◆
「くそっ、この道も塞がってるか……」
曲がり角から様子を伺う真司。
その視線の先には、無数の初級インベスが通路を塞ぐかの如くたむろしていた。
「ね、ねえ真司? やっぱり勝手にピットを出るのはまずいよ」
「だったら静寂だけ残ってれば良かったじゃねえか。 俺はやだぞ、ISも使えねえのにいつまでもこんな寒いカッコしてんの」
「そ、それはそうだけど……あっ、待って!」
この二人が何故この場所に居るのか。
事の発端は、真司の「着替えを取りに行きたい」発言から始まる。
何せ、ISスーツはISが無ければ唯の水着にしか見えない。
倭のISスーツはデータ取りに重きが置かれている事もあり、頭以外の全身を覆うウエットスーツ状のタイプが支給されているのだが、真司のISスーツはビルトビルガーの性能上、装着者の動き易さを重視した結果、二の腕から先と腹部が大きく開いた軽量タイプが支給されている。
故に、熱を嫌う精密機械だらけのピット内で過ごすには些か薄着過ぎるのだ。
まあ、真司の場合着替えの内の「忘れ物」の方に用があるのも事実だが。
そういった主張を声高に訴えた結果、無茶はしない事とラファール装備の静寂が付いて行く事を条件に静寂が折れ、二人揃って更衣室へと向かう事になった訳だ。
「あいつらにバリア無効化がある限り、無理に突破するのもやばいしな……静寂、飛行型はどのくらいいる?」
「ちょっと待って。 ……見た所一匹も居ないみたい。 ちょっと危険だけど、上を飛んでいく?」
「他に道も無さそうだしな……悪い静寂、頼めるか?」
「あんまり頼まれたくは無いけど、ね。 しっかり掴まってて!」
「よし……いいぜ、行ってくれ!」
合図と共に、真司を横抱きにして飛翔するラファール。
「「「ヴッ!?」」
初級インベス達も、突如飛び出してきたラファールに対応が遅れる。
そして。
「よし、到着!!」
自動ドアが開くと共に、二人は更衣室へと転がり込んだ。
「ふうっ……何とか上手く行ったな」
「結構ギリギリだったけどね。 じゃあ、私は入口の方を見張ってるから、真司も早く着替えてきて」
「分かった」
静寂と別れ、自分の着替えを仕舞ったロッカーへと向かう真司。
目当ての物自体はロッカーに入っていたズボンのポケットから見つかったのだが、
「なっ……!?」
そこにあったのは、「何の装飾も無い」カードデッキだった。
「契約が切れてる!? 何でだ!?」
自分の衣服の中を必死に探す真司。
真司の龍騎のようなライダーシステムは、ライダーシステム単体では大した戦闘力を持たない。
故に、ミラーワールド内に生息するミラーモンスターと契約し、エネルギーをシステムに供給する事で、ライダーシステムはミラーモンスターに対抗し得る戦闘力を発揮出来るのだ。
その際、契約の証としてカードデッキ表面に浮かび上がるのが、龍騎やガイの契約モンスターを模したレリーフ。
そのレリーフが消失するーーつまり、契約が失効する条件は三つ。
契約モンスター自体が死亡する。
契約モンスターのカードが破壊される。
そしてーー
「ヨウ、何カ探シ物カイ?」
ーー契約モンスターのカードを敵対存在に奪われる。
いつの間にか、真司の背後に一人の男が立っていた。
ドラグレッダーの描かれたカードーー龍騎の契約モンスターカードを手に。
人をからかうようなニヤついた笑みを浮かべて。
「てめえ……何でそのカードを持ってる?」
真司の問いに、男は不自然な片言で答える。
「サテ、何ノ事カナ? 俺ハタダ、コイツガ珍シイカラチョットダケ借リテタダケダゼ?」
「シラを切ってんじゃねえよ。 てめえがそのカードの事を知らねえってんなら……何で、他のカードが手付かずで残って、そのカードだけ持ってやがる!!」
台詞と共に、直ぐ側の姿見にカードデッキを翳す真司。
その腰に、機械的なデザインのベルトが現れる。
「変身!」
デッキをバックルを装填し、龍騎へと変身する真司。
だが、その姿は大きく様変わりしていた。
炎の赤に彩られていたインナーは、燃え尽きたかの如く昏い濃紺に。
