魔都精兵のスレイブ:紅鬼伝   作:マーベルチョコ

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第10話 泣く妹、笑う兄

メイド喫茶での一幕を終えて、仁太郎達はグラウンド中央の特設ステージの周りに集まっていた。

ここでは模擬敵に対して生徒達が戦う姿を見れる。

生徒は参加制だが特に成績優秀者は学校から出場を誘われたりする。

勿論その中には風夏もおり、仁太郎の前で風夏は模擬敵を圧倒していた。

 

「風夏の奴、あんなに凄かったんだな」

 

「あの子は本当に強いわよ。もう隊員クラスの実力もあるし、経験を積めば副組長も夢じゃないわね」

 

仁太郎は風夏の実力に驚いていた。

風夏や祥子から成績は優秀だと聞かされていたがその実力を実際に見るとその凄まじさがよく分かった。

強力な電撃と束ねて一本の槍と化した雷が敵を穿ち、相手の攻撃には電気の磁力を活かした高速移動で全て避ける。

始めてほんの数分で模擬敵を圧倒してしまった。

 

「ふぅ……まっ、こんなもんでしょ」

 

風夏は模擬敵を倒しきり、一息つくとステージ外で見学していた仁太郎と目が合う。

仁太郎の顔は風夏の活躍で喜んでおり、風夏もそれを見て嬉しくなる。

ステージを降りようと出口に向かおうとした瞬間、先程の模擬敵と同じように新しい敵が現れた。

しかしさっきの模擬敵は形だけ醜鬼に似せた人形だったが、今度のは1体は大柄で凶悪な見た目と人と同じくらいのサイズだが神主のような法衣で顔を隠している個体だ。

 

「何これ?サプライズかしら?」

 

首を傾げて運営側を見ると教師陣達がざわついていた。

教師陣達の方を見ていると大柄な醜鬼が風夏に向かって、丸太のような腕を振り下ろした。

風夏は自身から発生している電磁波により予知して避けることはできたが

醜鬼の敵意がある行動に驚いた。

 

「コイツ……今私を殺そうと……!?」

 

そう呟いた瞬間今度はステージ外から悲鳴が上がった。

悲鳴が上がった場所では十数本の腕が生えた醜鬼が人を襲っており、その手には教師の首が掴まれていた。

 

「しゅ、醜鬼だぁ!!!」

 

突然の緊急事態に周りは悲鳴を上げて、我先と逃げ出し始める。

学校の教師達は醜鬼と戦うために前に出るが更に醜鬼の異常体が複数現れ

次々と倒されてしまう。

 

「これは……!みんな早く校舎へ逃げて!仁太郎もよ!」

 

「風夏はどうするんだよ!?」

 

「……っ!あの結果は外から操作されないと開かない仕組みなの。風夏だけだと出られないわ」

 

「じゃあ早く開けに……」

 

言葉を続けようとしたが轟音が響き、近くで醜鬼が暴れていて下手に助けに行けない。

 

「おばさんは子供たちと一緒に避難してくれ!俺が風夏を助けに行ってくる!」

 

「待ちなさい!仁太郎!?………っ!みんな、私について来て!」

 

 

僅かな隙を見つけた仁太郎は祥子達と離れてステージに近づいて行く。

祥子はすぐに追いかけようとしたが子供たちのことを置いて行けず、苦渋の決断で子供たちを連れて学校へと避難した。

 

 

○

ステージ内でほ2体の異常体醜鬼と対峙していた。

 

(まだ結界が消えない……外も大変なんだ。コイツらだけでも私が倒す)

 

風夏は覚悟を決めて醜鬼達を睨む。

 

(巨体の醜鬼は明らかに前衛タイプ。コイツはそんなに問題じゃない。問題は奥のヤツ。ああいう後衛タイプは厄介なヤツが多いから……)

 

「速攻でどっちも倒すわよ!」

 

風夏は醜鬼に向かって走り出すと巨体の醜鬼も風夏に向かって走り出す。

巨体の醜鬼が腕を振り下ろすが桃の力と電気の力で活性化された筋力で醜鬼の上空へと跳ぶ。

 

「くらいなさい!!」

 

巨体の醜鬼に両手を向けるとそこから電気が放たれ、醜鬼に直撃する。

電撃は醜鬼の体を焦がし、体から煙を上げて地面に倒した。

今度は手に溜めた電気を槍状にすると人型の醜鬼に向かって投げる。

人型は手を前に向けると法陣が展開され防ごうとするが雷の槍は簡単に法陣を打ち破り、醜鬼を突き刺した。

 

「ふぅ…こんなもんでしょ」

 

一瞬で2体を倒した風夏は一息つく。

先日起きた魔都災害で仁太郎に怪我をさせた時から風夏は以前より更に訓練に力を入れるようになった。

大切な人が傷つくのはもう見たくないの一心で風夏は更に強くなり、最早組員の実力を頭ひとつ抜けている程だった。

結界外では未だ先頭が続いており、訓練校側はやや不利な状況だった

結界を無理矢理破り、加勢しようとした時電磁波のセンサーが倒した筈の巨体の醜鬼が動くのを感じ取った。

 

