亡命者アル   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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カツ丼

 マンホールを外したアルは自身の予想が正しかったことに安堵した

 

 下水道……都市部などでは下水道により地下は迷路ともなっており、三門市も例外ではなかった

 

 地下では汚水や整備が行き滞って無いのか悪臭が酷いが、服が汚れることを気にすること無くアルは地下通路を歩く

 

 地下を迷路のように掘ることができる玄界の採掘技術や壁の素材の技術力の高さに感心しつつアルはボーダー本部へと続く道を進んだ

 

 

 

 

 

 

 

 約1時間半、迷いながらも汚水の流れや時折地上へと続く梯子を上り、蓋(マンホール)を外して距離や場所を確認しながらゆっくりと近づいた

 

「……ドア?」

 

 下水道を壁沿いに歩きながらアルは扉を発見し、開けてみると地下通路を発見した

 

 この地下通路はボーダーが外部から本部に侵入するための通路であり、工事用に残された非常口をたまたまアルは発見したことになる

 

 明るくなった場所に出たアルは光源がトリオン反応が無いことに気がつく

 

 通常明かりというのはトリオンを燃料に光るものであり、それが無いことにアルは驚いた

 

 コツコツとまっすぐ基地の方へ進んでいくと黒いパネルと扉があったので手をかざしてみる

 

 ウィーンと音を立てて横に開いた扉をくぐると白い壁の施設に出た

 

 どうやら基地に侵入できたようだと確信する

 

 ただこの施設はポツポツと小さい光源が光っているだけで基本的に暗くとりあえず進んでみることにした

 

 キョロキョロと玄界の基地の中を見渡しながら進むと広い部屋に出た

 

 巨大なモニターに座席、複数の小さなモニター、四角い赤い機械……

 

 キョロキョロと見ていると急に辺りが眩しくなる

 

 バッバッバっと光だして私は咄嗟に目を瞑ってしまった

 

「大胆な嬢ちゃんだ」

 

 殺気は無かったが、人の声がしたため慌ててアルはトリガーを起動してトリオン体となる

 

「まぁまぁ落ち着けよ。話し合おう……俺は実力派エリート迅悠一、お嬢さんの名前は?」

 

「……」

 

 ブレードを起動して間合いを図る

 

 距離にして20m男の手には黄緑色のブレードの様なモヤモヤしたトリガーを握っている

 

「ふーん、なるほど……君降伏した方が良いよ。というか遅かれ早かれそうなる運命みたいだし」

 

 アルはホバーで距離を詰めようと構えた瞬間に迅という男がトリガーを振るうとアルの手足を捥がれ、トリオン体を解除されてしまった

 

「くう!?」

 

「これ以上の抵抗は無意味だ。なに悪いようにはしないさ」

 

 アルは迷っていた

 

 このまま投降するのと抵抗を続けるの

 

 目の前の男は1人だが、周囲から殺気が漏れており最低でも3人に囲まれている

 

 自決も考えた……が、再び迅という男がトリガーを振るえば今度は本物の手足が吹き飛ぶため自決することもできなさそうだ

 

「……わかった降伏する」

 

 私は両手を上げると同時にトリガーを手放した

 

「……もう出てきて良いぞ」

 

「任務完了っと」

 

「結局迅さんの手柄かな」

 

「まぁ良いだろ手柄云々は」

 

「俺居る必要有ったか?」

 

 玉狛支部の面々と東春秋が姿を現した

 

「しっかしトリオン体だと黒髪なのに本体は水色の髪の毛なんだな」

 

「近界民でもその髪色は珍しいよね」

 

 わちゃわちゃと喋っているが、私は両手を挙げたままの体勢で静かにしている

 

「よし、とりあえずぼんち揚食う?」

 

「……いただきます」

 

 敵意や殺気の類は感じなくなったためアルは迅からぼんち揚を頂くと軽く舐めた後に頬張った

 

「……!?」

 

「おお! 凄い幸せそうな顔で食べるなこの人」

 

「そんなに美味しそうにぼんち揚食べる人初めて見た」

 

「……もう1枚頂いてもよろしいでしょうか」

 

「おう食え食え……あ、東さんこの子のトリガー回収しておいて」

 

「はいはい」

 

