IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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やはりこのネタは外せないでしょう


第三十七話 Hの葛藤/ランチタイムは死の香り

 

 

 

 

シャルルの場合。

 

 

「え、えっと……?」

 

 

自分を中心に、扇状に並んで手を差し出してくる女子達の姿に、戸惑いを隠せないシャルル。

 

その時。

 

 

「「「「いったあああああああっ!!?」」」」

 

 

一列に並んでいた女子達の頭部を、鋭い一閃が纏めて引っ叩いた。

 

 

「な、何するの……よ……」

 

 

女子の一人が顔を上げると、其処には、

 

 

「ふむ、やる気があって何よりだ」

 

 

出席簿を携えた鬼がいた。

 

 

「お、織斑先生……」

 

「せっかくだ、私が直接見てやろう。 最初は誰だ?」

 

「い、いえ……」

 

「わ、私達はデュノア君でいいかな〜って……」

 

「お、織斑先生の手を煩わせる訳には……」

 

 

鬼の手から逃れようと遠慮の意を示す女子達。

 

だが、

 

 

「なに、遠慮は要らん。 将来有望な奴等には、私達教師も相応のレベルの訓練で答えるのが礼儀というものだ。 ……ああ、出席番号順で始めるか」

 

「ひいっ!?」

 

 

嗜虐的とも言える笑みを浮かべた鬼斑……もとい、織斑先生から死刑宣告が言い渡され、小さく悲鳴を上げる者さえ居た。

 

 

「え、えっと……?」

 

 

唐突にリーダーの役を解かれる形となり、更に戸惑うシャルルの姿からは、妙に哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一真の場合。

 

 

「うん、中々筋が良いな。 本当に初めてかい?」

 

「は、はい! 恐縮です!」

 

「そんなに緊張しなくて大丈夫だって。 じゃあ、あっちまで歩いてみようか」

 

「は、はい!」

 

 

一真の教え方が素人の割には上手い事もあり、順調に進んでいたのだが、

 

 

「よし、じゃあ後はしゃがんでISの解除を……って、ちょっと待った!」

 

 

止める間も無く、立ったまま解除して飛び降りる女子。

 

 

「あの……す、すいません。 視線の圧力に耐え切れなくて……」

 

 

申し訳なさそうに指差す先では、

 

 

「よっ、と。 しっかり掴まってろよ?」

 

「う、うん!」

 

 

所謂お姫様抱っこで女子を抱えてISのコクピットまで運ぶ巧の姿が。

 

 

「えーと……やれ、と?」

 

「「「「はい!!!」」」」

 

 

ほぼ全員の声を揃えての返事に、一真は内心溜息を吐くしか無かった。

 

 

「じゃあ、さっさと始めようか。 ーー来い、〈エール・シュヴァリアー〉」

 

 

一真の呼び掛けに応じ、手足に白と青に彩られた装甲が出現する。

 

 

「あれ? 剣号さんのISって、それしか装甲が無いんですか?」

 

「ああ、これ? 実はまだ未完成でさ、とりあえず飛んで動ければいいかなって」

 

「そんな大雑把な……」

 

 

思わず呆れた声を上げる女子の耳に、隣のグループからの怒号が飛び込んでくる。

 

 

「アンタねえ! ちゃんと訓練機を使いなさいよ、千冬さんも言ってたでしょ!」

 

「下らん。 専用機があるというのに、何故訓練機など使わなければならない」

 

「だから、それが決まりなんだからーー」

 

「鈴、少しいいか?」

 

「何よーーって、一真さん?」

 

「さんは要らないって。 なあ戒斗、お前さ、訓練機使った事無いだろ?」

 

「当然だ。 この学園に入学する以前にユグドラシルからこいつを支給されている。 慣熟訓練もこいつで行った。 何故今になって訓練機など使う必要がある」

 

 

その問いに、一真は自らの経験を交えて答える。

 

 

「これは、俺の経験なんだけどな。 俺の専用機って、こんな不完全な姿でも訓練機に比べて「馴染む」んだよな」

 

「それは当然だろう。 一次移行を済ませている以上、貴様に合わせて最適化されている筈なのだからな」

 

