亡命者アル   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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お風呂

 結局カツ丼を5杯、食べた水色の髪色におかっぱ頭のアルは尋問前にシャワーを浴びていたが、ボーダー基地にある入浴施設に監視付きで居れて貰えることになった

 

 女性職員の岡村さんが私の付き添い兼監視として入浴施設……大浴場に案内してくれた

 

「おお、赤い布をくぐったら作りがいきなり変わりましたね」

 

 脱衣場は今までのボーダーの施設が白を基調とした作りであるならば、茶色を基調とした落ち着ける作りとなっていた

 

「赤い布は暖簾と言って赤が女性、青は男性用になっているわ」

 

「なぜ男女で分けるのですか? 効率が悪くないですか?」

 

「効率って……あなたの国だと混浴なの?」

 

「いえ、桶に水を貯めて布で体の汚れをこすって落としていました……シャワーは功労者として表彰された時に使わせて貰った事があったのでわかりましたが、あれよりも寛げるという大浴場とは一体どんな物なのですか岡村さん」

 

「説明するよりも見た方が早いわ! まずは籠に服を居れて紙に名前を書いて籠の上に置くわ」

 

「な、名前……この国の文字ですよね」

 

「あ、私が書くね。アルっと……はい、これを服を畳んで籠に入れたら上に置いてね。間違えて他の人のを取らないようにのルールだから」

 

「なるほどでも置いた場所を覚えておけば良いのでは?」

 

「たまに間違えちゃう人が出てくるのよ。だからこういうルールになったの」

 

「そうなのですか……」

 

「うわ、予想してたけど傷だらけね……縫いあとだらけ」

 

「勲章ですよ! 後は子供を産むときに帝王切開した跡ですね」

 

「アルちゃん子供産んでるの!?」

 

「はい、12歳の時から3回ほど……全てトリオン量が低くてギーキャットの素材にされてしまいましたが」

 

「ご、ごめんね」

 

「なぜ謝るのですか? 普通じゃないですか」

 

「いや、普通ではないかな……ささ、ボーダーが誇る大浴場だよ!」

 

 そこにはシャワーが沢山あり、左にはサウナとミストサウナという読めない文字書かれた部屋(岡村さんに教えて貰った)に水のお風呂、シャワーの奥に行くと泡が沢山出ている円形のお風呂(ジャグジー)に何十人も入れる大きなお風呂、電気で体をマッサージする電気風呂、少しぬるま湯の泡がコポコポしているお風呂(炭酸風呂)に壁には大きなモニターに映像が映しだされていた

 

「透き通った水がここここんなに使われている……なんて贅沢な……しかも暖かい」

 

「ふふーん、これがお風呂だよ!」

 

「これが……お風呂……」

 

 カルチャーショックを受けつつ体を洗おうとするとボトルが3つ有ることに気がつく

 

「岡村さんこれは何ですか? 先ほどのシャワーにはなかったけど」

 

「右からシャンプー、リンス、ボディーソープよ。手を出して」

 

 岡村さんが私に手を出させると何やら液体が出された

 

 嗅いでみると良い匂いがする

 

 まず頭から洗うらしくシャンプーという液体を頭にかけて手で洗っていく

 

 岡村さんは泡立っているのに私の髪は泡立たない

 

「なんでだ?」

 

「うわー、汚れが凄い証拠だよ。何回も洗おうか」

 

 岡村さんが私の後に座り、髪を洗う手伝いをしてくれた

 

 シャンプーを浸ける→髪を揉んで汚れを浮かせる→洗い流す

 

 これを繰り返し行うと髪の毛の色がくすんだ水色から綺麗なアクアブルーに変化した

 

 続いてリンスという物を髪に浸透させるようにつけていき、洗い流すと髪の毛が先ほどまではゴワついていたのに触り心地が良くなった

 

「魔法の薬か何かか!」

 

「どちらかというと油と保湿剤だね」

 

「あ、油……火をつける時に使う貴重品を髪の毛に使うのか玄界の人は」

 

「うーん、リンスは燃えないけどね」

 

 髪の毛を洗ったら続いて体を洗っていく

 

 ボディータオルと呼ばれるゴワゴワした物にボディーソープを垂らしてゴシゴシ擦ると白い泡が出てきて、体をタオルで擦っていく

 

 白かった泡が汚れでみるみる泡立たなくなり、岡村さんが背中を、私は前面を必死に擦る

 

 垢や汚れがドンドン落ちるとようやく泡立ち始め、最終的に泡だらけになった

 

 これをシャワーで洗い流していよいよお風呂という物に入る

 

 足をお湯に浸ける

 

「……おお!? おおおおお!!」

 

 気持ち良くて変な声が出た

 

 そのまま腰、腹、胸、肩とお湯に沈めていく

 

「気持ちいい……」

 

 極楽とはこの事か

 

 体の芯から暖まる感覚は今まで感じたことが無く、心地よさと暖かさが体を包み込む

 

