IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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一番難産だったのがタイトルって……


第三十六話 Hの葛藤/お姫様抱っこは突然に

 

 

 

 

「さて、今の間に……そうだな、ちょうどいい。 デュノア、山田先生が使っているISの説明をしてみせろ」

 

「あっ、はい」

 

 

空中で鈴とセシリア、二人掛かりの射砲撃を紙一重で躱しつつ、突っ込もうとした鈴の鼻先を抑えるかのようにレッド・バレットの一連射を撃ち込む山田先生。

 

その様子を見ながら、織斑先生の指名を受けたシャルルが慣れた様子で説明を始める。

 

 

「山田先生の使用しているISは、デュノア社製《ラファールリヴァイヴ》です。 第二世代最後期に生産された機体ですが、初期第三世代にも劣らない安定性と汎用性、そして豊富な後付装備により、現在配備されている量産機の中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、七ヶ国でライセンス生産、十二ヶ国で制式採用されています」

 

 

シャルルの説明する間にも、セシリアは射撃とBT兵器の全ての挙動を見切られ、鈴は近付く事すら出来ず苦し紛れに放った衝撃砲がセシリアのBT兵器を叩き落としてしまう始末だ。

 

逆に、山田先生の射撃はまるで吸い込まれるように二人の機体を打ち据え続ける。

 

 

「特筆すべきは操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない汎用性と多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。 更に装備によって格闘・射撃・防御の全タイプに切り替え可能で、参加サードパーティーが多い事でも知られています」

 

 

山田先生の変幻自在とも言える多彩な戦いぶりは、正にシャルルの説明をそのまま反映しているかのようだった。

 

だが、シャルルの説明に耳を傾ける生徒がいる中で、

 

 

「凄いな、山田先生。 プロの軍人でもあそこまでやれる操縦者は滅多にいないぞ」

 

「そうなのか? 私には射撃の事は今一良く解らないのだが……」

 

「何なら、今日の訓練の時に教えてやろうか?」

 

「い、良いのか!?」

 

「ま、部屋が別になったからって付き合いまで終わる訳じゃねえしな。 箒だってこのままIS操縦者になるかどうかはともかく、使える手札は多いに越した事はねえだろ」

 

「う、うむ。 お前の言う事も一理あるな。 仕方ない、お前がどうしてもと言うなら、その言葉に甘えるとしよう。 うむ、それが良い」

 

 

説明そっちのけで山田先生の腕前に感嘆の声を上げる巧と、その巧と放課後の約束を取り付けた事で機嫌が良い箒。

 

 

「そこの二人、私語は後にしろ。 ーー終わるぞ」

 

 

どうやら説明は一先ず終わったらしく、巧達に注意の言葉を投げ掛けつつ織斑先生が視線を向けた先では山田先生の射撃にまんまと誘導された鈴がセシリアに激突、

 

 

「あだっ!? ちょっ、何ボーっとしてんのよ!!」

 

「こっちの台詞ですわ!! そっちの方からぶつかって来ておいて、その言い草は何ですの!?」

 

 

当然、このような醜い言い争いによって出来た隙を山田先生が見逃す訳が無く、

 

 

「そこです!」

 

 

一瞬の内に量子化によりレッド・バレットからグレネードランチャー《リュシェール》へと持ち替えた山田先生が、容赦無く引き金を引く。

 

 

「へっ?」

 

「はい?」

 

 

二人がそれに気付いた時には、既にグレネード弾は眼前まで迫りーー

 

 

「「ーーっきゃああああああああああああ!!?」」

 

 

盛大な爆発と共に、縺れ合うかの如く回転しながらグラウンドへと叩きつけられた。

 

 

「あーあ、戦闘中に口喧嘩するバカが何処にいるんだよ、ったく……」

 

 

クラスメイトと幼馴染の醜態に、倭も呆れ気味だ。

 

 

「いたた……そこ、余計なお世話よ!!」

 

 

セシリアに押し潰された態勢のまま、倭の呟きを聞き咎めた鈴が文句を返す。

 

 

「うう……まさか、このわたくしが……」

 

「何が「このわたくしが」よ! 面白いように回避先読まれて蜂の巣にされてた癖に!」

 

