デジモンサヴァイヴ裏ルートクリア後   作:ふわふわ

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騒動後の入学式

 僕達の春休みは散々だった。

 課外キャンプに参加して、そこで死ぬようなサバイバルを経験して、世界中の誰もしたことがない大冒険をして、僕達の仲も深まって。そして最高のパートナーと出会えた。

 世界を救った、なんてことは大袈裟に言えない。だって僕達は誰も犠牲者を出さずに元の世界に帰ることを目指して、攫われたミユキを助けることが世界を救うことに繋がっていただけなんだから。

 

 そうして僕達は現実世界ではほんの短い間の、異世界ではとても長くて濃厚な旅を経て僕達の関係は変わった。

 アグモン達──ケモノガミと呼ばれていたが、教授が命名したデジモンという名前が一気に普及した──は世界に認知されて、僕達はそんな大事なパートナー達と現実世界で一緒に暮らしている。最初は母さんに驚かれたけど、今ではすっかり母さんと馴染んでいる。

 他の皆とも、連絡を取り合って正直色々と大変だった。

 

 ミノルは同じ学年な上に、ファルコモンも居たからすぐに学校中で有名になる。僕とアグモンの動画がSNSで拡散したためにミノルも一緒になって質問責めにあった。これはキャンプに戻った全員がそうだった。

 親友と同じ感覚を共有して昼休みなんて愚痴り合ったくらいだ。

 

 アオイさんは僕達とは違う学校だったから始業日が一日早く、皆大変だから気を付けてねと忠告があった。その苦労を甘く見ていた僕達はみんなのお母さんだったアオイさんの言葉をもっと重く受け止めるべきだったと反省する。

 まさか始業式が終わってすぐ職員室に呼び出されるなんて思ってもなかった。

 

 そのことをグループラインで伝えると、アオイさんとも違う学校のリョウも同じように呼び出されたらしい。僕達八人組は今や時の人だ。

 最終決戦の様子がどうやら二つの世界の揺り戻しの過程だったみたいで、ネットを漁っていると最終決戦やピエモンとの工場での戦いなどが掘り出されたりする。そうなると僕達は名前も呼び合っているし、顔も隠していない、課外キャンプに参加していたことから様々な個人情報がダダ漏れ。

 実は街を歩いているだけで大変な思いをする。今までボッチだった俺にはキツイ、とリョウが零していた。

 

 シュウジさんはロップモンと一緒に暮らすことを父親に反対されたことで急遽一人暮らしを始めたらしい。これ、キャンプから帰って次の日の出来事で、グループラインが早速有効活用された瞬間だった。

 

「よくそんなにすぐ住む場所見付かりましたね?」

「即日入居可の場所だったからね。保証人は一応父さんになっているし」

「シュウジさん、料理できましたっけ?私、基礎的なことを教えに行きましょうか?」

 

 心配になったアオイさんがそう言う。同じ学校の先輩後輩で僕達の男女のリーダーだったために案外波長が合っているのかもしれない。

 

「いや、大丈夫だよアオイくん。ロップモンが色々とやってくれてね。むしろ僕がちょっと手伝うくらいなんだ」

「シュウジには勉強があるからね。僕が代わりに家事をやるんだ!」

「うわぁ。ロップモン、通い妻状態じゃないっすか。シュウジさん」

「ブッ⁉︎」

 

 ロップモンの状態にミノルが茶化すと、シュウジさんが汚くも噴き出していた。誰も言わなかったのにミノルはすぐ言っちゃう。けど、それがミノルの良さでもあるんだけど。

 言われたロップモンを含め、デジモン達は揃って首を傾げていた。

 

「なあ、タクマ。カヨイヅマ?って何?」

「あー……。アグモン達って結婚ってわかる?」

「わかんない!」

「うーんと、一人暮らしの相手の場所に通って家事とかする人のこと、かな」

「え?僕シュウジと一緒に住んでるよ?」

 

 僕が言葉を選びながらアグモンに説明すると、ロップモンが可愛らしく否定した。本当だ。通っていないから通い妻じゃないぞ。

 

「じゃあ同棲中の彼女だ」

「ミノル!どうしてそうなるんだ⁉︎僕とロップモンはあくまでパートナーだ‼︎」

「ムキになって否定しちゃって、アヤシ〜」

「サキくんまで⁉︎僕を揶揄って楽しいか⁉︎」

「うん」

「シュウジさん反応良いから」

「年上への敬意を感じないぞ⁉︎」

「まあまあ、このメンバーの間だけですから」

 

 そんな揶揄いもあったものの、シュウジさんが一人暮らしで問題なく生活できているようで安心した。シュウジさんはこれから入学式なのに大変だ。

 シュウジさんはこれからもキャンプのお手伝いをしながら教授のいる大学に入るために勉強を頑張るようだ。二人はまさに師匠と弟子のような間柄だったから、教授は喜んでいた。

 

