追記:遅刻しました
夏合宿。トレセン学園に於いて様々な方向で重要な期間であり、多くの生徒が各々の目標や課題、或いは 望みに向けて行動する。今回の夏合宿も例年通り、海と山の近い場所で行われていた。日中は当然の様に走 り込みに筋トレ、クイズ大会(?)とトレーニングを重ねる......陽が沈んだ夜には各々が自由時間を謳歌し、 中にはオーバーワークになってしまう程自主トレに励む者も存在する。 そして、夏の夜。定番のようなイベントを楽しむ者もまた当然、存在するのだ。
肝試し。特定のルートを巡り、戻ってくる。それだけの行動も時間帯が『夜』であり、『脅かし』が追加 されれば一転。恐怖のイベントに早変わりする。 だが、ここで語るのは夜に恐怖に怯えるウマ娘達の話ではない。脅かし、恐怖に陥れる者達......裏方で駆け 巡る、とある | 誰かさん
「はぁーい。みんな、ゼッケン付けた?」
「付けましたリーダー!」
夕暮れ時、ウマ娘のグループが様々な小道具を手に集まる。大凡が芦毛、中に数名鹿毛が混じった集団は 和気藹々と目の前で『あいあむりーだー』と気の抜けそうな字体で書かれたタスキをかけたウマ娘の前集ま り、数字の書かれたゼッケンを付けたウマ娘の一人が真っ直ぐ伸びた挙手と共に返事をする。 その様子に満足そうに頷いたタスキをかけたウマ娘......デュオタージェは軽く咳払いを一つ。
「ゼッケン装着ヨシ! それじゃあ早速......『肝試し』の仕込み、始めよっか。総員、安全第一注意事項を守 って、頑張ろう」
彼女が片手を伸ばすとそれに合わせ、全員がぞろぞろと手を重ねて行く。デュオタージェの手の上に乗せ
られた十二本の手が「おーッ!」と言う声と共に勢いよく上に挙げられ、そして全員がその勢いを保ったま
ま、それぞれの持ち場へと向かい走って行く────
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 蜘蛛ォォォォ!? 蜘蛛イヤダァァァァァァァァァァァァァッ!?」
「うっっっっっさいッ! ってか抱き付くな重いッ!」
「重くないッ! 私重くないよッ! 乙女に重いなんて言うなスクトゥムゥゥゥゥ!」
「ああもう耳元で叫ぶなって! と言うか蜘蛛程度でビビんなアンタの声でこっちがビビるわッ!?」
元気だなぁ......と。林道を使った巡回コースに肝試し特有の雰囲気を出す為の飾り付け......木の幹に細い糸 で括り付けた何ちゃって藁人形に、木に吊るされたボロボロの縄、ちょっと道から離れた位置に人魂っぽく 見える揺れるビニール + 電飾と、他にも小道具が沢山。曰くこう言う小道具はファン感謝祭で使った物や製 作物の余剰などから流用したり、捨てる前に再利用してたり......らしいです。
「ちょっとバックラー、このビビりスヴェル引き剥がすの手伝って!」
綺麗で明るい鹿毛の三つ編みを荒ぶらせる
「しょーがないだろーっ! 何で蜘蛛って目が何個もあるんだよーっ! 目が無理っ! 目が沢山は無理な
んだってっ!」
がしがしとスヴェルちゃんが頭を両手で掻き、奇声混じりに暴れウマと化していく。その内スクトゥムち ゃんに張りついたままメトロノームみたく左右に動き出しそう......と言うか実際に動き出し......うわっ、凄い 迫力と奇声......
「ったく......アタシも流石にこうやって両手両足塞がれてっと作業も何も出来ないしさ。つーか力強過ぎんだ ろスヴェル......」
普通、頭を掻きながらメトロノームみたいに揺れる人を背負ってたら手足が拘束されてるかどうかとか関 係無く作業は出来ないと思うよスクトゥムちゃ、ん......
「......」 「......バックラー?」
二人の姿を見て少し深呼吸......ぎゅっと汗の滲む手を握りつつ、続けて口を開く。
「......ごめんね、ちょっと暫くはそのままで......残ってる作業は私が終わらせちゃうから、うん」
私は作業の続行を決めた。いくら何でもこれは私にはどうしようもない......。私に出来る事はただ、手早く 作業を終わらせてしまう事ぐらいだろう......と、一先ず気付かないフリをして二人から目を逸らす。背後から
スクトゥムの抗議とスヴェルの雄叫びが聞こえてくるけど、ちょっと今は気にしてる余裕が私には無い。
汗がダラダラと流れるけど、今ばかりは暑いとは思えなかった。
ゴトン、と。低木の影に大きな箱を置くと同時に遠くから
「ええっと......
