着てる人物違いますしね
◆
「倭!!」
箒の眼前で、モニターに映る白い騎士の姿が爆炎の中に消える。
「あちゃー、こりゃ終わったかな……」
「まあ、初心者にしちゃ保った方か……」
男子二人の表情にも落胆の色が隠せない。
だが。
「ふっふっふ、甘いねしんくんにたっくん。 束さんの白式があの程度で終わると思ってるのかな?」
いつの間にか巧の隣に立つ篠ノ之博士の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
「けど、あんなもんマトモに食らって耐え切れる訳がーー」
「いや、あれを見ろ!」
見ると、モニター内の白式のステータスウィンドウーーその中に表示されたSEゲージがミサイルの直撃を受けたにも関わらず殆ど減っていなかった。
「嘘だろ……ミサイルはブレードで落とせても、あの爆発から逃げられる筈ーー」
その時。
真司の言葉を遮るかの如く、急速に吹き散らされる煙の中に人影が浮かぶ。
その眼前には、風車の如く回転する何かがあった。
「ふん、相変わらず場当たりな奴め。 ーー始まるぞ、しっかり見ておけ」
「始まるってーー」
その瞬間、人影を中心にモニターが光に包まれた。
◆
「まさか、そんな手で防ぐなんて……それに、その姿はーー」
煙を引き裂くかの如く、倭のISから放たれた光。
それが治まった時、セシリアの眼前に佇む倭の姿は大きく様変わりしていた。
無機質だった純白の装甲には、光輝く橙のラインが走り、
無骨な背部スラスターユニットは、猛禽の翼の如く展開し、
工業製品のような全身のシルエットは、芸術作品すら思わせる優美なラインを描いていた。
それは、白式が倭のISとして「誕生」した瞬間だった。
「ーー一次、移行……あ、貴方まさか初期設定すらせずに私と戦っていたというのですか!?」
「仕方ねえだろ、届いたのがギリギリだったんだから」
事も無げに言い放つと、眼前で高速回転する風車ーー否、二振りを連結させた近接ブレードを掴み取る。
ミサイルの直撃と爆炎を凌ぎ切ったそれは、白式同様その姿を大きく変えていた。
日本刀のような右手の長刀は<雪片弐型>。
脇差しを思わせる左手の刀は<雪片影打>。
武士の魂とも言える伝統的武装を模したその刃は、しかし白式を纏った倭の姿にこれ以上無い程調和していた。
「行くぜ、オルコット。 ここからはーー俺のステージだ!!」
瞬間、倭の姿が掻き消える。
「ぐっ!?」
斬られた。
セシリアが認識した時には、既に倭は遥か後方へと過ぎ去っていた。
(っ!? な、なんてスピード!!)
慌てて倭の通り過ぎた方向へと振り向くと、セシリアの様子を伺うように構え直していた。
(まずいですわ……ブルー・ティアーズの機動性では、あの加速からは逃げられない。 しかし、わたくしの主武装はこのライフルと実弾型ティアーズ……)
一次移行した白式は、背部スラスターユニットの爆発的な出力と脚部姿勢制御スラスターにより、先程とは比べ物にならない程の加速力を獲得していた。
対して、ISとしてのブルー・ティアーズは狙撃ライフルと自立稼働兵装による中、遠距離攻撃に威力を発揮するタイプ。
緊急手段として近接兵装が装備されていない訳では無いが、今まであらゆる相手を遠距離攻撃のみで降してきたセシリアにとって、近接に特化した相手とやり合うには余りにも心許ない。
加えて、まだ性能を発揮し切れていない状態ですら頼みの自立稼働兵装を墜とすような相手を、自立稼働兵装を殆ど失った状態で抑え切れるとは思えなかった。
(わたくしがこんな無様な姿を晒すなんて……)
勝てるビジョンが浮かばない状況に、いっそ潔く敗北を認めようかーーそこまで思い詰めていたセシリアの瞳が、信じられない物を見たように見開かれる。
何を考えたか、倭がセシリアから距離を離し着地したのだ。
その距離は、狙撃を得意とするセシリアにとって必殺の間合い。
(まさか、マシントラブル? いえ、そんな様子は感じられない……わたくしを、馬鹿にしているんですの?)
どう見ても手加減されているとしか思えない状況に、身体の奥底から怒りがこみ上げてくる。
だが。
「セシリア・オルコット!!」
右手の長刀をセシリアに突き付けた倭の言葉によって、その怒りは吹き飛ばされる。
「決着を付けようぜ!!」
ちまちました勝利は性に合わない。
例え負けるとしても、悔いだけは残したくない。
だから、お互いが全力を出せる形で、白黒はっきり付けよう。
ーー倭の目は、はっきりとそう告げていた。
(決着を、付ける……)
セシリアの胸に、怒りとは違う熱が篭る。
それは、眼前の相手に対する純粋な「戦意」。
男だからとか、素人だからとか、そんな些末事はどうでもいい。
ただ、自らの持てる全てを以て、この「好敵手」に勝ちたい。
故に、セシリアの答えは只一つ。
「ーー望む所ですわ!!」
静寂が場を支配する。
連結させた二刀を構えた倭と、ライフルを構えたセシリア。
臨戦態勢を整えた二人は、しかし動く事は無い。
まるで凍り付いたかのように、お互いを見据えたまま止まっている。
そんな二人の雰囲気に呑まれたのか、観客席も誰一人言葉を発する事は無い。
だが、その静寂も程なく破られる事になる。
カーン……
「「!!!」」
観客席から響いた、ジュース缶を床に落としたと思われる微かな音を引き金とし、二人は弾かれたかの如く行動を開始する。
一方は、敵を射墜とさんと光の矢を放ち。
一方は、敵を斬り伏せんと宙を駆ける。
距離にして400mにも満たない空間を舞台とした攻防は、一方の勝利を以て終焉を迎える。
「おりゃああああああああ!!」
レーザーの雨を掻い潜り、実弾型ブルー・ティアーズから放たれた誘導ミサイルを尽く両断した倭が、セシリアに肉薄する。
その手に握られた刃が、また異なる姿へと変ずる。
ーー零落白夜、発動ーー
瞬時に消滅した実体刃と引き換えに現出したのは、高密度のエネルギーで構成された光の刃。
「くうっっ!!?」
その一撃は、辛うじて上体を逸らしたセシリアの胸元を掠め、ISの下に着用するインナーの胸部を引き裂いた。
俄かに露出度が上がった胸元を意識してか、セシリアの頬に微かに朱が挿すが、
(バリアを、無効化された!?)