 でろーんっと顔だけ出して脱力状態となる

 

 ここまでアルが無防備を晒したことは今までの人生ではなく、アルはお風呂の魔力に取り憑かれてしまった

 

「お風呂も気持ちいいけどサウナはもっとヤバイよ」

 

「これ以上の極楽が!?」

 

 タオルで体を拭いてからサウナに入るとモワァッとした熱気が襲いかかってきた

 

「これは耐熱訓練か何かでしょうか!? 熱すぎます」

 

「熱いでしょーここに座って汗を沢山かくの」

 

「汗をですか?」

 

「ほら早速じんわり汗が出てきた……とりあえず5分耐えようか」

 

「5分くらないなら」

 

 岡村さんに言われてマットの上に座ること5分

 

 全身から大玉の汗が吹き出していた

 

「頃合いだね、サウナを出るよ」

 

「はい」

 

 サウナから出てシャワーで汗を流して今度は水風呂と言う風呂に入る

 

 ぞくぞくぞくと毛細血管が締まる感覚と足先は急激に冷やされて痛みを少し感じる

 

 ただ最初だけで少しすると気持ち良さが押し寄せてくる

 

「おおおおお!!」

 

「気持ちいいでしょ……ただこれで終わりじゃないんだ」

 

 岡村さんに言われて水風呂から出ると椅子に座ってリラックスする

 

「これは中々……」

 

「よし、これをあと2回繰り返そうか」

 

「2回もですか」

 

「そうそう」

 

 言われるがままサウナに5分、シャワー、水風呂3分、休憩5分を繰り返していく

 

 3回目に椅子に座って脱力した次の瞬間体が浮いた様な感覚がした

 

 その感覚は過酷な訓練の最中に意識が飛ぶか飛ばないかギリギリに訪れるあの浮遊感

 

 ただ訓練の時とは違い完全脱力状態でのこの感覚は……まさに極楽……お風呂の包み込むような暖かさも良い……しかしこの襲いかかるような快楽は……癖になる! いやもしやこれは

 

 快楽状態が収まってきたのを待って今度はジャグジーと呼ばれるお風呂に入る

 

 泡が体の凝りを解きほぐす様な感覚に暖かさから毛細血管が一気に血行が良くなり広がるこの快楽は……

 

 サウナというのは単体では完成しない施設なのだな

 

 サウナという苦行の先に極楽の快楽が種類は違うのが2度も味わえるとは……あぁ、玄界はなんと進んでいるんだ……こんな物が娯楽として普通にあるだと……玄界は天の国か何かなのだな……死後に行き着く世界なのでは……そうだこんな快楽があるというのは死後の世界なのだ

 

 きっと本当の私は玄界の拷問でおかしくなっているのだ

 

 ……いや、これが一種の拷問なのではないか? 

 

 こんな快楽を知ってしまったらこれが無い生活には戻れないぞ

 

 あぁ、なんと酷い拷問なのだ

 

 そうだあのカツ丼というのも本当は私のような一兵士に食べさせるような物ではなく極一部が食べられる物なのだ

 

 サウナとお風呂もきっとそうだ……あぁここから出たくない

 

 これから始まる拷問までの時間が1秒でも遅れてくれ……

 

 

 

 

 

 

 そんな願いは自分がのぼせたことにより強制的に終わりとなり、個室のベッドに寝かされた

 

 そのベッドはふかふかしており、かけられた毛布は触り心地が良くなんだこれは

 

 暖かくてふわふわにサンドイッチされているぞ

 

 まだ快楽拷問は続いているのだな! 

 

 明日からはきっと硬い床の上に板を敷いて寝るのが普通なのだ

 

 毛布もゴワゴワとした硬くて臭いが酷いボロ切れの様な物になるんだきっと

 

「岡村さん、茶番はもうやめてくれないか。快楽拷問は身に染みて受けた。これ以上の快楽は後戻りができない」

 

「快楽拷問? 何を言ってるの? ボーダーに入るんだから毎日入るお風呂の紹介とここがあなたの寝る場所よ」

 

「嘘だ! 一度極楽を見せた後に絶望を見せることで心を折る気だろ! わかってるんだ! こんな快楽を一般兵の自分が受けてはいけないことぐらい」

 

「そんなこと無いよ。とりあえず当面の間はこの部屋に有る物使って良いから」

 

「……」

 

 ガバッとベッドから起き上がり、地面に膝をついて岡村さんに頭を下げる

 

「ボーダーとやらに忠誠を誓う! 祖国は糞だ! 改めて死ぬまで使い潰してくれ! それぐらいの価値を私は感じた!!」

 

「ちょ! ちょっと!」

 

「とりあえず何をすれば良い! 感謝の気持ちが爆発しそうだ! 働いて返したい!」

 

「うーん、働いて返すも何も手続きと入隊の時期も有るから1ヶ月は働けないよ」

 

