組長会議で怒りにより暴走した仁太郎は再び牢に入れられた。
「ちょっとしたアクシデントが起きたけれど、アレのいいパフォーマンスにはなったんじゃないかしら?」
「パフォーマンス?わざと怒らせたのですか?」
「ええ。流石に一般人、まして将来有望な組員候補を犠牲になんてしないわ」
恋の言葉にほぼ全員が嘘だと分かった。
山城 恋は国益のためなら人を1人2人犠牲にすることを厭わない女だ。
組長達がそう考えている中で三番組組長 月夜野ベルは仁太郎が取り押さえられた際に恋の目が自分で遊ぶ時と同じ目で仁太郎を見ていた事に気付き、心の中で合掌していた。
「あの程度はアレの力を見れたという訳ではないですな。それにまだ反骨精神がある様子では危険性の方が高い」
仁太郎の管理について最も否定的なりうが言い、恋は少し考える。
「ふむ……なら私達に従うようにすればいいのね?」
「何か方法でもあるンすか?」
美羅の質問に恋は笑顔で拳を作って見せる。
「もちろん、力でね♪」
○
十番組の寮前に連れてこられた仁太郎の少し離れた先に恋が笑みを浮かべて立っていた。
「先ぶりね。32号」
「その番号で呼ぶのやめろよ。気分が悪い。俺には赤木仁太郎って名前があるんだ」
「人間ではないものに名前は必要ないでしょ?」
どこまでも人の神経を逆撫でしてくる恋に仁太郎は怒りを募らせるが何とか理性で押さえ込む。
すると組員が仁太郎の拘束具を外し、目の前に巻物を差し出す。
「そこに名前を書きなさい。今からテストをするから」
「はあ?」
「激!!恋様の言うことは絶対です!!早く書きなさい!!」
「誰、アンタ?」
言われた通り巻物に名前を書くと恋と仁太郎を中心にドーム状の結界が張られる。
「これは銀杏の能力『
「だからそのテストって何だよ?」
「貴方の実力をね。つまり戦うのよ、私と貴方が」
恋から威圧感が溢れ、それを肌に受けた仁太郎の額に冷や汗が流れる。
その様子を寮の中で見ていた各組長も真剣な様子で見る。
緊迫した空気が流れる中、仁太郎が口を開いた。
「断る!」
「………は?」
仁太郎の言葉に恋はらしくない間の抜けた言葉を出した。
「嫌だよ。何でアンタと戦わないといけないんだ」
「貴方の実力を測るためよ。実力を示さなきゃ殺されるわよ」
「それでも嫌だね。俺にとってはアンタと戦う理由にならない」
恋は眉を顰め、仁太郎を訝しげに見る。
(さっきと言っている事が全く違うわね。約束を反語にしたから怒った?それとも……?)
「そう。これなら戦ってくれるかしら」
「何だよ?」
恋は指を1本立てる。
「貴方の家族1人を人質にしましょう」
「あぁ?」
仁太郎の目に明らかな敵意が宿る。
「嘘っぱちだ」
「嘘だと思うかしら。先の会議でも言ったわよ。貴方の家族を利用すると。私を国民を第一に想う聖人だと思っているのであれば間違いよ。私が守るのは国よ。国のためならば人一人程度は犠牲にするわ」
そう語る恋の目は真剣なものだった。
仁太郎はその目に対してまた怒りが湧くが諦めたようにため息を吐く。
「分かった、戦う。だから俺の家族を巻き込むな」
「ええ、分かったわ」
(やっぱり家族が鍵か……)
恋は冷静に考えながらいい笑顔で答える。
「それで勝ちの条件は?」
「そうね。本当は私を倒せればと思ったけど、それだと絶対に無理だから私に傷一つでも付ければいいわよ」
自分に有利すぎる提案に仁太郎は訝しげな表情になる。
「傷一つってそんなの俺に有利だろ?」
「有利?とんでもないわ。これでも貴方がクリアできるかギリギリのラインなのだから」
「いや、でもな……女性だし、もし顔に傷でも付けたらって思うと」
仁太郎の言葉に恋の眉がぴくりと動く。
「傷付けたら?貴方、私の事を舐めてるわね」
「え?いや、舐めてなんて」
「特殊な力を持ったから自分は魔防隊総組長より強いと思っているのかしら?だとしたら、とんだお調子者ね」
恋の声色は少し低くなり、その両目に刻印が刻まれる。
