IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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間章 侵食する悪意、立ち向かう意思

◆

 

 

 

 

サウスステージ観客席。

 

その最上段に、鎧武達とイノシシインベス暴走態の激戦を無表情に見つめる小柄な影があった。

 

 

『おあつらえ向きに雑魚共が揃っているな。 いい機会だ、邪魔者共は此処で始末しておくか』

 

 

そう呟き、ステージへと一歩踏み出す影。

 

だが。

 

 

「ーー始末されるのはどっちだろうな、「クラブのカテゴリーA」」

 

 

その背後に、いつの間にか一人の女性が立っていた。

 

 

『……要 咲夜か。 流石に鼻が効くな』

 

「私の後輩の身体で、随分と好き勝手やってくれたようだな。 ーー返して貰うぞ」

 

 

そう言って、咲夜が懐から取り出したのは、シャンパンゴールドに輝くバックルだった。

 

 

『やめておけ。 〈ギャレン〉では我には勝てん』

 

「どうかな……試してみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーいや、彼の言う通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

気配も無く、突如背後から掛けられた声に反射的に振り向く咲夜。

 

だが、不意にその動きが止まる。

 

 

『〈伊坂〉か。随分と遅かったな』

 

「すまない、例の物の調達に遅れてな」

 

 

声の主は、サングラスと黒いコートに身を包んだ中年男性だった。

 

 

「それより、まずい事になった。 〈カリス〉が我々の動きを嗅ぎ付けたらしい」

 

『カリス……だと?』

 

 

カリスの名が出た途端、影の表情が険しい物になる。

 

 

「テレビでお前とローカストの姿を放送されたのが痛かったな。 当分は慎重に動く必要があるようだ」

 

『忌々しい……一万年前に続いて、又しても我等の前に立ちはだかるか、「破壊者」め!』

 

「仕方あるまい、我等は所詮敗者に過ぎん。 だからこそ、今度こそ我等がこの星の覇権を手に入れる。 お前も、その為に私と組んだのだろう」

 

『無論。 それにしてもこの器、「城之内 睦月」とか言ったか……随分と非力なものだ。 もっと使い勝手の良い器は手に入らなかったのか?』

 

 

小柄な影ーー睦月の問いに、伊坂と呼ばれた黒コートの男は事も無げに返す。

 

 

「悪いが、その小娘が〈レンゲル〉と一番相性が良いのでな。 多少窮屈なのは我慢してくれ」

 

『いずれカリスを討つ事を考えれば、止むを得ぬという事か……』

 

 

苦々し気に呟くと、ステージへと目を向ける睦月。

 

その視線の先には、スイカアームズでイノシシインベス暴走態を跳ね飛ばす鎧武の姿があった。

 

 

「アーマードライダーシステムか……確かに、戦力としては悪くないようだな。 ギャレンも手に入ったとは言え、カリスに対する手札は多い事に越した事はあるまい」

 

『雑魚共が……カリスさえいなければ、今すぐにでも始末してくれるものを……』

 

 

その言葉を最後に、その場を後にする睦月。

 

 

「やれやれ、〈スパイダー〉は短絡的で困る。 事はもう少し綿密に運ばねばな。 ーーさて、行こうか「ギャレン」」

 

「ーーああ、伊坂」

 

 

伊坂の声に頷き、その後をついて行く咲夜。

 

その顔は、まるでマネキンの如く何の感情も浮かんでいなかった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

「やれやれ、何とか形になったな」

 

「うん……」

 

 

IS学園、整備ブース内。

 

休日返上で組み立て作業を続けた甲斐もあり、その成果たる簪の専用機ーー〈打鉄弐式〉が巧と簪の目の前で静かに鎮座していた。

 

 

「調整はまた明日やるとするか。 腹減ったろ、何か奢るぜ?」

 

「いい……私より、巧の方が……何か、食べた方がいいと思う。 お昼を、砂糖水で済ませるのは……良く、ない」

 

「う……し、仕方ねえだろ。 借金の支払いが厳しいんだよ。 後何億あると思ってんだ」

 

