【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
凱旋門賞――それは、ウマ娘たちの悲願――
1969年にスピードシンボリが出走して以来、何度も挑戦しては打ち砕かれるを繰り返すこと幾星霜、我が国の競走馬及びウマ娘は勝利の門をくぐれずにいる。
エルコンドルパサーやオルフェーヴルなどといった名だたる名馬でもダメ……
その原因は、日本と海外の芝が根本から異なるからだと、一部の界隈では言われている。
そこを踏まえると、そういった日本の芝と海外の芝の違いを克服できるシステム(トレーニング方法や施設など)の需要があるのでは?と、ふと俺は思いつく。
その時、脳内に電流が走る。
――そういえば、札幌競馬場って確か洋芝だったよな?――
これは天啓ッ!!まさに、神から授かりし記憶ッ!!
……いい歳して中二病を発症する中年男性は置いておいて、ふとしたきっかけで思い出した前世の記憶を下敷きに、洋芝の実用化を考案する。
基本的に、地方レース場の主力はダートである。理由は、芝と比べてダートの方が維持費と整備がお財布的に楽ちんだからだ。というか、芝のコースの維持が難しすぎるのだ。
なので、財政的に厳しい地方は仕方なくダートを使わざるをえないのである。
対して中央の主力は芝だ。有り余るほどの財力があるからこそ、全国に何個もある芝のコースを維持できるのだ。倒れかけの学園を経営する身としては、その財力に恐れ慄くのみである。
そして、民衆のトレンドは中央だ。なので、必然的に芝のレース界隈に注目が向けられていることとなる。
世間は芝の話題に持ち切り、大してダートには目にくれず、風が無情にすっからかんの観客席を吹き抜けるのみ……普通の地方トレセン学園だったのなら、対抗することは難しい。
だがしかし!ここホッカイドウシリーズは、最強の切り札を持っているのである!!
ズバリ、ばんえいレースである!
普通のレースとは違う"ガチ"の魅力は、ここでしか見れないものだ。
この替えが効かない魅力こそが、中央に対抗できる唯一の手段である。
なので、主力であるダート路線を洗練しつつばんえいレースの魅力をガチ推ししたいところなのだが、いかんせん地方の一理事長にできることは限られている。
なので、そこら辺りの改革を行うのは、もう少し後になりそうだ。
さて、話がそれてしまったので本題に戻そう。
日本のウマ娘が海外で勝てないのは、海外の芝に慣れていないから説を解決するため、海外の芝に近しい芝のコースを作るのだ。
海外そっくりの芝のコースを作れば、海外挑戦のための本格的な練習ができるという最大の魅力と需要があるはずだ。
また、今のところ洋芝の試みは全国を調べてもまだなされていない試みなので、我々が開発成功できれば話題性を呼び込むことができるだろう。
あと、ばんえいレースはここにしかないので確かに強力なカードではあるが、それだけではやがて、中央が財力にものを言わせて新しい魅力を開発した際に力不足になる可能性があるので、ばんえいと洋芝の真打ち二刀流でトレセン学園群雄割拠の時代を生き残ろうぜという算段だ。
つまり、芝・ダート・ばんえいと来て、隙がなければ自分で空けるの精神で、洋芝という新しいブランドを作るのである。
という訳でやってみよう!!
…と行きたいところなのだが、バッドコンディション人員と予算が不足がここで発動してしまう。
「専門の人がいねぇ!!」
今まで維持で精一杯……というかダート維持で充分だったので、ある意味攻撃カードとも言える研究機関がないのである。
ならホッカイドウシリーズ運営本部はどうかというと、これもまたないのである。
「くっそう……いざというときの"攻撃カード"が無いのかよう、トホホ……」
ないなら俺がワンマンで、何てこともできなくもないが一から芝の勉強をしなくてはならないので、現実的に考えてムリゲーな手段だ。
中央だとかから人材を引き抜くという手段もあることにはあるが、そういう人たちは高給取りなので、比較して低給なこちらへ来る理由がないのである。
となると取れる手段は、素直に諦めるか、それとも他所に依頼するしかない。
今、目の前にデカいダイヤモンドの原石がある。
磨いて売れば、大金になるのである。
だが、我々にはそれを磨く技術がない。
磨く技術がないので、先を越されるかもしれないが磨く技術を得るまで温存しておくか?