龍の意匠が施されていたヘルメットは、何の意匠も無い無機質なデザインに。
左腕の龍の頭部を模した召喚機は、只の機械の塊に。
その姿は、明らかに劣化していた。
「ナルホドネ。 契約もんすたーヲ失ウト、らいだーモソウナル訳カ。 アノ女ノ言ッテタ通リダナ」
「あの女……?」
「ソレジャ、悪イケドモウチョットダケ付キ合ッテモラウゼ?」
その言葉と共に、何も持たない左手を宙に翳す男。
すると、その行動に呼応するかの如く空間にジッパー状の裂け目が現れる。
「な……!?」
驚愕する真司の眼前で、裂け目の向こう側から蟹を思わせるインベスが現れる。
「サテ、弱体化シタソノ姿デコイツ二勝テルカ……見セテモラウゼ?」
「余興って事か?…… ふざけるんじゃねえ!!」
《Sword Vent》
デッキから引き抜いたカードを召喚機に装填すると、飾り気の無い細身の直剣が召喚される。
「ゴボッ!!」
「っと、遅いんだよ!!」
カニインベスの一撃を身を低くして潜り抜け、甲殻の隙間目掛け突きを繰り出す龍騎。
だが。
「げっ、やっぱり折れたぁっ!!」
正確に隙間に突き立った剣先は、次の瞬間圧力に耐えかねあっさりと折れてしまった。
原因は、単純に強度不足にある。
先程説明した通り、龍騎のシステムは契約モンスターからエネルギーを供給する事で戦闘力を発揮する。
それは武装に関しても同じであり、ドラグレッダーと契約している時に召喚出来る〈ドラグセイバー〉がAP(アタックポイント。 200で1t相当)2000なのに対し、未契約ライダーが共通して呼び出せる先程の剣〈ライドセイバー〉はたったのAP300しか無く、強度もそれに見合った物しか備わっていない事になる。
則ち、ライダーシステムにとって本来敵である筈のミラーモンスターとの契約は正に生命線なのである。
それを失ったという事はーー
「ゴボボッ!!」
「ごはぁっ!?」
龍騎に勝ち目は無い、という事になる。
「アーララ、モウ終ワリカイ? ジャアーーサヨナラダ」
男の指示を受け、倒れ伏す龍騎目掛けカニインベスが右腕の爪を振り下ろすーー
「ゴボラッ!!?」
ーー寸前、グレネード弾の直撃がカニインベスを吹き飛ばす。
「大丈夫!? 真司……だよね?」
刹那、グレネードランチャーを構えた静寂がカニインベスと龍騎の間に滑り込む。
「げほっ……悪い静寂、助かった……」
「どう致しまして。 まあ、その格好とか、色々聞きたい事はあるけど……」
「悪いけど、説明は後だ。 少しの間だけでいい、あのカニ野郎を抑えてくれ」
「いいけど……勝てるの? あの人、何か切り札持ってそうよ?」
「やるしか無いだろ。 じゃあ、頼んだ!」
返事を待たず、男目掛け切り込む龍騎。
「ヤレヤレ、生身ノ俺相手ナラ勝テルト思ッタカイ?」
焦るでも無く、龍騎の突撃を余裕すら感じる佇まいで迎え撃つ男。
「おりゃあっ!!」
折れたままのライドセイバーで果敢に斬り掛かるが、男は巧みに受け流す。
「ホラホラ、早クシナイトオ前ノ女ガヤラレチマウゼ?」
「あのカニ野郎が、の間違いじゃねえのか? 静寂はあんなカニ野郎にやられる程ヤワじゃねえよ!」
攻防の最中、男の挑発を軽く受け流し、更に攻撃を駆り出す龍騎。
だが、男もまた素手にも関わらず龍騎の猛攻を容易く受け流す。
◆
一方、静寂もカニインベス相手に攻め手を欠いていた。
「これも駄目か……!」
アサルトマシンガンの弾丸は甲殻に弾かれ、近接ブレードは逆に圧し折られる。
先程のグレネード弾も、甲殻を焦がす程度のダメージしか与えておらず、中身まで衝撃が届いてはいないようだ。
「〈
未知の強敵相手に、恐怖心から強気に攻め切れない静寂。
その時。
「ーー静寂はあんなカニ野郎にやられる程ヤワじゃねえよ!」
静寂の耳に、真司の言葉が飛び込んでくる。
「ふえっ!?」
思わず真司の方を見る静寂。
そこには、攻撃の殆どを軽く受け流され、肩で息をする程に消耗しながらも、尚果敢に攻め続ける龍騎ーー真司の姿があった。
