祥子が醜鬼と戦う数分前、仁太郎は警察の目を掻い潜ってモール内に入った。
風夏達がいたであろうエリアは避難した場所から最も遠い所で瓦礫を避けながら進んでいく。
途中瓦礫が道を塞いでおり一度3階に上がって、辿り着くと轟音が鳴り響いた。
恐る恐る覗き込むと祥子が醜鬼を蹴り飛ばしたところだった。
「すご……おばさん、あんなに強かったのか。俺行かなくてもよかったんじゃないか?」
『お前らの中で一番強い気配をしていた。あのくらいは当然だろうが限界だな……』
「は?どういうことだよ?」
覇鬼の言葉に質問する仁太郎だが膝をつく祥子の様子に驚いた。
「何があったんだ!?」
『そんなことより行かなくていいのか?このままじゃあの女死ぬぞ』
「分かってるよ!えーっと、降りられる場所は……」
仁太郎は降りられる場所はないか探すがそれらしい所は見つからず、醜鬼が立ち直り祥子を襲おうとする。
「ああっ!もう仕方ない!」
『おい、何する気……』
覇鬼が言葉を言い切る前に仁太郎は壊れたスロープから醜鬼に向かって飛び降りた。
(ヤバい!着地のこと何も考えてなかった!)
しかし、次の瞬間周りと自分のスピードが遅くなり、意識だけがハッキリしている状態になった。
その状況で覇鬼が愉快そうに笑いかけてくる。
『ハッハッハッ!臆病者だと思っていたが中々度胸があるじゃないか!』
(笑ってる場合かよ!何だこの状況!?)
『今、お前の意識だけを加速させて周りの時間が遅く感じているだけだ。今も落ち続けているぞ』
(そ、そんなことができんのかよ……)
『それで降りた後はどうするか考えているのか?』
(兎に角おばさんを助けることしか考えてなかったから、何もない……)
仁太郎の言葉に覇鬼は呆れた表情をしたがすぐに真剣な表情になる。
『怒れ。怒りがお前に力を与える』
覇鬼はそう言うと目の前から消えてしまう。
言葉の意味は分からなかったがもう目の前に地面が迫っている。
仁太郎は言われた通り、怒りを思い浮かべる。
郵便局の女上司から言われた心無い言葉、醜鬼に襲われる妹と叔母、そして目の前で命を落とした両親の姿。
それらが仁太郎の心に怒りを灯す。
目に炎が灯り赤く染まる。
全身が炎に包まれ、祥子と醜鬼の間に落ちる。
祥子を守るように立ち上がり、全身の炎を散らす。
「その人に近づくな」
鬼の鎧を纏った仁太郎が立っていた。
○
鬼の鎧を装着した仁太郎は醜鬼と対峙する。
祥子は咄嗟現れた鎧の男に戸惑い、声を掛ける。
「あなたは……?」
仁太郎は後ろを振り向いて祥子の安否を確認しようとするが正体をバレないようどう誤魔化すか悩んでしまう。
「え、あー……俺は……あっ、んんっ!わ、私はその……通りすがりの人です。怪我はないか…ないですか?」
「……え?」
バレないように態とらしく声色を変えて苦しい言い訳をする仁太郎に祥子は呆然としてしまう。
その時、覇鬼が姿を表さず声だけが仁太郎に聞こえてきた。
『攻撃がくるぞ』
「は?…ふべぇっ!?」
背後から横顔を殴られて店に突っ込んだ。
「いってぇ…」
『戦闘中に敵に背中を見せる奴がいるか』
「知るかよ…そんなの……」
痛む頬を押さえながら立ち上がると醜鬼が祥子に目もくれずに襲い掛かってきた。
「え、ちょっとまっ」
言い切る前に醜鬼に襲われて地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃が体に走る。
「がはっ……!こ、この……!」
仁太郎も負けじと抵抗するがその上から醜鬼が何度も殴りかかってきて、
両腕で顔を守ることしか出来ない。
「ぐ…う…!この!いい加減にしろ!!」
ガードの上から殴られダメージが少しずつ溜まってきた仁太郎は抜け出そうと腕を振るった。
振るった腕がたまたま醜鬼の顔に当たった。
その衝撃で今度は醜鬼が吹き飛び、壁に衝突した。
「え……俺、こんな力あったけ?」
鎧に包まれた手を開いたり閉じたりして驚いた様子の仁太郎だった。
『さっさと立て、まだ死んでいない』
覇鬼がそう言うと醜鬼が立ち上がって仁太郎を睨む。
仁太郎の攻撃が大分と効いており、殴られた顔は半分変形してしまっている。
すると尻尾が波打ち、先端が割れて中から剣のように鋭い爪が出てきた。
「え、」
『グオオォォォッ!!』
雄叫びと共に尻尾が振るわれ仁太郎を襲う。
仁太郎は走って逃げるが醜鬼は執拗に攻め続けてくる。
段々と距離が近づいてきて尻尾の一撃が仁太郎を捉えたが、当たる寸前に奇跡にも白刃どりが成功して直撃は免れた。
「ひいぃぃっ!あっぶねぇ!」
『気を抜くな』
しかし、掴んだ尻尾ごと持ち上げられ店の外に放り出されてしまい祥子の近くに転がる。
「っぅ〜…!」
「だ、大丈夫?」
「あ、ぇえと、だ、大丈夫でぶっ!?」
祥子に答えながら立ち上がろうとすると尻尾の横薙ぎの攻撃が仁太郎を襲う。
地面を何度も転がりながら止まり、今度こそ立ち上がる。
