晴れてC級隊員となれた私は岡村さんに言われたランク戦ブースに来ていた
ただC級ランク戦のやり方がわからずにうろうろしていると
「おい、近界民なんでお前がここにいる」
と知らない男性から声をかけられた
彼の名前は三輪秀次……近界民を全員殺すと豪語する過激派だ
彼にとってアルの存在はとても許容できるものではないが、ボーダーの一員となった以上手出しすることもできずにもどかしさを感じていた
三輪は姉を近界民に殺された過去があるためその様な思考になっていたりもする
アルの事はA級隊員の彼は情報が伝達されており知っていたのである
「C級ランク戦をしたいのですがやり方がわからなくて……」
「……ちっ!」
三輪は舌打ちをして何処かに行こうとするのをアルは止めに入る
「どうか教えてくれませんか」
「……近界民は全て敵だ。お前が何かをすればすぐにでも殺す」
そう言うと彼は何処かに行ってしまった
取り残されてしょんぼりするアルは道行く人に話しかけまくりなんとかC級ランク戦のやり方を教わることができた
C級ランク戦は仮想戦場で行う個人戦であり、ブースに入りタブレットと呼ばれる電子機器を操作し武器(攻撃用トリガー)とポイントが表示されるので戦いたい相手を選んでタブレットを押せば対戦が始まる
ブースに居る間は相手から挑まれることもあるので注意しなければならない
ランク戦をやめたい時はブースから出れば終了となり、C級同士だと基本1試合1本勝負となっている
3本、5本、10本、以後5ずつ(50本まで)の試合設定もできるがこれはお互いが了承した場合のみでC級の間は基本的に考えなくて良いそうだ
「わかったか? これ普通オリエンテーションで説明されるんだけどな」
「すみませんお手数かけて」
「良いよ対戦人数が増えるのは良いことだし」
気前の良いC級の先輩のお陰で無事にランク戦を始めることができる
使用するトリガーは弧月
今の自分がどこまでできるか試してみることにしよう
「ヤベー奴居るって」
「見たことない外人の弧月使いが狩りまくってる」
「2回当たったけど瞬殺だったわ……ポイントガッツリ奪われたし」
ランクブースの外ではアルの噂で持ちきりだった
基本的にC級ランク戦のログは見ることができない
いや、個人ランク戦基本ログが開示されないが正しいか
これは初見殺しを推奨しているためであり、自身が使える型というのができれば案外B級に上がるのは難しくない
ただB級に上がると型を持つ者同士が今度は戦うことになり、そして同じ相手に何度も戦う事になってくるため初見殺しが効かなくなる
こうなると純粋な実力をあげる必要があり、だいたいそれが6000の壁と呼ばれている
まぁだいたいB級に上がれば自身の評価みたいな物が出来上がるので、それを使ってチームを作っていくみたいな流れがある
そしてB級ランク戦はチーム戦となり、ログが開示されるため研究されるのでより実力と手数が物をいうことになる
だからブース外の待合室でアルがいくら話題になろうと見ることができないので対策ができないため狩りまくられる
ログは開示されないけれどC級がB級に挑んだりB同士、A対B級の戦い、A対A級の戦いをモニター越しに観ることは可能だったりする
そういう戦いを直接見て弟子入りして技術を磨いていくのが主流だったりする
「お、盛り上がってるな」
「あ、貴方は!」
「ちょっと暇潰しになるかと思ったら生きの良いのが入った感じか……」
噂話をしていたC級隊員達はA級1位太刀川隊長がC級ランク戦のブースに来たことに驚いていたが太刀川としては近界民と戦いたくてここに来ていた
理由としては相討ちとはいえ風間隊3名をベイルアウトさせた実力を評価しており、早く戦いたいという衝動を押さえられずに来てしまったというのが本音だ
「話しかけてみるか」
私が今日25戦目のランク戦を終わった時にタブレットがピロピロと鳴り始めた