 ぼんち揚を頂きながらアルはホイホイ迅の後についていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幹部が集まった席で防衛責任者の忍田は深刻そうな顔をしていた

 

「結果報告といこうか……我々は近界民の主力による攻撃を25分で殲滅したが、アルという近界民のトリオン体の兵士を17時間も発見できなかった上に基地に侵入も許してしまった……迅のサイドエフェクト(未来視)により事なきを得たが、これは由々しき問題だ」

 

「技術班としては生身の人間をいちいち探知するレーダーはコストパフォーマンスが悪いと言わざる得ない、バドを参考しにたドローンによる探知の方が良いと提案する」

 

 技術開発室長の鬼怒田の提案に根付と唐沢はその提案に頷く

 

「いやはや戦闘地区を出なかったのは良かった……戦闘地域外で人型近界民が暴れたとなればどんな意見が出てくることやら……トリガーの取り扱いに対しての規制案なんかが出てきかねませんからね」

 

「解決案があるならよしとしませんか……結果的に基地に被害も出ていませんしね……さて本題に入りましょう近界民のアルの処遇ですね……沢村君尋問の報告を聞こう」

 

「はい、唐沢さん。近界民のアルことアル少佐は惑星国家サテラス出身であることがわかりました」

 

「サテラス……あの国か」

 

「どの様に取り扱おうと問題は無い……か」

 

 サテラスの名前を聞いた瞬間に城戸司令と忍田本部長の旧ボーダー組は真顔になる

 

「失礼、知らない我々にもどの様な国か教えていただけますか」

 

「簡単に言うなら末期日本軍の様な国ですよ根付さん、あの国は旧ボーダー時代には度々衝突していたが……負けた事は一度も無かった」

 

「どのみち彼女がこちらでどの様に処理しようと外交問題にはならない。そもそも外交など持ちたくもない国だ」

 

「沢村君他に情報はあるかい?」

 

「はい、彼女に食事(カツ丼)を提供したところ涙を流しながらこの世の食べ物とは思えない、祖国では肉は人肉以外食べれなかったと言っていたこと、アル少佐の情報によりサテラスは飢餓状態であることもわかりました……また新型トリオン兵の猫と人を合わせた様な物はギーキャットと言う名称らしく、トリオン器官を改造して作られていることもわかりました」

 

「人肉ときたか……」

 

「アル少佐の肉体等は確認したかい?」

 

「はい、唐沢さん……栄養失調気味であり、彼女が持っていた食料を分析したところ栄養学的に問題しかない代物で主に芋と穀物を混ぜ固めた物であるとわかりました。また彼女が持っていた毒ですが毒キノコ由来の物で全身が痙攣した後窒息死する極めて苦しんで死ぬとても自決には適さない物だと判明しました」

 

 ここで会議室の扉が開きトリガーのチーフエンジニアの寺島が入ってきた

 

「えー、アルの持っていたトリガーの解析が完了しました」

 

「どうだったかね寺島」

 

「えー、鬼怒田室長には申し訳ないのですがどれもボーダーのトリガーよりも技術及び質の低い物でした。まずキュービットと呼ばれる射撃用トリガーですがレーザーを重ねないと放てない、放てても普通のトリオン量じゃ牽制が関の山です。直接攻撃してもバイパーよりも威力は劣りますね、はい」

 

「おかしくはないかな寺島君、若村隊員はシールドを貫通したと言っていたが」

 

「唐沢さんの言うことは最もなのですが、これから言うどのトリガーもそうですが欠陥品としか言えません。ボーダーの汎用性を重視したトリガーよりも扱いづらく出力が低い……これらをカバーしていたのはアルのトリオン量が多かったとしか言えません。数値化した物を用意しました」

 

 寺島はパソコンに端子を取り付けると立体映像が表示された

 

「まず戦闘体になるために必要なトリオン量を1とし、ボーダーの戦闘員としての合格点が4とするならば彼女のトリオン量は25……これはボーダーにいる黒トリガー使いを除くと二宮隊員が14となるので1.8倍近くの数値になります。彼女のトリオン量によるごり押しで使いづらい旧式トリガーでもA級3人を自爆とは言え退けることを可能にしましたと技術班では結論付けました」

 

「なるほど」

 

