魔都精兵のスレイブ:紅鬼伝   作:マーベルチョコ

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第14話 十番組での奉仕活動

テーブルに並ぶ料理を口に運び、数回咀嚼して恋は箸を置いた。

 

「美味しく無いわ」

 

それを聞いたエプロンを着ている仁太郎は少し肩を落とした。

 

「そうか……施設の子供達には好評なんだけどな」

 

「不味くもない、ただ普通なのよ。もっと精進しなさい」

 

「ついこの間まで一般人だったんだ。いきなりそんなことを言われてもな」

 

上から目線の言葉に仁太郎は嫌そうな顔をする。

それを見て恋は落胆したようにため息を吐く。

 

「名目上、貴方はここの管理人になる。管理人は文字通り私達の生活を管理するの。いつも命懸けの隊員達に満足できるような物を作れないといけないわ。今は別の管理人はいるけどその管理人もいつまでも居るわけじゃない。貴方一人になって貴方の普通の料理を食べて戦闘で死んだ時、ウチの子たちや貴方はどう思うのかしら?」

 

「………」

 

恋の言葉に仁太郎は眉間に皺を寄せる。

 

「……はぁ、そこで返事するなり言い返せば多少は見直したかもしれないのに。ほら次は掃除よ」

 

その後も様々な家事を試されたが全てが恋の満足のいくレベルではなかった。

全ての家事で恋の容赦ないダメ出しと叱咤を浴びた仁太郎は疲れをいつも以上に感じて床に突っ伏していた。

 

「今日はここまでよ。また明日、朝食から始めるわ。1食分作りなさい」

 

「……いきなり全員分を作れって言い出すかと思った」

 

「あんなレベルの物を他の子たちに食べさせるわけにはいかないわ。私が食べる分よ」

 

「別に俺が自分で食べる分を作って総組長が少し味見すれば良いんじゃないか?」

 

「自分用に作ったら手抜きするでしょう?それに貴方を魔防隊に引き入れたのは私よ。私が最後まで監督する義務があるわ。じゃあまた明日」

 

恋はそう言って自室へと戻った。

仁太郎は疲れで返事することができず、ヨロヨロと立ち上がって掃除道具を片付けて割り当てられた部屋に戻ろうとしたが途中で足を止めた。

 

『どうした?戻らないのか?』

 

「……」

 

訝しげにする覇鬼が仁太郎に聞くが、何か考え込んで黙ったままだ。

すると部屋とは反対方向の食堂に向かって行った。

やがて辿り着くとそこには明日の準備をしている管理人がいた。

 

「あら貴方は……」

 

「お願いがあります」

 

 

次の日の朝、恋の前には仁太郎が作った料理が並んでいた。

全ての料理を一口ずつ食べて恋は口を開いた。

 

「美味しくないわね」

 

「……」

 

恋の一言に仁太郎は少し残念そうにする。

 

「……けど昨日よりはマシだわ」

 

恋はそう言って仁太郎の指先を見る。

そこには絆創膏が大量に貼られており火傷の跡もある。

 

「そんなに努力するなんて殊勝な心掛けじゃない?とうとう犬になる気になったかしら」

 

恋は揶揄うような目を向けるが仁太郎は鬱陶しいそうにする。

 

「んなわけねぇよ。ただ……昨日言われたことは正しいと思った。俺の手抜きで命掛けてる人が残念な気持ちになるのは申し訳ない。だから……これからご指導、ご鞭撻をお願いします」

 

そう言って仁太郎は恋に頭を下げた。

恋は仁太郎のその様子に満足気だった。

 

「素直に頭を下げるなんて偉いわね」

 

「頭を撫でるなよ……!」

 

 

仁太郎には管理人の仕事以外にも任せられる仕事がある。

それは戦闘もそうだが、恋の身の回りの世話もだ。

仕事関連は仁太郎が見れない部分もあるのでお茶汲み等(美味しくなければ何度も淹れ直させられている)しか出来ていない。

しかし、身の回りの世話で最も大変なのは2つあった。

その一つは恋の飼い犬である『要』と『雅』の世話である。

 

「「ウゥ〜〜」」

 

「何で唸るんだよ!?ただ飯を持ってきたのに!?」

 

要と雅は餌を持って来た仁太郎を見て、唸り声を上げていた。

猫派な仁太郎は犬派ではないとしても初対面の犬にいきなり警戒されてショックだった。

恋の命令でボールを使って遊ぶように言われたが2匹はボールそっちのけで仁太郎に噛みついて来て、恋はそれを見て愉快そうに笑っていたのだった。

 

そして、もう一つの大変なのは風呂での世話だった。

何故か恋は風呂上がりの世話を仁太郎にさせていたのだ。

仁太郎は恋が風呂から上がるまで出入り口の所で正座して待機させられていた。

 

(何で俺はここにいるんだ?)

