「どーしよーかなー」
特務官 早崎瀬戸は悩んでいた。
一人なら歩いてもいいのだ。
移動は基本歩きだから、いままで結構な距離を歩いてきたし足には自信がある。
「けど、子供二人いるからね、流石に子供連れて数百キロとか歩かない方がいいよね…」
独り言を言いながらベンチに座っている瀬戸と瀬戸を挟むように座る子供二人。
瀬戸からして右にいるのはユクトくん、ユクト・クロードマイス・アレスキア、金髪で将来いい子になるのはほぼ間違いないだろうが、今はまだ幼さがみえる男の子。
左にいるのはリンフィアちゃん、リンフィア・ロストル・ガション、ひびの入った丸眼鏡をかけた長い黒髪の大人しそうな女の子。
今は両者とも瀬戸に寄り掛かるようにして寝ている。そして3人を包む大きな1枚の毛布のおかげで暖かくして寝ていられる。
瀬戸が子供たちを救助・確保したのは一昨日の朝の話。
機械体による大気の汚染があるので、その日のうちに街を離れ、線路沿いを歩くこと1日と半分、悲惨な状況の街を離れ、郊外の駅舎内で休憩がてら一泊。
そして今に至る。
今は朝、瀬戸の左手の腕時計は六時を指し、外はもう明るい。
付近の状況を知りたいので動こうとするが挟まれ寄り掛かられているので動けない。
起きてから約1時間、動かず座ってこれからどうするかの考え事。
もう飽きてきた。
「ま、市街地から離れたから汚染もなさそうだし、ゆっくり行こうかな」
考えがひと段落ついたところで子供たちは起きるわけもなく、動けもしないので壁を見つめるだけ。
レンガ造りの小さな駅舎、駅員がいる様子もなく、電灯はあるが点いてはいない。
外の朝日だけが明かりとなる薄暗い駅舎内。
使われているのかもわからない掲示板のようなところに貼られている紙は色あせているし、駅の時刻表の更新日と書かれた日付は3年前の9月。
使われてないのかもしれない。
そんなことを考えながらぼけーっとする。
子供たちの寝息がひそかに聞こえる。
レーダーを使うも敵の反応はない。
一時的な安全。
「こんな雰囲気も良いね〜」
瀬戸はのんびりと平和ボケしたような事を言う。
タ、、タ、、ターー。
瀬戸たちがベンチに座ってのんびりしている駅舎の中に訪問者が一人。
入ってくるやいなや駅舎内を見回し、こちらに気づく。
ボサボサの肩まである赤い髪に特務官専用帽を被り、特務官の青い制服を着た女性。
瀬戸はものすごく見覚えのある同期の仲間。
「ん、瀬戸じゃないか、生き別れの兄弟でも見つかったのか?」
「そうだよ〜、長年生き別れてた可愛い弟たちーー。って、違うよ!!」
瀬戸は子供たちの頭を撫でる仕草をしようとして止め、否定した。
特務官
瀬戸と同じ第303特務遂行部隊群に所属する特務官。
特務官の養成学校からの同期で良いライバルであり良い仲間。
持ち武器は拳銃と腰部に装備している刀、これで機械体を打ちのめし、ぶった切る。
「で、何してんの?」
「見てわからない?護衛だよ、護衛任務。この子たちは被害が大きかった
有佐は話を聞きながら近くに倒れている一人用の椅子を持って瀬戸と向かい合うように座り、室内ベンチに座り子供二人に囲まれ、大きな毛布で三人とも包まれている目の前の状況を再度確認する。
「護衛対象を外敵から守る特務官には見えないな、見えるとしたら可愛い弟たちを寒さから守る姉だな」
「それはどうも」
瀬戸は「えへへ~」とちょっと嬉しそうな顔をみせた。
「褒めてない、ちゃんと仕事しろ」
瀬戸のお気楽さに有佐は少しため息をつく。
「ちゃんとしてるよー、有佐こそこんなところで何してたのさ」
「アタシはちゃんと特務やってるさ、難民団の被害を抑えるためにを中心に敵がいないかの偵察、もし居たらそれの撃破。そのためにここらいったいをうろうろ散策してたら瀬戸を見つけたってわけ」
有佐は今までの経緯を瀬戸に話す。そのほか偵察してわかった付近の今の状況なども含めて。
話をしているときに瀬戸が自身を包む毛布を取ってベンチから立ちあがる。子供たちは起きなかったので寝ている二人の距離を縮めて再び毛布をかけた。
「―で、難民団はモスクワに向かって…アンタ人の話聞いてる?」
一切話を聞いてないような瀬戸に有佐は疑いをかける。
「聞いてるよ~」と言いながらも瀬戸は背伸びし、体を伸ばす。
「ホントかぁ…?」
有佐は信じきれない。
「大丈夫だよ、もう昔の僕じゃないんだから、それに有佐にはまだ言ってなかったけど大尉になったんだよ!」
瀬戸はエッヘン<(`▽´)>と言わんばかりのドヤ顔を見せ、無い胸を張ったその瞬間。
・・・カン!