「そう、それが問題なんだよ」

 

「……どういう事だ?」

 

「考えてもみろよ。 俺に合わせて最適化されてるんなら、当然俺の操縦技術の未熟な点も自動的にサポートしてくれるって事だろ?」

 

「そうなるな」

 

「けどさ、それって俺が自覚していない欠点が俺が知らないまま放っとかれてるって事でもあるんだよ。 そんな状態で、本当に上達してるって言えるのか?」

 

「…………」

 

「まあ、今後一切自分の専用機以外使わないのなら、些細な問題かもな。 じゃあ、俺はこれで」

 

 

その言葉を最後に、グループに戻った一真を出迎えたのは、尊敬の眼差しを浮かべた女子達だった。

 

 

「剣号さん、ホントにISの経験無いんですか!? 今の説明する姿、どう聞いてもベテラン教員にしか見えませんでしたよ!」

 

「これが、年上の貫禄……!」

 

「ああ、私も手取り足取り教え込まれたい……!」

 

「そ、そんなに大した事は言ってない筈なんだけどな……それより、早く訓練再開しようか」

 

「「「「はい!!!」」」

 

 

その後、一真はグループの全員をお姫様抱っこで抱える事になったという(巧同様、既に終わらせた女子も抱えた。 尤も、このグループの場合は不公平にならないようにと考えた一真の配慮だが)

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアの場合ーーは、特に変わったイベントも無かった為、割愛させていただく。

 

 

「納得いきませんわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み。

 

IS学園は徹底した落下対策が施されている事もあり、一般生徒に屋上庭園が解放されている。

 

その為、今日のように天気の良い日はランチョンマットの上で持参した弁当を広げる生徒の姿がちらほらみられるのだが、今日は二組の生徒しか居なかった。

 

 

「ねえ巧、本当に僕が同席して良かったのかな?」

 

「仕方ないだろ、あのまま食堂に向かってたらお前、昼飯どころじゃ無かっただろ。 なあ箒」

 

「うむ、あの人集りは正直狂気的な物を感じたぞ」

 

「だよなあ……俺達の時も酷かったけど、あれはもう民族大移動レベルだろ」

 

 

巧の言葉に、箒、倭が同意の声を上げる。

 

 

「ですが、デュノアさんは兎も角、わたくし達もご一緒して宜しかったので?」

 

「邪魔だったら、私達だけでもあっちのテーブルに移るけど?」

 

 

意味あり気な視線を向けるセシリアと深琴に対し、箒も苦笑気味に返す。

 

 

「気にするな、一人増えようと二人増えようと同じだ。 なあ、鈴」

 

「何であたしだけ名指しなのよ!」

 

 

箒の言葉に憤りつつ、バッグからタッパーを出す鈴。

 

 

「ほら巧、どうせ今日も砂糖水なんでしょ? 約束通り作ってきてあげたわよ」

 

「っと、食べ物を投げるなよ。 ーーへえ、酢豚か。 美味そうだな」

 

「当ったり前よ。これでも数年前まで中華料理屋の娘だったんだから、腕は確かよ」

 

「なるほどな。 ーーん? どうした箒」

 

「う、うむ……」

 

 

巧の問いに、遠慮がちに弁当箱を差し出す箒。

 

 

「って、箒も作ってきてくれたのか?」

 

「じ、自分の分のついでに作ってきただけだ。 私も約束していたしな」

 

「それでもありがたいって。 これで晩飯の分の栄養は稼げるな」

 

「晩飯抜くつもりかよ……」

 

 

呆れ顔の倭がもう一組の生徒に目を向けると、

 

 

「さあ、遠慮なく食え」

 

「いや、これはちょっと遠慮したいんだけどよ……」

 

「ていうか、どうやったらカレールウが紫色になるのよ……」

 

 

蓮の持参した個性的な色と刺激的過ぎる香りのカレーを食べさせられそうになっている真司と、それを不憫そうに見守る静寂の姿があった。

 

 

「セシリアの同類って、結構いるもんだな……」

 

 

その呟きに、セシリアも反論しつつ傍のバスケットを取り出す。

 

 

「それは倭さんであっても聞き捨てなりませんわね。 あれからわたくし、しっかり勉強してきましたのよ?」

 

 

そう言ってバスケットから取り出したのは、イギリスではオーソドックスなB・L・T(ベーコン・レタス・トマト)サンド。

 

だが、

 

 

(あ、甘っ!? これだけ離れてるのに、匂いの時点で既に甘ったるいって、どれだけ甘いんだ!?)

