IS ーバトライド・クロニクル   作:帰灰燼

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どうやら自分にはタイトルの才能が無いようです……


第四十話 Hの葛藤/一触即発

◆

 

 

 

 

『ーー解っているね、ーー君。 これ以上の遅れは許されない』

 

「……はい」

 

『社長から受けた恩、よもや忘れた訳では無いのだろう? ーー吉報を待っているよ』

 

 

その言葉を最後に、ノートパソコンの画面に大写しになっていたウインドウがブラックアウトする。

 

 

「………………」

 

 

だが、その「少年」はそのままブラックアウトしたウインドウを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ以上、引き延ばせない、よね……」

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒの第三アリーナ砲撃事件から数日後。

 

IS学園は妙に色めき立っていた。

 

 

「ねえ、聞いた!?」

 

「いや、聞いたっていきなり言われても……」

 

「あたしは聞いたよ!」

 

「だから何の話よ!」

 

「ほら、例の男子生徒の話よ!」

 

「いい話? 悪い話?」

 

「超絶いい話!」

 

「何それ詳しく!」

 

「いい、これは男子には教えちゃダメよ! 実はね、今月の学年別トーナメントでーー」

 

 

内緒話にしては大きく、しかしギリギリ聞き取れないような音量での会話が食堂のあちこちから聞こえてくる。

 

 

「なんか、朝っぱらから妙に騒がしくないか?」

 

「フン、思春期の女子など皆このようなものだろう。 先月のインベス襲撃事件で怯えて縮こまっているかと思ったが、思ったよりは骨のある奴等のようだな」

 

 

朝食のお膳を手に首を傾げる一真の言葉に、呆れ半分感心半分といった様子で吐き捨てる戒斗。

 

 

「まあ、あの事件では自主退学者は一人もいなかったらしいしな。 仮にも兵器の扱いを学ぶ学園なんだから、根性が座ってなければやってけないって事か」

 

「そういう事だ。 ーーむ?」

 

 

その時、一人の女子が戒斗に駆け寄ってくる。

 

 

「く、駆紋君! あ、あの噂って本とーーむぐっ!?」

 

 

だが、戒斗に何かを尋ねようとした途端、他の女子に取り押さえられ連行されていってしまった。

 

 

「……おい」

 

「な、何かな?」

 

「今そいつが言っていた「噂」とは何だ?」

 

「い、いや、大した事じゃないよ? あ、あはは……」

 

 

あからさまな誤魔化しに若干苛つく戒斗だったが、他の女子が道を塞いでいる為詰め寄る訳にもいかずにいる。

 

 

「バカっ! 男子には内緒って言ったでしょ!」

 

「いや、だってある意味噂の当人だし……」

 

 

と、そこにもう一人の男子が。

 

 

「噂って?」

 

「ふえっ!? な、何の事ですか剣号さん!?」

 

「ひ、人の噂も三六五日って言うよね!」

 

「な、なにいってるのよミヨは! 四十九日だってば!」

 

「いや、それも違うし……ていうか、何か隠してない?」

 

 

その問いに、

 

 

「そんな事っ」

 

「ある訳っ」

 

「ないよ!?」

 

 

と、見事な連携で答えてそのまま去っていく女子達。

 

 

「……何だったんだろうな、あれ」

 

「……俺が知るか」

 

 

取り残された男子達は只呆然とするしか無かった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

一方、一組教室。

 

 

「な、何故このような事に……」

 

「そりゃ、廊下のど真ん中であんな大声上げてれば丸聞こえだろうよ」

 

 

自分の席で頭を抱えている箒に、巧からの冷たい一言が突き刺さる。

 

 

「で、勝算はあるのか? 言っとくが、俺は手加減はしないぞ」

 

「わ、わかっている! 」

 

 

と、強がってはみたものの、正直箒の勝率は無に等しかった。

 

幼少の頃から修練を重ねてきた篠ノ之流剣術の腕前もあって、近接戦闘に関してはそれなりだが、やはり銃火器相手となると経験不足もあって遅れを取る事が多い。

 

相部屋が解消され、距離が離れてしまったが故の焦りから思わず口を突いて出た勝負だったが、箒の不利は否めなかった。

 

 

(やはり、無謀過ぎたか……? だが、「あいつ」の事を吹っ切る為にも、このくらい困難で無ければ……)

 

 

箒の思い出の中にある一夏の面影は日を増す毎に強くなり、現実の巧とオーバーラップする事も多くなっていた。

 

それこそ、ふとした瞬間に巧の事を「一夏」と呼んでしまいそうになる程に。

 

 

(このままでは駄目だ……もう「あいつ」は居ないんだ! 吹っ切るんだ、篠ノ之 箒!)

