IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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最近更にサブタイトルが意味を成して無い……


第二十一話 向かうべき場所

 

 

 

 

「あれ? 要先輩、明日出張なんですか?」

 

「ああ、所長の付き添いでな。 IS学園まで行ってくる」

 

 

とある研究所の一角。

 

外来用の休憩所にて、二十代半ばといった風貌の女性とまだ中学生といった風貌の少女が雑談に興じていた。

 

 

「IS学園……ああ、剣号先輩が放り込まれた所でしたっけ」

 

「放り込まれたって……刑務所じゃないんだぞ」

 

「剣号先輩にとっては同じじゃないですか? 最近は〈アンデッド〉達も活発化してきてるっていうのに、要先輩だけじゃ追いつかないですよ」

 

 

悪態をつきつつ少女が投げた空の紙カップは、要先輩と呼ばれた女性の側に備え付けられているゴミ箱に正確に吸い込まれた。

 

 

「まあ、剣号の奴確かに焦れているだろうな。 何せ、高校を卒業してさあこれからだという時に高校一年へ逆戻りだ」

 

「今までも、高校から現場に駆けつけるまでの最中に余計な被害が出る事に心を痛めてましたからね……IS学園なんてそれこそ離れ小島ですから、外出すらろくに出来ませんし」

 

 

溜息をついた拍子に、サイドポニーに纏めたダークグリーンの髪がふわりと揺れる。

 

 

「まあ、その分は私が引き受けるさ。 幸い、アンデッドはその性質上徒党を組む事は無いからな。 私一人だけでも何とかなる」

 

 

そう言ってブラックコーヒーのカップを傾ける要の姿は、静かながら確かな自信を湛えていた。

 

 

「そういえば、アンデッドって何なんでしょうね。 所長はあいつらの事を「生物の祖」とか言ってますけど、イマイチピンと来ないというか……」

 

「まあ、そうだろうな。 私も詳しい事は知らないが、何でもアンデッドの中には私達人間の祖になったアンデッドも存在するらしいな」

 

「えっ!? そ、それ本当ですか!?」

 

「行方はわかっていないそうだが、ハートスートのアンデッドの中に確かに存在するらしい。 まあ、戦闘力は大した事は無いらしいが、注意するに越した事は無いだろう」

 

「人間の祖、かあ……それにしても、アンデッドって何が目的なんでしょうね? ただ自分勝手に暴れてるようにしか見えないし」

 

「さあな。 生憎私は一万年前の人間では無いし、それを知った所で所詮あいつらは人類の敵でしか無い。 人類に牙を剥くなら、それが人類に届く前に封印するまでだ」

 

 

その言葉を最後に、空の紙カップをゴミ箱に放り込みつつ立ち上がる要。

 

 

「いつ上級クラスのアンデッドが現れるかわからないんだ。 睦月、お前もいつ実動メンバーに召集されてもいいように訓練は怠るなよ」

 

「そうですね。 あーあ、ボクのライダーシステムも早く完成しないかなあ」

 

 

先程より大きな溜息を吐く少女の胸元には、〈BOARD〉〈城之内 睦月(じょうのうち むつき)〉と書かれたネームプレートが備え付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS学園の見学?」

 

「そう。 委員会の通達でね、今度IS学園でクラス対抗戦があるからIS開発関係者は見に来いってさ。 ったく、面倒臭いったらありゃしない」

 

「クラス対抗戦っても、出るのは巧じゃないんだろ? 何で所長がわざわざ行かないといけないんだよ? 後で巧から報告して貰うだけでいいだろ」

 

「それだけ、自分の所の高価なオモチャに自信があるんだろうさ。 『お前みたいなチンケな研究所のガラクタとは比べ物にならないだろ』ってね。 付き合わされる方にしてみりゃたまったもんじゃないけどね」

 

「マジかよ……これだから政治家様ってのは嫌いなんだ。自分達ばっか甘い汁吸って、あたしらみたいな奴等の事なんて顧みもしやしない」

 

 

そう言って近場のゴミ箱を蹴り飛ばすが、何か重い物が入っていたらしく、足を抱えてそこらを跳ね回る。

 

そんな醜態を晒す金髪ショートの少女に向かって、所長と呼ばれた和洋風の独特な衣装に身を包んだ妙齢の女性は愉快そうな笑みを浮かべる。

 

 

「まあ、たかが政府の腰巾着なんかに遅れを取るつもりはないさね。 このスコート・ラボが、単なるスマート・ブレインの一部門だと思ったら大間違いだという事を、しっかりと思い知らせてやろうじゃないか」

 

 

その時、所長の背後の自動ドアが開き、黒スーツの男が入ってくる。

 

 

「社長、そろそろ会議のお時間です」

 

「またかい? カルロスはどうしたんだい?」

 

「副社長なら、国際IS委員会の召集で外出中です」

 

「また委員会かい。 全く、ISに関わるようになってから面倒臭い事ばかりだね」

 

「申し訳ありません。 ですが、村上前社長も木場前社長も居ない今、スコート社長以外にスマート・ブレインを運営出来る人材はーー」

 

「あーはいはい、分かった分かった。 ったく、オルフェノクでも無いのにオルフェノクのトップになんて立つもんじゃないね」

 

 

そう言って、所長は『更衣室』のプレートのかかったドアへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……非常に興味深いデータが取れたよ。 流石は貴虎だ」

 

「余り褒められた結果では無いがな」

 

 

そう言って貴虎と呼ばれたスーツ姿の男が懐から取り出したのは、真っ二つに割られたロックシードだった。

 

 

「まあ、被験体に必要以上のダメージを与えたのは頂けないかな。 貴虎らしくないミスじゃないか」

 

「言い訳はしない。 あの少年の力量を読み違えた」

 

