IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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時間を進めるといったな、あれは嘘だ








……本当ごめんなさい


第三十九話 Hの葛藤/紅の王

◆

 

 

 

 

「俺様は〈紅 渉(くれない わたる)〉だ! よろしくな、ニンゲンども!」

 

「ふんっ」

 

「いたっ!?」

 

 

無駄に偉そうな自己紹介を終えた少年ーー渉の脳天に、傍に立っていた巧の拳骨が落ちる。

 

 

「自己紹介くらい丁寧にやれって言ったろ。 只でさえ不法進入なんだから、礼儀くらいちゃんと通せ」

 

「てて……えっと、紅 渉です。 ここにいるイチーーじゃない、タク兄の弟分やってます。 よろしくお願いします」

 

「よし。 まあ、そんな訳でよろしく頼む」

 

「「「「「はーいっ!!」」」」」

 

 

巧の言葉に、テンションMAX状態の女子達は一も二もなく頷いた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

前日の放課後、第三アリーナ。

 

其処には、アリーナのど真ん中で腰に手を当てて仁王立ちする渉の姿があった。

 

 

「お、おい巧……あの子供は知り合いか?」

 

 

箒のその問いに、巧は苦り切った表情で肯定した。

 

 

「事情があってな、スコート・ラボで預かってんだよ。 まあ、弟分みたいなもんだ」

 

「そ、そうか……後、その蝙蝠のような生物は一体……」

 

「こいつか? まあ、新種のコウモリみたいなもんだと思ってくれればいいさ」

 

 

その大雑把な説明に、気絶していた生物が憤慨して様子で飛び起きる。

 

 

「おい巧! いくら何でも少し扱いが雑過ぎるだろ!」

 

「そうか? いつもこんなもんだろ」

 

「……俺様の立場って、一体……」

 

 

抗議をあっさり一刀両断され、すっかりしょげ返った様子の謎生物。

 

しかし、丸っこい頭に直接皮膜翼と脚が生えたようなコミカルな外見のせいでイマイチ悲愴感が感じられないのはご愛嬌だろうか。

 

 

「だ、大丈夫か?」

 

「気にしてくれるのか……お嬢ちゃんは優しいな」

 

「お、お嬢ちゃん? ……と、とにかく、よかったらお前の名を教えては貰えないだろうか? 私は篠ノ之 箒だ」

 

「おお、これはご丁寧にどうも。 俺様は誇り高きキバット族の三代目、その名も〈キバットバット三世〉だ。 飾らない性格なんで、気さくにキバットとでも呼んでくれ」

 

「キバット……バット? 」

 

 

聞きなれない単語に首を傾げる箒。

 

 

「知りたければ後で教えてやるさ。 それより……おい渉!! いきなり砲弾目掛けて投げつける事無いだろ!!」

 

 

そう言って渉の方に飛んでいくキバットを見ても、大して気にしていない様子の渉。

 

 

「あ、生きてた」

 

「殺す気だったの!? それって酷くないか!?」

 

「ジョーダンだって。 大事な子分をそう簡単に使い捨てるかよ、もったいない」

 

「もったいないって……」

 

「そんなことより……おいそこのチビ! イチ……じゃない、タク兄巻き込んどいてワビの一つも無しかよ!」

 

 

だが、渉の怒気を孕んだ問いにもラウラは涼しい顔を崩さない。

 

 

「フン、文句なら其処のフランス代表候補生に言うんだな。 私は其処の男を狙ったに過ぎない」

 

「くっ……」

 

 

その言葉に悔し気に俯くシャルルを庇うように倭が前に出る。

 

 

「てめえ、こんな所で大砲撃つなんて何考えてやがる!」

 

 

その問いに、吐き捨てるように答えるラウラ。

 

 

「フン……そもそも、この場所はISの訓練を行う場だろう。 そのような場所で生身のままうろつくなど、流れ弾で命を落としても文句は言えまい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー教師の立場としては、周囲に対する配慮も学んで欲しい所だがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー誰、だっ!?」