『ヴヴヴヴヴヴ(カチッ)......』
「動作確認ヨシ。あとはセンサーの設置ね」
しっかりとおどろおどろしい声が箱......スピーカーから聞こえて来たのを確認して、リモコンをもう一度操 作して音を止め、電池も勿体ないしそのままリモコンの電源も切っておく。次にスピーカーと配線を繋いだ センサーを茂みに紛れる様に設置して......
『ヴヴヴヴヴヴ』 「うん、こっちの動作確認もヨシ。次の場所は......」
センサーの前に手を差し込むとしっかりと音が鳴り、きっと
「さぁて、今夜はみんな怖がってくれるかな~?」
『ヴヴヴヴヴヴ......』 「......?」
次の場所に向かおうとした時、ふと何か聞こえた様な......そんな気がしたけど、多分またスヴェル達の方の
声でも聞こえて来たのね。 それにしても......
「暑いわね......」 林道沿いだから日射しは直接当たる訳じゃないし、もう夕方だからそれなりに涼しいのだけれど......どうし
ても空気のジメジメとした熱が纏わり付く様にしてくる。嫌な感じ 「......あら」
ふと気がつくと自分の服に木の葉が着いている。多分スピーカーを設置する時にくっついちゃったのね。 誰かに見られてる訳じゃなくてもこう言うのって恥ずかしいから早く取らないと......っと、手鏡が確か......
「うぅ、髪にまで......」 少し暗めの栗毛に混じる緑や茶色を取り除き、次いで見難い場所に引っ付いていた葉を手鏡で確認しなが
ら取り除く。 「あとは......大丈、夫......」
夕日が落ちていき暗くなっていく林道、そして鏡に映る私越しに見える私がさっきまでスピーカーを設置 していた場所辺りに、”誰か“がいる。丁度影になる場所で姿はよく見えないけど......。 ......肝試しで、『本物』が紛れ込む、だなんて。そう言う噂話は何処でも聞こえるから対して気にしない事 にしていたけど......流石に意識してしまう。だって、あの場所にただ何もせず立っているだけだなんて......幾 ら何でも不気味に感じる。
「......」
さっきまでのジメジメとした暑さが急に無くなった様な錯覚がした。一先ず手鏡はそのまま私とその後ろ を映しつつゆっくりと歩いていく。
......誰かもゆっくりと着いて来てる......様な気がする。
(もしかして......これって、本当に危ないやつなんじゃ......)
汗が冷えただけじゃ無い冷たさが背中に広がる。思わず歩く脚も早くなり、気が付けば手鏡も適当に鞄に
入れて出来る限り後ろを見ないようになっていた。多分さっきまで目指してた次の場所を通り越して更にそ
の次の予定の場所まで来てしまっている。
「......ッ! 焦って動いていたせいか小さい窪みの様な場所に足を取られてしまったらしく、ガクンと転びかけ
────ガシリと、後ろから誰かに手首を掴まれた。思わず悲鳴が出そうになったけど、それ以上に肝が冷 えて声も出ず......
「アスピス、大丈夫?」
聞こえて来た声に思わず振り返り、そして見慣れた芦毛とその顔がデュオクリペス、同室のクリペスちゃ
んだと気付いて安堵から一気に肺の中の空気が抜けてしまった。
「お、脅かさないでよクリペス......!」 「ふふ、ごめんね。予想より怖がってくれてたからつい......」 「もう......!」 「あ待って揺らさないでごめんほんとごめん」
ガクンガクンと私に肩を掴まれたクリペスちゃんに抗議をするも頭が
「それがね......予想より速く終わっちゃって......基本的に置物だけだし」
「そうだったの?」 「そう。それでサクッとアスピスの方を見る次いでに脅かしちゃおうかなって────だからごめんってば ぁ~」
ちょっと一回ぐらい”戻“させても許されないかな? と目の前の愉快犯ウマ娘を揺らしつつ思ってしま う。二回目の強制ヘドバンを終わらせて本当に真っ暗になりそうなので、懐中電灯も付けつつ、クリペスち ゃんと一緒に手早く残りのスピーカーを付けていく。恐怖から解放されて少し疲れたのも後押しして、早め に終わらせて休憩したくなったのもあったから後は特に何も問題は無く、さっき飛ばして歩いていた場所に 戻ってきて最後のスピーカーも設置し終わる。
『ヒッグ、グスッ......』 「動作確認ヨシ」 「ヨシ!」
クリペスちゃんが逆にダメそうなポージングをしているけど無視。ここのセンサーもちゃんと機能してい
るし、これで私の作業も終わり。多分時間的にも他のみんなの作業も終わってる筈だからこのまま合流場所
に戻る事になった。
「ふふふ、久しぶりに怯えたアスピス見えて楽しかったよ」 「こっちとして全然楽しくないわよ......もう!」
『ヴヴヴヴヴヴ』という音が聞こえてくるスピーカーを通り過ぎつつまだ私に悪戯を成功させて愉しげな
クリペスちゃんの横腹を小突く。普段は優しい良いお姉さんポジションに居るのに、本質的には悪戯好きな
のがたちが悪い。
「うわ、今のスピーカー結構怖いね」 「......え」
何だかんだと気が緩んでた私はふと、クリペスちゃんの発言に違和感がある事に気が付いてしまった。
「どうしたのアスピス?」 「いや、だってあの時......さっきのスピーカーの辺りに立ってたじゃない、クリペスちゃん」 「え?」
「え? じゃなくて......私が怖がって逃げたから追いかけて来た......のよね?」
可笑しいと感じながら確認を取っていく。だって私はあの時確かに......待って、本当にあの時の人影は...... クリペスちゃんだったの?
