になるだろう。
「おらあっ!!」
先程の素手での取っ組み合いでの疲労が尾を引いているのか、振るうメタルホーンも大振りが目立つ。
だが、その切っ先は辛うじて上体を逸らした真司の背後のコンクリート壁を豆腐の如く打ち砕く。
「だあっ!!」
不安定な体勢から繰り出したボディブローが、弾の鳩尾を捉え弾き飛ばす。
《SWORDVENT》
左腕の召喚機にカードを装填し、新たに武器を召喚しつつ弾目掛け駆ける真司。
だが、
《CONFINEVENT》
弾も器用に左手一本で腰のデッキから先程の無効化能力カードを引き抜き、左肩のカードリーダーに投げ込む。
それにより、召喚された剣は消滅する。
しかし、真司は剣の方を見ようともせず、ダッシュの勢いを落とす事無く弾の顔面に鉄拳を叩き込んだ。
「ガハッ!?」
まさか、武器の召喚を囮に使うとは思わず、召喚機の操作で僅かに出来た隙を狙われた一撃をマトモに喰らい吹き飛ばされる。
「へっ……確か、カードは一枚じゃないんだったか?」
「チッ……やっぱ、昔馴染み相手はやりづれえな……」
ふらつきながらも立ち上がる弾。
その重装鎧には、今殴られたフェイスバイザーの凹み以外にも所々にヒビや凹みが散見される。
武器が無くとも、契約したドラグレッダーから供給されるエネルギーにより基本性能が優れたライダーシステム〈龍騎〉だからこその攻撃力だ。
だが、モンスターとしての総合性能こそドラグレッダーに一歩譲るとはいえ、怪力と装甲なら上位のモンスターすら凌ぐ程特化したメタルゲラスからエネルギーを供給されている弾の〈ガイ〉もライダーシステムとしては劣るものでは無い。
その証拠に、真司の纏う龍騎の装甲には、数こそガイに比べ若干少ないものの、先程の取っ組み合いで受けた拳型の凹みやメタルホーンで引き裂かれた損傷が所々に見られ、装甲に覆われていないスーツ部分に至っては裂け目に血すら滲んでいるものすら見られた。
装備で強化出来ない状況でいくら手数を稼ごうと、たった一撃で優位ひっくり返されかねない緊張感は、ある意味弾以上の消耗を真司に強いていた。
「どうした真司……膝が笑ってんぞ」
「うるせえよ弾……てめえだってフラついてんじゃねえか」
疲労困憊の身を奮い立たせるかの如く悪態をつく二人。
それぞれの背後に、メタルゲラスを振り落としたドラグレッダーと、振り落とされたメタルゲラスがそれぞれ墜落する。
「時間も残ってねえだろうしな……そろそろケリ着けてやるぜ!」
「それは……こっちの台詞だ!」
《FINALVENT》
デッキから引き抜いた、紋章の描かれたカードを召喚機に装填すると、倒れていたモンスターがそれぞれの契約者の元へ戻る。
真司は周囲を旋回するドラグレッダーの勢いに乗る形で天高く舞い上がり。
弾はメタルゲラスの肩に乗り、疾走するメタルゲラスと共に突進する。
そして。
「だあーーーーーーーーーーっ!!!」
「おりゃあーーーーーーーーーー!!!」
ライダーシステム最大の技〈ファイナルベント〉同士が、真正面から激闘した。
◆
真司が気が付くと、そこは戦闘の跡など何処にも無い、平穏そのものの屋上だった。
少し離れた場所には、ガイへの変身が解除された弾が大の字で倒れている。
どうやら、ファイナルベント同士の激突は予想以上の破壊力だったらしく、そのままミラーワールドの空間を破壊し現実世界まで飛ばされてしまったようだ。
前回のループと違い、意図的に創造された世界では無いせいだろうか、本来のミラーワールドと比べて若干不安定な事により引き起こされた現象と思われる。
おかげで、真司も弾もミラーワールドに取り残されずに済んだ訳だが。
「……おーい、生きてるかー?」
「………………」
靴の爪先で軽くつつくが、反応が無い。
「……へんじがない。 ただの しすこんのようだ」
「……それを言うなら屍だろ。 大体、シスコンの何処が悪いってんだ……」
「お前のシスコンは過激過ぎるんだよ」
溜息を一つ吐くと、真司は話を続ける。
「大体、あいつ皆殺しにした所で、そいつらの親がちょっと調べりゃ蘭に辿り着くのは目に見えてんだろうが。 娘を失った親が蘭に手を出さないとでも思ってんのか?」
「……だったら、そいつらも消せばいいだけの話だ」
「お前なあ……」
「お前にわかるのかよ。 目の前で大切な肉親を失った家族の心境がよ」
その問いに、真司は別の問いで返す。
「……なあ弾、俺が前に言った事覚えてるか?」
「は?」
「『お前一人が不幸な訳じゃない』」
「……ああ、そういやそんな事も言ってたか。 で、それがどうしたってんだ?」
その問いに、今度は別の話を返す。
「〈白騎士事件〉って知ってるか?」
「って、今度は何だよ? そりゃまあ知ってるけどよ。 白騎士ってISが日本に迫るミサイルを一つ残らず撃ち落としたって話だろ?」
「表向きはな。 けどな……もし、白騎士がミサイルを撃ち漏らしてたとしたら、そのミサイルは何処行ったんだろうな」
「……おい、何の話してんだ?」
訝しげに身を起こす弾に、真司は皮肉げに語りかける。
「あの日、とあるツアーバスが俺の町の隣町で行方不明になった。 警察が調べた結果、崖下で黒焦げになって発見された。 運転手、乗客は全員死亡。状況から見て、運転ミスで崖下に落ちたという事で処理された。 けどな、やけに捜査を打ち切るのが早いと思って調べてみたんだ」