 

 

背後からの声に反射的に振り向いたラウラの額に、強烈な一撃が炸裂する。

 

 

「全く、転校早々手を焼かせてくれる」

 

「ぐおぉぉ……っ、き、教かーーぐあっ!?」

 

「「織斑先生」だ」

 

 

そう言って、ラウラの額を引っ叩いた出席簿を小脇に抱え直す織斑先生。

 

 

「全く……大神といいお前といい、厄介事ばかり持ち込んでくれる」

 

「へ? 巧がどうかしたんですか?」

 

「来客だ。 食堂でメイド姿の女性が「主と逸れてしまいました」と言って泣いていたのでな。 話を聞けば大神の知り合いという事で話を聞こうと思って此処に来てみればこの騒ぎという事だ」

 

 

そう言って、疲れたように溜息を吐く織斑先生。

 

 

「渉……お前、また〈ガルル〉を撒いただろ」

 

「しかたないだろ、ガルルの奴気がつくと迷子になってんだから。 あいつがホーコーオンチなのが悪い」

 

「方向音痴だって知ってんだから、せめて手を繋ぐくらいしてやれよ。 織斑先生、そのメイドってもしかして青髪ロングヘアでてっぺんに犬耳みたいな癖っ毛がありませんでしたか?」

 

「やはりお前の知り合いか。 となると、その少年が「主」という事か?」

 

「まあ、そういう事です。 事情は職員室で説明しますんで。 ほら、行くぞ渉」

 

「おう! ほらキバット、しょげてないで来やがれ!」

 

「誰のせいだと思ってるんだよ……」

 

「ボーデヴィッヒ、お前も来い。相応の処罰は覚悟して貰うぞ」

 

「……了解しました」

 

 

流石に織斑先生には頭が上がらない様子で連行されていくラウラ。

 

巧達と共に去っていくその後ろ姿を見送ると、倭は安堵の溜息を吐いた。

 

 

「ふうっ……シャルル、サンキューな。 助かったぜ」

 

「そんな事ないよ。 それより、今日はもう上がろうか」

 

「そういえば、もうアリーナの閉館時間じゃない」

 

「言われてみればそうですわね。 では、わたくし達も上がりましょうか」

 

「うむ」

 

 

そう言って頷き合うと、残された面々もアリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういえば織斑先生、ボーデヴィッヒさんの頭を出席簿で叩いてたよね? ボーデヴィッヒさん、ISを装着してたから絶対防御が展開されてる筈なんだけど……」

 

「シャルル、良い事を教えてやるよ。 織斑先生を人類の範疇で考えるな。 身が持たないぞ」

 

「あ、あはは……」

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

その後、職員室でも我儘放題の渉に対し、織斑先生は「なるべく保護者の側を離れない事」を条件にIS学園の見学許可を発行。

 

そして今日、SHRを利用して自己紹介と相成った訳だ。

 

因みに、見学許可を発行した理由は織斑先生曰く、

 

 

「不本意ながら、紅達の進入を誰も察知出来なかったからな。 IS学園のセキュリティを容易く突破出来る以上、下手に不法進入されて問題を起こされるよりは最初から正規ルートで入場して貰った方がまだマシという物だ」

 

 

との事。

 

そして現在。

 

 

「ガルル〜、腹減った〜」

 

「後三十分お待ち下さい。 それまではこれをどうぞ」

 

「あ、スコーンだ! サンキュー、ガルル!」

 

 

渉達は一組教室の最後列で授業を見学(?)していた。

 

 

「……ふむ、十分程時間が残っているが、そろそろ切り上げるか。 大神、紅達の事は任せたぞ」

 

「了解です」

 

「起立! 礼! 着席!」

 

「終わったー! なあタク兄、メシ食いに行こうぜ!」

 

 

織斑先生が退出するなり、巧に飛びついてくる渉。

 

 

「あーはいはい、んじゃ食堂に行くか」

 

「良いのか? 渉を連れて行けばまた騒ぎになると思うが……」

 