「え? ええ? どうしたのでしょうか! 戦いすぎて壊れた?」
色々弄っているとたまたま通話開始ボタンを触れることができて通話が開始された
『あー、聞こえるかアル? 始めましてだな。俺太刀川慶、近界民の事情を知ってる者だ』
「太刀川さんですか? ご丁寧にどうも」
『お前と戦ってみたくて乗り込んでみたんだが良いか? C級と正規隊員が戦ってもポイントの奪い合いは発生しないんだが良いか?』
「構いません。強い相手の方が経験になりますから……それに私は今猛烈に感動しています」
『というと?』
「何ですかこの戦闘訓練設備は! トリオン体で何度も戦うことができる! 欠損しても次の戦いには回復している! 物凄く革新的な施設ですよ! 祖国に有れば祖国の糞みたいな訓練期間もマシになったのに……」
『どういう仕組みなのかは俺もよくわからないが戦いを楽しむ俺としては楽しくてしょうがないシステムだ』
「戦闘狂ですか……祖国にも居ましたがそういう人は生き残って大エースになるか早死するかでしたね……貴方はどちらでしょう」
『戦ってみればわかる。武器は弧月のみ……純粋な腕勝負という』
「わかりましたよろしくお願いします」
太刀川さんに説明されながらタブレットを操作し、黒いボタンを押すと正規隊員が表示されポイントが表示される
「43000……」
現在のアルの点数が2500くらいなので約17倍となる
『よろしくお嬢ちゃん……せっかくだ50本やろう』
「わかりました」
1試合平均3分として50本なので150分ぶっ続けとなる
戦闘開始だ
「何この盛り上がりは」
「さやかちゃん今アルと個人ランク1位の太刀川さんが戦っててそれが公開されてるからモニターに皆釘付けで」
「え? アルって狙撃手希望じゃなかった?」
「でも見てよ確かにアルだよ」
水神が柊に言われてモニターを見ると映し出されていたのはアルだった
「確かにアルだ……今何本やってるの?」
「かれこれ5本目……まだまだ続くっぽいけど1試合10分以上かかってる」
「10分!? え? 普通2、3分で決着するよね?」
「そうだけどアルが片腕飛ばされようと片足斬られようと戦闘能力が全然落ちないからめちゃくちゃ長引いてるの」
「な、なんじゃそりゃ」
「とにかく観なよ」
「ヤバイなお前! 迅並みに楽しいわアルと殺るの」
「こちらとしても実りが多いですよ……トップエースレベルと正面から戦える機会なんて私ほぼ逃げてましたから」
「しっかし腕飛ばしたり足飛ばしてもバランス崩れないのは何でだ? なんかコツでもあるのか?」
「トリオン器官の位置を少しズラすとバランスが保てるのですよ……まぁやれるの私ぐらいですけど」
「技術なのか?」
「どちらかと言えばそうですが、私はトリオン器官が大きいので普通の人がやってもできませんよ」
「なるほどな」
喋っている間にも斬り合う
横に縦にと私は守りを意識して戦う
ただ体が馴染んだ150cmのブレードから30cmも短い弧月はいくら1ヶ月感竹刀で特訓したからといって体に馴染みきった癖を治すのには時間が足りなかった
普通の人には問題ないがトップエース級の太刀川さんだとこのズレによって足の先や腕を斬られてしまう
そこからジワジワと崩されて5連敗
ただ1戦の時間は徐々に延びてきている
それだけ私を崩すのが難しくなってきたということだ
太刀川さんと戦っていて思ったのがこの人本当に戦闘が楽しくてしょうがないんだと感じた
斬り合いをしながら笑っているからだ
現在の攻撃と防御の割合は1:9
防御に9割を割かないと太刀川さんの攻撃は防ぎきれない
ただ時折フェイントと騙しを入れながら攻撃に転じると太刀川さんは攻撃時よりも防御の方が苦手だということがわかる
いや防御に関してもトップエース級なのだが、攻撃に比べるとまだ付け入る隙があるというだけで私の防御主体の戦い方をまず変えなければ勝てない