「そう言えば、まだ自己紹介をしていなかったわね。私の名前は山城 恋。魔防隊十番組組長兼魔防隊総組長を務めているわ」
恋の周りの空気が少しピリついたものとなり、戦闘経験が浅い仁太郎でも感じ取れた。
『おい小僧。身構えろ』
「え?」
「そして総組長とはどういう事か分かっているかしら?それは……」
次の瞬間、恋の右足から極光が放たれ仁太郎の胴体を貫く。
仁太郎の胴体には風穴が空き、その場に崩れ落ち、更にいつの間にか側に立っていた恋に頭を踏みつけられる。
「魔防隊のトップに立っているってことよ」
○
仁太郎と恋のやり取りを会議室のモニターで見ていた各組長はそれぞれの反応を示していた。
「ひゃー、総組長キレちゃってるねぇ」
「まっ、あんな言い方されりゃプチっていっちまうだろ」
夜雲はキレた恋に倒された仁太郎を少し気の毒に思い、美羅は自分もキレていたと恋に同意する。
「………」
「(ガダガタガタ)」
八番組組長ワルワラ・ピリペンコは興味なさげにモニターを見ていたが少し満足そうな表情をし、ベルはキレた恋を見て恐怖で震えていた。
「少しやり過ぎでは?」
「あのままじゃ彼が潰れてしまうよ」
「私の能力が効かなかった以上、奴の意思で服従させるしかないだろう」
「あのまま潰してくれても構わないけどね」
九番組組長 東 風吹希と天花は仁太郎を擁護するように言うが、その反対に京香、りうは恋の行動に賛成しているような発言をする。
○
仁太郎の頭から足を退けると少し離れた所に蹴り上げる。
「立ちなさい。もう傷は治っているはずよ」
「……はっ!?」
目を覚ました仁太郎は起き上がって自分の体を触る。
先の攻撃で胴体に穴が空いたはずだが既に無くなっている。
瞬殺された事に冷や汗を掻きながら立ち上がって恋と向き合う。
「早くあの姿になりなさい。その状態で戦っても意味がないわ」
『小僧、あの女の実力は確かだ。今のお前では逆立ちしたって勝ち目がない。一気に勝負をつけろ!』
「……分かってるよ!!」
仁太郎の体が炎に包まれ、晴れると鎧を纏った姿になった。
恋は両目の文字を変化させて仁太郎を見るが何も起こらない。
(私の無効化能力で解除できないか)
仁太郎は恋に向かって走り、拳を振り上げるが次の瞬間には恋の美脚が鎧に減り込んでいた。
「ぐあぁっ……!」
「思った以上に硬いわね。もう少し強めでもいいかしら」
苦悶の声を上げる仁太郎に対して、次は鎧に減り込んでいる脚を支えにして、逆の脚で仁太郎の頭を蹴る。
ボールのように跳ね飛ばされた仁太郎は頭から地面に落ちた。
「いっづぅ……!動きが見えない……!」
「そんなもの?期待外れね」
蹴られた部分の鎧は凹み、ひび割れを起こしてしまっている。
すぐに修復して再び恋に突撃する。
しかしその度に恋に蹴られ続け、時には鎧から骨が飛び出す程にぐちゃぐちゃにされ、体に風穴を開けられてしまう。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
仁太郎は何度も死に至る程の攻撃を受けて、片膝をついて乱れる呼吸を整えていた。
「中々根性があるじゃない。だけど分かったでしょう?貴方では私に手は届かないわ。大人しく私に飼われなさい」
「……っ、別にアンタらに従うのはどうでもいいんだよ。でもな……俺の家族に手を出そうしたお前には従いたくない!」
顔を上げて恋を睨み付ける。
仁太郎のその態度に恋は少し眉を吊り上げる。
「そう……なら潰しちゃいましょうか」
その一言と共に恋は上空に飛び上がり、空中で止まる。
『小僧、デカいのが来るぞ』
「……だよな」
『策はあるのか?』
「あるに決まってるだろ!」
仁太郎は両拳に炎を纏わせて上空に佇む恋を見据える。
それに対し、恋は両目の文字を同じものに揃える。
「これで喰らって生きていたら、貴方を飼ってあげてもいいわね」
(総組長の攻撃は明らかに俺より強い。なら力を一点に集中させて突っ切ったところの隙を突く!)
