転送時間の前に私は頭に叩き込んだ運動公園の地図を再確認し、戦闘モードに気持ちを切り替える
「しかし、アル肉付きよくなったよね2ヶ月で痩けてた頬にも肉ついて丸くなったし……胸1カップ大きくなったんでしょ」
「岡村さん何で今そんな話をするんですか!」
「アル、これはあくまで訓練の一環というのも忘れてはいけないよ。戦争じゃないからやってはいけない事も多々ある。特にいたぶったりするのは絶対にダメだからね」
「……はい、大丈夫です」
「よし! じゃあ頑張って」
転送開始の表示となり私はステージに飛ばされる
初期転送位置は……
「球場内部……岡村さん!」
『まだレーダーが出てない! バックワーム着用!』
「わかりました」
バックワームを着用してベンチから球場内に出て、そこから壁をよじ登って応援席に移動する
『レーダー起動! ……周囲反応4! 包囲されてる』
「向かっている方向!」
『全員球場に向かって動いてる! いや、1つ立ち止まった……警戒メテオラ!』
「メテオラ上空通過! 北添隊員の方向把握」
『距離1km!』
「最速で殺しに行く」
グラスホッパーをサブの左手でトリオン量のごり押しにより道を作る
グラスホッパーは沢山作ると加速が減るが、それはトリオン量によって大きく変わる
トリオン量5と25のグラスホッパーが同じ効果というわけがない
アルはグラスホッパーをとりあえず100歩分作りだし高速移動を開始する
グラスホッパーの上を走るというのは高等技術で正規隊員でも使うのは5本指に入るくらい難しいのだが、サテライト産のトリガーのホバーを使いこなしていたこと、太刀川さんとの殺り合いで練習できたことによりアルは時速100kmで北添隊員と思われる反応に近づいた
「どわー! アル隊員早速グラスホッパー走行を実戦! ただ速度が異常だぞ! カメラが追い付いていない!」
「持ち前のトリオン量でグラスホッパーの性能を上げてるな。個人ランク戦だと使う場面の少ない技だけどこれがB級ランク戦の広さとなると……ゾエを見つけた」
「ああっと北添隊員まだアルの急接近に気がついてないのかメテオラ連射してる」
「無理もないな、まだ2分も経過してないからな、それにグラスホッパー走行の良い点は踏んだ時に音が小さい。踏んだ時に独特な音が出るが10mも離れていたら聞こえないからな」
「北添隊員そのまま殺られてしまうのか!」
「いや、ゾエがそんなに簡単に落ちるわけがない」
アルはグラスホッパーを展開する際に1度バックワームを解除している
これはサブのグラスホッパーとバックワームが競合してしまいどちらかしか展開することができないからだ
ただアルがレーダーに一瞬映ったことで北添はアルが居た位置にもメテオラを放つが、その場所には既にアルは居なくなり、大きくてふくよかな体型の北添隊員を目視できる位置までバックワームを再び着用して移動していた
直線上に移動していた為、凄まじい速度になっていたアルはそのまま弧月を抜刀し、北添に斬りかかる
「うわ! 速くない!?」
気がついた北添は持っていたグレネードランチャーを投擲するが、それごと斬り裂かれる
「おりゃ!」
突撃銃に持ち変えた北添はアルに向けて銃撃してくるが、バックワームを投げた
バックワームが一瞬北添の視界を遮った瞬間に旋空弧月でバッサリいった
「ゾエさんの活躍終わるの早くない?」
トリオン器官損傷で北添はベイルアウト
アルの得点となる
「決まった! 北添隊員無念のベイルアウト!」
「アルが上手かった点は2つバックワームとグラスホッパーを瞬時に切り替えられる点、空中という不安定な足場なのに旋空弧月を当てた点だな」
「え!? 切り替えてたのですか! いつの間に!?」
「ゾエがランチャーを投げた時にバックワームを解除してグラスホッパーを2つ見えづらい位置に展開してる。……そしてバックワームを再度展開してバックワームをグラスホッパーに当てることで前に飛ばした。これでゾエの視界を遮った。もう一つのグラスホッパーをアルが踏んで左に移動したことでゾエの射撃を回避し、そのまま旋空弧月でバッサリ」
