IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

28 / 48
ビルガーって、ドイツ語でモズらしいですね


第二十四話 百舌の翼

◆

 

 

 

 

そして、クラス対抗戦、決勝戦開始直前。

 

激戦を勝ち抜いた二人の生徒達は、アリーナの開始位置にて睨み合っていた。

 

 

「アンタの試合、しっかり拝ませて貰ったわよ。 まあ、素人にしちゃやる方なんじゃない?」

 

「そっちだって二年足らずのキャリアしか無い癖に良く言うぜ」

 

「はん、アンタとアタシじゃ密度が違うのよ密度が。 言っとくけど、アタシにはあんな小細工なんて通用しないからね」

 

「そっちこそ、その鼻っ柱しっかり磨いとけよ。 すぐに根元からへし折ってやるぜ」

 

「言ってくれるじゃない……それじゃーー」

 

「ああーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「叩きのめす!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

決勝戦の開始を告げるブザーと共に飛び出す二人。

 

重量級の機体の激突する轟音が、アリーナに響き渡る。

 

 

「はあっ!!」

 

 

両手の双天牙月をバトンの如く振り回し、ビルトビルガーの重装甲を削り取るべく猛攻を加える鈴。

 

その一撃は、今までの三戦で戦ってきた量産機とは比べ物にならない程重く、鋭い。

 

 

「くっ……このっ!!」

 

 

だが、真司も左手に持ち替えた雪片影打と右腕のスタッグビートルクラッシャーでいなし、弾き、受け止める。

 

その動きは、とても三週間前までISにすら触れた事の無い素人の物では無い。

 

 

「ああもう、しぶといわね!!」

 

「そりゃ悪かった、なっ!!」

 

 

大振りになった隙を突き、閉じたままの大鋏の先端を叩き込む。

 

 

「ぐっ!? やったわね!!」

 

 

鈴は回転させていた双天牙月をしっかりと持ち直すと、互いの柄を連結させる。

 

 

「これでも喰らいなさい!!」

 

 

青龍刀から薙刀を思わせる長柄武器となった双天牙月を振り回し、更なる猛攻を仕掛ける鈴。

 

遠心力と重量が倍加した一撃は、ビルトビルガーの重量が追加されている真司を容易く吹き飛ばす。

 

 

「うわっ!? ってえ……なんて重さだよ!」

 

「ほらほら、ぼーっとしてんじゃないわよ!!」

 

 

巨大な風車を相手にしているかの如き迫力。

 

それに対し真正面から挑むのは得策では無いと判断した真司は、左腕の三連ガトリングガンで牽制しつつ距離を取る。

 

 

「ちょこまか逃げてんじゃないわよ!」

 

 

吐き捨てると共に、高速回転させた双天牙月を真司目掛け投擲する鈴。

 

連結形態の双天牙月は、内臓されたジャイロバランサーにより軌道をある程度操作する機能が備わっており、距離が離れた真司を正確に追尾する。

 

 

「厄介な機能付けやがって!! けどーーこれなら!!」

 

 

双天牙月の飛行速度は決して捉えられない程では無く、ギリギリまで引きつけて身を躱す真司。

 

双天牙月の旋回性能はそれに追随出来る程では無い為、大きく弧を描き真司を追う。

 

それは、鈴の武器が手元から離れた事を意味しーー

 

 

(今なら、あいつは無防備!! ここで決める!!)

 

 

千載一遇のチャンスを逃すまいと、眼下の鈴目掛け突撃する真司。

 

だが。

 

 

(ーー笑ってる?)

 

 

ビルトビルガーのセンサーが捉えた鈴の表情は、隙を突かれ焦っている人間の物では無かった。

 

寧ろ、獲物が網に掛かった事を確信した猟師のようなーー

 

 

(ーーっ、まずい!!)

