【リコリス・リコイル二次】お皿洗いで聞き耳立てて 作:アツヨヌジミ
お相手の少年は地の文でのみ言及されます、会話しません、姿もお好みの姿で想像してください。
「千束、手が止まってますよ」
「えっ?あっ、あー…はは、ごっごめ〜ん、たきな!ちょっと考え事してて」
「……はぁ」
もう何度目だろうか、10回は同じやりとりをしたかもしれない。
いつもなら皿洗いくらい手早く、というより雑に終わらせてカウンターに出て行こうとする相棒、千束の手が止まっている事を指摘した回数を数えて、私はもう一度溜息をついてから千束に話しかける。
「そんなに気になるなら、聞きに行けばいいじゃないですか」
私なりに千束の『考え事』を手っ取り早く解決する方法を伝えたつもりだったが。
「そ、そんなことできるかー!!何言ってんのこの子は!」
千束は手を振り上げてブンブンと振り回し、提案は却下されてしまった。
そんな千束の態度をみて、もう一度溜息をついてから皿洗いを再開し、千束の様子がおかしい理由を考える。
「(いえ、原因は分かっているんですけど)」
千束の様子がおかしい原因、それは、今来店しているお客さんの少年だ。
別に彼が来ただけで千束はおかしくなる、ということではない、むしろ張り切ってカウンターに顔を出して行くのが大半だ。
それはもう凄い勢いなのだが、それについては今は割愛して、こうなった経緯を思い返す。
今日はいつもより来店者が多く、お迎え出来なかった。
いや、正確には行こうとしたが阻まれたのだ。
「(ミズキさん、そろそろやめないと本気で千束が怒りますよ……)」
今日の一番の原因、ミズキさんが千束がお迎えに行こうとしたのを阻止した。
嫌がらせ、ではなく悪戯だろうが、千束を探している様子の彼に先に声を掛けて、『千束は今いない』とまで言うとさっさと席に案内して注文を聞いたかと思えば。
「(千束のどこが好きなん?はないでしょう!)」
ギリッと歯を食いしばる、皿洗いをしている手にも力が入る。
「(あの人もなんで千束がいないのを信じて話すんですか!)」
更に奥歯にまで力を入れる。
「(というか千束も止めに行けばいいのに!なんで黙って聞き耳を立ててるんですか!)」
歯が砕けんほどに力が入る。
皿は割れてしまうだろうか。
千束はなんだかアワアワとしている、知らない、今は無視しよう。
私も少し面白がってしまったのも悪いが、1番悪いのはミズキさんで次に悪いのは彼だろう。
私は1番悪くない、千束は三番目だ。
幸い彼が話すことは、好き嫌いではなく、どこが良いところだとかなので、はぐらかして話していたようだが、彼を意識しているらしい千束には刺激が強過ぎた。
「…はぁ」
食いしばっていた歯を解放し溜息をつく。
もうこうなったら私が出ていって話を中断させるしかない、私は悪くはないがこれでは埒が空かない。
「(決して面白そうな方がマシだなんてことは……)」
そう思ったところで彼が『お手洗いに…』と言って席を立つのが聞こえた。
千束もいないし長居するつもりもないらしい、漸く仕事の進まない状況から脱することが出来る、私が安心して皿洗いに集中しようとすると。
「おい千束〜、愛しの彼が帰るってよ〜」
「ミ、ミズキさん!!」
最大の原因であるミズキさんが厨房に顔を出してきた。
肩を壁に預けて、意地悪くニヤニヤと笑いながら千束に話しかける。
別に二人は恋仲というわけではない、そもそも私にはどこからが交際関係になるのかも知らないし、興味もないが。
だが、少なくとも今の二人にそう言った雰囲気は感じたことはなかった。
既にそういう関係なら鬱陶しいくらいに恋人の話をしてきてもおかしくないだろう。
「ミズキさん、やり過ぎですよ」
私は一応未だに揶揄っているミズキさんに注意する。
でも、ミズキさんはニヤニヤと笑ったまま、『いいじゃん、褒められてんだし』と反省の色はない。
「良かったな〜。笑顔が可愛いとか言ってたぞ、か・れ」
「ミズキさん!」
私が少し声量を上げて注意すると、『分かった、分かった』と手をひらひらとさせるが表情は変わらないままだ。
千束もこんな風に揶揄われれば本気で怒る。
たが、千束は暫く待っても肝心の千束は何も言ってこない、反応が全くない。
「千束……?どうしたん……」
千束のいる方向に顔を向けたところで言葉が止まる。
私の目の前には、泡だらけの丸く白い顔しか視界に入らなかったからだ。
「……」
「……」
「……」
三人ともが凍りついたように声を発しない。
ミズキさんですら、真顔になって表情を硬めてしまった。
時間が止まったかのようだ、何か話さなければ、そんな妙な使命感を覚えて声を発しようとしたところで。
「べ、べつに、そんなんじゃ、ないもん……」
丸い白顔の人物、私とミズキさんに見えないように大皿で顔を隠した千束が、信じられないようなか細い声を上げた。
続く!