「適応するのに後何戦必要なことやら……」
「こっちもギア上げるぞ」
「まだ上あるんですか」
「楽しくてしょうがないからな! 体も温まってきた」
「トリオン体に温まるも無いでしょうに……ふん!」
「おっと返しのカウンターか悪くないが踏み込みが甘くないか?」
「どうしてもまだ逃げ癖が抜けきれてなくて……本来ならここでビーム攻撃を頭上からお見舞いするのですがね」
「それを言ったら俺だって本来は二刀流なんだぞ互いに本来の全力を出せない状態でもここまでやれるんだから誇って良いぞ」
「それはありがとうございますね!」
ブンブンブンと振り下ろし、左横斬り、返して斜め振り下ろしと3連撃をしたが避けられてしまう
「2撃目の踏み込みが甘いから3撃目が届かない! こうするんだよ!」
同じ動きで1撃目攻撃してくるが私が2撃目を防いだ時に刃を滑らせて脇に蹴りが入るそのまま柄の部分を押し込んで私の顔に当てて体勢を崩して止めの振り上げで私の左半分を持ってかれベイルアウト
6戦目は14分の決着となった
「太刀川さんに対応してきたぞあの新人」
「というか2人3時間ぶっ続けで戦ってるのによく集中力が途切れないよな」
「化物かよ」
C級の隊員がランク戦を辞めてアル対太刀川の試合を観戦する
かれこれ18試合を消化してアルは3勝を後半もぎ取っていた
繰り返しの太刀川との戦いに持ち前の学習能力と癖の修正、太刀川からのアドバイスでダメな部分を徹底的に削り取り、成長を続ける
C級だけでなく噂を聞き付けたB級、A級の隊員達もモニターに集まり試合を眺める
B級下位のチームはアルがB級に上がったら声をかけて戦力の補強をしようと駆け引きが始まり、隊員が固まっているB級中位以上は新たな驚異の対策を考えるためモニターに集中し、事情を知っているA級の面々はサテラスという国がこれ程の兵士を使い潰そうとしていた事実に恐怖を感じた
「これはエグいね……異常な成長速度だ。どう思う米屋」
「犬飼先輩、アルはあれでサイド・エフェクト別なんでしょ……トリオン量も多いから羨ましいですよ」
たまたま近くでモニターを観ていた犬飼と米屋がアルについて解析する
「まず太刀川さんが矛だとするとアルの弧月は盾だねぇ」
「守りの戦い方ですよね。ただ時折攻撃に転じるとそのまま太刀川さんを崩してしまうことにより3勝をもぎ取っていたいます。何より最初の頃に有った防御ミスがどんどん減っているっすよねー」
「米屋だとどう対応する」
「秀次(三輪隊長)と2対1に持ち込んで透と章平の2人に狙撃して貰うのが鉄板ですかねー、攻撃手1人ならこれで確実に倒せます。どんなに強くてもうちのトリガーしか使えないなら数が物を言いますから」
「うちならどうするかなぁ……辻ちゃんだけだと厳しそうだからうちの隊長(二宮隊長)に火力で押して貰いつつ自分達は隊長を倒されないようにバックアップ、鳩原ちゃんが弧月破壊して貰うのが一番手っ取り早い無力化だね」
「うわ、鳩原先輩の武器破壊か……あれやられると隙が必ずできるからお三方(二宮、犬飼、辻)に確実に仕留められるからなぁ……ただ問題は」
「あぁ」
「「使用トリガーが8つになった時」」
「射手は確実に適正ありますよ」
「弧月と射手のどれかで万能手かな? 二宮さんよりもトリオン量が多いから火力勝負だと負ける可能性があるから連携と鳩原ちゃんの武器破壊が鍵になるかなこっちは」
「結局スナイパーを含めた総合力ならなんとかなるということっすねー」
「まぁ彼女がどれだけやれても二宮隊は崩れないよ。三輪隊もそうだろ?」
「そうっすね、ただB級ランク戦は彼女が台風の目に確実になりそうですねー」
「うん、彼女の実力ならばB級にすぐにでも上がれるだろうね」
結局50戦はできずに6時間が経過したため時間切れ
13時に始めたのにもう19時……結果は30戦やって9勝20敗1引き分け(相討ち)だった