『グウゥ…っ!』

 

「タフね。なら今度はもっと強力な一撃を……!」

 

倒しきれていなかった手に電気を集めて放とうとした瞬間、手首に紫色に光る錠が巻き付いた。

すると集められた電気が霧散し、途端に力が入らなくなってその場に膝を突いて座り込んでしまう。

 

「な、に、これ……」

 

強い脱力感と息苦しさを感じ、呼吸が荒くなる。

ふと目に入ったのは黒焦げになった人型の背中が内側から破れている様子だった。

 

「これ、アイツの……!」

 

人型の醜鬼が何かをしたと推理した風夏だがこの状況を打破できた訳ではない。

巨体の醜鬼が近づいて喰らおうと口を大きく開け始める。

不味い、と思ったがそこに仁太郎が駆け寄って来た。

 

「風夏!大丈夫か!?」

 

「仁太郎……!アンタなんでここに入れたの?」

 

「いつの間にか結界が消えたんだ。それより立てるか?」

 

風夏は足に力を入れるが立てる程の力が入らない。

 

「……無理、力が入らない」

 

「そうか……」

 

仁太郎は体まで大口を開き凶悪な牙を見せる醜鬼と周りで暴れる醜鬼達を見て、覚悟を決める。

 

「風夏、そこでジッとしてろ」

 

「え、アンタ何しようとしてんのよ……早くここから逃げて!」

 

「可愛い妹を置いて逃げるなんてできるかよ」

 

そう言って風夏に笑顔を見せ、醜鬼に一口で食べられてしまった。

 

「仁太郎ーー!!」

 

風夏の叫びが響いた瞬間、醜鬼の口から炎が噴き出し、全身を燃やし尽くした。

醜鬼の体が灰になり朽ちていき、鎧の姿へと変身した仁太郎が立っていた。

 

「え……?」

 

「俺が守るから」

 

 

○

その頃、魔都のとある場所では紫黒が水面に襲われている訓練校の様子を写していた。

最初はつまらなそうに見ていたが鎧の姿へと変身した仁太郎を見て興奮していた。

 

「やっぱり!遺跡はあったのに何もなかったから人間の世界にあると予想していたけど……まさか人間が持っていたとはねぇ」

 

紫黒は鎧姿の仁太郎を獲物を狙う蛇のように見つめる。

 

「さぁ、狩りと行こうじゃないか」

 

 

○

鎧の姿へ変身したことに驚く風夏は仁太郎から目を離せなかった。

 

「仁太郎……その姿って」

 

「ごめん。後で訳は話すからそこで待っていてくれ」

 

仁太郎は風夏から視線を外すとステージに次々と乗り出してくる醜鬼達に目をやる。

全てが通常の醜鬼とは違う異常体醜鬼で様々な個体が仁太郎に襲いかかってくる。

仁太郎も走り出して、醜鬼の群れに突撃する。

 

「オラァッ!!」

 

最初に醜鬼一体を一撃で倒すが次々と襲いかかってきて敵に埋もれそうになるが全身から発火させて一気に燃やし尽くす。

しかし、長い鉤爪を持つ醜鬼に弾き飛ばされ転がると火が消えてしまい、そこに大蛇の醜鬼が巻きついて締め上げる。

 

「ぐぎぎ……!く、くるし……!」

 

『炎を出せ!そんな奴は燃やし尽くしてしまえ!』

 

「ちからが……!」

 

炎を出そうにも力が入らず、抜け出すことができない。

そこに先に倒した醜鬼より巨大な醜鬼が近づいて足を振り上げる。

 

「あ、まず…!」

 

言い切る前に仁太郎は踏み潰される。

蛇の醜鬼は圧死したが鎧のお陰で仁太郎は生きているが大きなダメージを負ってしまう。

動けない仁太郎に向かって今度は拳の連打を浴びせてくる。

徐々に地面に減り込んでいくが打ち込んでくる拳を指が食い込む程に掴んで止める。

空いている拳で殴ってくる醜鬼に対して仁太郎も炎を纏った拳をぶつけ、

醜鬼の腕は半身もろとも吹き飛ぶ。

 

「はぁ……はぁ……痛ぇよ」

 

そう呟くと今度は長い鉤爪を持つ醜鬼が仁太郎に向かって連撃をぶつけてくる。

鋭い鉤爪の攻撃で鎧の傷が増えていくのに対して、仁太郎は鉤爪を掴んで止め、ドロップキックで蹴り飛ばす。

地面に倒れて息を整える仁太郎に覇鬼が話しかける。

 

『歯を食い縛れよ小僧。今までは一体ずつだった奴らが連携してきた』

 

「分かってる」

 