実はダメージ自体は鎧のおかげでそんなにはないが初めての戦闘で緊張してしまっている。
このままいけば負けてしまう可能性がある。
「くそっ……どうすればいいんだよ」
『はぁ、いいか。俺が合図したら奴の懐に入って拳を振り上げろ。ただ振り上げるな。殺意を込めて振るうんだ』
「は、え?」
『集中しろ!』
見かねた覇鬼が助言をしてくれることになった。
醜鬼は尻尾を振るいながら仁太郎に向かってくる。
『今だ!』
「オラァッ!!」
覇鬼の合図で醜鬼の懐に潜り込み、仁太郎は力を込めて振り上げる。
その瞬間、腕から炎が溢れ、炎を纏った拳が醜鬼の腹に命中した。
命中した一撃は醜鬼の腹を抉り、モールを越すほどの火柱を立たせた。
その余波で天井のガラスが全て砕け散るほどの威力があり、放った本人も驚いて固まってしまう。
「………」
「……あの、大丈夫?」
祥子が声を掛けられて気を取り戻した仁太郎は慌てて祥子に近づいて安否を確認する。
「あ、あぁ大丈夫、です。貴女も怪我は?」
「えぇ、大丈夫。古傷が痛んだだけだから……ところで貴方は何者なの?」
「え?お、私ですか?えーっとぉ……」
素直に仁太郎と言える訳もないと困っていると覇鬼から声がかけられる。
『強い気配が近付いてくる。魔都で戦った奴だ』
「それって醜鬼か?」
『いや、人間の女だ』
「それって……魔防隊じゃないか!?は、早く逃げないと!」
『何故だ?人間と言えばいいだろうが?』
「こんな怪しい姿をした奴が一般人な訳あるか!!醜鬼の死骸も転がってるし!」
(1人で何を話してるのかしら?)
魔防隊が近づいていることに慌てる仁太郎の様子を覇鬼を知覚することができない祥子は不思議な目で見ていた。
「え、えーっと……もうすぐ魔防隊の人達が来ますからここで待っていてください!それじゃあ!」
「あ、待って!」
仁太郎は祥子の静止の声が聞こえておらず、天井に空けた穴から跳躍して姿を消した。
そのすぐ後、奇妙な音と共に空間が歪んでそこから六番組組長 出雲天花を筆頭に副組長の東 八千穂と隊員の若狭 サハラの3人が姿を現した。
「なんじゃ?もう終わっておるのか?」
「報告だとー特殊な個体がいるって話だったんだけどねー」
「八千穂とサハラは周囲を探索して逃げ遅れた人がいないか、醜鬼がいないか確認。私は避難民を誘導するよ」
「「了解(じゃ)!」」
八千穂とサハラは散らばって辺りの散策を始め、天花は座り込んでいる祥子に近づいて安否を確認する。
「もう大丈夫です。私たちは魔防隊です。お怪我は?」
「ええ……古傷が痛んで醜鬼に遅れを取ってしまったわ」
「貴女は元魔防隊で?」
「ええ、元三番組副長を務めていたの」
「では、先輩ですね。退役したのにも関わらず醜鬼と戦っていただきありがとうございます」
天花は頭を下げて感謝したが祥子はやるせ無さがあった。
「結局私は時間稼ぎしか出来なかったわ。もし長引けば死んでいた。醜鬼を倒したのは別の人物……人かどうか分からないけど」
祥子の言葉に天花は絶命した醜鬼を見る。
胴体が強い攻撃で風穴が空いており、その穴の周りは焼け焦げている。
「倒したのは一体何者ですか?」
「人かどうかは分からないけど赤と白の鎧を着た鬼のような者だったわ」
(赤と白の鎧……?以前の魔都事件に現れたあの鬼のこと?)
天花が考えていると、風夏が慌てた様子で現れた。
「先生!大丈夫!?」
「風夏!?どうして来たの?危ないでしょ」
祥子を心配した風夏に気づいた天花が声を掛ける。
「君は……この前の魔都事件に巻き込まれた訓練生だったね」
「あ、出雲組長!その節はありがとうございました」
「いや、結局お兄さんは見つかっていないしね。感謝を言われる所以はないよ」
申し訳無さそうにする天花だが、その言葉に風夏は不思議そうな表情になる。
「え……?兄ならもう見つかって帰って来ていますけど」
「何だって?」
○
その後、怪我を負った祥子は病院へと搬送され、風夏たちは簡単な事情聴取をされてからヒノデ施設の子供達は施設へと戻った。
その中には仁太郎の姿もあった。
モールから逃げ出した仁太郎は人がいない場所で変身を解き、何事もないように戻ってきたのだ。
しかし、その時少し問題が発生した。
天花が再び風夏達の前に現れたのだ。
しかし今回は風夏を訪ねたのではなく、仁太郎に話しかけてきた。
「やあ、君が霧海 風夏さんのお兄さん、赤木 仁太郎さんかな?」
「はい、そうですけど……どちら様で?」
『小僧、気をつけろ。この女はこの前あっちの世界にいた女だ』
覇鬼のその言葉に仁太郎は天花が魔防隊の一員だと分かり、正体がバレたのではないかと思って体が強張る。
「いや……行方不明と聞いて私が探していたんだけど、いつの間にか戻ったと聞いてね。少しお話がしたいんだけどいいかな?」
天花の何かを探るような視線に仁太郎は冷や汗を流した。