後半もっと勝率が伸びるかと思ったが5時間辺りで私の集中力が落ちてしまい伸び悩んだ
私もこんなに長時間同じ相手との死合いは初めてであり、とても良い経験ができた
太刀川さんから
「B級に早く上がれよ。その方が楽しいから」
と言われてしまった
しかし、この死合いを通じて得た経験と太刀川さんのイメージはこびりついた
イメージトレーニングはより精度を増し、更なる強さを手に入れるためにアルは頭に貼り付いたイメージを瞑想しながら物にしていく
待合室のベンチに座った私は雑音を一切遮断して再び集中モードに入る
太刀川さんの太刀筋、動き方、構え、癖……死合いの中で自身が身に付けた動き、癖の修正、作戦
全てを整理していく
アルの凄まじい集中力と殺気から声をかけようとしたC級隊員達はしり込みし、離れていく
アルは約30分程の瞑想の後食堂に移動し、1日の楽しみである食事にありつく
今日の日替わり定食はチキン南蛮
カラッと揚げた鶏肉を甘酢とタルタルソースという独特なソースをかけて食べる
初めて食べる料理だ
アルはまずソースを最近扱えるようになった箸で1口ほど摘まんで食す
「お、おおぉ玉ねぎときゅうり、他にも沢山の野菜をみじん切りにしてマヨネーズと絡めることで野菜の味がマヨネーズと合致して新たな味になるのか」
アルはマヨネーズと出会った時にも衝撃を受けた
なんだこの油を大量に使った白いソースはと
サラダにかけるとマヨネーズの滑らかな味わいが野菜の旨味を引き立て、トーストにかけて食べればマヨネーズの味がトーストのカリッとした食感を引き立て、あえれば食材を柔らかくする
「なんて素晴らしいソースなんだ」
ケチャップやオイスターソースも同様に驚き、それを混ぜたオーロラソースは革命的とも言え、オーロラソースに唐揚げをつけて食べたら意識が飛びそうになるほどの感動をしていたりする
「先に野菜を混ぜることで旨味というのが増幅されるのか……食感も合わさり実に旨い」
メインのチキンと食べてもよし、和えられているキャベツのみじん切りにかけて食べるもよし
タルタルソースをかけなくても甘酢により食欲を掻き立てられるチキンの味にご飯が進む進む
最近はアル専用と書かれた5合用どんぶりを掻き込んでいく
アルが食堂を使うのはこれで2回目で前回は岡村さんと一緒に普通のお茶碗で食べていたため目立たなかったが、岡村さんに頼んで用意して貰った特注のお茶碗……巨大どんぶりを部屋から持参し、何時もは部屋に運んで貰っていたのを今日は初めて食堂に持ってきた
この時食堂のおばちゃんから
「あんたがアルちゃんね! 話は聞いてるよ……部屋に岡村さんからお茶碗を受け取った時には本当に食べられるか不安だったけどここ1ヶ月残さずに食べてるようだね……食堂でもそのどんぶり持ってきな! 特別によそってあげるよ……いや、これから食券の裏にアルって書きな、おかずも特盛にしてあげるから」
「本当ですか!!」
「私に二言はないよ! 明日から特盛だ、今日はご飯だけで我慢しな」
「ありがとうございます!」
という経緯があり巨大どんぶりに山盛りのご飯のタワーがドンっと置かれていた
それを見た隊員達はアルの細い体を見て嘘だろとか食べられるわけないとか小声で言っていたが、美味しそうにご飯がチキン南蛮、キャベツと味噌と漬け物でどんどん減っていく様に感心を通り越して恐怖を感じた
事情を知っている職員やA級隊員は近界民は胃袋も化物かよと思うのであり、女性陣は絶対に太ると確信し、今の綺麗なスタイルがいつ崩れるか予想しあったりしていた
なおアルはほとんど胸にしか脂肪がつかない体質らしく、更に吸収効率の良いトリオン体で食事をすることで、トリオン体では戦闘での影響を考慮してCカップ程度の胸なのだが、半年が経過する頃にはバスト1メートル超えのIカップの誰もが羨むスタイルを手に入れることになるのだが、今はまだ誰も知らない