「お前達も大変だけど、こっちはこっちで大変だぞ?なにせケモノガミ信仰の発祥地だからな」

「連日連夜の大盛況だよ〜。なんだっけ?聖地巡礼?みたいな感じ」

 

 カイトとミウの住む場所は僕達がキャンプに行った場所だ。現実世界で一番影響の大きかった場所だからかなり話題になっている。

 実際遊園地にいたパタモン、ピヨモン、パルモンがちょくちょく遊びに来ているんだとか。ミウはそんな小さいデジモン達と遊びながら過ごしているらしい。

 

 それとカイトとミウの兄妹が中心となって崩れてしまった神社の再建のために動いているんだとか。教授も後援していて、僕達も手伝えることは手伝いに行くことになっている。具体的には瓦礫の撤去などだけど、これはアグモン達にも手伝ってもらうつもりだ。

 

 教授はまず大学に戻って今回のことを世界に受け入れてもらえるように土台作りと、あとはミユキに現代の常識を教えることに精力的になっているらしい。僕達の中で一番忙しいのは確実に教授だ。デジモンのことについては色々起こりすぎたために、やることが山積みなんだとか。

 僕達も手伝えることは手伝いたいけど、中高生の僕達にできることは少なかった。むしろ顔や所属学校などが割れている僕らは大人しくしているようにと言われている。

 

 もしかしたら危ないからと。

 アグモン達には苦労をかけるけど、あまりおおっぴらに彼らを連れ出せない。絶対に注目されるから。まあでも、その代わりアグモン達は現実世界で娯楽と言うか集合場所を見付けたせいでストレスなどはないらしい。

 

 その集合場所とはインターネットの海。

 そう、アグモン達デジモンはインターネットに入り込むことができる不思議生き物だったんだ。パソコンやスマホに手を伸ばすとデジモン達はインターネットに吸い込まれるらしい。これが最初にわかった時は僕達の間で大騒ぎになった。

 

 向こうの世界でもデジモンをスマホで見ると色々とノイズが走っていたから電子とは関係があるんだろうって教授が推察していたけど、まさかその通りの現象を引き起こせるなんて思わなかった。

 そんなあれこれを消化するには春休みなんて短すぎて。

 

 

 そしてサキは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよー!」

「おはよう、サキ」

「おはよーっす、サキ!」

 

 僕とミノルが学校に向かって歩いていると、後ろから元気な声でサキに挨拶された。

 白いセーラー服と黒いスカートを履いたサキ。そう、サキは今日僕達の学校に入学する。

 入学先の学校は聞いていたけど、まさかって感じだ。

 クラスの女子などでウチの学校の制服を見慣れてると思ったけど、サキが着ているのを見ると、その……。

 

「どうどう二人とも?あたしのおニューな制服姿は?」

「おう、似合ってるぜ。な、タクマ」

「あ、うん。よく似合ってるよ。キャンプの時は私服だったから新鮮かも」

「それはあたしもだよー。特にミノルなんてなんか似合ってなくて笑える」

「え、ウソ⁉︎」

 

 ミノルに先を越されたけど、本当に似合ってるし新鮮だと思った。僕達男子の制服は紺色のブレザーでミノルは笑われているけど、僕はどう見えてるんだろうか。

 自分のことを考えたけど、サキに言うことがあったと思って口にする。

 

「サキ、入学おめでとう」

「おお、そうだ。入学おめでとうな。これからサキは俺達の後輩になるわけだ」

「ありがとう。あーそっか。二人が先輩かぁ。……ミノル先輩?うーん、先輩感がない」

「酷いな⁉︎」

「ミノルだってリョウやシュウジさんに先輩って言ったりしないじゃん」

 

 この二人は波長が合っているかのように誰かを揶揄う。昨日のシュウジさん相手にしていた時なんて息がピッタリだった。

 それを見ていて、聞いていて。ちょっとモヤモヤした気持ちが膨れ上がっていた。それを隠すようにサキに聞いてみる。

 

「僕は先輩っぽいかな?」

「タクマはみんなのリーダーっぽかったから年上って感じがする。十日もいなかった時はみんなボロボロだったからね。それにあの時はミユキちゃんと一緒に消えちゃったし、どうなったかわからなかったから本当に心配したんだから」

「ご、ごめん」

 

 あの時はあの黒い霧に飲み込まれるとどうなるのかなんてわからなかった。ミユキを助けたかっただけだ。結局そのミユキがいなかったら生きていなかったんだと思うと背筋が凍る。

 今ではみんな許してくれてるけど、キャンプが終わってから特に女性陣に絞られるように怒られた。あの時は四人の顔をまともに見られないほど怖かった。

 

「んー、でも先輩かあ。タクマ先輩?」

 

 僕の顔の下から覗き込むように見上げてくるサキ。いきなり近くなったサキの顔に僕は体温が一気に上がるような錯覚を覚えた、

 今までは普通に話せていたはずなのに、こうして久しぶりに会うとなんだか緊張する。

 心臓がバクバクと煩い。今までと違う呼び方がそうさせているんだろうか。

 