「なんという早業でしょう! 強い! 強いぞアル隊員! ただバックワームを解除したことで影浦隊長と辻隊員が近づいているぞ」
「ゾエさんの適当メテオラは犬飼先輩の方に行ったポイね。犬飼先輩が足止めされてるや……犬飼先輩はアルを追うよりも二宮さんとの合流にシフトしたかな。二宮さんは犬飼先輩と合流しやすいテニスコート方面に移動したね」
「となると影浦隊長と辻隊員、アル隊員の三つ巴になるのでしょうか?」
「短期決戦になるなら三つ巴だけど絵馬が良い感じに射線が通る位置に移動し始めてる。長引けば絵馬が影浦の援護に入るんじゃかいか?」
「うわ、レーダー見ればわかるけどゾエさん追っちゃったから高所喪失の上に包囲されてるじゃんアル……北から影浦さん東から辻に南の絵馬でこのまま西に移動すると更に低い場所になるから二宮さんの長距離ハウンドが飛んで来るぞ」
「流石にアルも厳しいんじゃないか?」
「岡村さん降下地点予想図できた?」
『できたよ。最低南に1人居るね。東と北からレーダーに反応あるから影浦、犬飼、辻のうち2名が移動していると思う』
「となると南は二宮隊員か絵馬のどちらか……南の距離は?」
『最低3km離れてる』
「……南から殺る、バックワームは完全解除して2名を釣り出す。運良く2名が接敵して足が止まれば影浦隊員と他2名、止まらなければ辻隊員と犬飼隊員になる」
『いや待ってバックワーム解除した反応2つがテニスコートに集合しようとしてる……』
「影浦隊員と絵馬の可能性もあるけどたぶん二宮隊員と……辻隊員かな? でもそれだと接敵した時に犬飼隊員が溶ける」
『どうする? 何か欲しい情報ある?』
「ない! とりあえず南から片付ける」
再びグラスホッパー走行を開始する
先に見つけたのは絵馬だったすぐさま射撃準備に入るがアルが高速移動中ということもあり遮蔽物の多さも相まって狙いにくくなっていた
絵馬は確実性を取るためにライトニングに持ち変え足めがけて射撃する
バチン
「見つけた」
アルの全面の球体シールドをライトニングでは抜くことができずに位置を教えてしまうことになる
すぐさま絵馬はイーグレットに持ち変え射撃するが射撃位置が判明している射撃ほどガードしやすい物はなく集中シールド1枚でシャットアウト
絵馬は自主ベイルアウトを選択したが60m以内にアルが1歩早く踏み込んでおり、ベイルアウトは不発
空中旋空弧月で絵馬を斬り裂いた
すぐさま方向転換し、アルは一番近い東の目標に移動を開始する
「これはアル隊員が上手かった。遮蔽物を利用しながらグラスホッパー走行を継続していながらもちゃんとシールドで防ぎましたね」
「アルはここまで機動力や空中旋空弧月みたいに攻撃が凄いように見えるが、本人曰く防御の方が得意なんだと」
「以外ですね……いや、以外でもないか? 太刀川隊長とアル隊員が戦っていた時にもアル隊員の防御により試合時間が凄まじく延びてましたからね」
「絵馬の射撃でも高速移動する物体に当てるのは至難の技だ。まぁ当てられるとは思うが……」
バチン
「防いだ!! アル隊員読んでいたかのごとくシールドを展開して絵馬隊員の攻撃を防いだ」
「ライトニングの欠点が出ました。あの速度ではイーグレットでも当てるのは難しいとイーグレットを選択するのはアリだと思うけど威力不足だね。これでアルは絵馬の位置を把握した」
「出水隊員ありがとうございます。アーッと絵馬隊員続けてイーグレットを放つが集中シールドでガード! 硬い! 硬すぎるぞアル隊員のシールド!!」
「シールドはトリオン量によって大きく性能が変わってくるからな。二宮よりもトリオン量が多いアルのシールドだと1枚でもアイビス以外は抜けないだろ」
「あとは旋空弧月か隙を作るか……というか初撃のライトニングはたぶん二宮さんの大玉アステロイドだったら抜けてた可能性が高いからアルは絵馬と仮定して動いていたっぽいね」
「なるほど……今絵馬隊員がまたまた空中旋空弧月によりベイルアウト! これでアル隊員は2点目となり、影浦隊は影浦隊長を残すのみとなりました」