不気味で甲高い金属音に似た音が二人の特務官に鳴り響く。二人の頭上にある青白いレーダーが敵を確認した音。
金属音がしたとは言えこの音はレーダーを装備した者にしか聞こえず、子供たちには聞こえていない。
二人は音が鳴ると瞬時に持っている武器に手を添え戦闘態勢になる。360度どこから攻撃が来ても良いように、どんな事態にもすぐさま対応できる姿勢。
養成学校で統一して習った姿勢だが、二人とも若干のアレンジが加わって少し異なる。
有佐は帯刀に手を添え、すぐさま抜刀できる姿勢。瀬戸は右手を後ろ、左手を前にして両手とも拳銃を持ちいつでも射撃できる姿勢。
「アタシ基準だ。10時方向、距離1400メートル程度、敵2、両方とも地上型」
有佐から見て10時方向、それは駅のホームを横切り南へと向かう方向、そこに敵はいる。
情報を共有されたが、瀬戸も自身のレーダーでその情報を確認した。
「明石大尉に判断を委ねます」
両手に持つ銃の安全装置を解除し、戦闘できる事を示す。
特務官には独自の順位がある。各特務遂行部隊群区切りで適用され、ニ年に一回の順位試験でそれが決まる。
特務官同士で行動を行う場合は順位の高い特務官が行動の指揮権を持つことが多い。
明石有佐大尉は第303特務遂行部隊群のNo.1を表す称号“CM1”を保持し、早崎瀬戸大尉はNo.2を表す“CM2”を保持する。
それぞれの胸元に付いている「CM1」「CM2」という銀色のバッチが輝いた。
「了解、じゃあ」
有佐は口元を歪ませニヤリと笑う。旧友と共に戦える嬉しさを含めながら。
「早崎大尉は自身の
「了解!」
瀬戸の返事は聞こえていただろうが、瀬戸が返事をする前に有佐は動きだし、列車の来ないホームを大胆に横断し、走り去っていく。
瀬戸はユクトをおぶって紐で結び、リンフィアを抱きかかえ、有佐の言っていた車両基地に向けて走り始める。
行く先は正反対だが、それぞれが自身の特務を遂行すべく動き出していった。
* * *
「見つけた」
駅から飛び出して10分も経つまえ。
二つの道が交わる小さな交差点の中央に立ち、西を向く。約200メートル先には二体の敵。
道路をゆっくりと移動してくる二つの敵は有佐に気づいたのか首を動かすのを止め、有佐に目のようなものを向けた。
「ちっ、キリンDかよ」
有佐が睨みつける敵、動物園にいるキリンの様な長い首を持つ四足歩行の機械。
黒い胴体に赤い何かが流れるような模様があり、それがキリンDの不気味さを増幅させる。
キリンDの“D”はA型、B型、C型、D型のDで4番目という意味を持つ。
全ての敵にあるわけではないが、通常とは違う異常な特徴を持つ稀少な存在に“D”は付けられる。
「なんでこんなにキリンDは沢山いるんだ、キリンDが一番嫌いだってのに」
有佐は少しの愚痴をこぼす。
キリンDの特徴は関節の多さ。
動物のキリンにはない関節が首と足に多く存在する。
首に6か所、足に追加で4~7か所の関節があり、それぞれの関節がそれぞれ好き勝手に折れ曲がる。
有佐の目の前にいるキリンDも関節が不規則に折れ曲がり、首と頭部の関節は重力に逆らうことをせず、頭部はふらふらと重力のかかるままに動く。
関節は曲がる度合いを知らず、90°以上折れ曲がっているところもある。
生物としては考えられない折れ曲がり方。その姿は化け物以外他ならず、“キリン”と名付けられているがそれはもうキリンではない。
黒い頭部に赤い目のようなものが光り、口のような裂け目から舌のような何かが垂れ下がる敵の顔。心なしか醜く笑っているようにも見える。
不気味な姿の化け物はそれぞれ不規則に折れ曲がり続ける足でゆっくりと有佐に近づいてくる。
その間、およそ150メートル。
「どうせ来るんだろ、アレ」
有佐は帯刀の柄を握り、いつでも抜刀できる。
360度全方向に攻撃できる戦闘態勢。今まで幾度もやってきて、これからもやっていくであろう姿勢。
集中して敵をみる。
のそのそとゆっくり近づいてくる敵。
有佐と敵の距離が残り100メートルになろうとすると時、キリンD一体が加速して距離を詰めてくる。
あのクネクネに曲がった足でなぜそんなに早く走れんだ、気味が悪い
そう考えながら魔法力を帯刀に込め始める。
もう一体のキリンDとの距離もおよそ100メートル、加速して有佐めがけて走ってくる。