「……大体、何で、そんな多額の借金をする事になったの?」

 

「あー、まあ、その……」

 

 

ばつが悪そうな顔で言葉を濁す巧。

 

と、その背後から声が掛かる。

 

 

「やはり二人共此処にいたか。 差し入れを持ってきてやったぞ」

 

「一刻も早く専用機を組み立てたいのは分かるけど、休日くらいは息抜きなさいよ」

 

「鈴? それに、篠ノ之さんも……」

 

「箒でいいと言ったろう。 ほら、弁当だ。 美味いかどうかはわからんがな」

 

「おっ、サンキュー。 久々に栄養のある昼飯が食えるな」

 

「アンタね……いくら借金がキツいからって、一週間の内半分を真水、残り半分を砂糖水でお昼を済ませるって、上京したての苦学生じゃないんだからさ。 何だったら、箒との持ち回りでお弁当くらい作ってあげるわよ? あたし、代表候補生だから懐具合あったかいしさ」

 

「私も、作ってあげても……いい、よ?」

 

「うむ。 一人分作るのも二人分作るのも、大して労力は変わらんしな」

 

「いや、気持ちはありがたいけどよ……女友達に昼飯たかるのって、男として情けなくないか?」

 

「お昼もままならないくらい借金抱えてるロクデナシが言えた義理かっての」

 

「ぐっ……返す言葉も無え……」

 

 

呆れ顔の鈴のツッコミに、痛い所を突かれた顔で呻く巧。

 

 

「そのくらいにしておけ、鈴。 一応ランチョンマットは持ってきているが、此処で食事にするか?」

 

「いや、今日はもう終わるつもりだったし、どうせなら屋上にしようぜ。 簪と鈴もそれでいいよな?」

 

「うん……それで、いい」

 

「あたしもそれでいいわよ」

 

「よし、では行くとしよう」

 

 

頷き合い、整備ブースを後にする一行。

 

その後ろ姿を、無機質な鋼の甲冑のみが静かに見送っていた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

同時刻、スコート・ラボ。

 

その整備ドック内では、急ピッチで作業が進められていた。

 

 

「さあ、キリキリ働きな野郎共! 今日中に何としても間に合わせるよ!」

 

「「「マム、イエスマム!!」」」

 

 

和装の美女の発破に、周囲の男達が軍人顔負けの統率を見せる。

 

 

「なあ所長……ホントに「あれ」を搭載するつもりなのかよ?」

 

「何だい〈エスター〉、不安なのかい?」

 

「不安に決まってるだろ、あんな得体の知れない物! 〈スフィア〉だか何だか知らないけど、巧に何かあったらどうするんだよ!」

 

 

所長と呼ばれた美女の返答に、癖のある金髪をショートに整えた少女が食ってかかる。

 

その時。

 

 

「心配性だな、エスター姉は。 大丈夫だろ、イチ兄なら」

 

 

赤味がかった茶髪が特徴的な見た所小学校中学年といった感じの少年が、腰まで伸びた少し荒れた感じのある青髮が特徴的なメイド服の美女に肩車されながら入ってくる。

 

 

「〈渉〉! お前は巧が心配じゃないのかよ!」

 

「じゃあ聞くけどさ、エスター姉はイチ兄の事がそんなにシンライ出来ないのかよ?」

 

「そ、それは……」

 

「ショチョーだって、イチ兄の事シンライしてるからバジンにスフィアとかいうのを積む気になったんだろ? だったら、エスター姉もイチ兄を信じてやろうぜ?」

 

「渉……」

 

 

渉と呼ばれた少年の言葉に、エスターと呼ばれた少女は納得出来ないながらも反論の言葉を飲み込む。

 

 

「ま、そういう事さね。 大丈夫、巧なら使いこなせるさ。 〈揺れる天秤〉……正にあいつの為にあるようなスフィアさ」

 

 

その言葉と共に、急速に形になっていくオートバジンに目を向ける所長。

 

バイザーに隠されたそのアイカメラには、何の感情も映す事は無く。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

とある森。

 

その片隅にて、三つの人影があった。

 