「まさか……」
「そのまさかだ。 バスは、至近距離の爆発に煽られて崖から落ちてたんだ。白騎士が撃ち漏らして地面に落ちたミサイルの、な。 誰が何の理由で揉み消したかはわからなかったけどな。 で、だ、そのバスなーー」
「おい、それってーー」
「本来なら、俺の両親が乗ってる筈だったんだ」
「ーーはい?」
「いや、ホント笑い話にもならないよな。 本当なら俺の町を出発してすぐ、大規模玉突き事故でスクラップになる筈のバスが、俺の親を乗せる手前でミサイルに撃墜されるなんて」
「え? あれ? ち、ちょっと待て。 つまり、お前の親ってーー」
「今でもピンピンしてるぜ。 いい年こいて一人息子の前でいちゃつくのは勘弁して欲しいけどな」
「はあ……それはまた何というか……って、お前今さっき「本当なら」って言ってたよな? じゃあ……」
「そういうこった。 俺だって、肉親を亡くす痛みくらいは知ってるって事だ。 戻ってきたものを失いたくないって気持ちもな。 だからって、俺はバスが俺の町に辿り着かなくて良かったなんて思った事はない。 例え、事故で失われる運命だったとしても、俺はその犠牲を許容なんかしない。 正義感とか罪悪感とかそんなもんじゃなく、俺が俺である為にも、認める訳にはいかない。だからーー」
そこまで言うと、真司は弾に背を向け歩み去る。
そして、
「お前がまた同じ事を繰り返すってんならーー何度だって止めてやる」
最後にそれだけ言い残し、その場を後にした。
「……それがお前の「願い」って訳か……ったく、つくづく面倒くせえダチを持ったもんだぜ」
「けど、悪い気はしてないんでしょ?」
「そりゃ、まあーー」
沈黙は一瞬。
「っ!!?」
咄嗟に飛び起きると、一瞬前まで転がっていた場所に向き直る弾。
そこには、見慣れない少女が佇んでいた。
「あら、随分と過激な反応じゃない? お姉さん傷ついちゃうなー」
見たところ、弾より一、二歳は年上のようだ。
水色の外ハネショートカットと真紅の瞳がやけに印象に残る。
「あんた、何者だ? 」
「そうねえ、貴方と同じといえば理解して貰えるかしら? 〈仮面ライダーガイ〉さん?」
そう言って胸の谷間から取り出したのは、鮫をデザインした紋章が刻まれた
「!? ……何だ、そのデッキは……そんな紋章、見たことねえぞ?」
「あら、そう? おかしいわね、ちゃんと
「っ!!」
「どうやら、面白い話が聞けそうね。 ちょーっとお姉さんと一緒にお茶しましょうか?」
そう告げると、少女は何処からともなく取り出した扇子を口元に浮かんだ笑みを隠すかの如く広げる。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったわね。 私は〈
「〈仮面ライダーーーアビス〉」
◆
「しんくん、大丈夫だった!?」
元の裏路地に戻ると、篠ノ之博士が慌てて駆け込んできた。
「篠ノ之博士? 蘭はどうしたんですか?」
「とりあえずそこの喫茶店で待たせてるよ。 それより、怪我は無い? ゴーレムからの連絡が無くなったから心配してたよー」
「ゴーレムが? 何かあったんですか?」
「これ見てよ!」
そう言って篠ノ之博士が差し出したのは、綺麗に両断されたゴーレムの頭部だった。
「まるでウォーターカッターで斬られたみたいに縦真っ二つだよ。直前にIS反応があったから、部分展開したIS装備でやったんだろうけど、しんくんは襲われなかった?」
「ええ、俺は特に……そういや、あのロボットって何者なんですか? 名前は機体に書いてあったんですけど……」
「ああ、あれ? 自立起動型ISの試作機だよ。 まだ単調な動きしか出来ないけどね」
「じ、自立起動型!?」
あっけらかんと言い放った単語に、思わず素っ頓狂な声を上げる真司。
何せ、「ISは女性しか動かせない」というのが世間一般の常識だ。
それは、機械による制御も例外では無く、パーツのテスト等で腕一本動かすならともかく、全身を動かすとなるとそれこそ膨大な挙動計算が必要となってくる。
人間が無意識に行う動作を機械に意識的に制御させようというのだ、簡単な筈が無い。
それを、目の前の天災はいとも簡単に実現したというのだから、驚くのも当然といえば当然か。
「あんた、何処まで規格外なんですか……」
「束さんの頭脳をそこらへんの凡人と一緒にして貰っちゃ困るね。それより、用が終わったんならさっさと帰ろうよ。 あの赤髪バンダナも送ってかなきゃいけないしーー」
と、篠ノ之博士の言葉を遮るかの如く携帯の着信が入る。
「あ、ちーちゃんからだ。 あー、もすもすひねもす? って待った待った、切らないでちーちゃん! もー、相変わらず沸点低いなー。 で、何か用? ……え? ちょちょ、ちょっと待って! それ本当!? うん……うん……わかった! すぐ帰らせるね! え? ああ、束さんはちょっと外せない用があるから! じゃあねっ!」
どうやら何かあったらしく、慌てた様子で電話に応答する篠ノ之博士。
「ごめん、予定変更! 赤髪バンダナは私一人で送ってくから、先に学園に帰ってて!」
「何か問題でもあったんですか?」
「問題大有りだよ! あのねーー」
「やまっちが何者かに襲われて、意識不明の重体だって!」
次回は、真司が外出してる間の倭の動向です
それではまた