六番組の生活に慣れてきたある日、仁太郎は八千穂と共に組長室にいた。
「買い出しですか?」
「そう、日常品は取り寄せているけど趣味の物は各々が買い出ししているんだ。今回は私とサハラのも買い出しをお願いしてるから赤来くんも一緒に行って欲しいんだ」
天花の依頼に仁太郎が了承しようとしたが八千穂が大声を上げた。
「絶対に嫌じゃ!何で雅な私様がこんな年齢=彼女いない歴の此奴とデート紛いなことをしなければいけないのじゃ!」
「うおい」
八千穂の物言いに仁太郎は少し悲しそうな顔になる。
「あれ?八千穂とは仲良くなったんじゃないの?」
「ふん!同じ妹がいるだけで仲良くはないわ!」
八千穂は不満そうに言い、天花は苦笑いを浮かべる。
「まあ、今回は私からの命令だから2人で行ってね。それに私達が馴染んできたと言っても赤来くんはまだ監視対象だからね」
「仕方ない、変なことをするのではないぞ!」
「はいはい……」
(馴染んできたことには否定しないんだ)
八千穂もなんだかんだで仁太郎を認めている事に微笑ましく思った。
仁太郎はうんざりしながら返事をすると天花は笑みを浮かべた。
「赤来くんは八千穂ではなくて私とデートがしたかった?」
「は、はぁっ!?そんなわけないだろ!」
「お主、組長に手を出したのか!?」
「出してねぇよ!」
八千穂に睨まれ、慌てる仁太郎を見ている天花はとても愉快そうだった。
そんな騒ぎもあったが八千穂は渋々同行することを認め、現世の大型ショッピングモールへと向かった。
○
私服で現世に赴き、買い出しを始めですぐに天花とサハラの目的の物を買い揃えた。
しかし今は八千穂のショッピングに付き合っていた。
「何をしておる!さっさと行くぞ!」
「待てよ。漫画みたいに大量に物を買いやがって前が見えずらい。
仁太郎の手や腕には大量の荷物が乗っていた。
「てか、何を買ったんだよ?額縁?……あぁ、妹さんの写真入れか。また増やすんだ。気をつけろよ、バレた時に引かれるぞ」
「や、やかましいわ!」
そうこうしていると駄菓子専門店の前にたどり着いた。
「次はここじゃ!」
「駄菓子屋?そういえば寮に大量にあるよな」
「そう、寮にある駄菓子は雅な私様が選んだ物じゃからな。直々に買い出しをしておるわ」
仁太郎は色々と並んでいる駄菓子を見て、懐かしそうにする。
「懐かしいよ。小さい頃はここに来てワクワクした」
それを聞いて八千穂は何故か得意気に頷いていた。
「ほれ!何をしておる。早く買うぞ!その次は駄菓子喫茶で昼食じゃ!」
「分かった、分かった……そんなに慌てるなよ」
むしろワクワクしていたのは八千穂のようで、仁太郎は妹達を相手している時を思い出し、微笑みを浮かべた。
○
同ショッピングモールのファミリーレストランで女性店員は驚きで顔を引き攣らせていた。
目の前では細身で中性的でホストのような服を着たイケメンが大量の料理を消費していたのだ。
最初はイケメンの接客ができると喜んでいたがメニュー全ての料理を注文され、最初は何かの悪ふざけかと思われたが瞬く間に消えていく料理に度肝を抜かれた。
今はデザートのパフェを5個目を食べ終えるところだった。
「ふぅ……人間にしてはいい物を作るじゃないか。やっぱり料理は人間の方が美味い」
料理を食べていた青年は口元を拭うと店員のほうを向く。
「美味しかったよ。ご馳走様」
そう言って微笑みを見せる青年に店員は頬を赤くして照れてしまう。
その店員の様子を冷めた目で見ていた青年はある存在に気づき、外を見る。
「なんだぁ……案外近くにいたんじゃないんですか」
青年は歓喜の笑みを浮かべて立ち上がり、店先の大型窓に近づく。
「お、お客様?」
店員が不審に思い、戸惑いながら声をかけるが青年は無視して窓に近づく。
次の瞬間、窓どころか壁一面が切り刻まれた。
駄菓子喫茶で昼食を食べ終えた2人は寮に戻るための帰路についていた。
「いやー、駄菓子喫茶なんて初めて行ったけどなかなか美味しかったな」