そう言い、ふらつきなら立ち上がり風夏の方を見ると醜鬼達が近づいているのが見えた。

 

「まずッ……あぁっ!?」

 

駆け寄ろうとしたが梟に似た醜鬼が空から仁太郎を掴んで飛び上がった。

鋭い爪が鎧に食い込み、ヒビが入る。

 

「はっ、なせ!」

 

掴んでいる爪を引き剥がそうともがくがそれに気づいた醜鬼は急降下して仁太郎を地面に叩き付ける。

 

「がぁっ!?」

 

再度叩きつけようと上昇する。

仁太郎は叩きつけられた衝撃で身体が思うように動かすことが出来なかった。

ふと視線を下に向けると丁度真下辺りが風夏のいる場所であることに気づき、痛む身体を無理に動かし醜鬼の脚を思いっきり殴る。

 

『ギャアッ!?』

 

強い力で殴ったことで醜鬼の脚から骨が飛び出し悲鳴を上げる。

体の自由ができた隙に醜鬼の顔を掴んで殴りつける。

仁太郎の拳は醜鬼の顔を突き破り、落ちるのを利用してそのまま風夏を襲おうとした醜鬼を倒す。

 

「がはっ!……はぁ、はぁ」

 

「仁太郎……!」

 

「大丈夫だ。必ず助ける」

 

鎧の各所にヒビが入り、隙間から血が流れている仁太郎の姿に風夏は悲痛な声を上げそうになるが仁太郎はそれを止めて週達を見据える。

醜鬼達は仁太郎目掛けて一斉に襲い始めた。

 

 

○

訓練校襲撃から数十分経過後、襲撃現場は雨が降り始め天気が悪くなる。

そこに六番組、二番組の合同部隊が現場に到着した。

 

「チッ!到着が遅れちまった!さっさと救助を始めるぞ!!」

 

二番組組長 美羅は天花の能力で到着したのと同時に自身の能力『緋色の連隊(オールキリング)』を発動し、自分の分身体を救助に向かわせる。

 

「上運天組長、何体かは私と一緒に襲撃現場の中心へ」

 

「戦うなら俺(本体)が行くぜ」

 

美羅の言葉に頷いた天花は美羅と共にグラウンドに向かう。

グラウンドは荒れに荒れており、その中心では醜鬼が背中を向けて立っていた。

身構える2人だがすぐに様子がおかしいことに気付く。

棒立ちしていた醜鬼の中心から炎が吹き出し全身を燃やして、醜鬼は倒れる。

醜鬼の向こう側には土と血で汚れ、欠損が激しい鎧姿の仁太郎が肩で息を切らせながら立っており、限界なのは目に見えていた。

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

「………」

 

「あれは……報告にあった『白鎧の鬼』か。って、おい天花」

 

天花は美羅が呼び止めるの無視して仁太郎に近づく。

 

「辛そうだね、白鬼くん。……いや、赤木 仁太郎くんと呼んだ方がいいかな」

 

「………気づいてたのか」

 

鎧は徐々に剥がれ落ち、血だらけの仁太郎の姿が顕になり、鎧が完全に無くなると地面に膝から崩れ落ちる。

雨で血が地面に流れ落ち、血が広がっていく。

 

「今回は逃げないんだね」

 

「……もう無理だろ?」

 

力無く笑う仁太郎に天花は手を伸ばすと風夏がふらつきながら仁太郎を守るように天花の前に立ち塞がる。

 

「待ってください!出雲組長!仁太郎は…兄は私や他の人たちを助けてくれたんです!敵じゃありません!!」

 

「………霧海さん、そこを退きなさい。危険だよ」

 

「兄は確かに特殊な能力を持っていますが人間です!私を守ってくれた!

危険じゃありません!!」

 

風夏は必死に訴えるが天花は退こうとせず、そのことが分かった風夏は能力を使って抗おうとする。

そのことに気づいた美羅は風夏を取り押さえようとするが天花が手で制する。

風夏は能力を発動しようとするが醜鬼の呪いがまだ効いているのか雷が出せない。

 

「なんでっ……出ないの……!」

 

「……風夏、もういいんだ」

 

「良くない!だって私が……!私のせいで……!」

 

目尻に涙を浮かべながら力を必死に込めるが何も起こらない。

仁太郎は自分の為に必死になる風夏を見て少し笑みを浮かべて、傷だらけの手を風夏の頭に優しく乗せて撫でる。

 

「じ、んたろう……」

 

「お前はやっぱり優しいなぁ。俺の自慢の妹だ」

 

そう言って安心させるために笑顔を見せたが、風夏は後悔と懺悔の気持ちで涙が止まらず仁太郎に縋りついて謝り続けた。

 

「組長さん、抵抗はしない。だから風夏には何もしないでくれ」

 

「……分かった」

 

こうして異常体醜鬼32号『白鎧の鬼』、赤木 仁太郎は魔防隊によって捕獲された。

 

 

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