「仕方ないだろ、こいつの分の昼飯が無いんだからよ」

 

「申し訳ありません、巧様。 今日は食材を切らしてしまいまして……」

 

「気にすんな。 じゃあ行くか」

 

 

という訳で巧、箒、シャルル、途中で合流した鈴と簪(今日は彼女が巧の弁当当番)、渉、ガルルの七人で食堂に向かったのだが、

 

 

「うわあ、フランス人形みたい……」

 

「ねえ、お名前は? 誰かと待ち合わせ?」

 

「アメちゃん食べる?」

 

 

食堂は既に混雑していた。

 

原因は、中心の席に座っている、黒ゴスロリ服に身を包んだ九歳程度の少女のようだ。

 

 

「……おい、あれって……」

 

「ん? おーい、〈ドッガ〉ー!!」

 

 

渉の呼び掛けに、少女は紫掛かった銀の超ロングヘアを靡かせながら歩み寄ってくる。

 

 

「何だドッガ、オマエも来てたのか?」

 

「ボクも一緒だよ♪」

 

 

そう言って人混みの間から現れたのは、水兵服とホットパンツに身を包んだ十五歳程度の少女だった。

 

 

「〈バッシャー〉も来てたのかよ。 二、三日で帰るから待ってろって言ったろ?」

 

「だーってつまんないんだもん」

 

(コクコク)

 

 

バッシャーと呼ばれた緑のショートヘアの少女の言葉に、傍に立っていたドッガも頷く。

 

 

「お前らな……せめて昼飯時は止めてくれ。 誰が代金払うと思ってんだ」

 

「ね、ねえ巧、良かったら僕も少し出すよ? 代表候補生だから懐に余裕はあるし」

 

「いや、遠慮しとく。金銭の貸し借りはしない主義でな。 けど、その気持ちは嬉しいぜ」

 

 

そう言って、シャルルの頭を撫でる巧。

 

 

「ふえっ!? あ、ありがとう……」

 

「む……」

 

 

何故か真っ赤になるシャルルの様子に、そこはかとなく苛立ちを感じる箒。

 

 

「ちょっと待ってろ、ATMから金を下ろしてくるから。 ーーって、織斑先生?」

 

 

見ると、織斑先生が山田先生を伴って食堂に設置されたATMの前に立っていた。

 

 

「生徒から「食堂に見慣れない女の子が居る」との報告が上がってな。 丁度いい、たまには私が奢ってやろう」

 

「はい? い、いやそれはまずいでしょ。 他の先生から贔屓呼ばわりされても知りませんよ?」

 

「気にするな。 曲がりなりにも担任なんだ、昼飯を水で済ませる借金持ち生徒のケアくらい出来なくてどうする」

 

 

その言葉に、巧が山田先生に視線を向けると、気まず気に目を逸らす。

 

 

「山田先生……黙っててくれって言ったでしょうに……」

 

「す、すいません……でも、お昼の度に砂糖水を飲んで空腹を紛らわせる姿を見てたら、いたたまれなくて……」

 

「はあ……まあ、しょうがねえか。 じゃあ、あそこにいる馬鹿四人の分をお願い出来ますか? 俺の分は簪が用意してくれましたから」

 

「解った、任せておけ。 さてーー」

 

 

不意に、織斑先生の雰囲気が変化する。

 

 

「ーー此処は食堂の筈だが、随分と食事目的以外の来客が多いようだな……」

 

 

その言葉と共にジワリと滲み出る威圧感に、弁当持参の生徒達が慌てて食堂を出て行く。

 

中には、食べ掛けの定食を残したまま逃げ出す物まで居る始末だ。

 

 

「ーーさて、席も空いた事だ。 私達も食事にするか」

 

「あーあ……」

 

「織斑先生、やり過ぎですよ……」

 

 

疲れたような声で注意する山田先生に、呆れて言葉も無い巧。

 

ただ、渉には好評だったようで、

 

 

「すっげー!! チー姉すげー!!」

 

 

と、瞳を輝かせてはしゃいでいた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

その日の夜、巧の自室。

 

