◆
「ヴヴヴゥヴゥゥゥゥゥゥゥ!!?」
真司の振り下ろした刀身によって頭部を断ち割られ、断末魔の「鳴き声」が迸る。
「ーーえ? な、何よこいつ!?」
突然背後から上がった声に振り向き、驚愕の声を上げる鈴。
「こいつ……この前の怪物か!!」
鈴を押し退け、怪物ーー初級インベスを蹴り落とす真司。
同時に、雪片影打から光が失われる。
「あ……あんたまさか、アタシを庇って?」
「目の前で幼馴染に怪我されたら、寝覚めが悪いんだよ!」
困惑気味の鈴の問いかけに、憎まれ口で返す真司。
「怪我って……ISに乗ってて怪我なんてする訳ーー」
「危ない!!」
先程とは別の個体の奇襲を、咄嗟に身を挺して庇う真司。
その二の腕から鮮血が飛び散った。
「なっ……!?」
目の前の光景が信じられない鈴。
何せ、ISを最強の兵器足らしめているスキンバリアーが、いかにも弱そうな化け物の爪如きに容易く貫かれたのだ。
「ーーってえな、この野郎!!」
反撃の斬撃に袈裟斬りに引き裂かれ、緑色の体液を撒き散らし墜ちていく初級インベス。
だが、辺りにはいつの間にか無数の初級インベスが飛び交っていた。
「真司、それ……!」
「何でか知らねえけど、こいつらISのスキンバリアーを無効化出来るみたいなんだよ! 鈴、とにかくこの囲みを破るぞ!」
「わ、わかった!」
戸惑いながらも、真司と共に初級インベスに立ち向かう鈴。
二人の戦いは、まだ始まったばかりだった。
◆
突然の怪物の襲撃にパニックに陥る生徒達。
「ふふ……精々頑張りなさいな」
その只中で、一人ほくそ笑む女生徒がいた。
彼女の右手は、ポケットの中で不自然に動いている。
「さて、私もそろそろ避難しないとーー」
「ーーほう? 何処へ避難するつもりだ?」
「っ!?」
何の感情も無い声。
聞き覚えのある、聞き間違いようの無い声に顔を向ける女生徒。
そこには、女生徒が知る限り、この状況で一番存在してはならない人物が存在していた。
「い、嫌ですね。 皆さんと共に避難するに決まっているではありませんか。 あの状況では最早クラス対抗戦どころではありませんし」
「ほう? 随分と無責任な話だな、「実行犯」」
その言葉に、務めて平静を装う女生徒。
「な、ナニヲジョウゴニヲドンドコド……何を証拠にそんな事を……」
尤も、平静を装っているつもりなのは当人だけのようだが。
「証拠か。 これでは不足か?」
そう言って女性が差し出した端末に表示されていたのは、女生徒が「とある物品」を怪しげな黒ずくめの男から購入している光景だった。
「何なら、「ディーラー」から押収した領収書の控えもあるが……これでもまだシラを切ると言うなら、私達も容赦はせんぞ」
「くっ……!」
悔し気に呻く女生徒がポケットから手を抜くと、その手には女生徒が購入した物品ーー解錠された「ロックシード」が握られていた。
「動機は大方、二組代表を凰に取られた復讐といった所か。 なあ、
「うう……っ!」
一瞥に込められた重圧に、思わず後ずさる女生徒。
だが、周囲は既に教師達によって包囲されていた。
「そんなに代表の座が欲しければ、橘のように勝ち取ればいいだけの話だろうに。 自分の実力では敵わないからと妨害に走るとは、実に下らん」
その言葉に、嫉妬の篭った視線を向ける女生徒。
「……貴女に、何が解るんですか……才能に恵まれ、全てを手に入れ、世界最強とまで呼ばれた貴女に、私達のような地に這い蹲るしか無い人間の何が解るというんですか、「織斑先生」!!」
腹の底から絞り出すかの如き叫びに、目の前の女性ーー織斑先生は、
「ーー図に乗るなよ、小娘」
底冷えのするような一瞥で返した。
「ひっ……!?」
女生徒は、蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなってしまう。
「自分の努力不足の責任を他者に押し付けるような落伍者が、言うに事欠いて私を猿山のボス呼ばわりか。 笑わせてくれる」
「な……私だって、この学園に入学する為にどれだけ努力したかーー」
「なら、何故クラス代表を得る為に努力しなかった」
「無茶を言わないで下さい!! 相手は専用機持ちですよ!!」
「橘は、イギリスの代表候補生に起動一回目で互角に渡り合ったが?」
「そ、それは……」
「更識も、量産機で貴様のクラスの代表を後一歩まで追い詰めたぞ」
「う……で、ですが彼女は日本の代表候補生ですし……それに、彼女の姉はあのーー」
そこまで言った時、織斑先生の視線が圧力を増す。
「ーー貴様は、更識のあの戦いぶりを姉譲りの「才能」のお陰だと?」
「あ、ああ……」
「奴が今の立場を手に入れる為に、どれ程の鍛錬を重ね、どれ程の挫折を経験してきたかーーそれを貴様は、「才能」の一言で片付けるという訳か」
「そ、そんな事はーー」
「一言だけ忠告してやる。 貴様がそうやって逃げ続ける限り、貴様はいつまでもそのまま泥の中で這いずり回るだけだと知れ。 ーー安藤先生、後は頼みます」
織斑先生の指示を受け、教師の一人が女生徒からロックシードを受け取ろうと近寄る。
「さて、後何人居る事か……」
憂鬱そうに呟く織斑先生。
だが。
