世界で男女比平等という言葉は無くなっていた。
魔都という異空間の出現によって……。
○
山形県の住宅街にバイク便を走らせる1人の青年の姿があった。
目的に着きヘルメットを脱いで顔を露わにする。
普通のモブ顔だが左眉に一筋傷がある。
「すいませーん。ムササビ急便です」
インターホンを鳴らして暫くすると家から女性が出てきたので、笑顔を浮かべて挨拶する。
「こんにちは!荷物をお届けに上がりました」
「あら、仁太郎くん。時間ぴったりね、いつもありがとう」
彼の名前は『
「仁太郎くんが届けてくれる荷物は丁寧に時間通り届くからみんな褒めてたわ」
「ははっ、いつも時間ぴったりって訳じゃないんですけどね」
そんな世間話をしながら届け先のサインを貰って荷物を渡すと次の目的地に向かう。
信号で止まると横断歩道を渡る園児の列が仁太郎に気づいて手を振り、仁太郎も手を振って返事をした。
仁太郎は街の人達に知られているくらい親しいのはよく街のイベントに参加して手伝いをしたり、困っている人を助けたりしているからだ。
そんな仁太郎はいつも通り荷物を届けに向かう。
○
全ての荷物を届け終えた仁太郎は事務所に戻り帰り支度をしていると、職場の正社員であり友人でもある青年が話しかけてきた。
「お疲れー、仁太郎。今日も全部荷物届けたのか」
「お疲れ、いつも通りだよ」
「いやいや、普通不在とかあるじゃん」
「居なかったらまたいけばいいだろ。俺はバイクだから色々回れるんだよ」
「それでも異常だと思うんだけど……そんなもんかね。それより今日飲みに行かないか?可愛い子がいるところ見つけたんだ」
「あー悪い、今日は帰って勉強する予定なんだ」
申し訳無さそうにする仁太郎に友人は気の毒そうな顔をする。
「資格の勉強か……大変だな」
「正社員になるには資格は必須だからな」
「はぁー……俺は正社員だけど出世できる未来が見えねぇよ。良くて行けても主任、係長。それ以上は女性じゃないと無理だわ」
友人が諦めたように愚痴を溢すのは訳がある。
今の社会は女性がとても優位なのだ。
その理由は数十年前に現れた魔都という異空間だ。
魔都には黄泉醜鬼という脅威と口にした者に特異な能力を与える桃という資源が存在した。
桃は女性にしか能力をもたらさず、これにより男女の力関係は崩壊した。
「はぁー……俺も能力欲しいぜ。能力あったらウハウハなんだろうなぁ」
「無いものねだりしても仕方ないだろ。地道に頑張るしかないって」
仁太郎が友人を慰めていると前からスーツを着た女性が歩いてきて、友人もとい田中に高圧的な態度で話しかけてくる。
「田中くん。この書類チェックして明日のイベントに間に合うようにしておいて」
「え!?あ、あの今帰るところなんですけど……」
「何、文句あるの?」
「………いえ、ありましぇん」
田中は書類の束を受け取ろうとすると書類は勝手に浮かび上がり事務所へと飛んでいった。
これが桃によって得た能力で今の世の中男性の立場は低いのだ。
女性は馬鹿にしたように鼻を鳴らすと田中の隣にいた仁太郎を見下した目で見てくる。
「あらバイト君。今日はもう上がりかしら?」
「あっ、はい」
「仕事クビになって約半年よね。まだ再就職先が見つからないのかしら?早く次の職場見つけなさいよ」
「………」
仁太郎は気まずそうにしながら黙るしかなかった。
女性はそんな仁太郎を一瞥し、離れていった。
○
仁太郎は強制的に残業になった友人に別れを告げて、自身のツアリー型バイクを走らせて帰路に着く。
その間も仁太郎は先程言われた言葉を思い返していた。
今の世の中、男性は18歳になり高校を卒業すると就職するのが一般的である。
女性優先の世界になり、大学に通う男性も少なくなっていた。
お金に余裕がある家庭ならまだしも、仁太郎は金がなく就職した。
しかし、就職直後に問題を起こしクビになってしまい今は地元の宅急便でバイトしているのだ。
そのことを思い出しながら少し気落ちして、自分の実家でもある孤児院『ヒノデ施設』に到着した。
「ただいまー」
「ジンにいーちゃん!おかえり!」
「ジンにぃ!おかえり!」
玄関を開けると小学生くらいの子供達が現れて仁太郎を出迎えてくれる。
「おかえり。仁太郎」
そそれに続いて中年の女性が仁太郎を迎えてくれる。
彼女の名は『
「ただいま、おばさん。ご飯はもう食べた?」
「ええ、私たちは先に食べたわ。貴方の分は残してあるから温め直して食べてちょうだい」
夕食を食べ終えた仁太郎はすぐに資格の勉強に取り掛かっていた。
「勉強の調子はどうかしら?」
「ぼちぼちって所かな。早く資格取って新しい就職先を見つけないと」
「………ねぇ、ジンくん。この前の話は考えてくれたかしら?」
「……俺がここで働くって話だろ。悪いけど断るよ。今でさえ子供達の数が多くてギリギリで俺が住み着いたら必要としている子に行き渡らないだろ?」
