IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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元第四話、第五話の統合話です


第三話 受験とISと勘違い

 

 

 

 

「行くよ、チーム鎧武! ワン、ツー、スリー、フォー!!」

 

 

青を基調に浮世絵のようなデザインの入ったパーカーで統一された出で立ちの少年少女達が、音楽と共に見事なダンスを披露する。

 

ここは、新興都市・沢芽市の東西南北に存在するダンスステージの一つ。

 

そして彼等は、沢芽市を舞台にしたストリートダンスチーム<ビートライダーズ>の一つ<チーム鎧武(がいむ)>」。

 

南のサウスステージを主な拠点とするチームで、純粋にダンスを楽しむ事を目的に結成された歴史の浅いチームである(まあビートライダーズ自体歴史は決して深くは無いが)

 

また、中・高生のみで構成されているのも特徴で、高校を卒業したメンバーはチームを去る事が暗黙の了解となっていたりもする。

 

喧嘩っ早いビートライダーズの中ではダンスに比重を置いている事もあって市民からの評判も良く、他のチームとも無闇に争う事は無い。

 

そうーー

 

 

「ふん、ガキ風情が随分と目立ってるもんだな」

 

 

ーーこのように、他のチームがちょっかいを掛けてこない限りは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜〜もう、ムカつく!! 何よ、<チームバロン>の奴等!!」

 

「落ち着けって深琴」

 

「これが落ち着いていられる!? あのステージは、<蒼天>」の皆から譲って貰った、大事なステージだったのよ!? それを、あんな卑怯な遣り口で負けるなんて……!!」

 

 

フルーツジュース片手に憤慨する、赤い髪をポニーテールに纏めた少女。

 

相当頭に血が上って居るらしく、巧の言葉にも耳を貸そうとしない。

 

 

「随分とお冠だな深琴。 ほら、これでも食って落ち着け」

 

「阪東さん……って、こんな高いパフェいただけませんよ!!」

 

「作っちまったものは仕方ないだろ。 奢りだ、有難く食えって」

 

 

そう言って笑みを浮かべるのは、現在巧達が居るフルーツパーラー<ドルーパーズ>の店長<阪東 清治郎(ばんどう きよじろう)>」。

 

強面の外見に似合わず気さくで面倒見のいい人物で、ビートライダーズからもこの店の周囲を絶対中立区域として暗黙の了解を貫いている程信頼されている。

 

 

「それにしても、さっきのインベスゲームは残念だったな。 もう少しで勝てたんだけどな」

 

「本当ですよ! あんな卑怯な真似さえ無かったら……」

 

 

阪東の言葉に少女ーー<白鳥 深琴(しらとり みこと)>は手の甲に貼られたガーゼを摩りながら俯く。

 

インベスゲームとは、リアルファイトーーつまり喧嘩の代わりの決着手段として最近ビートライダーズの間で流行り始めた対戦ゲームである。

 

「ロックシード」と呼ばれる、木の実やフルーツの意匠が刻まれた錠前を操作する事で空間にジッパーのような裂け目を生み出し、中から召喚された小動物「インベス」同士を戦わせ、相手の操るインベスを撃破した方が勝つ、単純なゲームである。

 

故に、勝敗がはっきり分かるとしてビートライダーズ同士の諍いの解決等に用いられるようになった。

 

ただ、このインベスという存在、人間とダンゴムシを掛け合わせたような不気味な外見に違わず凶暴で、制御されている間こそ小柄な立体映像風の姿だが、召喚に用いたロックシードを手放してしまうとその瞬間制御を失い実体化、同時に人間大までサイズアップし周囲構わず暴れまわる事が知られている。

 

先程も、サウスステージを奪うべく勝負を仕掛けてきたチームバロンのメンバー、通称ザックの駆るCクラスインベス相手に、深琴はランクの劣るDランクインベスで挑み、後一歩まで追い詰めたのだが、突如深琴の手の甲に何処からか飛んで来た金属製の礫が命中。

 

その弾みで、インベスを呼び出していたヒマワリロックシードを落としてしまい、更に暴走したインベスにより引き起こされたパニックによりヒマワリロックシードが紛失。

 