「……え? あの……私、誰の手も借りていませんよ?」
織斑先生の呟きに、心底意外そうに答える女生徒。
「……何? なら、あのインベスの大群は誰が呼び出した?」
「え? ロックシードってそういう物ではないんですか?」
見る限り、女生徒が嘘を言っているようには見えない。
だが、インベスはロックシード一個につき一体しか呼び出せない筈。
ならば、あのインベス達は一体誰がーー織斑先生の脳裏に疑問が湧き上がった、その時。
「ーー野崎、伏せろ!!」
女生徒に向けた警告は、しかし僅かに遅かった。
「えーー」
次の瞬間。
女生徒の胸部から、一本の杭が生えた。
「野崎!!」
「……ご、ふっ……? あ、あ……う…………」
野崎と呼ばれた女生徒の口から鮮血が零れ落ちる。
甲虫の甲殻の如き光沢を放つ杭は、野崎の心臓を貫いていた。
「あ……ああ……っ!?」
野崎の近くに居た教師も、余りの惨状にへたり込んでしまっている。
「ーー貴様!!」
女生徒を背後から貫いた、蜂に似たインベス目掛け駆け出す織斑先生。
だが、織斑先生の行く手を阻むかの如く空間に裂け目が現れ、初級インベスが次々と飛び出す。
「どけ!!」
咄嗟に打鉄カスタムを身に纏い、インベスを薙ぎ払う織斑先生。
周囲の教師達も念の為に待機状態で持たされていたISを起動するが、インベス達は一つの裂け目から無数に湧いてくる。
そして。
「た……たす、け……たすけて…………おりむら、せん…………せ……………………」
織斑先生が伸ばした手は僅かに届かず。
悲痛な声と共に、野崎の身体は裂け目の向こう側に引きずり込まれーー裂け目と共に消滅した。
「……おのれ……っ!!」
悔し気に唇を噛む織斑先生。
「織斑先生、ここは私達が! 先生はアリーナに向かって下さい!」
見ると、あの裂け目が野崎と共にロックシードまで飲み込んだ事で他の裂け目も閉じたらしく、アリーナに開いていた裂け目も消えている。
だが、初級ばかりとは言えインベスの数は多く、真司と鈴の機体の消耗も激しい。
確かに、一刻の猶予も無い。
「ーー解りました! 先生達はそのインベス達の始末を! 私はアリーナの救援に向かいます!」
答えを待たず駆け出す織斑先生。
これ以上、犠牲を出す訳には行かない。
◆
一方、その頃。
「いけない、遅くなっちゃった。 深琴ちゃん怒ってるかな……」
着替えや見舞いの品を両手に抱え、水依は倭の入院する病院へと向かっていた。
と、水依の向かう先に人集りが見える。
「あの、何があったんですか?」
「いや、それが俺にも何が何だか……何か、この先の道を封鎖してるらしいけど」
手近な人に事情を聞いて見るが、中々知っている人に当たらない。
やがて、道を封鎖している警察官らしき人物の元まで辿り着く。
「あの、何があったんですか?」
「この先の病院でガス爆発が発生したんだ。 危険だから入っちゃいかん」
「えっ!? あの、病院の人達は無事なんですか!? 友達が中にいるんです!!」
「レスキュー隊が既に出動しているとの事だ。 安心しなさい、きっと無事だよ」
警察官はそう言って水依を落ち着かせる。
(どうしよう……どうにかして中に入れないかな……)
途方に暮れる水依。
と、そこに意外な人物が通り掛かる。
「主任、お疲れ様です」
見ると、先程豪邸にて水依を呼び止めた青年だった。
(え……に、兄さん?)
どうやら水依の兄のようだ。
「うむ。 引き続き封鎖を続けろ。 私は現場にて指揮を執る」
(え? この封鎖を指示したのって……兄さん、なの?)
その時、水依の脳裏にとある案が閃く。
(このままじゃどうしようもないし、一か八か……)
◆
「りゃあああっ!!」
鈴が振り下ろした双天牙月が、初級インベスを叩き割る。
「ああもう、何匹いんのよこいつら!!」
「俺が知るか!!」
真司と鈴、お互い背中合わせでインベスに相対する。
幸い、先程からインベスを吐き出し続けていた空間の裂け目は何故か閉じたものの、それまでにアリーナを埋め尽くす勢いで増え続けたインベスがまだ無数に残っている。
このままではいずれ押し切られてしまうだろう。
(くそっ、デッキは更衣室の中だし、このままじゃ押し切られて終わりだ! どうする……俺はともかく、鈴だけでも逃がさないと……)
絶体絶命の状況の中、更に状況は悪化する。
「っ、まずい、エネルギーが!!」
気付いた時には既に遅く。
エネルギーを使い果たしたビルトビルガーが装備解除され、真司の身体が宙に投げ出される。
「真司!!」
甲龍のパワーで周囲のインベスを弾き飛ばし、辛うじて真司を掴む鈴。
だが、いくらISと言えど片手に人一人ぶら下げたままでは満足に戦えない。
「鈴、離せって!! このままじゃ二人ともやられるぞ!!」
「冗談!! アタシだってね、幼馴染見殺しにしてのうのうとしてられるほど無神経じゃないのよ!!」
必死に応戦するが、片手しか使えずもう片手に錘をぶら下げた状態では回避すらままならず、次第に甲龍の装甲にも傷が刻まれていく。
そして。
「ああっ!!」
「うわっ!?」
左マニュピレーターが破壊され、真司は再度宙に投げ出された。
次回、新たなライダーが登場です
それではまた