「続いてブレードと呼ばれる剣ですが切れ味は弧月、スコーピオン以下、レイガスト並み、耐久力は弧月と同等ですが燃費が最悪で、技術班では5cm程しか伸ばすことができなかった欠陥品です」

 

「よくそんな武器で風間隊とB級上位の香取隊と戦えたな」

 

「アルの技量は些か疑問がありますがトリオン量によるごり押しと考えて良いかと……ただ風間隊3名と近接戦闘で互角に戦えた技量はなかなかの高さかと思われます。これは防衛部隊の忍田本部長の方が把握していると思うので自分から彼女の技量を言うのはここまでにしておきます……続いてホバーは空気を放出して浮きながら移動するため地形をある程度無視できるのは強みですがこれも燃費が悪い。ミニチュアローズは自爆攻撃は強みですが欠損状態やトリオン漏洩過多状態だと威力が著しく低下します。バリアはシールドとほぼ同等でした……以上になります」

 

「ご苦労寺島……技術的には得れる物がほぼ無いか」

 

「現在尋問の調子はどうなっている? 沢村君」

 

「侵攻理由等を聞いていますが、トリオン器官や捕虜を得ることで兵士のかさ増し、トリオン兵の作製の資源確保が主な理由だと判明しました」

 

「……処遇をどうするかですかね」

 

「一応捕虜だがこちらで秘密裏に処分することも可能ですが城戸司令……いかが致しますか」

 

「司令、少しよろしいでしょうか……彼女をこちらに寝返らせることを提案します」

 

「正気か忍田本部長」

 

「鬼怒田室長彼女のトリオン量はとても魅力的であり、彼女は階級は高いが日本の基準に当てはめると曹長クラスのあくまで一般兵であることが判明している」

 

「危険なのではないかね、近界民をボーダーに加えるのは」

 

「隊員の感情的にも難しいかと」

 

「それに目をつぶっても私は欲しい人材と感じた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルは尋問室にてこの世の物とは思えない物を食していた

 

 名をカツ丼……豚という動物の肉に鶏の卵でとじ、サクサクとフワフワが合わせた食感に、感じたこともない味……しょっぱいのと甘いのが合わさったこう何て言えば良いんだろうか、とにかく舌が旨いと脳に伝達している

 

 私は涙を流しながらスプーンを使ってガツガツと食べていく

 

 カツ丼……カツの下にあるお米と言うもは上のカツから染みだしたソースと肉汁がお米がガッチリキャッチしていて破壊力抜群だ

 

「尋問官! これはさぞかし高級な食べ物なのだろう! 庶民は食べることができないような」

 

「いや、なんだったら毎食食べられるくらいには安価だぞ」

 

「な、なんと!? 玄界ではお肉が日常的に食べられるというのか!? それに尋問官、上の光る光源からトリオン反応が無いのだが何故だ?」

 

「あぁ、電気というエネルギーを使って光を産み出しているんだ。トリオンは使われていないよ」

 

「ななな!? トリオンを使わなくても光るのか!?」

 

 カツ丼を味わいながらコップの水に目を向ける

 

「こんな透明な硝子のコップはさぞ腕のある匠が作られたのだろ? こんな均等な円状の切り口に底まで均等な長さを維持するのには長年の研鑽が必要だと思うが」

 

「100均で買える安物だぞこれ」

 

「100均? すまない100均とはお金か?」

 

「あ、100円均一の略語だ。100円……そうだなじゃがいもわかるか?」

 

「じゃがいも……馬鈴薯の事か? あれならよく食べていたが」

 

「そう、じゃがいも3個か4個でだいたい100円だ」

 

「そ、そんなにするのか100円とは」

 

「ん? ちょっと待った1ヶ月でじゃがいも幾つ食べられる? いや賃金が知りたいのだが」

 

「1日の賃金を知りたいのか? 私はエースだったから1日働けばじゃがいも2つと塩を少しと野菜……人参かカブを2個貰えたぞ」

 

「……それでお腹は空かないのか?」

 

「空くに決まってるだろ。だからトリオン体で居られる人はエリートでトリオン体は餓死する者は出ないから空腹だが死ぬことは無いから優遇されているだろ」

 

「おぉ……もう……」

 

「1日働いたら尋問官は幾ら貰えるのか?」

 

「自分は日に1万2000円貰ってるね……100円の120倍」

 