「り、鈴さんこそ無駄にばかすか衝撃砲を撃ち過ぎですわ! しかもわたくしのブルー・ティアーズ(BT兵器)まで巻き添えにして! この前のクラス対抗戦でもそれで真司さんに不覚を取った事をもうお忘れですの!?」

 

「う、うっさいわね!アンタこそ何ですぐビットを出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

 

お互い、敗北の責任の擦り合いを始める二人。

 

どちらの主張もそれなりに痛い所を突いているだけに、余計に見苦しい。

 

倭の耳には、専用機持ちと代表候補生のブランド株価がフリーフォール並みの急角度で下落する音が聞こえた気がした。

 

 

「やめんか馬鹿共。 ーーさて、これで諸君にもIS学園教員の実力が理解出来た事だろう。 以後は敬意を以って接するように」

 

『はい!!』

 

 

織斑先生の言葉に、生徒達ほぼ全てが返事を返す。

 

その尊敬の念の篭った視線に、山田先生も少し居心地が悪そうだ。

 

 

「では、これよりグループに分かれて実習を行う。 各グループのリーダーは……そうだな、専用機持ちにやって貰う。 一組からはオルコット、大神、デュノア、ボーデヴィッヒが、二組からは凰、剣号が務めろ。 では分かれろ!」

 

 

織斑先生が言い終わるや否や、巧、シャルル、一真の三人に大半の女子が詰め掛ける。

 

特にシャルルへの集中が半端じゃないが、巧達他の男子生徒へも結構な人数が集まっている。

 

 

「大神君、一緒に頑張ろう!」

 

「剣号さん、手取り足取り教えてね!」

 

「デュノア君の操縦技術見たいなあ〜」

 

「ね、ね、私も同じグループに入れて?」

 

 

正直、とてもじゃないが捌ける人数では無い。

 

と、其処に若干苛ついた響きの篭った織斑先生の叱責が飛ぶ。

 

 

「この馬鹿者共が……出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通りだ! 次にもたつくようならISを背負ってグラウンドを百周させるからな!」

 

 

因みに、IS学園のグラウンドは一周五kmはある。

 

流石にそのような苦行を被るのは御免とばかりに迅速に分かれる生徒達。

 

 

その様子を見てみると、

 

 

「やった、大神君に当たり! 名字のおかげねっ!」

 

「セシリアの班かあ……さっきボロ負けしてたしなあ」

 

「デュノア君、わからない事があったら教えてあげる! 因みに私はフリーだよ!」

 

「ボーデヴィッヒさん、現役の軍人なんだよね? 軍隊仕込みの教導、期待してるね!」

 

「凰さん、よろしくね。 後で橘君のお話聞かせてよ!」

 

「剣号さん、今日は宜しくお願いします! ……ああ、やっぱり年上って……イイ……」

 

 

一部を除き、概ねグループ分けに不満は無いようだ。

 

 

「最初からそうしろ、馬鹿者共が……」

 

「あれ、そういえば俺達も専用機持ちだよな?」

 

「そういやそうだ。 先生、何で俺達ははぶけなんですか?」

 

 

倭と真司の疑問に、当然の如く答える織斑先生。

 

 

「IS関連の成績で決めたまでだ。 お前達が人に教える事が出来るというなら話は別だが」

 

「いや、気になっただけなんで」

 

「そうか、ではグループに戻れ。 それと、お前達も訓練時は訓練機を使えよ」

 

「了解っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

では、それぞれのグループを見てみよう。

 

巧グループの場合。

 

 

「さて、最初は誰だ?」

 

「はいはいはーいっ! 出席番号一番! 相川 清香! ハンドボール部! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよっ!」

 

 

巧の問いに、元気いっぱいに答える相川。

 

そのまま、お辞儀のような態勢で右手を差し出してきた。

 

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

「おお、宜しく……って、何で紅鯨団なんて古いネタ知ってんだ……」

 

 

呆れ気味の巧の耳に、シャルルのグループの方からの声が聞こえてくる。

 

 

「ああっ、ずるい!」

 

「私も私も!」

 

「第一印象から決めてました!」

 