「うーん。これも変な感じだなあ。やっぱりタクマはタクマだよ」

「サキがそう呼びたいならそれで良いよ。僕達も今更アオイさんとかを先輩とは呼べないだろうから」

「アオイちゃんはアオイちゃんだしね。あーあ、アオイちゃんも同じ学校だったら良かったのに」

「サキってアオイさんとすっごく仲良くなったよなー。姉妹みたいだってタクマとも話してたんだよ」

「料理の手伝いとかしてたし、女の子同士で色々話してたからね。ミウちゃんとミユキちゃんは満場一致で妹扱いだったけど」

 

 そんなことを話しながら学校に向かう。

 もう散り始めている桜並木を見ながら、サキはポツリと呟く。

 

「次、制服着られるのはいつだろうなー……」

「サキ、手術の日って決まったの?」

「うん。今週の金曜日。明日から大事をとって検査入院するんだよ」

「入学してすぐ休んで大丈夫か?」

「入学式で顔を出さないよりは良いかなって。それに思い出として参加しておきたかったし。二人に制服姿も見せときたかったから」

 

 そう。サキはこれから手術をする。持病の肺が悪化して、これ以上は伸ばせないとお医者から言われたらしい。

 課外キャンプは家族と離れて自分だけの思い出を作りたかったらしくて、あっちの世界に行っている間は多めに持ってきていた服用薬でどうにかしていたんだけど、終盤は薬がなくなって発作が出ていた。

 

 それもフローラモンが究極体に進化できるようになって手に入れた回復の力でどうにかできていたんだけど、根本の解決にはならなかったらしい。

 サキはこの世界でもっと生きてみたくて、手術を決めた。だから入学はするけど手術とリハビリで学校には当分来られなくなるらしい。

 

「いつでも待ってるよ。手術の日にも行くから」

「アオイさんも来るって行ってたな。俺も行くし、リョウもシュウジさんも、カイトとミウも来るってよ。教授とミユキも行けたら行くって」

「終わってから来てよ?学校サボったら怒るからね?」

「う。……わかったよ。放課後に行く」

「アハハ。サボる気なのバレてんのー!俺もサボろうと思ってたけど、サキに言われたらしゃあねえ。気が気じゃねーけど授業受けてっかー」

「え?え???ミノルはわかるけど、タクマもサボるつもりだったの?」

「俺は良いのかよ⁉︎」

 

 ミノルのそれは愛嬌というか、役柄というか。サボるって言っても許されるのは凄いと思う。

 僕やシュウジさんがサボるって言ったら驚かれるのはそういう風に見られているってことだろう。

 

「まあ、二人との学校生活も楽しそうだし、ちょっと待っててね?すぐ治してきて復帰するから」

「うん、待ってるよ」

「帰ってきたら色々と面倒見てやろうか?友達できなくて泣きつくなよ?」

「その辺りは頑張ってみるよ。まずは私って変われたのか確かめたいから一人でやってみるよ。それでもダメだったら二人に頼るかもね」

 

 アハハと笑うサキ。

 そのサキは校門に近付くと僕達より歩く速度を早める。

 

「入学前に男の先輩二人も侍らしてたら同性に睨まれそうだから先に行くよ。じゃあね〜」

「そんなに気にしなくて良いんじゃない?学校で僕達を知らない人はいないし。多分サキのことも知れ渡ってるよ?」

「そうそう。知らない人にめっちゃ話しかけられたからな〜。サキも覚悟しとけよ?」

「マジ?それは困る。……でも新入生で知らない人もいるかもしれないから、やっぱり先に行くよ。友達作ってから入院する」

 

 そう言って今度こそ先に行った。そう言われたら追いかけるわけにもいかないからゆっくり歩いていった。

 そしてさっきのサキの様子から僕は安堵する。

 

「サキ、空元気じゃなかった。良かった……」

「俺たちやフローラモンと長く笑ってたいって言ってたし、大丈夫だろ」

「だね」

 

 ミノルと話しながら学校に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時。最終決戦の前に。

 サキが不安そうにしていたから、誰かに嫌われることを怖がっていたサキに僕はこう言った。

 

「……僕、サキのことが好きだ」

 

 その時はフローラモンに揶揄われたり、サキが慌てちゃったから咄嗟に誤魔化しちゃったけど。

 そういう気持ちがなかったかと言われたら嘘になる。

 いつも笑っていて、無理をしているって気付いて。自分と同じような人を放っておけなくて。

 

 自分の病気のことは必死に隠して。それでもみんなと生きていたいと決心した弱くて強くなった女の子を放っておけなくて。

 だから今も、サキと話すと緊張する。いつも通りに振る舞えているか心配になる。

 ただただサキの手術が上手く行くことを願った。

 

 

 

 

 

 隣のミノルのニマニマした表情と。

 先に行ったサキの耳が真っ赤になっていることに、僕は一切気付かなかった。

 

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