(真司……)
真司は、まだ諦めていない。
クラス代表対抗戦からの連戦で消耗し切った体で、勝機を信じ続けている。
その姿は、静寂の瞳に強く焼き付いた。
「まったくもう……さっき一回戦っただけの相手を、何でそこまで信用出来るかな……」
呆れたような口調とは裏腹に、その口元には笑みが浮かんでいた。
鷹月 静寂は、元来それ程目立ちたがり屋でも、自信家という訳でも無い。
そんな人間が、何故クラス代表に就いているのかーーそれは偏に、頼られると嫌とは言えない彼女の性格にある。
例え、その場限りの礼の言葉しか返ってこなかったとしても。
体の良い便利屋扱いをされているとしても。
少しでも自分を頼ってくれるのならーーその思いが、彼女に国家代表候補に匹敵する程の実力を身に付けるだけの努力へと繋がっている。
故にーー彼女は決断する。
「一か八か……行くよ、ラファール・リヴァイヴ!!」
襲い来るカニインベスに対し、静寂もまた前に出る。
その左腕に、大型の盾が出現しーー即座にパージされる。
代わりに現れたのは、グレネードランチャーのようなリボルバー機構が組み込まれた筒。
だが、筒の先端からは金属製の尖った杭が突き出ている。
この武装の名は、
ラファール・リヴァイヴ用の武装の中でもトップクラスの威力を誇る、近接打突用の
リーチの短さ故に使い手は少ないが、威力だけなら下手な第三世代兵装をも凌ぐ、別名
その一撃がーー
「いっーーけええええぇーーーーーーーーー!!!」
グレネード弾の爆炎に灼かれ、脆くなっていた左胸の甲殻をーー突き破った。
◆
一方、病院での戦闘も佳境へと入っていた。
水依の変身したアーマードライダーは、その基本性能もさる事ながら、特徴的な武装を有していた。
「そこっ!」
水依が初級インベス目掛け腕を向けると、その手に握られた武装から紫の光弾が放たれ、インベスに命中する。
それは、葡萄の意匠が施された一丁の拳銃だった。
「倭ちゃん、危ない!」
水依自身の腕前も突出しており、振り向き様に発射された光弾が鎧武と鍔迫り合いをしていたトンボーーいや、カゲロウのインベスの背中に命中する。
「上手いもんじゃねえか水依、もしかして銃を使った事あんのか?」
その問いに、少し焦った様子で答える水依。
「う、うん。 私、こういったゲーム結構好きだから。 ほら、ハウスオブザなんとかとか、なんとかクライシスとか」
「へえ……んじゃ、これ終わったら一緒にゲーセン行くか? 俺もガンシューティング嫌いじゃ無いしさ」
「え……う、うん! 絶対行く!」
倭の誘いに、首が千切れんばかりに縦に振る水依。
厳つい外見の戦士が乙女なリアクションを取る姿は、正直シュールである。
「あんたらね……襲われて殺されそうだってのに、呑気にデートの話してんじゃないわよ!!」
倭の背後に庇われていた深琴が、我慢の限界とばかりに話に入ってくる。
「いや、別にデートとか……ん? デート……になるのか、これ?」
カゲロウインベスの代わりに群がってくる初級インベスを蹴散らしつつ、しきりに首を傾げる鎧武。
「あ、あはは……あ、勿論深琴ちゃんも行くよね?」
「行くわよ! 行くに決まってんで、しょっ!!」
八つ当たり気味にパイプ椅子で初級インベスを殴り飛ばす深琴。
遠距離武装を有する水依の参戦により、戦闘の最中に談笑を交える余裕すら生まれていた。
この調子なら勝てる。
そう思ったが故の気の緩みが、戦況を一気に傾ける。
「ん? そういえばあの上級インベスどこ行った?」
ふと気が付くと、先程まで倭を襲っていたもう一体のカゲロウインベスが何処にも居ない。
もしかして逃げたかーーそう思った、次の瞬間。
『ミミミィィィィィィン!!!!!』
「うわあああああああああっ!!?」
突如、巨大な何者かが背後の壁を突き破り、鎧武を吹き飛ばした。
「きゃあっ!? いたた……や、ヤマト!?」
咄嗟に突き飛ばされた為、深琴には怪我は無かった。