 

 

だが、一方で状況的に一夏を吹っ切る為に巧への好意を口実に利用している事に罪悪感を感じている自分も居る。

 

箒の悩みは、尽きそうに無かった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

放課後。

 

 

「あっ」

 

「え……」

 

「あら……」

 

 

最早男性IS操縦者の関係者御用達として認識されつつある第三アリーナにて、簪を伴った鈴とセシリアは同時に間の抜けた声を上げた。

 

 

「こんな所で会うなんて奇遇ね。 あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するつもりなんだけど」

 

「あら、奇遇ですわね。 わたくしも全く同じですわ。 ーー簪さんもですの?」

 

「うん。 打鉄弐式もトーナメントまでには間に合いそうだから、調整のついでに鈴の特訓に付き合おうと思って」

 

 

三人の間に、見えない火花が走る。

 

どうやら、三人とも噂は耳にしているようだ。

 

 

「ま、あたしは特に気になる奴もいないし、簪の援護射撃に徹しようと思ってたんだけど……その前に、どっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

 

 

その言葉と共に投げかけられた挑発的な視線に、不敵な笑みで返すセシリア。

 

 

「珍しく意見が一致しましたわね。 どちらがより強く、より優雅であるかーーこの場で白黒付けようではありませんか」

 

「望む所よ。 簪、悪いけどちょっとだけ待っててくれる? すぐ終わるからさ」

 

「ええ、すぐ終わりますとも。 勿論、わたくしの勝利という形で」

 

「へえ……セシリアも冗談が上手くなったわね」

 

「おほほほほ……」

 

「ふっふっふ……」

 

 

一触即発の空気を撒き散らす二人に、思わず溜息を漏らす簪。

 

だが。

 

 

「っ、危ない!!」

 

 

「それ」に気付いた簪の警告の叫び声と共に、二人目掛けて超音速の砲弾が飛来する。

 

 

「「!?」」

 

 

咄嗟に距離を離した二人の間を突き抜ける砲弾。

 

その軌道を辿った鈴とセシリアの視線の先には、漆黒のISを纏った小柄な影が佇んでいた。

 

それぞれのISのモニターに表示された機体名は〈シュヴァルツェア・レーゲン〉、登録操縦者ーー

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 

セシリアの表情が強張る。

 

 

「フン……それがイギリスの第三世代機か。 日本くんだりまでわざわざデータ取りの為に入学とは、御苦労な事だ」

 

「くっ……」

 

 

ラウラのこの発言には理由がある。

 

現在、欧州連合では統合国防計画〈イグニッション・プラン〉の中核を担う次期主力機の選定の最中であり、ブルー・ティアーズに代表されるイギリスのティアーズ型(タイプ)、ドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタⅡ型が有力候補とされている。

 

この内、実用化の点ではティアーズ型がリードしており、既に二号機もテスト段階に入っているとの事だがまだ油断は出来ないとの事で、実稼働データの収集を目的にセシリアがIS学園に送り込まれてきたという経緯がある。

 

何せ、IS運用協定ーー通称〈アラスカ条約〉にある〈技術開示と共有の義務〉の一文に触れる事無く、外部からの干渉を受けずに未完成の技術のテストを行える場所はこのIS学園を於いて他に存在しない。

 

とある特記事項により、本学園の生徒は在学中あらゆる国家、組織、団体に帰属せず、本人の同意の無いあらゆる外的介入は許可されないーーつまり、国家代表候補生の有する専用機もまた、少なくとも在学中は本人の意思に反する情報の開示は許されない。

 

勿論方便に過ぎないが、実際それを利用してIS学園で試作機を完成させる国は案外多く、自分達が糾弾される事を考えれば下手に他国を糾弾する訳にも行かないという訳だ。

 

そんな事もあって、セシリアとラウラは候補生としても、そしてイグニッション・プランの競合相手としてもライバル同士と言えるのだ。

 

 

「ちょっと待ちなさいよ、そこのゆるキャラ! いきなり大砲ぶっ放すのが最近のマスコット業界で流行ってる挨拶って訳!?」

 

「だ、誰がゆるキャラだ!」

 

「アンタに決まってんじゃない! この前の実習で散々可愛がられてた事、忘れたとは言わせないわよ!」

 

「ぐっ……!」

 

 

鈴の言葉に悔し気に呻くラウラ。

 

だが、更に畳み掛けようとする鈴を遮るかの如くセシリアが前に出る。

 

 

「ーー鈴さん、申し訳ありませんが決着はまた今度という事で」

 

 

その言葉と共に、ラウラに向き直るセシリア。

 

その手には、既にスターライトMk-Ⅲが握られている。

 

 

「何よ、そんなに倭の仇を討ちたいって訳? それとも、I・Pの競合相手に対しての意地って奴?」

 

「何とでも。 とにかく、この場はわたくしに譲っていただきますわ」

 

 

そう言って、油断無くラウラを睨み付けるセシリア。

 

それに対し、冷静さを取り戻したのか冷ややかな眼差しを向けるラウラ。

 

 

「フン、別に二人掛かりでも構わんぞ。 歴史と人口しか取り柄の無い国のISなど、このシュヴァルツェア・レーゲンの敵では無い」

 