 

 

刹那、脳裏によぎる警鐘は、既に手遅れだった。

 

 

「ーーーー!!!」

 

 

爆発と共に吹き飛ばされる真司。

 

そのままの勢いで地面に叩きつけられた彼の右半身の装甲は、無惨にひしゃげヒビが入っていた。

 

 

「チッ、ギリギリで防がれたか。 よく防げたじゃない、甲龍の〈龍咆〉は砲身も砲弾も見えないってのに」

 

 

その言葉に、ふらつきながらも立ち上がった真司は気丈に答える。

 

 

「俺だって……お前の試合は、しっかり見てんだよ。 確か、簪さんとの試合で使ってたよな。 衝撃砲ってんだろ、それ」

 

「あー、あの試合かー……」

 

 

ばつの悪そうな表情で答える鈴。

 

衝撃砲〈龍咆)。

 

空間に強力な圧力を掛け、形成された砲身に余剰圧力で形成した砲弾を装填して発射するーー言わば、「見えない空気鉄砲」。

 

たかが衝撃に、ISのスキンバリアーにダメージを与えるだけの威力を持たせている技術力も恐るべきだが、この龍咆の最大の特徴は「砲身にも砲弾にも実体が無い」事にある。

 

甲龍の背後に追随する非固定浮遊部位に搭載されたこの第三世代兵装は、圧力を砲身状に形成して撃つ関係上、理論上射角に限界が無い。

 

砲身の角度や形状を自在に変えられる為、やろうと思えば正面を向いたまま背後の敵を撃ち抜く事も可能なのだ。

 

ISにすら痛撃を与える不可視の砲弾が、予備動作も無しに飛んでくるーー実戦経験豊富な兵士にとって、これ程恐ろしい物も無いだろう。

 

束が撮影した鈴と簪との試合の画像にて、簪の周囲が歪んで見えたのも、この衝撃砲を密着距離で叩き込まれた事を意味していた。

 

 

「で、まだやる気? 忠告しとくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ? 確かに、スペースデブリの直撃にも耐えられるくらいの耐久度はあるけど、それを上回る威力の武装ならーー操縦者に直接ダメージを与えられる」

 

 

勿論、レギュレーションにより操縦者の生命に危険を及ぼすレベルの兵器は使用を禁じられている(その観点から言えば、絶対防御を容易く切り裂く白式の零落白夜は限りなくアウトに近い)が、逆に言えば「死なない程度に痛めつける」事は可能という事だ。

 

だが、真司はその警告に不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「へえ、そいつは怖いな」

 

「随分と余裕じゃないのよ。 まさか、この状況でまだ勝てるって思ってんじやないでしょうね?」

 

「だとしたら?」

 

 

その言葉と共に、左手に携えた雪片影打を掲げる。

 

 

「こいつは篠ノ之博士が積んでくれた武器でな、雪片影打って言うらしいぜ。 機能はーー擬似的な〈零落白夜〉の発動」

 

 

その瞬間、鈴の表情が強張る。

 

何せ、零落白夜といえば現役時代の織斑先生を世界最強の座にまで登り詰めさせた単一仕様能力。

 

その危険性は、鈴も十分に理解している。

 

 

「だから何だってのよ。 そんなトンデモ能力、簡単に再現出来る訳が無いでしょ。 大方、たった一回、短時間しか使えないんじゃないの?」

 

「まあ、試作品を無理に後載せしたからな。 けどーー威力なら本家に引けは取らないぜ」

 

 

雪片影打を構え、突撃姿勢を取る真司。

 

 

「それに、こいつなら一発当てればそれで勝ちだ。 一本しか無いから決勝まで使えなかったけど、もう温存する意味も無いからなーー遠慮無く使わせて貰うぜ」

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

一方、管制室。

 

 

「赤城君、勝負に出るみたいですね」

 

「衝撃砲の直撃で右腕のスタッグビートルクラッシャーは破損していますし、ガトリングガンと衝撃砲では撃ち合いでも不利……なら、擬似零落白夜での一発逆転に賭けるしか無いでしょう」

 

 

山田先生の言葉に、冷静な分析を返す織斑先生。

 

実際、あのタイミングでの真司のアピールは只の武器自慢では無い。

 

自分が最強の武器を有している事を敢えて明かす事で、相手にそれを警戒させ、プレッシャーを与える。

 

相手はその意図が解ってはいても、その武器の性能故に警戒せざるを得ない。

 

単純ながら、非常に有効な心理戦であった。

 

 

「短絡的な凰の性格を考えれば、赤城の取った手段は極めて有効です。追い詰められた生物の行動パターンは自ずと限られてくる。 加えて、凰は才能はともかく、経験に欠けている。 となればーー」

 

「付け入る隙も生まれやすい……という事ですね。 それにしても、赤城君って何と言うか……操縦技術の割に、妙に戦い慣れてますよね」

 

 

確かに、技量自体はまだまだだが、対戦相手に対する間合いの取り方、要所要所での取捨選択等、所謂戦闘勘が素人とは思えない程に発達している節が見受けられる。

 