「そうじゃろ!雅な私様に感謝せよ!」
「あぁ本当に感謝してるよ。妹達も連れて行ったら喜びそうだ」
そう言う仁太郎は家族が喜ぶ顔を想像して嬉しそうだった。
それを見た八千穂は少し恥ずかしそうにしながら話し出した。
「ふ、ふん!ならば仕方ない。今度似たような店を紹介してやろう。感謝するんじゃぞ!」
「どうした?急に優しくなったな?」
仁太郎は急に態度が変わった八千穂を不審に思いながら質問すると真っ赤になって怒鳴った。
「そんな訳あるか!?ただ……同じ妹を持つ者じゃからな。少しくらいは有益な情報を恵んでやろうと思っただけじゃ」
そう言ってそっぽを向く八千穂に素直じゃないな、と思い苦笑いを浮かべて隣を歩く。
「お前はもっと素直になれよ。そうしたら妹さんと仲良くなれるだろ?」
「余計なお世話じゃ」
仲が悪いはずの2人が並んで歩いている2人の姿は側から見るとそこまで仲が悪いようには見えなかった。
その時、突然の悲鳴と騒ぎ声が響いた。
「なんだ?」
「騒がしいのぉ。近くで門出現の知らせは届いておらんぞ?」
そう呟いた瞬間、仁太郎の目の前に先程の青年が突然現れた。
「こんにちは」
「え?あ、はい……(あれ?こんな人さっきまでいたか?」
『小僧!避けろ!』
突然の挨拶に呆然としてしまい、覇鬼の声に反応が遅れてしまった。
次の瞬間、腹部に衝撃が走り、目を向けると自身の腹に剣が突き刺さっていた。
「え……」
「なっ……!」
突然の事態に仁太郎は戸惑うがじわじわと溢れてくる血と熱が広がってくるような痛みに膝をついてしまう。
「キャッーー!!」
悲鳴が上がり、周りが騒がしくなると剣を突き立てた本人であろう青年は鬱陶しいそうに周りを見る。
「うるさいなぁ」
「っ!いかん!早くここから……!!」
何かを察した八千穂は周りの人間に離れるように叫ぶがそれより青年の方が早かった。
「消えろ」
両腕を周りに振るうと人、建造物に斬撃が走り、一瞬にして人が肉塊になって血の海が広がる。
戦慄する八千穂だが、彼女は六番組副組長としてすぐに頭を切り替える。
「『東の辰刻』!!!」
自身の能力で5秒戻し、先の惨劇を無かったことにする。
そして戻った瞬間に彼女は念の為として隠し持っていた対醜鬼用の拳銃を青年に向ける。
(此奴は危険じゃ!!処分する!!)
引き金を引こうとしたが気がつけば銃身が輪切りにされていた。
「なっ……!?」
「ん?今、何かしたね?」
青年は八千穂の喉元にいつのまにか持っていた剣を添える。
迂闊に動けばやられると分かり、声を張り上げる。
「魔防隊じゃ!!ここは戦闘になる!!一般人は早く避難せよ!!!」
八千穂の言葉に一般市民は足早にその場から避難していく。
人がいなくなると青年が馬鹿にしたような表情をしながら話しかける。
「人間がいなくなったけど君はどうするの?ここで死んでおく?」
「くっ……」
青年は嘲笑うような笑みを浮かべて首に剣先を押し付けていく。
しかしその剣を座り込んでいた仁太郎が立ち上がって掴んで止める。
「ん?」
「八千穂から離れろ!」
剣を掴んでいた手から炎が溢れ出し、その炎が全身を包み込み鎧を装着する。
装着すると腹に突き刺さっていた剣を引き抜き、その場に捨てる。
掴んでいた剣を八千穂から離すと空いた腕を振りかぶって殴る。
顔面に一撃を浴びせられた青年は吹き飛ぶがバック転することで勢いを殺し、着地する。
「八千穂!無事か!?」
「私様よりお前はどうなんじゃ?腹を刺されたろうに」
「こんな傷……っ!」
炎が傷を包み込み、治療して跡形もなく消える。
「大したことない!」
「そうか、ならば目の前の敵に集中するぞ。気をつけい、彼奴は一瞬で周りに斬撃を放つことができる。お主が前に立って私様を守るんじゃ。そうしたら必ず隙を作ってやるわ!」
「ああ!」
仁太郎と八千穂は構えて目の前の敵を見据える。
青年は殴られた顔を抑えながら仁太郎を見ていた。