「「「「よろしくお願いしますっ!!」」」」

 

 

見ると、シャルルもねるとんポーズの女子達に取り囲まれていた。

 

 

「あいつも大変だな……てか、一真まで囲まれてるし」

 

 

一真の方は当人が元ネタを知らないようで、「ああ、宜しく!」といった感じで握手を交わしていたりする。

 

 

「んじゃ、鬼に目を付けられる前にさっさと終わらせるか。 相川さんは何回か乗った事はあるよな?」

 

「う、うん。 授業でだけだけど」

 

「なら、起動から歩行、停止までやるか」

 

 

こうして、一人目は無事終わったのだが、問題は二人目の時に発生した。

 

 

「はあ〜、緊張した〜」

 

「お疲れさん。 んじゃ、次の人……どうした真司?」

 

「いや、コクピットに届かないんだけどよ……」

 

 

そう、通常はISをしゃがませて解除しないといけないのだが、相川は緊張の余り立ったまま解除して飛び降りてしまったのだ。

 

 

「しゃあない、よじ登るか……よっ、どわあっ!?」

 

 

真司がISに足を掛けた途端、バランスを崩したISに押し潰されてしまう。

 

 

「ぐえぇ……」

 

「何やってんだ馬鹿……」

 

 

思わず頭を抱える巧。

 

と、他のグループを見ていた山田先生が此方に歩いてくる。

 

 

「大神君、どうしたんですか?」

 

「いや、真司の奴が訓練機に潰されまして……」

 

「そうなんですか? 赤城君、怪我はありませんか?」

 

「な、何とか……」

 

 

這々の体で這い出してくる真司に手を貸しつつ、訓練機の打鉄の様子を見る山田先生。

 

 

「ああ、コクピットが高い位置のまま固定されているんですね。 大神君、すみませんが起こしてくれませんか?」

 

「了解です。 よっ……と!」

 

 

巧がISを起こす間、山田先生は真司の怪我の様子を診ている。

 

 

「軽い打撲ですね。 念の為、今回の実習は見学にしましょうか」

 

「んじゃ、次の人は……岸里さんか」

 

「う、うん! けど、これどうしよっか……」

 

 

その時、山田先生が思いがけず爆弾を放り込んでくる。

 

 

「では、仕方ありませんので大神君が乗せてあげてください」

 

「……は? ちょっと待ってください、乗せるってどうやって?」

 

「それは勿論、岸里さんをだっこしてあげてください。 それが一番安全ですし」

 

 

その発言に、巧より先に反応する二人が居た。

 

一人は、

 

 

「ええ〜っ、超ラッキー!!」

 

 

と大はしゃぎする岸里。

 

もう一人は、

 

 

「な、何!?」

 

 

巧のグループに居た箒。

 

 

「ちょっと待ってください、何故抱き抱える必要が!?」

 

「ISは飛べますから、安全にコクピットまで人を運ぶのに向いているんです。 大神君は専用機持ちですし」

 

「そんな事をしなくても、踏み台になれば済む話でしょう!」

 

「ちょっと待てコラ、言うに事欠いて何て事言ってんだ」

 

「ふん!!」

 

 

巧のツッコミに、不機嫌な様子でそっぽを向く箒。

 

 

「ったく……んじゃ、今呼ぶんで待っててください。 ーー来い、オートバジン」

 

「え、呼ぶ?」

 

 

山田先生が首を傾げた、その時。

 

 

「な、何あれ!?」

 

 

相川の指差す方向から飛来する物体。

 

それは、金属製のロボットだった。

 

 

「よし、来たか。 ーーん? どうした皆?」

 

「ね、ねえ大神君? そのロボットさん、もしかして大神君のお友達?」

 

 

岸里の問いに、巧は納得したような顔で頷く。

 

「ああ、この姿を見せるのは始めてか。 バジン、非装甲モードで頼む」

 

《Ok. Bluster mode》

 

 

その音声と共に、ロボットは瞬時に分解。

 

次の瞬間、その姿は巧を包む銀色のISへと姿を変えていた。

 

 

『え……えええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っっっ!!?』

 

 

巧のグループのみならず、その場に居たほぼ全員から驚愕の声が上がる。

 