11秒。
キリンDが走りだしてから有佐の目前に到達するまでの時間。
一体目のキリンDは有佐に接近すると長い首を有佐めがけて一筋に伸ばし、口のような裂け目を大きく開いて喰らいつきにかかる。
口のような裂け目の奥にキリンDのコアが赤黒く輝いた。
「しねぇぇえぇぇぇぇ!!!」
目にも止まらぬ速さで鞘ごと横に振り回し、一体目のキリンDの頭部に直撃させる。
魔法力を付与した刀は絶大な威力を持って頭部を粉砕し、コアをも破壊する。有り余った威力は少し首をもえぐる。
コアを破壊されたキリンDはその瞬間すべての機能が停止し、推進力と重力のままに墜ちてゆく。
有佐はコアを破壊されたキリンDの胴体を素早く回避し、二体目のキリンDと応戦する態勢に入る。だが、二体目のキリンDは見当たらない。
レーダーを確認する。 上 に 何 か い た 。
ニ体目を見失ってから頭上の存在に気づくまでその間1秒もない。
「ハぁっ!!」
鞘から刀を抜き、頭上の存在をぶった切る斬撃を弧を描くように振りかざす。
魔法力で強化された刀は実際の刀よりもさらに刃渡りが長く、さらに切れ味が鋭い。
頭上の存在を有佐は肉眼で確認していないが、それがキリンDだという事はもう分かっていた。
斬撃を放つと同時に確認する。有佐のすぐ上、1メートル程度の位置にキリンDのおぞましい顔と口のような大きく開いた裂け目があった。
有佐の頭に喰らい付こうとしていたのだ。
しかし、有佐によって頭部も首も胴体も、そしてコアも2つに切断され、「パリン」という音をたて砕け散る。
二体目のキリンDは動力を失い重力に引かれ墜ちてくる。
「うわ、やっべ」
有佐はすぐさま回避し、そのまま最高速で逃げ走る。魔法力で筋力強化された脚は一回地を蹴るだけで十数メートルも進んだ。
二体目のキリンDをぶった斬ってから3秒後。
付近に轟音と同時に衝撃波が地を這った。
* * *
有佐の言っていた車両基地には数多くの線路が並びところどころに貨車の短い編成や長い編成が停まっていた。
線路と貨車の車輪、連結器、その他金属部分の濃い錆びは長い間使われていない現実を物語る。
最後に動いたのは何時なのか、次に動くのは何時なのか。
線路以外の設備や貨車を引っ張る機関車も錆び廃れ、働くことを忘れてしまったよう。
瀬戸は線路と線路の間、長い貨車の編成が横並びする列車の間に子供たちを連れ身を潜めていた。
貨車の床下には何もなく、物影にならないため、車輪を壁にするように隠れている。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
隠れながらも外の様子を確認する瀬戸に対してユクトが訊いた。
「ちょっと待ってね、もう少しだから」
そう言い返すのは瀬戸。
子供たちを降ろし、両手には銃、レーダーで付近を確認しつつ目視でも外の様子を見る。
レーダーには離れたところで敵二体に接近される有佐のような反応がある。
他には目立った反応はなく、車両基地付近は比較的安全。
「お姉ちゃんさっきからそればっかりじゃん」
瀬戸の返事はもう6回目、何度も聞き飽きた返事にユクトは頬を膨らませる。
「ごめん、ほんとにあと少しで終わるから。いま、僕のお友達が
依然として瀬戸は外の状況を確認する。
「お姉ちゃんのお友達が片付け…?ねえ!今何が起きてるの?!教えてよ!」
ユクトは瀬戸の服を掴み揺さぶる。斜め後ろにいたリンフィアが揺さぶるユクトを止めようと手を伸ばすが、その手は伸びず、声も出ない。
そこで瀬戸が初めてユクトの方を向いた。
「ユクトくん、君はまだ知らなくていい事が沢山あって、知りすぎてしまうと君の心と身体が危なくなる可能性があるから、今起きている事を教えることはできないんだ」
瀬戸は「ゴメンね」と言って再び外を確認しようとした瞬間、ユクトとリンフィアの顔を胸元に引き寄せ両腕を使い抱きしめる。
右腕でユクトの、左腕でリンフィアの耳を両方の二の腕と手で抑える。
子供たちの耳を抑えてからすぐ、腹を震わせるような轟音と地震が通り過ぎた。
瀬戸に抱きつかれるように耳を抑えられたユクトとリンフィアは初めは状況を理解できていない様子だったが、音と揺れで怯え、二人とも瀬戸に抱きつく。
なんだろ、この爆発、有佐のかな?