魔都が出現し、日本各地に魔都と繋がる門『クナド』も現れ、そこから化け物『黄泉醜鬼』が人間たちが住む世界つまりこちら側にやって来ては人を襲い、甚大な被害を与えてくる。
その被害にあい、親を失う子供はあとをたたず、どこの孤児院も人でいっぱいだった。
「それに働いて仕送りもしたいんだ。国から援助金を貰っていてもここの経営が苦しいのは知ってるから」
「………ごめんなさいね」
「謝ることないよ。俺がやりたくてやろうとしてることなんだから」
祥子はそれでも申し訳なさそうな表情のままだ。
そこに玄関が開く音が聞こえ、誰かが帰ってきた。
「ただいまー。はぁ、疲れた」
帰って来たのは茶色髪のショート少女で名前は『
更に既に桃を食べており、能力は発現している。
その能力は優秀で今は訓練校で、黄泉醜鬼から人類を守る女性だけの戦闘部隊『魔防隊』へ入隊するために訓練に励んでいる。
「おかえりなさい。今日は遅かったのね」
「うん、訓練後に個人特訓受けて来たから。あー、お腹減ったぁ」
「食べて来たんじゃないの?」
「明日休みだから訓練校の食堂閉まるのが早くて何も食べてないんだよね。……ねえ、仁太郎。何か作ってよ」
風夏は仁太郎の方を向き、少し高圧的な態度で言った。
「ジンくんは今勉強しているのよ。私が作るわ」
「いや、勉強がひと段落したから俺が作る。おばさんは明日の祭りで出店する準備が終わってないんだろ?そっちをやっちゃいなよ」
「いいかしら?ならお願いするわね」
祥子は仁太郎に対して高圧的になる風夏を少し心配そうに見るが奥に引っ込んで準備を始めた。
仁太郎はテーブルを片付けると台所に立つ。
「何かリクエストはあるか?」
「低カロリーでお腹に溜まって美味しいやつ。あとフレンチっぽいのがいい」
「注文が多いな……」
苦笑いしながら仁太郎は料理を作り始める。
できたのはあり合わせで作ったパスタだ。
「ほい、出来上がり」
「フレンチ=パスタって発想が貧相ね」
「嫌なら食べなくていいんだぞ」
仁太郎が皿を下げようとすると風夏はそれを取り上げて食べ始めた。
黙々と食べ進める様子の風夏に仁太郎は素直じゃないなといった表情をする。
「美味しいか?」
「ま、まあまあじゃない?」
「最近はどうなんだ、訓練校は?」
「順調よ。なんたって私、特待生だし。このまま行けば来年には魔防隊に入隊出来るかもだって」
「そんな早くにか?」
「私より年下で既に魔防隊に入隊して戦っている人だっているわよ。私は早く入隊して戦いたいの」
風夏も魔都による被害『魔都災害』の被害者で両親を失っている。
魔防隊への入隊は人一倍強いのだ。
「そうか……頑張れよ」
それを心配そうにしながらも激励の言葉を言いながら、頭をゆっくりと撫でる。
「ちょっ、ちょっと!何撫でてんなよ!」
「あ、悪い、つい昔の癖で。昔は『おにーちゃんなでてー!』ってよくせがんで来たのにな」
「はあ!?そんなことなかったわよ!?」
「いーや、あったね。撫でてやんなきゃ泣き出してたし」
仁太郎の一言に風夏は顔を真っ赤にして髪を逆立たせると彼女の周りからバチバチと静電気が走る音がし、電気が発生している。
「オ、オイ!能力を使うなって!?」
「私!そんなことしてないわよ!」
「わかった!謝るから!」
慌てて謝る仁太郎と照れ隠しで怒る風夏の様子を祥子は陰から見て安心の笑みを浮かべた。
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その頃、魔都では1人の少女が魔都のある一帯を眺めていた。
「さて、ここらだね。アレがあるのは」
その少女は美少女と言われても何もおかしくない容姿だが美しい黒髪の末端は蛇の形をしており、まさに異形の者だ。
彼女は振り返り、自身の背後で集合している多くの醜鬼に向かって話始める。
「さぁ、お前たち。ここら辺にある遺跡を見つけて僕に知らせるんだ。見つけた奴には褒美を与えるよ」
醜鬼は少女の言葉を理解したかのように雄叫びを上げ、その場から駆け出した。
少女は荒れた土地の先を見つめて、我慢していた好きな物をあり付けるかのようにペロリと自身の唇をペロリと舐めた。
人物紹介
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赤木 仁太郎(あかぎ じんたろう)
年齢:21歳
性別:男
身長:175cm
見た目:黒髪のツーブロック。体は中肉中背だが背丈は高い。
詳細
児童養護施設で育った青年。
高校卒業後は一般企業に就職したが、女性上司の反感を買い入社3ヶ月でクビになってしまった。
そのためバイトはしているが一人立ちできずヤキモキしている。
両親は魔都災害により亡くなっており、それ以来叔母が経営する児童養護施設『ヒノデ施設』にて育った。
趣味はバイクと美味い飯を食うこと