 

その言葉に、セシリアと鈴の顔色が変わる。

 

 

「言ってくれるじゃないゆるキャラ……どうやらご自慢のオモチャと一緒にスクラップにされるのがお望みみたいね!」

 

「実力を傘に着て他者の侮辱などと、同じ代表候補生として見過ごせませんわね」

 

 

だが、二人の敵意に満ちた視線に対し、ラウラは決定的な言葉で返す。

 

 

「はっ、下らん種馬にうつつを抜かすような輩と私を一緒にするな。 まあ、所詮二人掛かりで量産機に負けるような奴等だ。 格の違いを判れというのも酷というものか」

 

 

その瞬間、簪は二人から何かが勢い良く千切れるような音が発せられたような気がした。

 

 

「ーーねえセシリア、あいつ今何て言った? あたしの耳には「どうぞ好きなだけ殴って下さい」って聞こえたような気がするんだけど!?」

 

「この場に居ない人間の侮辱まで……その暴言、撤回していただきますわ!」

 

 

怒気と共に、それぞれの武装を構える二人。

 

その様子に、ラウラの口元に歪な笑みが浮かび上がる。

 

 

「かかってこい」

 

 

 

 

◆

 

 

 

「えーっと、今日の訓練は何処でやるんだっけか……深琴、覚えてるか?」

 

「ちょっと待って、確かーー」

 

「第三アリーナだ」

 

「「うわあっ!?」」

 

 

突然の背後からの声に、声どころかポーズまでシンクロして飛び退く倭と深琴。

 

 

「む……そんなに驚く事は無いだろう」

 

「いきなり後ろから話しかけられりゃ誰だって驚くっての!」

 

「そりゃごもっとも。 とりあえずさっさと行くぞ、廊下のど真ん中で突っ立ってると他の生徒の邪魔になる」

 

「わ、わかってるわよ!」

 

 

箒と共に居た巧の言葉に、揃ってアリーナへと向かう一行。

 

だが、アリーナが近づくにつれ、妙に騒がしくなってくる。

 

 

「あっ、橘君、大神君! なんか、一組の代表候補生同士が模擬戦やってるらしいわよ!」

 

 

一組の代表候補生。

 

その一文に、倭と巧の脳裏に小柄な銀髪のドイツ代表候補生の姿が浮かぶ。

 

 

「あいつか……! 大方、あのちびっ子の挑発にセシリアが乗っちまったって所か。 巧!」

 

「ったく、世話の焼ける! これだから女は面倒臭いんだ!」

 

「言ってる場合!? 急ぐわよ!」

 

「うむ!」

 

 

頷き合い、第三アリーナへと急ぐ一行。

 

そして、アリーナの外周通路に辿り着いた時、其処には想像を絶する光景が広がっていた。

 

 

「フン、出涸らし風情が出来損ないの機体で良く粘るものだ。 だがーー所詮私の敵では無い」

 

 

そう言ってラウラが非固定浮遊部位に搭載された大型レールカノンを向けた先には、

 

 

「……二人は、やらせない……!」

 

 

ボロボロのISを身に纏い、薙刀一本で懸命にラウラに立ち向かう、簪の姿があった。

 

見ると、セシリアと鈴がISスーツのみの姿で倒れている。

 

この状態で簪が砲撃を回避すれば、二人の命は無いーーそれを承知の上で、ラウラは簪を挟む形で二人にレールカノンを向けていた。

 

 

「フッ……トドメだ。 貴様が日本の、引いては教官の面汚しとなる前に、此処で砕け散るがいい」

 

 

その言葉と共に、レールカノンから必殺の砲弾が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「やめろおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキン! と鈍い音と共に、レールカノンの砲弾が明後日の方向へと弾かれる。

 

 

「悪い簪、遅くなった。 怪我は無いか?」

 

「う、うん……」

 

 

オートバジンを身に纏い飛来した巧の問いに、力無く頷く簪。

 

どうやら、打鉄弐式に搭載された薙刀一本で、ラウラの大口径レールカノンの砲弾を受け流し続けていたらしい。

 

 

「……巧、何処から来たの? ピットから来たなら、事故防止用のアラームが鳴る筈」

 

「あれ見てみろ」

 

 

簪の問いに、親指で背後を指す巧。

 

その先には、大きく斬り裂かれたアリーナのバリアが。

 

 

「そっか、零落白夜で……」

 

 

零落白夜。

 

 

その単語に、ラウラが敵意に満ちた視線を倭に向ける。

 

 

「貴様……教官の名誉だけでは飽き足らず、技まで奪うか!」

 

「 文句があるなら来やがれ! こっちもいい加減、堪忍袋の尾が切れてんだ!」

 

 

その言葉と共に、双剣を構える倭。

 

受けて立つとばかりに両腕からプラズマの刃を抜き放つラウラ。

 

一触即発の空気の中、二人の「模擬戦」は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




画面が見え辛い……

次回は倭対ラウラです


それではまた
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