その事実が、セシリアの思考を戦闘状態へと繋ぎ止める。
見れば、倭は振り抜いた体勢のままスラスターを吹かし一回転、その勢いで再度一撃を放つ所だった。
「これで……終わり、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
袈裟懸け一閃。
この「決闘」に終わりを告げる一撃。
それが今ーー
「ーーインターセプター!!」
ーー「同時に」放たれた。
『両者、シールドエネルギー0。 ドロー』
◆
「ーーっだぁぁぁ、引き分けかよお〜」
試合終了を告げるアナウンスの直後、倭が悔し気な声を上げる。
倭の一撃は、確実にセシリアの肩口を捉え、そのSEを喰らい尽くしていた。
だが、セシリアもまた残された最後の手ーー緊急用に装備されていたダガータイプの近接ブレード<インターセプター>を音声コールで召喚し、カウンターの突きを放った。
それにより、残り僅かだったSEは腹部に突き立ったインターセプターの切っ先を受け止めたエネルギーシールドに消費し尽くされた。
結果、二人のSEはコンマ一秒と違わず同時に底を尽いたのだった。
だが。
「ーーいいえ、この勝負ーーわたくしの負け、ですわ」
自ら敗北を認めるセシリア。
しかし、その表情に悔しさの念は感じ取れず、寧ろ安らぎすら覚える。
「最後の一太刀、もし貴方がその気なら、インターセプターを抜くより早くわたくしを斬り捨てられたのでは無くて?」
そう。
バリア無効化攻撃による一撃は、セシリアだけでは無く倭にも動揺を与えていた。
それは、倭の太刀筋を僅かに鈍らせ、反撃を許す結果となった。
もしこれが実戦で、倭にセシリアを殺す覚悟があったのならば、今頃セシリアは二つに断たれてアリーナの地面に転がっていただろう。
「いや、試合で殺人はまずいだろ……」
「事実ですわ。 それに、わたくしは貴方が一次移行を迎える迄に勝負を決める事が出来なかった。 その時点で、イギリスの国家代表候補生として失格ですわ」
その言葉に、倭の機嫌が目に見えて悪くなる。
「待てよおい。 じゃあ何か、俺は代表候補生クラスなら片手間で勝てて当然の雑魚だってのかよ」
「え? い、いえ、そういう訳ではーー」
「いーや、確かにそう聞こえたぜ。 あーあー、俺傷ついたなー」
子供のように不貞腐れる倭。
「も、申し訳ありませんわ。 気を悪くされたのなら謝りますので、どうか機嫌を直してくださいませ」
「んー……じゃあさーーいつかまた、俺と戦ってくれよ」
そう言って、セシリアに手を差し出す倭。
「え? えっと……」
「オルコットだって、引き分けのまんまじゃ納得行かないだろ。 だからさ、ここでお互い強くなって、今度はきっちり決着を付けようぜ。 な?」
「……ええ、そうですわね。 わたくしも「引き分けた」ままでは納まりが付きませんもの。 ですからーー次は、わたくしが勝たせていただきますわ」
「へっ、言ってろ」
そうして、二人は握手を交わす。
その瞬間、何処からとも無く拍手の音が鳴る。
それは、他の観客に伝播しーーいつしか、アリーナを埋め尽くす程の奔流と化していた。
◆
「すごかったね〜、かんちゃん」
「うん……」
観客席の一角、比較的人気がまばらな場所に、水色の髪をショートに整えた少女が居た。
隣では、袖がぶかぶかの制服を着た温厚そうな少女がポフポフと拍手らしき動きをしている。
(あれが、世界で一人目の男性IS操縦者……)
複雑な心境で目の前の少年を見詰める少女。
(私も、あんな戦い方が出来れば……)
少女は、とある事情が原因で、少年に良い感情を抱いてはいなかった。
少女自身、それが逆恨みのようなものだと感じてはいるが、感情というものは理屈でどうにかなる物では無い。
故に、そんな自分に自己嫌悪を感じながらも、少年に対する恨みも捨て切れない。
そんな彼女に、今の少年の姿は余りにも眩しかった。
(……私は……)
その瞳に羨望と嫉妬の色を宿し、少女は少年を見詰め続けていた。
あれ? 何故かISメインになってる……
次回はライダーメインになります……多分
それではまた