まるで、長年に渡って戦場を渡り歩いた傭兵の如くーー

 

 

(ーー考え過ぎか)

 

 

一夏がまだ小学生だった頃、同じクラスという事で鈴の付き添いで一夏と共に風邪の見舞いに家を訪れた事がある。

 

家は至って普通、両親も極普通の一般人。

 

とても、戦場に生きる兵士には見えなかった。

 

 

(あれが演技だったとしたら、アカデミー賞を狙えるだろうな)

 

 

そんな事を考えつつ、モニターに映る試合の模様を見詰める織斑先生。

 

その視線の先では、状況が大きく動こうとしていた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

(思ったより速い……!!)

 

 

鈴は内心焦っていた。

 

仕切り直した直後、真司がジャケットアーマーをパージした事で、真司の移動速度は龍咆の弾速では捉えきれない程に上昇していた。

 

ISのセンサーのお陰で真司自体を見失う事は無いものの、ほんの一瞬でも気を抜けば即敗北に繋がるという状況は鈴に過度のストレスを与えていた。

 

そのストレスは龍咆の狙いを僅かに甘くし、当たらない事で更に苛立ちは強くなる。

 

龍咆の弾幕を張りながら、鈴は必死に自らを襲う重圧と戦っていた。

 

その反動は、思いもかけない所で現れる。

 

 

(アラート!?)

 

 

突如鳴り響く警告音。

 

その内容は、龍咆のエネルギー残量が残り僅かという物

だった。

 

 

(弾切れ!? しまった、焦って撃ち過ぎた!!)

 

 

いくら龍咆がエネルギー兵装の中では燃費に優れているとは言え、マシンガンの如く乱射していればその分エネルギーも消費される。

 

そして、エネルギーが底を突けば当然武器は使用不能になる。

 

 

(やられた……これが真司の狙いって事!?)

 

 

慌てて龍咆の連射を止めるものの、残りエネルギーは精々三発分といった所か。

 

真司の突撃を防ぐには、余りにも心許ない。

 

しかも、地面周辺は龍咆の流れ弾が原因で土煙が発生しており、ISのセンサー以外で真司の姿を捉える事が出来ない。

 

 

「やってくれるじゃない……!!」

 

 

双天牙月を構え、不意の攻撃に備える鈴。

 

真司の動きさえ掴めれば、双天牙月で受け止め龍咆でトドメを刺して終わりだ。

 

 

「来るなら来なさいよ……姿を見せた瞬間に叩き落としてやる……」

 

 

眼下の土煙を睨み付ける鈴。

 

その視界に、土煙を割って飛来する一本の剣が映る。

 

 

「!?」

 

 

咄嗟に双天牙月で叩き落とすものの、真司が切り札である筈の雪片影打をあっさり手放した事に困惑する鈴。

 

その隙を突き、土煙から飛び出してくる影。

 

 

「! そっちか!!」

 

 

振り向き様に双天牙月を振るう鈴。

 

その一撃はーー

 

 

「おりゃあ!!」

 

 

「雪片影打」の振り上げによって弾き飛ばされた。

 

 

(なっ……!?)

 

 

雪片影打は既に手放している筈ーー困惑する鈴の視界に、先程防御した武装のデータウィンドウが映る。

 

その名称はーー〈コールドメタルソード〉。

 

 

(二本目の、剣!?)

 

 

種を明かせば簡単な事。

 

真司のビルトビルガーは、装備の全てを外付け装備している為、それらを制御するプログラムを差し引いても拡張領域に余裕が存在する。

 

その大半を高機動モード時に展開される可変翼〈テスラ・ドライヴ〉の推進システムと、篠ノ之博士が無理矢理インストールした擬似零落白夜プログラムに消費しているものの、実体ブレードの一本くらいなら収納しておけるくらいの「空き」が残っていた為、念の為にと本来ビルトビルガーに装備されていた実体ブレードを収納しておいたのだ。

 

鈴に擬似零落白夜の存在を教えたのも、一発でも砲撃を受ければ致命傷になる高機動モードへと移行したのも、鈴の龍咆を誘い土煙を上げさせたのも、全てはこの隠し球を有効に活用する為。

 

そして、この一瞬の勝機に繋ぐ為。

 

 

「これでーー終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

一撃必殺の刃が、完全に無防備となった鈴目掛けーー振り抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、決着です


それではまた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。