受験勉強の息抜きに通りかかった倭が偶然足元に転がってきたヒマワリロックシードを停止させインベスを送り返したものの、勝負が決まる前にインベスを送還したとして棄権負け扱いされ、チーム鎧武はサウスステージを奪われる結果に。

 

これで怒るなというのも、確かに無理があるだろう。

 

 

「それにしても倭、お前確受験は大丈夫なのか? 本試験は明日だろ?」

 

「って、あんたそんな時期に出歩いてて大丈夫なの!? 落ちたら洒落にならないわよ!」

 

「おお、大丈夫大丈夫。今更ジタバタしたって始まらないだろ。 予習復習はしっかりやったし、後は運を天に任せるだけだ」

 

「本当に大丈夫なの? 水依も武も受かったのに、あんただけ浪人なんて本当に洒落にならないのよ?」

 

「任しとけって! ……それにしても、俺だけ別の高校か。 なんか寂しくなるな」

 

「仕方ないでしょ、金銭的な問題なんだから。 それに、「いつまでも姉ちゃんの脛を齧ってばっかじゃいられねえ」なんて言ってたのはヤマトでしょ?」

 

 

チーム鎧武のメンバーは、全員が同じ学校に通っている訳では無い。

 

その中でも、深琴が挙げた水依と武、そこに倭を加えた四人はチームでは珍しく小学校の頃から同じ学校に通う幼馴染の関係だった。

 

だが、他の三人が私立の<春秋学園>へと進学する中、倭はたった一人の肉親である姉<橘 晶(たちばな あきら)>にこれ以上負担は掛けられないと、同じ私立でも学費が安く卒業後の就職率も高い<藍越学園>へと進学を決めたのだ。

 

 

「そりゃそうだけどさ……」

 

「そりゃ、私だって寂しくないって言えば嘘になるけど……自分で決めた事なんでしょ? だったら応援するわよ。 その代わり、落ちたら承知しないわよ?」

 

「そっか……うん、そうだよな。 ありがとな深琴、なんか元気出たぜ! よっし、家に帰って最後の追い込みでもやるか! 阪東さん、お金ここ置いとくから!!」

 

「おお、頑張って来いよ? ……さて、と。 深琴、あんなんで良かったのか? 本当に寂しいのはお前の方なんだろ?」

 

 

ドルーパーズから飛び出す倭を見送った後、阪東は何処と無く力無さ気な深琴に話し掛ける。

 

 

「いいんです……あいつとは、チーム鎧武で会えますし。 そりゃあ、藍越学園は遠いから一緒に居られる時間は少なくなるかも知れませんけど。 それに……私には、今の関係を壊す勇気なんて無いんです」

 

「そうか……まあ、しっかり悩め。 お前さん達には、まだたっぷり時間があるんだからな」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この翌日。

 

倭の受験をきっかけに、ビートライダーズどころでは無くなってしまう事をーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー深琴は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、何処だよぉぉぉぉぉ!!?」

 

 

静まり返った廊下に、倭の絶叫が響き渡る。

 

見渡しても人っ子一人おらず、返ってくるのは無駄に入り組んだ周囲の壁に反射するこだまのみ。

 

節電の為か照明は薄暗く、通路の壁にも張り紙等の目印になる物は見つからない。

 

つまり、早い話が……倭は思いっきり迷子になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、何故藍越学園の受験へと向かった筈の倭が何故こんな場所で迷子になっているのか。

 

簡単に言うと、去年とある高校で起きたカンニング事件が原因で、対策として地元の多目的ホールで藍越学園を含めた複数の高校入試を纏めて行う事になったのが理由だったりする。

 

しかし、この試験会場として選ばれた建物が実に独創的な造りになっており、その外見から内部構造に至るまで実に常識に囚われない発想に溢れて零れまくった結果、最も重要な常識である「実用性」が見事に置いてけぼりになっている代物だった。

 

地元出身のデザイナーに設計を依頼したらしいが、どうせ公共事業という名の税金の無駄遣いなのだから、もう少し有名でまともな思考の出来るデザイナーに頼めなかったのだろうか。

 

現実逃避気味にそんな事を考えてみるが、試験開始まで後数分という危機的状況が覆る訳でも無く。

 

最早涙目になりつつ入り組んだ廊下を疾走する内、その視界に飛び込んで来たのは、半開きの内側からうっすらと光が漏れている扉。

 

 

(電気が点いてるんなら、少なくとも誰かいる筈! 最悪でも、藍越学園の入試会場まで案内して貰えれば何とかなる!)