「ひゃ、120倍……つまり1日でば、馬鈴薯を玄界だと360個1日で食べられる位稼げるのか!? いや! 騙されないぞ! 尋問官はエリート中のエリートなのだな! じゃなきゃ360個もの馬鈴薯を買うことなんて不可能だ……!? それじゃあ肉を食べられたのもこれから私を辛い労働に使うための最後の晩餐なのだろう! 全て合点がいった!」

 

「いや、そんな辛い労働は無いと思うよ。というかこの食事300円位だから気にしないで良いよ」

 

「300円!? ばばば馬鈴薯9から12個分……4日から6日分の食事ということになるぞ!」

 

「いやだから玄界としては端金なんだって……近界民との会話がこんなに噛み合わないとは思わなかった」

 

「は、端金だと……じ、じゃあ御代わりを要求するぞ! 良いんだな! この味のついた水も御代わりするぞ!」

 

「あ、麦茶ねそれ、はいよ御代わりね。ちょっと待ってね電話するから」

 

 尋問官は席を立つと受話器に手を取り話始めてしまった

 

 これもトリオンを使わない通信装置らしく電気で動くのだとか

 

 しかも電気は火を起こしたり水の流れで作り出されるらしくトリオンに依存している光源は司令部の一部でしか使われてないくらい珍しい物なのに……玄界は進んでいるのだなぁと思った

 

「注文したからもう少ししたら来るぞ。さて尋問の続きといきたいがアル、お前はどうしたい? サテラスに帰りたい気持ちは有るのかとかな」

 

「……帰りたくはない。死ぬ覚悟を決めて行動を起こした作戦が失敗した時点で帰ったところでギーキャットの素材行きは確定したからな……私のトリオン量ならギーキャットは20体は作れるしな……ただ、死ぬ覚悟をしたはずなのにこんな旨い物が玄界には溢れていると聞いてしまったら食べてみたくなってしまったじゃないか尋問官……」

 

「帰りたくはないと……じゃあここで働かないか? 亡命だ」

 

「亡命? 亡命とはなんでしょうか?」

 

「政治的や戦争により祖国から脱出して他の国に移民することを亡命という。ボーダーの力でこちらの国籍等は用意しよう……その代わりボーダーで働いて貰うが」

 

「ボーダーに入れば食べていけますか」

 

「当面の間の衣食住は用意しよう。教育は……通信教育なら用意できるが」

 

「き、教育を受けさせてくれるのですか」

 

「お、おう」

 

「はわわ! 教育って祖国だと本当にごく一部しか受けられない物で四則計算と文字を読めるようになるのもエリートしか受けられなかったのでそれ以上をもしかして教えていただけるのですか?」

 

「あぁ、この国の歴史や物理、化学、生物にこの国の文字も読めないと困るだろ」

 

「れれれ歴史!? そ、そんな高価な知識を!? 物理、化学、生物とはなんでしょう! あぁ、この国の文字も教えていただけるのですか」

 

「そんなに勉強が好きなのかい?」

 

「勉強が好き? いえ、そんな高価な知識を学べるなんてここは天の国か何かでしょうか……勿論働きます! 全力で働きます! 農作業でも炭鉱労働でも兵士でもやります!」

 

「いやいや、ボーダーの一般隊員だからね。B級になればお給料も出るよ」

 

「お給料? 物納ではないのですね! あ、敵国にトリオン通貨という物があると聞いたことがありますが、もしかして通貨と物を交換することができたり……そんな都合の良いものはありませんよね」

 

「その通り! お金が支払われるぞ! それがあれば美味しい物が食べ放題だ」

 

「た、食べ放題……なんと魅力的な言葉でしょうか! ボーダーとはそんな夢のような組織なのですね! 祖国はゴミです! 美味しい物が食べられるところが正義です! まず何をすれば良いですか! 祖国に逆侵攻致しますか! 尖兵をやりますが」

 

「そんなことはしなくて良いから。ただこの町を近界民から防衛してくれれば良いから……カツ丼の御代わりが来たよ」

 

「お、おお! おおお御代わり!? 本当によろしいので!」

 

「たんとお食べ」

 

 ガツガツと再び食していくアルに尋問官は自分の娘を見るような優しい顔をしていた

 

 

 




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