「アルが動いた……東に向かったから辻と接触するぞ」
「バックワームは解除してるし……あ! 二宮さんいつの間に球場に移動したんだ!?」
「絵馬隊員とアル隊員が接触した時には既に球種に居たので犬飼隊員と合流した後全力ダッシュで高所を押さえました」
「となると来るぞ二宮の長距離ハウンドが」
『警戒! 上空からトリオン反応』
「っ!?」
アルは即座にグラスホッパーを別方向に展開して回避しようとするが、トリオン反応はアルに標的にしているのか凄まじい起動を描きながら高速移動中のアルについてくる
『ハウンドじゃない! ホーネットだ! シールドかエスクードでガードするまでついてくるよ!』
アルは即座にグラスホッパーではなく地面に片足を着けるとエスクードを複数枚展開してガードする
防ぎきったと思った瞬間に横から殺気を感じた
弧月を抜刀して体勢を立て直しにしようとした瞬間エスクードの隙間から刃が伸びてきた
アルは弧月で防ごうとした瞬間に刃が更に曲がりアルの腹部を掠めた
「ち! カスダメかよ」
複数枚エスクードによって視界を自ら遮ってしまったが、エスクードに隠れながら近づいた影浦隊員がそこに居た
続いて辻隊員も姿を現す
「アルっつたっけ? うちの2人を殺ってくれたな……仇をうたせてもらうぜ!」
「……あっえっと……その」
影浦隊員は殺気マシマシで辻隊員はなぜかあがっている……この場合取るべき選択肢は……
「「な!?」」
グラスホッパーを再度展開して脱出にかかる
「てめぇ逃げるな!」
「ま、待て!」
離脱に見せかけてアルは後ろに振り向きアイビスで地面に放つことで土煙を上げて煙幕の変わりにして脱出
影浦隊員と辻隊員は敵同士なのでこちらはこちらで戦闘が始まり、アルは一直線にホーネットが飛んできた球場に戻る
「釣れたね二宮さん」
「あぁ、馬鹿で助かった。カバーは任せるぞ犬飼」
「はいはーい」
二宮はアルのトリオン量を考えて合成弾のギムレットを、犬飼はPDW型の銃で弾をばらまく
合成弾の性質上フルアタックになるた合成弾をこねる時間が隙間時間となり弾幕が無くなる為犬飼がカバーすることにより弾幕が無くなることを防いだ
更に高所を取っていることで射程が伸びるので二宮隊2人の圧倒的有利な展開となった
「来るなら来い。そこはキルゾーンだ」
『このまま突っ込めば蜂の巣にされるけどどうするの!』
グラスホッパー走行をしながら球場に近づくアルに岡村はそう問いかけるが、アルも無策に突っ込む訳ではない
「射撃が始まったらエスクードを上限近くまで展開して視界を遮る。そのまま125mまで近づく事ができれば片方は落とせる……犬飼隊員か二宮隊員のどちらを落とせるかは運だけど、二宮隊員を落とせればこの試合4点は確実になる」
事前の研究で二宮隊員が合成弾という物を使うことは知っていた
たぶんこの場面ならばアステロイド×アステロイドのギムレットを使ってくるだろうなという予想は簡単につくが、ギムレットの場合二宮隊員のトリオン量も相まってエスクードでは普通に貫通されてしまうし、更に集中シールド2枚で防がなければシールドも割られてしまう
ただエスクードが届く125mまで近づくことができればアルは勝てる算段をつけていた
『目標まで500m! 射撃開始!』
「エスクード展開!」
1秒間に25枚……50枚のエスクードがVの字で展開し、距離を詰めていく
二宮隊員はすぐさまギムレットを扇型に放ちエスクードを穴だらけにした
それにより私の姿が隙間から見えてしまう
すぐにギムレットと犬飼隊員からの射撃が集中するが、穴が開くということはこちらからも姿が見えるということ
シールドを張りながらアイビスを構えたアルは二宮隊員と犬飼隊員の近くの地面に向けてにアイビスを発射
二宮隊員と犬飼隊員は避けるが、土煙と避けたことにより数秒間弾幕が途切れた
グラスホッパーを1枚展開し、それを踏むことで100mは吹き飛んだ
『残り350m!』