 

 

瞬間的にそう判断した倭は、迷う事無くその扉の中へと走り込んだ。

 

 

 

 

ーー因みに、その扉には誰が書いたか、マジックでこう落書きされていた。

 

 

 

 

ーーこの扉をくぐる者は全ての希望を捨てよーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、次の方ですか。 では、着替えてカーテンの向こうにどうぞ」

 

 

足音で誰か来たと判断したのか、受付らしき長テーブルの向こうに座っている女性はこちらを一瞥すらせずに告げる。

 

 

「え? えーと……」

 

「ああ、こちらの都合で誠に申し訳ありませんが、手早くお願いします。 何せ、手続きが手間取ったせいで<ラファール>の搬入が遅れてしまったもので、時間が圧しているのですよ」

 

 

見ると、彼女の手元には結構分厚い書類の束が積まれている。

 

これでは、道を尋ねるどころでは無さそうだ。

 

 

「しょうがねえ、他を探すか……ん?」

 

 

踵を返そうとした倭だったが、ふとカーテンの隙間から覗く緑色の何かが目に止まる。

 

今はそんな物に構っている余裕は無いのだが、何故か妙に気になって仕方ない。

 

好奇心に勝てず、カーテンをくぐった先にあったのはーー

 

 

「ーーIS?」

 

 

そこにあったのは、一体のIS。

 

機種名は<ラファール・リヴァイブ>というのだが、倭はそこまで詳しくない。

 

ただ、男には扱えないという最強の兵器を前に、妙に興味を引かれるものがあるのは確かだった。

 

 

「何でこんなとこに……って、此処ってもしかして<IS学園>の入試会場かよ……」

 

 

いくら確かめなかったとは言え、「藍越」と「IS」を間違えるなんて笑い話にもならない。

 

余りのくだらなさに疲労感を感じた倭は、思わずよろけた拍子に眼前のISに手を着いた。

 

 

 

ーー手を着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっと、これはどういう事なんでしょうか……?」

 

「いや、俺の方が知りたいですよ……」

 

 

童顔に眼鏡の、試験官らしき女性が困惑の視線を向けてくる。

 

無理も無いだろう。

 

彼女の眼前には、学生服姿でISを纏った「男子」が居るのだから。

 

正直、困惑しているのは倭だって同じだ。

 

何せ、物の弾みでISに触れた瞬間、何やら大量の情報が頭がフットーしそうな勢いで流れ込んできたと思ったら、いつの間にか目の前にあった筈のISが自分の体に装着されていたのだから。

 

 

「その……と、とりあえず次の子が来るまで時間があるみたいですし……模擬戦だけでもやって行きませんか?」

 

「はあ……」

 

 

正直、まだ困惑している。

 

だが、もう藍越学園の入試開始時間はとっくに過ぎ去っている。

 

つまり、落第は確定したようなものだ。

 

ならば、せめて話の種でも持って帰らない事には深琴に合わせる顔が無い。

 

 

「んー……じゃあ、お願いします」

 

「あ、はい。 それでは……行きます!」

 

 

瞬間、童顔眼鏡の姿が消え去った。

 

 

「っ!?」

 

 

倭も喧嘩慣れしているとは言え、ISのハイパーセンサーの補助を以ってしてもその動きを捉えることはままならず、辛うじてイナバウアーが崩れたような体勢で初撃をかわすのが精一杯だった。

 

だが、無理な体勢でギリギリ回避したのが災いしたのか、此処でちょっとしたハプニングが起こる。

 

最大加速の勢いを載せて放った一撃をいなされ僅かにバランスを崩した拍子に、童顔眼鏡のISの膝装甲が倭のISの肘に引っかかった事で更にバランスが崩れ、

 

「え? っきゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

さながらネズミ花火の如く高速回転しながら壁に激突。

 

そのまま気絶したらしく、呆然とする倭をよそに試合終了のブザーが試験会場に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回、ようやくライダーが出ます


それではまた


7/20 第五話と統合しました
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