構えをとる仁太郎と余裕の笑みを浮かべる天花。
一触即発の空気の中、先に動いたのは仁太郎だった。
「それじゃあ、サヨナラ!!」
仁太郎は天花に背を向けて思いっきり走って逃げた。
「あれ、逃げちゃうんだ?向かってくる雰囲気だったけど……まぁ、いいか」
天花は呆れた様に呟くが落ち着いて逃げる仁太郎を見据える。
『あんな啖呵きっておいて逃げるのか、腰抜けめ』
「仕方ないだろ!?魔防隊の人と戦えるか!!」
文句言ってくる覇鬼に怒鳴りながら仁太郎は必死に走る。
背後から追って来てないか振り返ると離れた所にいた筈の天花がすぐ後ろにいて、肩に手を置いていた。
「!?」
「捕まえたよ」
次の瞬間、仁太郎達は天花の能力で空中に移動していた。
重力に従って仁太郎は落ちてしまうが天花は先に地面に戻って落ちてくる仁太郎に向かって構える。
「殺しはしないけど動けなくなる程度にはやらせて貰うよ」
その言葉と共に仁太郎は一点に引き寄せられてしまう。
「うおっ!!な、何だ!?」
『空間を操る能力か!また厄介だな……!足から炎を出して逃げろ!』
「はぁ!?足からそんなのどうやったら……!」
仁太郎が言い切る前に天花の攻撃は完了した。
「これで終わりだよ」
空間を引き裂く音を響かせて衝撃が空間を揺らす。
それに巻き込まれた仁太郎の鎧は攻撃により全身に罅が入り、落下していく。
ダメージで受け身も取れずに落ちた仁太郎は立ち上がろうとするが痛みで上手く体が動かせない。
「ぐっ……ちくしょう」
「驚いた、今ので仕留めるつもりだったのに。予想よりタフだね」
天花はゆっくりと仁太郎に近づいていく。
仁太郎は漸く立ち上がるが意識が朦朧としており、肩で息をしながらフラフラと立っている。
(全身に……引き裂かれたみたいな痛みが走ってやがる……!い、意識が……)
「私の能力は空間を操る『天御鳥命』。今のは空間を引き裂いたんだ。モロに食らえば全身をズタズタに引き裂かれる」
間近に近づいた天花はフラつく仁太郎の肩の鎧に手をおく。
「加減したとは言え意識があるのは凄いよ。だから……もう一度ね」
死刑宣告に近い事を言われ、仁太郎は再び空中に移される。
『俺が炎を操ってやる。奴の攻撃から抜け出した不意を突いて攻撃しろ。逃げるにはそれしかない』
覇鬼の指示に仁太郎は黙って聞いていた。
「今度こそお終い」
空間の収束が始まった瞬間、足の鎧から炎を噴き出し急降下して攻撃から抜け出す。
そしてその速さのまま地面スレスレを低空飛行し、天花に近づく。
天花は仁太郎の動きに驚き、行動が遅れてしまう。
(しまっ……!)