 

訳が分からないと言った表情で座っていた。

これは恋の考えで上下関係を完全に分からせるためだった。

恋の裸を見て欲情して襲ってきたら叩き伏せる。

言うことを聞けば裸を見れてご褒美になり手を出せば叩き伏せる、という

シンプルな考えからだった。

一見すると頭の悪い作戦だがこれは恋が仁太郎を人間として見ておらず、良くて躾のなっていない野良犬程度の認識だからだ。

 

『男としては嬉しいんじゃないか?むかつくがアレは良い女だろう?』

 

「いきなり犬になれって言う女を良い女って言えるかよ」

 

覇鬼とそんな話をしていると恋が風呂から出てきた。

美しい黒髪が濡れて柔肌に張り付き、その肌も濡れて赤く火照っており艶かしい輝きを持っていた。

仁太郎は顔を赤くして顔を背けて必死に意識しないようにしていた。

 

「………」

 

「何しているのかしら?早く拭いてちょうだい」

 

「自分で拭けよ……俺は男だぞ」

 

「目上の人間に敬語も使えないワンちゃんが何を言っているのかしら?」

 

そう言われない仁太郎は顔を赤くしたまま先に体を拭いていく。

抜群のプロポーションを持つ恋の体を拭いていくと全体に程よく柔らかいが胸と尻あたりで特に柔らかさを感じて顔に更に熱が溜まっていく。

 

「早く拭いてちょうだい。湯冷めしてしまうわ」

 

「は、はい……」

 

「ふふ、何で敬語になっているのよ」

 

漸く体を拭き終えた仁太郎は疲れがどっと体に表れ、しんどそうにする。

 

「さぁ、次は髪よ。丁寧にやりなさい」

 

「わ、わかった……」

 

仁太郎は頭が若干のぼせ上がった状態で頭を丁寧に拭いていくら、

 

「ん……頭拭くの上手いわね」

 

「施設に子供達がいたからな。男の子ならともかく女の子は優しく拭いてあげないと」

 

そう言いながら頭を拭いていく仁太郎の顔は施設のことを思い出し懐かしそうにしていた。

そしてドライヤーで仕上げると恋の髪は先程より艶を増していた。

 

「ふぅ……まぁまぁね。これからも頼むわ」

 

「なぁ、頭だけってのは……」

 

「駄目よ」

 

「…………」

 

 

そんな日常の業務をこなしながら十番組領内に現れた醜鬼の討伐にも駆り出されていた。

炎を纏った拳が醜鬼に突き刺さり倒して行き、やがて全ての醜鬼を倒すと仁太郎は考え込んでいた。

 

「どうしたのかしら?」

 

「いや……戦った醜鬼だけどさ。似たような奴らしかいなかったから」

 

「そういえば天花の報告では貴方は異常体醜鬼としか戦っていなかったわね」

 

「異常体醜鬼?」

 

「この際だから説明してあげるわ。通常醜鬼は一定の姿が通常なのよ。今日貴方が倒した奴らね。だけどその中でも時折姿形が通常と異なる個体が現れるの。それが異常体醜鬼。そしてその中でも甚大な被害をもたらした個体には番号が振られるの。貴方みたいに『異常体醜鬼32号』のようにね」

 

仁太郎はその呼び名に少し嫌そうな顔をした。

 

「それでどうかしら。私の組の子たちは?」

 

恋は仁太郎に自分の組員の戦闘様子を見せていた。

 

「……まぁ、やっぱりアンタの部下ってだけあるよ。全員が強いと思う。けど少しワンマン行動が目立つな。1人で行動しているから危なかっしい所があった」

 

「ふむ……(素人という割には周りをよく見てる。案外掘り出し物かしら)」

 

恋は仁太郎の隠れた才能を見つけ出したのかもしれないとほくそ笑んだ。

 

 

ある日、仁太郎が掃除をしていると突然背後から蹴られて前のめりに倒れてしまった。

 

「いてて……いったい何だよ」

 

「邪魔よ。寮内で醜鬼がウロチョロしないでちょうだい」

 

十代であろう2人の組員が倒れた仁太郎を恨みをこもった目で睨みつけていた。

 

「はぁ……」

 

「…‥なによ。何か不満でもあるわけ?」

 

「いや、何でもない」

 