「いや......私はちょうど暗くなって来たのと......アスピスが丁度鏡見て歩いてたから忍び寄り易いなって思っ て......」
そんな筈は...... 「だって私......追いかけられたから手鏡を持って......逃げてたのよ、クリペスちゃ────」
『ヴヴヴヴヴヴ』 誰もいない筈の後ろで、センサーが起動した。
「クリペスさん達、少し遅いですね」
作業終わりにみんなが集まる集合場所。夕日がもう完全に隠れる......と言った時間になっても......具体的に は予定より十分ぐらい遅い程度だから別に作業の誤差ぐらいでしか無いから気にする必要はない......筈だった んですが
「「「......」」」
作業を終えたスクトゥムさん、スヴェルちゃん、バックラーちゃんの三人が......何というか、すっごく顔が 青い状態で......集合場所の広場の隅、そこにあるベンチで固まってるせいで何と無く不安になる。あのいつも 騒がしいスヴェルちゃんがあそこまで静かなのも変だし、スクトゥムさんがあそこまで怖がる様な様子にな るのも......バックラーさんは......まあ......うん。
「スム*1ちゃん......大丈夫?」 「......大丈夫......だと、思いたい......!」
スクトゥムさんの姉......シパルーさんが三人分の缶ジュースを差し入れる。一応それを受け取ってチビチビ と飲んでいるし体調が悪い訳......では無さそうですね。
「......でも、本当に何があったんでしょう」 「それがですねエキュ、何でも幽霊にあったとか何とか......」 「えっ?」
クイッと眼鏡を押し上げつつ、芦毛のプリュウェンさんが少しばかり険しい顔で話してくれる。
「詳しい話は聞いてはいませんが、バックラーさんがおかしな事に気がついたらしく、それをお二人に伝え た結果......」
「ああして、三人ダウンした」
「あっ、タージェさんも」
同じ様に眼鏡をクイッと押し上げつつ、タージェさんがやってくる。片手には『肝試し参加者名簿』と記 されたファイルと......『肝試し禁則事項』なる冊子。
「
「......えっ、本当に”出る“んですか?」
「「うん」」
「え ゙っ」 思わず固まる......が、二人は全然。本当に気にした様子も無い。
「脅かされはするかもしれ無い......けど、
「......そ、そうなんですか......」
そう言ってタージェさんが私に冊子を手渡してくる。幽霊......よりも大変......一応確認しておいてって事で すよね。と言うかそう言うのがあるなら先に見せて欲しかったなぁ......
「えっと......」
意を決して冊子の中身に目を向ける。
肝試しの仕込みを行う際、以下の内容を避ける事に注意せよ 1.危険な場所へ向かう事。 2.強い光が布に当たり続ける事。 3.食べ物を使用した仕掛けを使用する事。 4.道を別れさせる事。
5.ゴミが残る事。 等......
「......」 ......普通ですね?