だが、その行為により逃げ遅れた倭は、変身が解除される程のダメージを受け、瓦礫の中に倒れ伏していた。
「倭ちゃん!? 待ってて、今行くか……きゃっ!!」
水依に対しても攻撃を仕掛ける何者か。
その正体は、巨大な
恐らく、自分を呼び出したロックシードが壁の向こうの病室にあったのだろう。
「このっ!!」
拳銃で応戦するが、巨大化によって甲殻も強靭になったのか、容易く弾かれてしまう。
「駄目、この武器じゃ効かない! けど、他に武器は無いし……」
縦横無尽に飛び回り、仲間である筈の初級インベスすら蹴散らして暴れ回る強化カゲロウインベスを前に、攻めようの無い水依。
「う……いってえ……」
と、瓦礫の中に倒れていた倭が、不意に身を起こす。
「ヤマト!!」
「倭ちゃん!? 駄目だよ、じっとしてないと!!」
心配する二人を余所に、入院着のポケットを探る倭。
程なく、一個のロックシードを掴み出す。
「水依、これ使え!!」
「え……きゃっ!」
咄嗟にキャッチしたそのロックシードには、鋼色の表面に〈L.S.-13〉のナンバーが刻印されていた。
「大丈夫、お前なら……やれる……!」
それだけ言い残すと、力尽きたように倒れ伏す倭。
「あの馬鹿……最後まで無茶して……!」
心配気な深琴だが、周囲を飛び回る強化カゲロウインベスのせいで駆け寄る事も出来ない。
そんな中、水依はロックシードのスイッチに手を掛ける。
「ち、ちょっと水依! まさかそれ使うつもり!?」
「他に手は無いよ。 大丈夫、私結構運は良いんだよ?」
不安気な深琴に笑みを返すと、ロックシードを起動させる。
《キウイ!!》
「倭ちゃん……行くよ!」
《Lock-on!!》《ハイィ-!!》
ロックシードを斬ると、鋼色の塊が被さり、輪切りの要領で展開する。
そして。
《キウイアームズ!! 撃・輪・セイ・ヤッ・ハー!!》
緑の断面が鮮やかな、新たな鎧となった。
「乾坤圏……これ、器械武術で使った事があるよ! これなら多分いける!」
新たに装備された円盤状の刃を構える水依。
「で、でも相手は空飛んでるのよ!? そんな大きな武器、どうやって当てるのよ!」
「大丈夫、見てて!」
事も無げに返す水依目掛け、強化カゲロウインベスが飛来する。
「はいっ!!」
絶妙なカウンターの一撃が、強化カゲロウインベスの前脚を一本斬り飛ばす。
『ミミミィィィィィィン!!!??』
激痛に悶えつつ距離を取るインベス。
だが、水依の目は既にインベスの動きを捉えていた。
《ハイィ-!!》
《キウイスカッシュ!!》
「せいっ!!」
方向転換により僅かに速度が落ちた瞬間、円形刃を投擲する水依。
カッティングブレードを倒してエネルギーをチャージした刃は、強化カゲロウインベスの羽根を根元から全て斬り飛ばした。
『ミミィ!!!???』
飛行能力を失い、地面へと墜落するインベス。
その背中に、天井スレスレまで跳躍した水依が迫る。
そして。
《キウイスカッシュ!!》
「はぃやあぁーーーーーーーーーー!!!」
裂帛の気合を込めた飛び蹴りが、強化カゲロウインベスを粉々に爆散した。
「や、やった……やったよ、倭ちゃん!!」
嬉しさの余りガッツポーズを取る水依に対して、倭も倒れたままサムズアップで応える。
「まったく、二人とも無茶するんだから……特にヤマト! あんた下手したら死んでたわよ!! 分かってるの!?」
「いてて……生きてたんだから結果オーライだろ」
「結果オーライが何度も続く訳無いでしょ!! 大体ーー」
「ま、まあまあ……」
倒れたまま深琴と喧嘩をやらかす倭と、そんな二人を宥める水依。
強敵を撃破した達成感が三人を包んでいた。
だからこそ、気付かなかった。
強化カゲロウインベスの暴走に巻き込まれながらも何体か生き残っていた筈の初級インベスが、一体残らず居なくなっている事に。
「ーーっ!!」
《オレンジ!!》
突如、弾かれたように振り向き様ロックシードを起動させる倭。
その視線の先にはーー
「白い……アーマード、ライダー……」
次回こそ、新たなライダーを……