前半は今まで出番の殆ど無かった空気ヒロインさんの視点で始まります
それではどうぞ
序章 黄金の太陽、白銀の暴風
ーー私の名は、
口調が女らしくないのは、まあ勘弁して欲しい。
あいつにもよく「もっと女らしくしたらどうだ」と言われた事はあるが、こればかりはな……ああ、済まない。
あいつーー織斑 一夏とは、小学一年の頃からの付き合いとなる。
出会った当初は、それこそお互い目を合わせる度に衝突ばかりだった気がする。
それが、何時の頃からか食って掛かるのは私の方からばかりになっていた。
いやーーきっかけは解っている。
あれは小学二年の頃だったか、その日私は学校に始めて髪にリボンを付けて登校していた。
前日、一夏に「女らしくない」と言われたのが何故か無性に腹が立っての行動だったのだが、それをクラスの素行の悪い男子に目を付けられてしまい、絡まれてしまってな。
私も売り言葉に買い言葉で口論となり、男子の一人が私の髪に掴みかかろうとした時、その男子から私を守ってくれたのはーー他でも無い、一夏だった。
後に、その時の男子達との大立ち回りが原因で千冬さん共々男子達の親に頭を下げる羽目になったと聞き、一夏に謝りに行ったのだが、あいつは、
「気にすんな。 女の子相手に三人がかりなんてヒキョーな真似してるやつらを見て見ぬフリするなんて、それこそ男じゃねーだろ。 コーカイなんてしてねーよ」
と返すばかりで、結局また喧嘩になってしまったのだが……思えば、あの時から私はあいつとばかり話すようになっていた気がする。
一夏も、男子達との一件が原因で他の子供から避けられている節があり、私とばかり遊んでいたようだしな。
あいつは「俺が好きで遊んでんだ」と言ってくれていたから、少しは気が楽だったが。
だが、それも小学四年の頃までだった。
姉さんーー
私も当然学校を転校する事となり、一夏に別れを告げる事すら許されなかった。
思えば、一夏への想いを自覚するようになったのもあの時からだったか……む? す、すまん、今のは忘れてくれ。
と、とにかく、それから数年の間は学校を転々としながらの生活となり、居場所が知れるからと一夏に電話はおろか手紙さえ出す事も出来ず、素性が知れると危険だからと篠ノ之の名も名乗れず、当然友達も出来ない。
そんな拷問にも等しい日々の中で、唯一の心の支えは一夏との楽しかった頃の思い出、そしていつかまた一夏とーーだが、運命は私にそんな望みすら許してはくれなかった。
第二回モンドグロッソーーそう、一夏が事故に巻き込まれ死んだ、あの忌まわしい出来事により、私の心もまた死んでしまった。
同時に、一夏の命を奪ったISを、そしてISを生み出した姉さんを激しく憎み、拒絶した。
そうしなければ、生きていく事すらままならなかった。
そして、幼い頃、実家の剣道場に居た頃から欠かす事の無かった、そして一夏と出会ってからは共に鎬を削り、一夏との絆の証となっていた篠ノ之流剣術に縋るようになった。
その甲斐もあって、中学三年の頃には全国大会で優勝を掴み取る程の実力を有するまでになった。
全ては、天国の一夏に恥じない自分であり続ける為、そして私が「篠ノ之 束の妹」では無く「篠ノ之箒」であると証明し続ける為。
それだけが、私が此処に居る理由だった……その筈だった、のにーー
◆
「ーー箒?」
「? な、何だ?」
「いや、そりゃこっちの台詞だっての。 さっきからこっちをチラチラ見てるだろ」
「そ、そうか? 済まない、気に障ったのなら謝る」
「いや、別にいいけどさ……俺の顔になんか付いてるか?」
「い、いや……」
この男と出会ってからというものの、どうも調子がおかしい。
癖の強い黒髪に瓶底眼鏡、そんな野暮ったい風貌に似合わない粗暴とも言える立ち振る舞い。
どうやら多額の借金を抱えているらしく、週の半分を真水、残り半分を砂糖水で昼を過ごす程の極貧生活。
それでいて、抜き打ちテストでは常に学年トップクラスの高得点を叩き出す頭脳の持ち主でもある。
そして何より、世界でも五人しか居ない「男性IS操縦者」の一人。
そんな彼に、私は何時の頃からかとある人物の姿を重ねるようになっていた。
無論、それが巧にとっても、その人物にとっても失礼にも程がある事は解ってはいる。
だが、それでもーー
「って、な、にゃにをするか!?」
「いや、熱でもあるのかと思ってーーって痛い痛い、悪かったからアイアンクローすんな!」
い、いきなり人のおでこにおでこをくっつけようとするな!!