「あ、普通だと思った?」
「そうですね......」
「まあ普通の内容ですからね」
「本当に普通過ぎ......いや 2 番と 3 番だけ何か変じゃないですか? 6 番以降は本当に普通の注意事項です し......」
思わず気が抜けて苦笑いが漏れる。けどちょっとだけ変な内容の注意に興味が湧いて来る。
「おっ、気になっちゃう?」
ズイッ、と。目の前の二人とは違う......私と同じ黒系の芦毛を持つジャヌイヤさんと、灰色に近い芦毛のペ ルテさんの二人が両手に紙袋を提げて集合場所に戻って来た。
「お帰りなさい、ジャヌイヤさん、ペルテさん。知っているんですか?」
「そりゃね。色々調べて回ってる時にちょっと」
「私も、です。気になるならお話ししましょうか?」
紙袋......作業終わりのオヤツを適当な台の上に置いて......代わりに懐中電灯を手に、私の前に陣取る。 「ふふふ......それではお耳を拝借......」
......曰く、これはいつかの年。私達と同じく......肝試しの準備をしていた時に起きた悲劇。 その日は何でも前日の雨が影響したジメジメとした空気で、晴れては居たけど全員が暑さからか焦ったよ
うに作業を進めてしまった。 だから途中で小さな岩の上に色々物を置いて、その目の前を白い布で覆い隠してしまった事も気にも留め ず、更には幽霊っぽい影を作る為に凄く明るいライトを付けたまま置いて作業を終えてしまった。 本当に誰も気にもせずに......そのまま肝試し本番になったと言う。
果たして彼女達の努力は......大成功! 肝試しに参加するみんなが最後の最後。幽霊の影を作る例の白い布 の所で悲鳴をあげて逃げていく。これなら大好評だろうと......そう思っていたが、どうも様子がおかしい。
「アレは......アレは怖いよぉ!」
何だか思ってた怖い、と言うより......? 疑問に思った彼女達は自分達も確認する為にみんなと同じ様に肝 試しルートを辿る......一つ二つ三つと肝試しの仕掛けを見ていく。出てくる所も分かってるし全然怖く無いけ ど、不気味さには自画自賛してたらしいよ?
さて、最後の最後......例の影の演出。さてこれはどんな出来かな? ってその影を見たら......なんだか、動 いてる?いや、影も大きさが変だ。自分達の置いた影を作る置物は岩の上でライトの目の前にあるから、動 くのはおかしい......! そうして意を決して布の裏側を覗く────!
「そこには大量の蛾がぁッ!」 「って岩関係無いじゃないですかっ!」 「うん、関係無いんだよねこれが」
ズコッ、と。少し古臭い動きをしてしまった私は多分悪くない。と言うかそれって別の意味で怖い話です よね、
「ってことは食べ物をって言うのも......」 「そのとぉり~。虫が沢山集まってそれはも~」 「ちょっ、タリカーさん!? 私の話ネタが無くなっちゃうじゃないですか!?」
ズイッと(その 2)、二人の間から小柄でサイドテールが特徴的なタリカーさんが顔を出してくる。
「まあまあ......あ、それでタリカーさん。頼んでたお二人は......」 「ちゃんと見つかったよ~。林道の脇で物凄い震えてたね~。今はそこで三人組から五人組になってる よ~、ほら」
間伸びした言葉に従ってベンチの方を見ると、アスピスさんとクリペスさんが新しくチビチビとジュース を飲んでいる。タリカーさんが言うには怪我とかは無いらしい......が、まあ怖い思いはしたらしい......
「五人とも、肝試
シパルーさんが私達の方にも缶ジュースを渡しつつ、「あんな二人を見るのも久しぶりね」とニコニコし ている。まあ普段はしっかりしてる人ですから......いやクリペスさんは......しっかり......して、は居るけど悪 戯が多いせいで印象が......っと、違う違う。
「兎に角全員揃いましたし、みんな疲れてるなら速く号令取って宿の方に戻りませんか?」
「そうだね、一先ずゼッケンも集めちゃおうか。あの五人にもオヤツあるって伝えておいて、多分スヴェル
はそれで元気になるし」
実際に今スヴェルの耳が反応しましたからね。
「そう言えばこのゼッケンって光を反射するんだよね~。おかげさまで探しやすかったよ~」
「うん。このゼッケンって万が一暗くなって迷った時に探し易くする為の物だからね」
「本当だ、光当てるとちょっと光るじゃん」
五人の方からもゼッケンを受けとって、軽い号令をタージェさんが掛けたらそれでもう終わり。この後も 少しは肝試しでやる事はあるけど、脅かし役自体は別の子達がやるからこのまま休憩になる......前にちょっと だけタージェさんの片付けをプリュウェンさんと一緒に手伝う事に。 その後はゆっくりと合宿所でオヤツを食べつつ......その頃には五人も回復して元気良く元通りでした。
片付け中......
「────あれ」 「どうかしましたかタージェ?」 「......うーん?」
「タージェさん?」 「......今、手元にゼッケンが 12 枚ある」 「「......え?」」
やあやあ我こそはモブウマ娘の中でデュオ家十二名を推すもの。いざ尋常に、勝負!
デュオ(冠名)家一覧(五十音順)
デュオアスピス
デュオエキュ
デュオクリペス
デュオシパルー
デュオジャヌイヤ
デュオスヴェル
デュオスクトゥム
デュオタリカー
デュオタージェ
デュオバックラー
デュオプリュウェン
デュオペルテ
作者:スコープ