「読み違えた、ね」

 

「何が言いたい凌馬」

 

 

訝しげに尋ねる貴虎に対し、凌馬と呼ばれた白衣の青年はモニターに目を向けたまま肩越しに一枚の写真をちらつかせる。

 

そこには、一人の少年と楽しげに話す少女が映っていた。

 

 

「俺が私情で怪我を負わせたと?」

 

「違うかい?」

 

「何を馬鹿な。 仕事に私情を挟むのは俺の主義では無い。 それに、俺は妹があの男と付き合うのを反対するつもりも無い」

 

「本当にそう言えるかい?」

 

「随分と絡むな。 何か気になる事でもあるのか?」

 

「ちょっと、ね。 ーーそういえば貴虎、君は被験体のリストに目を通してるかい?」

 

「いや、被験体については全て現場の判断に任せている。 それがどうかしたか?」

 

「成る程、だからか」

 

 

そう言って、凌馬は傍らに置かれた書類の束を貴虎に渡す。

 

 

「被験体のリストか。 これが一体何だとーー」

 

 

無造作に捲る手が止まる。

 

 

「ーー凌馬、これはどういう事だ」

 

「僕も流石にびっくりしてる所だよ。 シドに問い合わせてみても、「あのガキ、結構見所あるぜ」としか言わなくてね」

 

「シド……余計な真似を……!」

 

 

務めて冷静に振る舞う貴虎だが、その声色に怒りの響きが混じる。

 

 

「貴虎……もう一度聞こう。 君は、本当に仕事に私情を挟むつもりは無いのかい?」

 

 

その問いに、貴虎ははっきりとした口調で返す。

 

 

「無論だ。 もし被験体達が計画の妨げになるのなら、全て排除する。 例えそれが、血を分けた肉親だろうとな」

 

 

その言葉と共に、被験体のリストを手に部屋を後にする貴虎。

 

 

その手に握られたリストのページには、一人の少女のデータが記載されていた。

 

氏名はーー呉島 「水依」。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある病室。

 

個室に移された倭の傍には、特別に入室を許された深琴とセシリア、そして深琴から事情を聞き見舞いに訪れた水依の姿があった(この病院はIS学園専用という訳では無いので、事前申請さえすれば通院や見舞いに訪れるのも可能である)。

 

 

「二人共、少し休んだ方がいいよ。 倭ちゃんの事は私がしっかり見ておくから」

 

「けど……」

 

「流石に、水依さん一人に任せるのは……」

 

 

反論する二人だが、その口調にも力が無い。

 

ここ数日、倭の看病でろくに寝ていないのだから無理も無い。

 

 

「無理したら深琴ちゃんとセシリアちゃんも身体をこわしちゃうよ。 ね?」

 

「ん……じゃあ、ちょっとだけ寝てくるわ。 なんかあったらすぐ知らせてね」

 

「倭さんの事、よろしくお願い致します」

 

「うん、任せて」

 

 

その会話を最後に、深琴とセシリアは病室を後にした。

 

 

「……倭ちゃん……」

 

 

二人きりの病室に、窓の外から届く雨音と水依の呟きだけが響く。

 

 

「……また、無理したんだね……倭ちゃん、いつも一生懸命だから……」

 

 

水依の手が、包帯を巻かれた左二の腕にそっと触れる。

 

 

「見ず知らずの人の為に一生懸命になれるのは、凄く素晴らしい事だと思うよ……私も、深琴ちゃんも……小さい頃から、少しも変わらない、そんな倭ちゃんだから……好きに、なったんだから……でもね……」

 

 

不意に、白い包帯に水滴の染みが落ちる。

 

 

「……そんな倭ちゃんを見てるのが、辛くなる事だって……あるんだよ……」

 

 

それ以上は言葉にならず、嗚咽のみが病室に響く。

 

雨は、まだ止みそうに無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ、何とか形にはなったか」

 

 

オートバジンを装着した巧が、ヘルメットのみを解除し一息つく。

 

 

「悪いな、付き合って貰って」

 

「気にすんな、こっちも賞品が掛かってんでな」

 

「ああ、例のフリーパスか。 確かに、取り損ねたら女子に何て言われるか分かったもんじゃないな」

 

 

ビルトビルガーに身を包んだ真司が苦笑を浮かべる。

 

 

「それにしても、本当に大丈夫? 一応、元からあった実体剣を雪片弐型のプロトタイプに換装して、擬似零落白夜プログラムをぶち込んでみたけど、燃費が極悪になっちゃったから正直使えるのは一度切りだよ?」

 

「切り札を積んでもらっただけでもありがたいですって。 何にせよ、明日は負ける訳にはいかないんで」

 

 

そう言って、真司は左腕に装着された三連ガトリングユニットに納められた刀型の実体剣に視線を落とす。

 

 

「私から見ても、お前の剣は筋が良いと思うぞ。 後は、鈴にどれだけ通用するかだな」

 

「だな。 箒もありがとうな」

 

「気にするな、同じクラスのよしみだ。 それに、私も甘味は嫌いでは無いからな」

 

「ははっ、んじゃ気合入れて優勝を目指さないとな」

 

「それにしても、あんな約束して良かったのかよ?」

 

「約束? ああ、あれか」

 

「随分思い切ったよね、『今度のクラス対抗戦で下の順位だった方が何でも言う事を聞く』って。 勝算あるの?」

 

 

篠ノ之博士の問いに、真司は闘志に満ちた表情で答える。

 

 

「勝算なんてもんありませんよ。 けど、負けるつもりはありません。 倭の為にもーー鈴の為にも」

 

 

そう言って、真司は左腕の実体剣を抜き放つ。

 

 

「絶対ーー勝つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、クラス対抗戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からクラス対抗戦です


それではまた
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