特務官に轟音なんてなんのその、瀬戸は発生した要因を考えると同時にレーダーも確認する。
さっきまであった敵の反応はきれいさっぱり無くなっていた。
辺りを支配していた轟音や地震も次第に収まっていく。
「二人とも、もう大丈夫だよ」
瀬戸から離れる気のない二人、瀬戸も無理に離す必要はないと判断し、レーダーで周囲の警戒を継続しながら抱きつかれるがままになっていた。
それからしばらくして。
「何してんの?」
その言葉の主は有佐、止まっている貨車の車輪に寄り掛かり、子供二人に抱きつかれ座っている瀬戸を見て言い放った言葉だった。
戦闘後、即刻車両基地に向かったので約束通り30分以内に戻って来ていた。
だが、停まっている長い編成の貨車と貨車の間に瀬戸は隠れるようにして身を潜めていたため有佐が見つけるのに少し手こずり、厳密に言うとちょうど30分が経過している。
有佐をまだ知らないユクトとリンフィアは瀬戸に話かける有佐に対して警戒の目を向ける。
「見てわからない?護衛だよ、護衛任務」
ユクトとリンフィアの抱きしめる強さが増す。腹部を二人の子供がかなり強く締め付けているので、少しばかり苦しそう。
「なんかそれさっきも言わなかったか?…じゃなくて、なんで抱きつかれてんだ?」
有佐の率直な疑問が飛び出る。
「誰かさんが敵の撃破ミスしてその爆発で怯えてるんだよー」
瀬戸が苦しそうに言うが、子供たちを離そうとはしない。
「あー、なるほど。それはすまなかったな、だがあの爆発で
有佐は内容を言い換えて瀬戸に報告した。子供たちが聞いているからだ。
この子たちは襲撃という恐ろしさと現実をその眼で見て、脳裏に焼き付かれているはず。それを思い返させない配慮を瀬戸と有佐はしていた。
「キリンDがいたんだ、それなら早めに遠くへ行った方が良いかも知れないね、さぁ行こ二人とも」
瀬戸の合図で二人とも抱きついたままだが立ち上がった。
キリンDは戦線の中でも危険地帯に潜むとされる機械体。瀬戸も有佐も、戦う者ならその危険性は嫌ほどわかる。
「瀬戸に賛成だ、逃げたほうがいいな」
有佐が腕を組み賛同する。が、その動作一つ一つに反応し、警戒する子供たち。
「と、その前に自己紹介をしておこうか、アタシは明石有佐大尉だ。そこの姉ちゃんの仲間だよ」
「…アリサお姉ちゃん?」
聞き慣れない名前の構成に疑問を持ったリンフィアが口を開いた。依然として瀬戸に抱きついたまま。
「あぁ、有佐って呼び捨てでもなんでも、好きなように呼んでくれ」
有佐がそう言うとリンフィアが顔を緩め頷き、ユクトも警戒を緩めた様子。でも瀬戸に抱きつくのはやめない。
「三人とも顔を知ったことだし、早速遠くへ行こう。ここには居ないほうがいいしね」
そう言って瀬戸は歩き出す。貨車と貨車の間から抜け出すために線路と線路の間を沿うように歩く。
歩き出した時にリンフィアは抱きしめるのをやめ、瀬戸の左手を捕まえる。ユクトはそのまま抱きつきながら歩いていく。
昔から変わんねーな、子供に懐かれる体質。
有佐はそんなことを考えながら瀬戸を追うように歩き始めた。
線路のある足元には砂利が敷き詰められ、バランスを崩せばすぐ転けそうなくらい。
瀬戸に抱きついたままのユクトは度々不安定に歩く。そのたびに瀬戸が右手でサポートしていた。
多分、あんなちょっとした優しさが子供に懐かれる一因なんだろうな。アタシにゃ無理だ。
口にできない瀬戸の事について考えていると、突然、これからどうするのかという疑問が浮かび上がる。
「なぁ瀬戸、安全地帯まで行くのは良いがどうやって行くんだ?」
有佐が話しかけた時、瀬戸(と子供たち)は長い編成の貨車の最後尾を越え、今まで貨車によって遮られていたお日様の暖かい光りを受けていた。
有佐はまだ貨車の陰。その声に瀬戸は振り返る。
瀬戸の
「大丈夫、僕に考えがあるんだ」
瀬戸の顔は自身に満ち、その眼は確実性を持ち、その言葉は有佐に安心を与えた。
「ついてきてほしい」と瀬戸は言い再び歩き出した。
文章を書く力がなさすぎて何回も「〇〇 言い換え」みたいな検索しまくった
読みにくい文章だっただろうがここを読んでるってことは本文を読んだってことですよね、ありがとう
多分続く