何故このようなデリカシーの無い所ばかりあいつに似ているのだこいつは、人の気も知らずに!!
「はいはい、同室だからって朝っぱらから痴話喧嘩すんなっての。 そろそろHRだから席に戻れって」
「だ、誰が痴話喧嘩か!!」
反論するが、仲裁に入った倭に軽く流され、席に戻されてしまう。
すると、程なく山田先生がクラスに入ってくる。
だが、共に入ってくる筈の千冬さん、いや、織斑先生が居ない。
そんな事を考えていると、山田先生が何故か嬉しそうに語り始める。
「皆さん、おはようございます。 本日は何と、転校生を紹介します!」
その言葉に、クラス中から驚愕の声が上がる。
かく言う私も、正直驚いている。
まだ六月だというのに、鈴といい少し唐突過ぎではないか?
「それでは、二人とも入ってきて下さい!」
……二人?
その疑問に答えるかのように、織斑先生に連れられ、転校生と思しき生徒が入ってくる。
「失礼します」
「…………」
一人は、中学生ーーいや、下手をすれば小学生と言われても違和感の無い程小柄な腰まで伸びた銀髪の少女。
そして、背中まである金髪を襟足で束ねたーー
「ーーお、男?」
ーー「男子」だった。
◆
「シャルル・デュノアです。 フランスから来ました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
その「少年」の自己紹介を、クラス中が呆然と聞いていた。
「ーーお、男?」
「はい、こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転校をーー」
「きゃーー」
「はい?」
唐突な反応に、シャルルと名乗った少年は思わず首を傾げる。
それとは別に、素早く反応する者達もいた。
そして。
『きゃあああああああああああああああああああああああっ!!!』
「うひゃあっ!!?」
教室を揺るがす程の歓喜の悲鳴が響き渡った。
「ぐおおおお……!!」
「み、耳塞いでても痛え……!!」
「てか、これ普通に音響兵器だろ……」
こうなると予測して咄嗟に耳を塞いだ男子生徒達も、声というより最早衝撃波と化した悲鳴のダメージを殺し切れず悶えている。
実際、窓ガラスの端にも少しヒビが入っていたりする。
「男子! 六人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~~~!」
口々に騒ぎ立てる生徒達。
当のシャルルも
「えっ!? ふええ!?」
と戸惑うばかりだ。
「あー、騒ぐな、静かにしろ」
織斑先生も呆れ気味だ。
「み、皆さん静かにして下さ〜い!! まだ自己紹介は終わってませんから〜!!」
山田先生の注意を受け、やっと静寂が戻ってくる。
だが、もう一人の転校生は教卓の隣で腕を組んで仁王立ちしているだけで、自己紹介をする気配すら無い。
「ーー挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ」
「はい、教官」
織斑先生の指示に、ようやく口を開く。
「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう言うと、生徒達に向き直り、カカトを合わせる軍隊式の立ち方で只一言、
「〈ラウラ・ボーデヴィッヒ〉だ」
と名乗った。
「「「…………」」」
再び静寂に包まれる教室。
「あ、あの……以上、ですか?」
「以上だ」
余りに簡潔過ぎる自己紹介に、山田先生も涙目だ。
と、その時。
「ーー貴様が……!」
「え?」
と、反応する暇もあればこそ。
「ーーぶっ!?」
突然、ラウラと呼ばれた少女の平手打ちが、男子生徒の一人の頬に炸裂した。
眼鏡を飛ばし、席から転げ落ちたその生徒を冷たく見下ろし、ラウラは淡々と告げる。
「ーー橘 倭。 私は、貴様の存在を認めない。 貴様のような素人が教官の弟分などと、認めるものか」
その言葉と共に、ラウラは踵を返しーー
「ーーあの……橘 倭って俺、なんだけど……」
何処か申し訳なさそうに手を上げる倭と、目が合った。
「ーーは?」
間の抜けた声を上げ振り返るラウラ。
そこには、
「ーー何だバカヤロウ」
赤く腫れた頬を抑えようともせず、胡座をかいて不機嫌そうにラウラを見上げる巧の姿があった。
やっぱ4000前後が一番書きやすいです
しばらくは日常回が続くかと
それではまた