【リコリス・リコイル二次】お皿洗いで聞き耳立てて 作:アツヨヌジミ
マズイ、口元が緩んでしまう。
「(小動物を可愛がる気持ちってこんな感じでしょうか)」
愛犬に意地悪をしている飼い主の気持ち、だろうか。
私の手を掴んで、泣きそうになっている千束にそんな感想を抱く。
「なんですか?これじゃ、行けないんですけど」
手を掴まれたまま、私は出来るだけ感情が出ない声色で話す。
「だっ、だって……」
千束は何か言いたげにしているが、はっきりとは口にしない。
自分が行きたいのなら素直にそういえばいいのに、まだ言い出せないらしい。
仕方ない、あまりイジメすぎるのも可哀想だろう、何より一応お客さんを待たせている状態だ。
「千束、やりたいのなら言ってください。いえ、この際、頷くだけでもいいですから」
私は少しだけトーンを落として穏やかに聞いた。
千束は瞳を潤ませて黙ったままだ。
ただ、泳いでいた瞳は少しずつ落ち着きを取り戻していて、
「……こくっ」
10秒も経たない内に千束はコクコクと小さく顔を縦に振った。
ようやく素直になった千束を見て私は目を細め肩を竦める。
「ふぅん……そんなにやりたいなら仕方ないですね」
腕を掴まれたまま、千束の横に並ぶように立つ、そうすると千束も腕を離した。
自由になった腕を使って千束の背中に手を当ててから、千束の耳元に口を近づけて囁く。
「大丈夫。お人好しのあの人なら気にしたりしませんよ」
「たきな……うん」
千束が頷いたのを確認してから背中を押すと千束の体は抵抗することなく簡単に前に進んだ。
「なら、早く会計を済ませて来てください」
すぐに行く、と言ったあと、急かすこともなく律儀に待っている彼の対応を済ませるように千束に言う。
千束はもう一度頷いて厨房から出て行こうとするが、厨房の出入り口の手前で立ち止まると唐突に振り返り。
「たきな、二人で一緒に行かない?」
「さっさと行け」
銃弾にも正面から向かっていける癖に何を怖がっているのか。
未だに覚悟が出来ていなかったらしい相棒のお尻を思いっきり、蹴飛ばす。
蹴られた拍子で千束は『ぐぇっ』と潰れたカエルみたいな声を上げて、勢いよく厨房を飛び出していく。
カウンターの前で待っていた彼が驚いて声を張り上げる声が聞こえた。
「アンタ、性格悪いわね、私より」
「そんなことありません」
「即答かい!いい性格してるわよ、ほんと」
千束が出て行った後、結果的に彼の後押しをしてしまったと思いながらミズキさんに返事する。
厨房から突然顔を出した千束に驚いた声を上げた彼も、自分の話を聞かれていたことをすぐ理解したらしい。
千束と2人してたどたどしく、遅々として進まない会計を済ませ、お店の前までお見送りをすると言った千束とお店から退店していった。
今はお店の外で話しているだろう。
「どんな話をしているんでしょうか」
千束の出て行った出入り口に視線を向けて呟く。
ミズキさんはそれを聞いて迷うことなく出入り口へ向かっていくと。
「聞いてみたら?扉に耳を押し当てたら聞こえるんじゃない?」
当たり前のように出入り口に耳を押し当てて始める。
私は行儀の悪さに呆れたが、外の会話への興味に勝てず、悩みながらもミズキさんと同じように耳を押し当ててしまった。
「……うーん」
扉越しの声は小さくて聞き取りづらい。
外の二人はお互いに緊張しているのか、言葉も途切れ途切れで、聞き取りづらさに拍車を掛けている。
ただ、はっきりと聞こえたのは、彼が千束に対して、『元気そうで良かった』と言ったこと。
「(そこは会えて嬉しい、とか言うところじゃないんですか?)」
なんだか聞き覚えのあるフレーズを頭に浮かべてしまう。
今日の千束の雰囲気なら、口説き文句の一つでも言ったらいいのに、これだから関係が進まないのだろう。
私はお膳立てをした手前、勝手なこととは分かっていても少しイライラしてしまい、何かそれらしい言葉が出るのを待つために耳を限界まで押しつけて、もっとよく聞こうとすると、
「ふぅー……ん?誰もいないのか?」
裏口のドアが開く音がして、店長が戻ってきた。
……戻ってきた?
「店長。どこに行っていたんですか?」
「ああ、たきな。いや、あー…。」
小走りで店長に近づいていき店長に行き先を聞いてみたが、店長の返事は煮え切らないもので、まるで言い訳を考えているようだ。
店長が開店中に居なくなるなんて余程なことのはずで、急な依頼でも入ったのか、とも思ったがそれにしては様子がおかしい。
私はかなり怪しんでいる表情をしていらしく、店長がバツが悪そうに頭を掻くと話を続けた。
「いや、すまんな、途中からお客さんが入って来なかったろう?」
「えっ?あぁ、そういえば、そう、ですね」
なんだか嫌な予感がした。
そういえば途中まではたくさんお客さんが来ていた、だから私も千束も皿洗いばかりすることになったのだ。
それがぱったりと途絶えた、『ある』タイミングから。
私は自分の考えが当たっていないことを祈りながら、店長の次の言葉を待つ。
「その、何故だか分からないが、看板がクローズになってたみたいなんだ」
「……は?」
そんな都合の良いことがあるだろうか。
こんなの小学生でも嘘だと分かる、犯人は店長に違いない。
嫌な予感は的中してしまった。
すぐ後ろでミズキさんが、くぐもった声を漏らすのが聞こえる、笑いを堪えているに違いない。
ミズキさんもグルだったのだ。
違う、どちらかと言うとミズキさんが主犯で店長がグルにされた、というのが正しいかもしれない。
とにかく、この場にいる私だけが仲間はずれにされていたらしい。
「……店長」
私はいいように使われた気がして、店長を睨みつける。
私はかなりの怨嗟を向けることに成功したようだ、店長の顔からじんわりと汗が出始めて『ごほん』と一度咳をすると私から早々に視線を逸らし、
「……お詫びに菓子でもつくろうか?」
どうやら、買収することにしたらしい。
「コーヒーでいいです。砂糖はいりません」
「……畏まりました」
今日はもう甘いものは食べられそうにない。
店長は間髪入れずに苦い飲み物を注文した私を止めることなく、いそいそとコーヒーの準備を始める。
私に冷たくされて肩を落とす店長の背中を見ながら、この後、私は自分の注文に感謝することになるだろうと確信しつつ、その原因が戻ってくるのをゆっくりと待つことにした。
終わりです
たきなの遠慮のないケツキックをどうしても入れたくて…ケツキックさせてしまいました、ケツキック好き
ミカさんも出せて良かった!
感想もしっかり目を通させてもらっています、読んでくださりありがとうございました