 

「あ〜〜〜〜〜、マジで疲れた……」

 

「あ、あはは……だ、大丈夫?」

 

「多分な……」

 

「多分って……それにしても、随分と自由というか、奔放な子だったね」

 

「まあ、色々と事情があってな。 親元に置いておけねえからうちの部署で預かってんだ。 何時もはうち所有の別荘に住んでるんだが、たまに暇を持て余して俺のいる所に突撃してくるんだよ。 まさか、IS学園にまで突入してくるとは思わなかったけどな」

 

「た、大変だね……」

 

「まあ慣れたさ。 そんな訳で、今日はシャルルが先にシャワー使ってくれ。 俺はもうちょっと横になってねえと立てそうにないんでな……」

 

「相当お疲れみたいだね……じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うね」

 

「ああ」

 

 

その会話を最後に、シャワー室へと消えて行くシャルル。

 

程なく、ドア越しにシャワーの水音が聞こえてくる。

 

 

「ったく、あの馬鹿これからも居つくつとりじゃねえだろうな……やっぱあいつに〈キャッスルドラン〉の移動権限を持たせてるのは問題かもな……ん?」

 

 

ふと、巧の耳にノック音が届く。

 

 

「誰だ? ……って、箒か」

 

「う、うむ……シャルルは居るか?」

 

「ああ、今シャワー中だ。 用事があるんなら伝えとくぞ」

 

「い、いや、用があるのはシャルルでは無い……」

 

 

妙に歯切れの無い様子の箒。

 

 

「どうした? 悩み事があるんなら聞くぞ?」

 

「い、いや、その……」

 

 

頬を染めながら、挙動不振な言動を繰り返す箒。

 

だが、やがて何かを決意したような表情で、

 

 

「ーーた、巧!!」

 

「な、何だ?」

 

「こ、今度学年別のトーナメントがあるのは知っているだろう!」

 

「ああ、そういえば倭も言ってたな」

 

「そ、それでだ! もし、そのトーナメントで私がお前に勝つ、若しくはお前より上の順位になった場合ーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーつ、付き合って貰う!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーはい?」

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

同時刻。

 

第三アリーナを見下ろす場所に、一人の少女が佇んでいた。

 

 

「……橘 倭……」

 

 

少女にとって、織斑 千冬は希望だった。

 

とある理由で「落ちこぼれ」の烙印を押され、絶望の淵に居た少女を救い上げ、新たな道標となった存在。

 

何も無い、からっぽの自分の中に初めて生まれた、この人になりたいという願望の対象。

 

それが、少女にとっての織斑 千冬だった。

 

故に、彼女の名を汚した男に対する敵意は並大抵の物では無かった。

 

だからこそ、上層部からIS学園への転校を命じられた時、一も二もなく受領した。

 

全ては、織斑 千冬の周囲から汚点の元凶たるその男を排除する為。

 

だが、今の少女にとって警戒すべき者はそれだけでは無かった。

 

 

「……紅 渉……」

 

 

威力が幾分削がれていたとは言え、横手からの投擲で砲弾を逸らすという人間離れした所業を容易くやってのける少年。

 

どうやら橘 倭の関係者では無さそうだが、「もう一人の存在」を考えると油断は出来ないだろう。

 

そして、その「もう一人」ーー

 

 

「……大神 巧……」

 

 

あの時、レールカノンの砲弾の流れ弾に気付いたのは、あの男だけだった。

 

しかも、紅 渉の相手をしながらも、その注意は常に少女に向けられていた。

 

 

「……我がドイツの総力を挙げて尚、その素性を掴めない人物……何者かは知らんが、邪魔になるのならーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー排除する。 橘 倭も、紅 渉もーー大神 巧。 貴様もだ」

 

 

 

 

 

 

 

そう呟く銀髪の少女の左目は、右目の赤と比べて不自然な金色に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は原作寄りの展開になります

後、誤字の類を優しく教えてくれる方がいてくれたら嬉しいです

それではまた
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