恋は足を
放たれた極光は仁太郎の視界を覆い尽くした。
「は?こんな避けれ……」
仁太郎が言い切る前に攻撃に飲み込まれ、大爆発が発生する。
恋は大量の土煙が立ち込める中心を見下ろす。
「けほっけほっ!」(恋様激ヤバすぎ!私の能力でもこれは流石に死んじゃうじゃ……)
銀杏がそう思っていると恋は一息つき、下に降りる。
「銀杏、結界解いてもいいわよ」
「え?ですがまだ……」
「これを喰らって動ける訳ないわ。煙が晴れたら回収して檻に入れておいてちょうだい」
恋はそう指示を出して寮に戻ろうと背中を向けた瞬間、煙の中から傷だらけの仁太郎が恋に向かって飛び出した。
「ッ!」
「やっと隙を見せたな!」
一瞬の隙を逃さまいと恋に飛びつくが恋はその場で宙返りをする。
「隙?違うわ。これは余裕よ」
仁太郎の突撃を躱すのと同時にまた蹴りを繰り出すが、仁太郎は体で受け止めて即座に足を掴む。
「オラァッ!!」
「ぐっ!?」
仁太郎は足を掴んだまま恋を地面に倒すと馬乗りになって左手で恋の襟を掴む。
「退きなさい!!」
しがみつく仁太郎を退かそうと顔に向かって強化された拳で殴りつける。
大砲のような威力の拳が兜を通して頭に衝撃が走るが仁太郎は掴んだ襟を離さない。
何度も殴りつける拳を払いのけると空いていた右手に炎を灯して、恋に向かって振り抜く。
「オオォッ!!」
「くっ……!」
たまらず恋は迫る攻撃に目を閉じてしまう。
何かがぶつかる音は聞こえるが、痛みは来ないので目を開けると自分の左横を通り過ぎる仁太郎の腕が見えた。
恋は怪訝な顔をしながら仁太郎に質問する。
「………どういうつもりかしら?」
「言っただろ。俺はアンタと戦わない。戦う理由なんて無いからな」
兜を解除して血と腫れで酷い顔になっている素顔を見せながら、そう言って右手を見せると焼き切れた恋の髪飾りが握られていた。
「アンタに傷一つ付ければ俺の勝ちなんだろ?悪いな髪を傷つけて」
仁太郎はそう言うとフラリと体を揺らして横に倒れた。
鎧は解除され、恋の攻撃によって同じく傷だらけの肌が見える。
恋は少し焦げた髪を撫でながら立ち上がると気絶している仁太郎を見下ろす。
すると、そこに銀杏が恐る恐る声を掛けてきた。
「あ、あの恋……様?」
(ひぃぃぃっ!絶対激怒ってるわよ!)
「銀杏、能力で彼の傷を治してあげたら医務室で寝かしておいてちょうだい」
「え、えぇ?」
「どうしたのかしら?返事は?」
「は、はい!」
恋は銀杏の返事を聞くと寮へと戻っていく。
ふと視線を下に向けて、手に握られた焦げた髪飾りを見る。
(『悪いな』ですって?ふふ……あんなに痛めつけてあげたのにまだそんな事を言える余裕があるのね)
目は悔しさで眉間に皺が寄っているが、その口はこれから嗜虐的笑みを浮かべていた。
(これからどう調教してやるか、楽しみだわ)