 

「あ、あの、今のってもしかして……」

 

「ああ、俺のオートバジンは自律起動システムが搭載されてますし、離れた所で危険に巻き込まれた時の為に待機形態のバイクから戦闘形態の人型兵器に変形可能なんです。 先生方には既に説明済みだった筈なんですが?」

 

「は、はあ……」

 

 

呆然とする山田先生を余所に、岸里を抱き抱えようとする巧。

 

 

「ひゃっ!? ち、近いよ大神君!!」

 

「抱き抱えてんだから仕方ねえだろ。 何なら全身装甲モードにするか?」

 

「え、いや、それはちょっともったいないかなーって……」

 

 

因みに、今の巧の姿は手足以外にはISスーツ以外何も纏っていない。

 

オートバジンの胸部装甲は分厚いので、抱き抱える際に邪魔なのだ。

 

 

「ほら、さっさと終わらせるぞ」

 

「う、うん……」

 

 

ぎこちないながらもIS実習を進めていく二人。

 

そんな様子を、やや遠い場所から不機嫌な様子で見詰める、いや、睨み付ける箒の姿があった。

 

 

(巧の奴、あんなに密着する必要が何処にあるか! しかもわざとらしく装甲排除までして……)

 

 

だからといって、踏み台になるーー他の女子に踏み付けにされるというのも何か面白くない。

 

乙女心というのは複雑である。

 

と、その時。

 

 

「おい箒、次お前なんじゃないのか?」

 

「は?」

 

 

見学に回っていた真司の指摘にふと我に帰る箒。

 

その目に飛び込んできたのは、立ったまま装着解除された打鉄だった。

 

 

「な……何いっ!? や、山田先生! これはどういう事ですか!?」

 

「えっと……岸里さんも最初はしゃがんで解除しようとしたんですけど、他の皆さんからの無言のプレッシャーに耐えきれなかったらしくて……」

 

 

その言葉に、背後に並ぶ生徒達を見回すと、全員が気まずそうに目を逸らした。

 

 

「き、貴様ら……」

 

「まあ、何だ。 嫌がる気持ちはよーく解る。 解るけど、さっさとやっちまおうか」

 

「きゃあっ!? い、いきなり抱き抱えるな馬鹿者!! は、破廉恥だぞ!!」

 

「悪い悪い。 何だったら踏み台にでもなるか?」

 

「む……ま、まあ時間も押しているし、わざわざ降ろし直す手間や安全性を考えると、仕方あるまい。 うん、仕方ない」

 

「はいはい。 んじゃ、しっかり掴まってろよ」

 

「う、うむ」

 

 

そのまま、妙な手際の良さに微妙にヤキモキする一幕はあったものの、滞り無く打鉄を纏う箒。

 

 

「そういや、操縦経験はあったよな」

 

「あ、ああ。 倭の訓練の際に訓練機に乗った事がある」

 

「それじゃ、歩行と停止は問題無いか。 ちょっとそこら辺を走ってみるか?」

 

「い、いや、まだ慣れていないからな。 無難に歩行訓練にとどめておこう」

 

「そうか。 んじゃ、あっちの方まで歩いてから方向転換ーー」

 

「た、巧!?」

 

「ん?」

 

「き、今日も昼飯は水で済ませる気か?」

 

「う……し、仕方ねえだろ。 今日は砂糖を切らしてんだよ」

 

「砂糖水でも十分みすぼらしいと思うが……な、ならば、今日は私と食事をしないか? ほら、以前約束しただろう」

 

「ああ、昼飯作ってきてくれるってやつか。 本当に作ってくれたのか?」

 

「う、うむ。 口に合うかは分からんが」

 

「いや、作って貰えただけで有難いって。 じゃあ、今日は天気も良いし屋上にでも行くか?」

 

「う、うむ! そうしよう!」

 

 

無事約束を取り付けた箒の表情は、喜びに満ちていた。

 

余談だが、余りに浮かれていた箒はうっかり立ったまま装着解除してしまい、結局巧はその後の全員(+不公平だと主張した相川)をお姫様抱っこする羽目になったという。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は他のグループの実習風景から昼食までを書く予定です


それではまた
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