仁太郎は少しため息を吐くと気にした様子もなく立ち上がる。

するとその様子が気に食わなかった組員の1人がくってかかってきた。

 

「…っ!醜鬼ごときが舐めた態度取っているんじゃないわよ!!」

 

そう言いながら仁太郎の頬を叩いた。

強化された腕力での殴打は一般人にとってはバットで殴られたのと同等の威力だ。

殴られた衝撃で倒れてしまい、頬は赤く腫れ上がって血が流れる。

 

「ちょっと!やりすぎだって!」

 

「でも!コイツが山城組長に告げ口なんてしなければ……!」

 

もう1人が流石に不味いと思ったのか止めに入るが叩いた本人は怒りが収まらないようだった。

仁太郎は叩かれても何も言わず、殴った組員を少し見て業務に戻った。

その様子にまた気に障った組員は仁太郎にまた手を上げようとする。

 

「この……!アンタが山城組長に告げ口しなければ……!」

 

「貴女達!いったい何をしているの!」

 

そこに上司であろう組員が現れた。

上司は仁太郎達に近づくと2人の組員は怯えた様子で固まる。

遠くから声が聞こえていた上司は大体の事態を把握しており、2人に詰め寄ろうとするが仁太郎が間に入る。

 

「彼女達は掃除のミスを伝えてくれただけです」

 

仁太郎の頬の傷は既に治っていた。

 

「……じゃあその口から流れる血は何かしら?」

 

「最近乾燥してたからそれで唇を切ったのかもしれませんね」

 

仁太郎は平然とそう言い、上司は怪訝な表情をする。

やがて上司は少しため息を吐くと2人の組員に話しかけた。

 

「分かったわ。貴女達2人はもう行きなさい」

 

「え……?」

 

「は、はい!ほら行こうよ!」

 

引きつられて離れていくが叩いた本人は複雑な表情で仁太郎を見ていた。

2人の姿が見えなくなると上司が仁太郎に厳しい視線を向ける。

 

「2人を庇ったつもりかしら?そんなことをしてもお前の価値は変わらないわ。私が2人を叱ろうとしたのはお前は組長の所有物であるからよ。ただそれだけ」

 

「………」

 

「あの子が手を出したのは、お前からの戦闘での指摘が山城組長から伝えられたからよ。私も含めて魔防隊の殆どがお前を醜鬼として判断している。男で醜鬼ごときに指摘されたからあんなに怒ったのよ」

 

そう言って上司も去って行った。

仁太郎も業務に戻ろうとすると覇鬼が話しかけてくる。

 

『何であの女どもを庇った?女共の中で自分の身を守りたかったのか?』

 

「そんなんじゃねぇよ。俺が泥を被った方が早く終わるだろ」

 

『はっ、お前は考えが甘過ぎる。あの女は庇われたと思って更に惨めに思うだろうよ。お前は自分の首を絞めただけだ』

 

「俺が傷つくくらいなら別になんてことないな」

 

覇鬼は呆れた顔をして姿を消し、仁太郎は業務に戻った。

 

 

それから数日が経ち、管理人見習いとしての日々を過ごしている中、恋の執務室に呼び出された。

 

「貴方は今日ここでお留守番よ」

 

「お留守番?どこか行くのか?」

 

「総理から護衛の依頼よ。流石に貴方を連れて行くことは出来ないわ」

 

仁太郎はそう言われるとどこか嬉しそうにした。

 

「? どうしたのかしら」

 

「いや、俺を1人にするなんて少しは認めてくれたのかなって」

 

「……違うわ。私が抜けてもここの子達なら貴方を抑えられるからよ。勘違いしないでちょうだい」

 

「……あぁ、そうですか」

 

一転して仁太郎は残念そうな表情になる。

内心では、恋は仁太郎に気を許しかけていた。

真面目に管理人見習いとして励み、戦闘では組員の補助に回るなど人を想う所が見られた。

恋の補助も最初の頃に比べると手際が良くなっていた。

本来は労いや褒め言葉を掛けてやってもいいが、総組長の立場と最初の頃からの扱いに慣れ過ぎて、そう言ったことが出来なくなっていた。

 

「私がいなくても大丈夫よ。貴方はいつも通り管理人としての仕事に励みなさい。ただし、もし私の許可なく変身すればその首輪から強力な電撃が流れるわ。気をつけなさい」

 

「わかったよ」

 

恋は悪戯する時の笑みを浮かべながらそう言い、仁太郎は少し苦笑いを

浮かべた。

 

 

恋が総理の護衛に着いてから2時間後、十番組寮が襲撃された。

結界は破壊され、組寮は半壊状態となった。

 

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