 

 

完璧に整った外見に反し、本能が警鐘を鳴らすレベルの危険性を感じ取る程の違和感を覚える。

 

 

「な、なあセシリア……勉強してきたって、何処で習ってきたんだ?」

 

「これですわ!」

 

 

そう言って何処からともなく取り出したのは、「サルでも出来る! かんたんレシピ集(初心者編)」のタイトルが表紙にデカデカと書かれた本だった。

 

「恥ずかしながら、わたくし料理に関しては未だ初心者以下。 ですので、今回は失敗しないよう、レシピ本を用意したのですわ!」

 

「へ、へー……で、そのレシピ通りに作ったのがそれ、と?」

 

「その通りですわ! ちゃんとレシピ通りの見映えになるよう、工夫を凝らしたのです! さあ、どうぞ!」

 

 

余りに酷いセシリアの言葉に、(それはレシピ通りじゃなくて写真通りだ!)と心中で絶叫する倭。

 

その時、

 

 

「へえ、セシリアって料理上手なんだね」

 

「そんな事ありませんわ。 そうだ、宜しければデュノアさんもお一ついかが?」

 

「ありがとう、いただくよ」

 

「わっ、バカ、止めーー」

 

 

止める間も無く、名状しがたきBLTサンド

らしきものを口に運ぶシャルル。

 

そして。

 

 

「っっっ!!?」

 

 

案の定、その端正な顔立ちを土気色に染めて硬直する。

 

 

「お味はいかがです?」

 

「う……うん、いいんじゃないかな? 個性的で、嫌いじゃないよ、うん……あ、あはは……」

 

「シャルル、無理しないでいいわよ。 脂汗出てる」

 

 

流石のシャルルも、最早劇物と化したBLT兵器を前に平静を保つのは無理だったようだ。

 

と、その時、

 

 

「倭、少しいいか?」

 

「巧? どうした?」

 

 

皆の目がシャルルに向いている隙に、巧が倭に耳打ちしてきた。

 

 

「って、それはちょっとマズイんじゃねえのか?」

 

「仕方ねえだろ、料理下手を解消するには自覚させるのが一番なんだよ。 それに、このままじゃセシリアに料理される食材が勿体無い」

 

「そ、其処まで言うか……」

 

「じゃあ、あの生物兵器をこれからも食べさせられ続けるつもりか? いつか死ぬぞお前」

 

「う……」

 

 

その言葉に、覚悟を決めたように頷く倭。

 

そして。

 

 

「ーーセシリア!」

 

「はい?」

 

「えっと、その……あ、あーん……」

 

 

セシリアから目を逸らしながらも、BLTサンド(爆)を口元に差し出す。

 

 

「え……ふえっ!?」

 

 

思わず変な声を上げるセシリア。

 

 

「なっ……!!? 何やってんのよあんた!!」

 

 

激昂し、倭に掴みかかろうとする深琴。

 

 

「落ち着け! これは必要な事なんだ!」

 

「離しなさいよ! 納得行かないわ!!」

 

 

巧と鈴の二人掛かりで深琴を抑えつけている間にも、二人の距離は縮まる。

 

そして。

 

 

「あ、あーん……あむっ」

 

セシリアの口がサンドイッチを捉える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!?」

 

 

案の定、声にならないセシリアの絶叫が屋上に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ巧、このえげつない返し技どうやって思いついた?」

 

 

口元を押さえながら蹲るセシリアに心の中で合掌しつつ尋ねると、巧は無言で隣のグループを指差す。

 

其処では、

 

 

「ちょっ、しっかりしろ蓮! メシマズで死亡なんて洒落になんねえぞ!」

 

「蓮ってば、どんな材料入れたらこんなおぞましいカレーが出来るのよ……ていうか、わかってて「はい、あーん」をやった真司も真司よ」

 