 

「ーー喋れる?」

 

「あーーあーぅ……ぁあ……うー……」

 

 

黒髪の幼い少女の問いに、赤味がかった茶髪の少女がたどたどしい呻きを返す。

 

 

「……喋れないなら、無理はしなくていい。 まだ、貴女の身体が慣れていない証拠」

 

 

見ると、茶髪の少女はボロボロの布以外に衣服らしき物を身につけておらず、布の裂け目から覗く肌は心臓の上を中心に植物の蔦らしき物が巻きつき根を張っていた。

 

 

「ナア、シャムジャム。 コンナ死ニ損ナイ拾ッテキテ、ナンカ意味デモアンノカ?」

 

「……別に。 ただ、放っておけなかった。 それだけ」

 

「放ッテオケナカッタ、ネエ……マアイイヤ。 デ、コレカラドウスルヨ?」

 

 

その問いに、シャムジャムと呼ばれた少女は無表情のまま答える。

 

 

「全てはジャウジジュに任せてある。 私は、指示の通りに動くだけ」

 

「マ、ソレガ一番確実カネ。 ジャア俺ハ俺ナリニヤラセテ貰ウゼ? ドウヤラガキ共が動キ始メテルヨウダシナ」

 

「……あまり、派手に動かない方がいい」

 

「ワカッテルッテ。 ジャアナ」

 

 

その言葉を最後に、男は空間に開けた裂け目の奥へと消えていった。

 

 

「……どうしたの?」

 

「ぅ……あー……」

 

 

自分に構っていていいのか、と言わんばかりの視線を向ける少女に、シャムジャムは表情を変えずに少女の頬を撫でる。

 

 

「……大丈夫。 私の出番は当分無いし……私も、話し相手が欲しかった、から」

 

 

そういってシャムジャムは、ほんの少し微笑んだように見えたーー少なくとも、少女には、確かにそう見えた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

一方、森の別の一角。

 

そこに広がる光景に、赤髪バンダナの少年、そして青髪の少女は言葉を失っていた。

 

 

「……何だよ、これ……」

 

「確かに、これは洒落にならないわね……」

 

 

そんな二人を、燃えるような赤い髪の少女は冷たく一瞥する。

 

 

「理解出来た? これが、この森の真実。 そして、貴方達の世界の末路よ」

 

 

その言葉に、バンダナの少年は呆然と呟く。

 

 

「冗談、だろ……こんなデタラメなの、どう立ち向かえってんだ……」

 

「ーーでも、やるしか無いんじゃない? お互い、たった一人の兄妹をインベスの餌になんかしたくないでしょ?」

 

「……卑怯な言い方しやがって。 わかってるよ、やらなきゃならねえって事くらい。 妹に……蘭に近づく奴は、誰であろうが、何であろうが、全て粉々にしてやる!」

 

「ん、その意気その意気♪ で、〈ラウアウ〉ちゃんだっけ? 私達はどうすればいいわけ?」

 

 

青髮の少女の問いに、ラウアウと呼ばれた赤髪の少女は真剣な顔で返す。

 

 

「先ずは、侵食を起こしてる奴を探す。これだけ大規模な侵食を起こせるのなんて、私の知る限り幹部クラスしかいない。 そいつさえ倒せばーー」

 

「その前に、倒すべき奴がいるみたいだぜ?」

 

 

バンダナの少年の言う通り、少年達の周囲に敵意剥き出しの気配が集まりつつあった。

 

 

「見た所、統率されてる感じじゃなさそうね。 大方、お腹が空いて餌を探しに来たんでしょうけど……お姉さん、動物虐待は気が引けるわあ」

 

「だったら後ろで昼寝でもしてやがれ。 ラウアウ、お前も下がってろ」

 

「一々気を使わなくても結構よ。 インベスだろうが誰だろうが、向かってくる奴には容赦しない主義なの」

 

 

青髮の少女を庇うように前に立つ二人。

 

そして、

 

 

「「ーー変身」」

 

 

数分後、森の一角に爆音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からいよいよ新章です


それではまた
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