「は、働けない! 働けないですと!! そ、それじゃあまたカツ丼が食べれない! 尋問官が言っていた働けば賃金が出ると! 働いていなければ賃金は出ない! 飢える!」

 

「大丈夫安物だけど3食ちゃんと出すから……何か欲しい物とかある? トリガー以外なら融通するけど」

 

「……ない! と言いたいですが……言っても怒らない?」

 

「怒らない怒らない」

 

「でしたら1.5mほどの適度な重さの棒が欲しいです……訓練に使いたい」

 

「いいよそれぐらい」

 

「捕虜に武器を与えるのと同じですよ!?」

 

「別に捕虜じゃないし、次期ボーダー隊員……いや亡命者か」

 

「良いんですか……本当に」

 

「良いよ!」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルの受け入れから1週間が経過したが様子はどうだ堂田君、岡村君」

 

 この日アルを尋問している堂田と世話係の岡村が幹部の集まる会議室に呼ばれた

 

「まず食事は色々与えていますが、どれも未知の味らしく完食し、おわかりを要求するくらいには好んでいます。刺身や生卵に関しては最初は警戒していましたが、食べたら涙を流して美味しい美味しいと呟いているのを確認しました」

 

「衣類に関しても職員のいらない衣類を与えていますが、どれも生地が良い高級品と勘違いしているらしく対価が払えないからとTシャツとダメージジーンズを履いています。下着は履く文化が無かった為教えるのに苦労しましたが、支給された下着は履いてくれるようになりました。ブラジャーは断固として着用しようとしませんが」

 

「あと彼女に教えたことは一度失敗したら同じ失敗は二度としません。機械類にも抵抗は無く使い方を教えればすんなりと使用しています」

 

 堂田と岡村の話は続き部屋での様子を説明していく

 

 アルは部屋で勉強かトレーニングを休まずしており、シャーペンと消しゴムに感動していた

 

 書き物はパンクズで消すからここまで綺麗に文字を書ける消す事が出来る物は画期的だと感動し、岡村が五十音表を渡して文字を教えると翌日には文字を書けるまで習熟していた

 

 1週間でひらがな、カタカナ、数字を理解したら元々覚えていた四則算を使いこなして現在は文法と漢字を学習中

 

 漢字もその物の映像を見せながら覚えるという独特なやり方を提案してきて、モニターの静止画を見ながら漢字を覚えているとのこと

 

 ちなみに1000×1000までは暗算でできるのを確認済み

 

 試しに行ったIQテストで195を叩き出した記録を提出したりとアルの天才っぷりを岡村は自慢気に報告して堂田にひっぱたかれたりした

 

「この調子ですと1ヶ月有ればある程度の常識と小学中学年の学力は身に付けられそうです。機械類の扱いも良好のためパソコンの使用許可と使用方法を教えれば更なる学習の効率化ができるかと」

 

「あと髪の毛が伸びるのが異常に早く、毎日染めないとつむじの方が水色が見えてしまうので逆に水色に染めてると言った方がよろしいかと」

 

「戸籍の方もいかが致しますか? 欧州方面の顔つきですので紛争地域からの難民とした方がよろしいかと」

 

「まぁその辺は根付さんが考えてるから2人は心配しなくて良いよ」

 

「「は!」」

 

「報告は以上かな2人共ありがとう」

 

「「失礼します」」

 

 堂田と岡村が退出し、幹部達が話し始める

 

 メンバーは城戸司令、忍田本部長、林道支部長、唐沢部長、鬼怒田室長、根付室長の6名だけとなる

 

 今回は別件の対応で沢村補佐官は居ないが主要メンバーといえる

 

「ここまで学習能力が高いのは良い意味で誤算だったな」

 

「唐沢部長の仲間に引き入れる案で正解でしたな。遠征に使うには問題があるが、防衛戦力の一翼となるのならよしでしょう」

 

「ただ彼女がボーダーのトリガーを扱えるのか少し疑問があるが?」

 

「根付さん大丈夫でしょ、彼女の学習能力の高さと適応力なら対応しますよ……それよりも戸籍は作れそうですか根付さん」

 

「東欧の難民としてごり押した。ボーダーが海外から発掘してきた逸材で日本人の負担が減ると言ったりしたがね……ただ手続きに3ヶ月はかかると見ている。ボーダー内で匿う分には良いが、身分証ができるまでは外部に出ることは禁止するしかない」

 

「必要な物は余程の物じゃない限り我々がある程度は与えましょう。海外からボーダー希望者のモデルケースにするのにちょうど良いですし、スポンサー受けも良い」

 

「……当面の間監視を続ける。ボーダーに害になると判断した瞬間に入隊前の場合ば処分する。以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃のアル

 

「岡村さんから頂いたカセットコンロ……おお! 豪華に卵2つ使った目玉焼き……醤油を少し垂らして……ふぉぉぉぉぉ!!」

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