それとも、利益が減ってでも技術を持っている人に依頼するか?
というアフリカの発展途上国のような二択を天秤に乗せて悩みに悩んだ末、学園の重鎮やシリーズ本部とも会議して相談した結果、他所に依頼することとなった。
ちなみに、研究費用がシリーズ本部から出たということを今のうちに述べておく。
・・・
「お会いできて大変嬉しいです。シンボリ家当主様……」
「私も会えて光栄ですよ―――理事長さん―――」
洋芝開発の手助けを得るために様々な団体や組織、そして"家"と交渉することとなった。
そのうちの一つが、シンボリ家である。
俺は今、とてつもなく緊張している。
なんせシンボリ家は、最強の三冠ウマ娘とも名高いシンボリルドルフを輩出した他、シリウスシンボリやシンボリクリスエスなどといった歴史に名を残す名ウマ娘を輩出してきた超名門家なのである。
日本を、そして世界のウマ娘界隈を動かす立場にあるシンボリ家当主を前にして、俺は固唾を呑んで交渉に挑むのである。
そんな俺とは対照的に、当主は余裕綽々といった感じだ。
「まぁ―――そう固くならずに―――。今日は芝についてお話しするだけなのですからね―――。イージーですよ、イージー―――」
そう言って軽く笑う当主。
だが、笑っているようで、その目は笑っていない。
この人は本当に強い。
まるで、猛獣と対峙しているかのような威圧感を感じる。
だが、それでもやるしかない。
俺はこの道を選んだのだ。
なので、勇気を振り絞って話を切り出す。
それから時間が流れて、迫真の議論()の末の結果がこうだ。
「―――検討します」
ちきしょーーッ!遣唐使ならぬ検討師かよーーッ!
……まぁ、大金が動く話だから、後でゆっくり考える必要があるのだろう。
その必要性は理解している。
ただ、どうにも決め手にかけているような雰囲気なのだ。
「前向きに」とのことだが、このまま帰ると考えが変わってしまうかもしれない。
だから、俺は最後に特大の爆弾を投下することにした。
「……ちなみに、タニノ家やアグネス家とも交渉を進めています」
「―――ッ!?」
そう、前述したように、俺はこのプロジェクトを成功させるため、様々な団体や組織、そして家の中で一番良さそうな条件の所と手を組む予定なのである。
まぁ、競売的なものをイメージしてもらえれば一番分かりやすいだろうか。
「なるほど――――タニノ家にアグネス家ですか――――」
他の家の名前を出した瞬間、シンボリ家当主の目に闘志の炎が宿る。
ライバルと手を組もうとしていることがよっぽど嫌なのだろう。
「――――即決とはいきませんがね――――しっかりと――――前向きに検討しますよ――――」
・・・
それから数週間後、シンボリ家当主から「一緒に洋芝開発しようぜ」という連絡が来た。
海外遠征に理解があることと、当主がやや感情的な性格なのが味方したのであろう。
その報に、俺は胸を撫で下ろして安堵する。
また、他の交渉相手に流れることを危惧したためか、研究資金をこちらが提示した条件よりもかなり良い数値で、共同研究計画を結ぶこととなった。
その代わりと言ってもなんだが、洋芝の研究にシンボリ家が関わったことを強調するように、という条件が追加されたのだが……結構な割合で出資している上、研究機関は向こうのものなので、その程度の条件なら安いもんだ。
という感じで、洋芝の研究と開発を始めることとなった。
洋芝のコースは、既に普通の芝ノウハウがある札幌や函館のレース場に作られることになるだろう。
もっとも、それは数年も先の話だが……
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