「ほんの冗談のつもりだったんだよ! って、心肺停止してる!?」

 

 

どうやら、真司のパクリだったようだ。

 

 

「あー……煮込み料理は毒素が凝縮されるからな……」

 

「ていうか、せっかく久々にマトモな昼飯が食えるんだからもっと心安らかに過ごしたいぜ」

 

 

愚痴りつつ、箒から貰った弁当の唐揚を口にする巧。

 

 

「お、これ美味いな」

 

「ほ、本当か!?」

 

「嘘吐いてどうなるんだよ。 うん、冷えてるのに衣はパリッとしてるし、味付けもちょうどいいな? 味付けは醤油と生姜か?」

 

「う、うむ。 それとおろしニンニクにあらかじめコショウを少しだけ混ぜてある。 隠し味には大根おろしを適量だな」

 

「なるほど、この風味は大根おろしか。 うん、美味い。 ……ん? そういえば……」

 

「ど、どうした?」

 

「いや、お前の弁当の方には唐揚入ってないなと思ってな」

 

 

見ると、箒の弁当は巧の物と似た構成だが、確かに唐揚だけは入っていなかった。

 

 

「わ、私はダイエットしているのだ! 油断しているとすぐ体重に跳ね返ってくるからな!(い、言える訳が無いだろう! 納得行く出来の唐揚が出来るまで何度も味見したから、お前の弁当の分しか残らなかったなどと!)」

 

「えーえー、確かに余分な脂肪が付いてるようねー、特にその胸に」

 

「大きなお世話だ!」

 

「あんた喧嘩売ってんの!?」

 

 

何故か喧嘩腰の鈴の言葉に、箒と深琴が反応する。

 

 

「落ち着けっての。 ほれ」

 

「む……な、何をしている?」

 

「何って、お前も食ってみろって。 お前が作ったのにお前が食えないってのも不公平だろ」

 

「い、いや、その……」

 

「体重が気になるんなら放課後の訓練で消費すりゃいいだろ。 俺も訓練に付き合うからよ。 ほれ」

 

「う、ううむ……あ、あーん……」

 

 

巧の説得に、箒は顔を真っ赤にしながら唐揚を頬張る。

 

 

「ん、んむ……い、良いものだな……」

 

「だろ?」

 

 

そんな二人の様子を、BLT兵器のダメージから回復したシャルルが微笑まし気に見つめる。

 

 

「あ、これって日本ではカップルがする「はい、あーん」っていうやつなのかな? 仲睦まじいね」

 

「ち、茶化すな馬鹿者!」

 

「てか、大丈夫かシャルル? まだ顔色悪いぞ」

 

「あはは……だ、大丈夫だよ。 セシリアは大丈夫?」

 

「も、申し訳ありません……まさか、此処まで酷いとは……」

 

 

シャルルの手を借り、何とか立ち上がるセシリア。

 

 

「悪いセシリア、いくら何でもちょっと悪質過ぎたな」

 

「い、いえ! 倭さんは悪くありませんわ! 悪いのはこのような代物を作ってきたわたくしーー」

 

 

そう言ってバスケットを見ると、結構な量のサンドイッチが入っていた筈の中身は空になっていた。

 

 

「ああ、それ倭が全部食べたわよ?」

 

 

深琴のその言葉に、信じられないといった表情で倭の方を振り向くセシリア。

 

確かに、倭の顔色も何処か優れない。

 

 

「いや、まあ……さっきの不意打ちの事もあるし、それにせっかく作ってきてくれたのを残すのも男らしくないだろ?」

 

 

そう言って、気まずそうに笑う倭。

 

その仕草からは、不器用ながらセシリアを気遣う様子が見て取れた。

 

 

「倭さん……」

 

 

 

 

 

 

 

この日、セシリアは二つの誓いを立てた。

 

一つは、絶対に倭に美味しいと言って貰える料理を作ってみせる事を。

 

そして、もう一つは、人様に食べさせる物は必ず味見する事を。

 

オルコットの名に賭けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オチが微妙……


次回は急展開かも

それではまた
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