体勢を立て直した二宮隊の2人は再び射撃を開始するが二宮隊長は合成弾ではなくアステロイドと山なりハウンド、時間差のメテオラによる3段交互撃ちという技を使用
これはサブでアステロイドを放ちながらメインでまずハウンドを投射、山なりの軌道を描いている間にメインでメテオラを放つことで擬似的に3つの弾種を同時に扱っているように見せる高等テクニックであり、使えるのは二宮隊員と出水隊員、加古隊員の3名のみの技である
メテオラにより先ほどギムレットにより空いた穴からメテオラの爆風が貫通し、アルの動きが鈍る
「チェックメイトだ」
山なりのハウンドがアルに襲いかかる
「残念でした」
穴の空いたエスクードに左手で触れて更にそこからエスクードを生やすことでΓ字みたいにして天井を作りハウンドをガード
『残り200m!』
エスクードを更に100枚ランダムに展開してジグザグ走行をしながら近づく
二宮隊員は大玉アステロイドで邪魔なエスクードを粉砕していくが125m地点に到達
「ボックス!」
四角く犬飼隊員と二宮隊員をエスクードで囲む
アルは迷わずに二宮隊員の方にアイビスを放った
ズドーン
囲まれたことで逃げ道が防がれた二宮隊員は腹に大穴が空きベイルアウト
犬飼隊員はエスクードを飛び越えて脱出してきたが、アルはアイビスを捨て去り弧月をグラスホッパーに持ち手の底を当てることで高速で犬飼隊員の方に飛ばした
「おっと!?」
勿論犬飼隊員はそれを避けるが、犬飼隊員の周囲にグラスホッパーを球体状に展開して弧月が乱反射
犬飼隊員はグラスホッパーを銃撃で破壊して乱反射する弧月をなんとか回避するが
ズドーン
アルのアイビスで下半身を残して消滅してベイルアウト
別方面でも誰かがベイルアウトし、残り1対1となる
『アルここで選択だけどここでアルが自主ベイルアウトした場合4対3対0で勝ちが確定する。影浦か辻のどちらかと戦闘した場合勝てば7対1対0、負ければ4対4対0になるけどどうする?』
「私のトリオン残量は?」
『残り25%』
「エスクード乱発はもう無理だから……戦いますか」
『目標まっすぐこっちに近づいてきてるよ。あと4分後に接敵する』
「了解」
影浦は正直驚いていた
アルという近界民の事は知っていたがボーダーでも匙を投げるような質の悪い、旧式のトリガーと自爆攻撃で香取隊と風間隊を撃破し、ボーダーに入隊してからは太刀川の玩具として扱われている様子を見て興味は有ったが最初の太刀川との試合を見て勝てる相手であると認識していた
まずスコーピオンの対戦経験がC級で止まっている事実を絵馬経由で聞き出し、マンティスや弧月の幻踊には経験不足で対応できないと仮定した
本来であれば絵馬かゾエのどちらかの支援がある状態に持ち込んで最初に撃破するつもりだったのだがどちらも早々に撃破されてしまった為作戦を変更し辻と三つ巴に持ち込んで二宮の長距離のメテオラやハウンドを掻い潜りながら2名を撃破して離脱するという案もアルが逃げた為ボツになり、辻との戦いは勝ったが、左手をバッサリ持っていかれた
スコーピオン使いは片腕を落とされようが支障は無いが、ヒカリの情報だとアルのトリオン使用量は相当で先ほど与えたダメージを合わせれば残り3割を切ったとの報告もあった
このまま逃げ切りは興醒めだが、アルは俺とのタイマンを選択して現在の打ち合いとなっているが、かてぇ
マンティスの変則斬りや刺しをシールドや弧月で上手くガードしやがる
サイド・エフェクトでアルの攻撃も防いではいるが……なるほど、太刀川が玩具にするわけだ
どんどんこっちの攻撃に対応してきてやがる
遊んでる暇はねぇってこった
「楽しかったぜ! まだ殺ろうな」
俺はもぐら爪で地面からマンティスを生やし、トリオン器官を一刺し
アルは驚いた表情をしながらも満足そうに笑うとそのままベイルアウトしていった
次殺る機会が有ったらヤバイなと思いつつもアルのまっすぐな殺意には好意を持った
絵馬曰くよく食べるらしいから今度実家のお好み焼きを食わしてやるかと思うくらいには気に入った
結果
岡村隊4点(撃破点4点)影浦隊4点(撃破点2点生存点2点)二宮隊0点