気づいた時には仁太郎の拳は天花の目の前に迫っていた。
このまま行けば直撃は免れないが、その拳は天花の目の前で止まった。
「絶対に手は出さない……!」
震える拳を無理矢理止めた仁太郎はそう呟いて天花を横切って行った。
「………」
天花は炎を出しながら去って行く仁太郎の後ろ姿を呆然と見ていた。
○
戦いの場から逃げる事に成功した仁太郎は人の気配が無い雑居ビルの屋上に辿り着くと鎧を解除した。
陽炎のように消える鎧の下から血塗れ姿の仁太郎が露わになる。
仁太郎は地面に倒れてしまう。
「はぁ…!はぁ…!イッテェ……」
『情けねぇな。ふんっ!』
覇鬼が仁太郎に手を向けて力を込めると傷が高速で治っていく。
『目立つ傷は治した。完全に治すと全ての体力を持っていかれる』
「あ、ありがとう」
仁太郎は何とか起き上がり、その場に座って一息つく。
「はぁー……魔防隊に目をつけられたなぁ」
『これからは奴らとやり合いながら醜鬼共を駆逐するぞ』
「……俺は魔防隊と戦わないからな」
仁太郎のその言葉に覇鬼は顔を顰める。
『お前はその気でもアイツらはお前を狙い続けるぞ。それでも戦わないのか?』
「俺は人を助けたいから戦うんだ。だから人を救う魔防隊とは絶対に戦わない」
疲れた表情をしながらも目には確固たる意志を持ってそう答える仁太郎に覇鬼は折れた。
『……分かった。好きにしろ。俺はあの塵共を倒せればいいんだ』
仁太郎は覇鬼の諦めた様子に少し笑みを浮かべた。
○
天花は仁太郎を逃した後、追うこともせず手頃な瓦礫に腰掛けて考えていた。
(『絶対に手を出さない』か……彼は本当に醜鬼?人を襲わず醜鬼だけを狙う習性……いや、人を助けていた?そして話すことができる知性……)
「ますます君に興味が湧いてきたよ」
天花は楽しそうに笑みを浮かべた。
○
仁太郎の服は戦闘で汚れてしまったので人に見られないようにこっそりと施設の自室に帰っていた。
服を脱いで自分の体を見ると所々痣があることに気づいた。
「ん?おい、覇鬼。なんで痣も治してくれなかったんだよ」
『先にデカい傷を治したんだ。全部治すとお前の体力を使い切ってしまう。治して欲しいなら体力をもっと付けろ』
不機嫌そうに言い捨てると覇鬼は姿を消してしまった。
先程の仁太郎とのやりとりで不服だったのは明らかだった。
仁太郎も仕方ないと思い、着替えを続けようとすると外から声が掛けられる。
「仁太郎?あんたいつ帰ってきたのよ?」
「ふ、風夏!?今は入ってくるな!」
「入ってくるなって一体何してんのよ?」
風夏はいつも通り遠慮無しに仁太郎の部屋に入る。
すると目に入って来たのは半裸の仁太郎の姿だった。
最近鍛え始めて筋肉質になった体を風夏は少し見惚れてしまい、顔を赤くした。
「ご、ごめん!」
風夏は慌てて扉を閉めようとするが仁太郎の体に違和感があった。
もう一度扉を開けて、仁太郎の体に近づく。
「お、おい。早く閉めてくれよ」
「この傷、どうしたの?」
風夏は脇腹にあった大きな痣を指差した。
それは天花達との戦いで出来てしまった傷だった。
「あー……それはぁ……さっき転んだんだよ。うん、転んだ」
仁太郎は話は終わりと言わんばかりに着替え始める。
「転んだって……こんな傷!転んだだけで出来るわけないじゃない!」
声を荒らげる風夏を無視して仁太郎は着替えを終えて部屋を出ようとする。
「最近、どうしたの?突然体を鍛え始めたり、虚空に向かって話しかけたり……ねえ!聞いてるの!?」
風夏は聞こうとしない仁太郎の肩を掴もうと手を伸ばすがその手を仁太郎は掴んで止めた。
「っ!」
「ごめん、言えないんだ」
仁太郎は手を優しく掴んで、風夏の目を真っ直ぐに見る。
「だけど、絶対にお前を悲しませない。それだけは約束する」
その言葉の真意は風夏には分からなかったが、仁太郎のその表情を見て何も言えなくなってしまった。
○
それから数ヶ月間、醜鬼の出現は頻発するようになった。
仁太郎はその度に人々を助けるために戦うが、毎回現れる六番組から逃げるのが毎回になっていた。
特に天花は仁太郎に興味があるため執拗に追いかけてくる。
毎回命からがら逃げられるが仁太郎は酷い疲労で家に帰ると倒れるように寝て、夢の中で修行するという生活を繰り返している。
そんな疲れている仁太郎の姿を風夏は心配した目で見ていた。
それを他所に魔都を監視している魔防隊では動きがあった。
四番を抜かした一番組から十番組の組長が十番組陰陽寮にて一同に会していた。
9人の組長をまとめ上げる総組長兼十番組組長、『山城 恋』が全員を揃ったのを確認し声をあげる。
「それでは緊急組長会議を始めるわ。議題は静岡にて頻発する魔都災害とそれを機に現れる『白い鎧の鬼』についてよ」