【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
=学園の状況=1987
・能ある獅子は牙を隠す
異国の地で選手生命を絶たれたシンボリルドルフは、競争の世界から退き、生徒会の仕事に専念することになった。
今のところ脅威ではないが、本来あるべき地位に立ったとき、我々に牙を向けるだろう。
獅子はまだ眠っている。わざわざ起こす必要はない。
・教育の春
古きを破壊し、新しきを創造した制服と教育の改革は、全国的に注目を集める事となった。
迷える仔ウマ娘達に導きの手を差し伸べるには、充分だろう。
話題性が大幅に増加する
経済力が大幅に増加する
やる気が大幅に増加する
※陳腐化するまで効果は続く
・まさかのV字回復を果たした経営状態
小さな改革は着実に実を結び、予想以上の成果を収めた。
我々が思っている以上に周囲に影響を及ぼしており、これは未来世代のウマ娘の進路、ひいては日本ウマ娘史に絶大な影響を与えている。その事に我々は気づいていないのだが……
それでもなお、依然として適切に策を立て続けなければ、また傾くだろう
運で手に入れたものを維持するには、実力が必要だ
・改革に適応するホッカイドウシリーズの枠組み
北海道を基盤とした各地開催レースは、一定の成果を生んでいる。
だが、学園間の緩い均衡は、急進的な改革により崩れようとしている。
話題性が増加する
経済力が増加する
ハイリスク・ハイリターンにも程がある
・希望、信頼、協力
今代の理事長は、改革に意欲的なようだ
もっとも、成功するかどうかは置いておいての話だが……
話題性が少しずつ増加する
経済力が少しずつ増加する
やる気が少しずつ増加する
・不穏な好景気
おかしい……なにかがおかしい……
こんなお金まみれの世の中は、普通じゃあり得ない筈だ
まるで、泡のような夢を見ているようだ
「金運upオナシャス!」
と初詣で祈ってから時が経つこと数ヶ月、世間では国鉄分割民営化、消費税の前身にあたる売上税の導入改革で猛反発が巻き起こったりと、「歴史の転換点に立ってんな……」と身をもって実感する出来事が起きていた。
そんな激動の時代に、また春がやってきた。
春と言えば桜だったりと、草花が咲き始める季節だと想像されやすいが、北海道の場合そのような芽生えはもう少し遅れてやってくる。
しかし、現代の人の動きというものは、世知辛いことにそのような自然の動きと同調して動けるほど暇ではないのが現実だ。
今年もまた、例年通りに入学式が行われた。
ただ一つ違うとすれば、例年と比べて“活気”があるということだろう。
それだけは断言できる。
制服更新を筆頭とした改革の効果はまだまだ先細っていないようで、前年と比べて受験者数がほんのちょっぴり増加した。
もうちょっとブースト効果が爆発すんじゃねぇのかなと、正直楽観的に思っていた。
だが、実際の数値は思うほど伸びなかったのである。
その原因はずばり、ホッカイドウシリーズに加盟している学校すべてが制服を更新したことによって、制服の魅力がわが校だけのものではなくなったことで、進路の選択肢が分散してしまった事が一番の原因だろう。
……この結果こそが本来望まれていたはずなのだが、なんだかもどかしいものだ。
まぁ、二年前の自分に言ったら呆れられるぐらい贅沢な悩み事だし、そもそも加盟校全体での制服更新を提案したのは俺なので、これ以上泣き言は言わないようにしておく。
確かに思うように数は伸びなかったが、加盟校全体で見てみれば、ここ二年で受験者と入学者は爆増しているし、何より同じ型を大量発注したことによって、費用がちょっと下がるという金銭的省エネ効果を受けることができたので、結果オーライといったところだろう。
さて、そんな俺は今、学園に隣接しているレース場のレースを久々に観戦している。
「まさかここの工事に携わることができるなんて、夢にも思いませんでしたよ――」
「よかったですねぇ――」
久々に出会った土方のおっちゃんは、嬉しさを隠し切れない様子で、パドックを俺と一緒に眺める。
夜間開催設備を建築する会社をどれにするかという話が持ち上がった時、俺は真っ先におっちゃんが務めている会社を運営本部に推した。
結果、いろいろあっておっちゃんが務めている会社が工事を請け負うことになったのである。
まぁ早い話、コネだ。
さて、ホッカイドウシリーズが休日開催から撤退して、平日へ移行したことを契機に、さらなる客層増幅を狙って計画された夜間開催……またの名をナイターレースの実施に向けて、いよいよ最終段階に入ったのである。
ホッカイドウシリーズ内初のナイター開催の地に選ばれたのが、大変喜ばしいことに、ここ旭川トレセン学園もとい旭川レース場なのだ。
で、当の俺が言うのもなんだが、北海道随一の都市である札幌にある札幌レース場でやるべきだったのではないか?と、俺はツッコむ。
だが、あそこは周りが住宅街なので、近隣の住民を納得させるのが厳しかったから、札幌ではなくあえてここにしたのでは?と思う。
確かにここなら、周りはほぼ田んぼで交渉の手間が段違いに簡単だし、おまけに旭川という北海道第二の都市と近いという条件が揃っている。
デメリットがまさかメリットになろうとは思ってもいなかった今日この頃、ここの周りは比喩的にも物理的にも閑散しているというメリットはまだまだ使えそうだなと、俺はにやりと目論む。
「パドックでどの子が勝てそうとかわかるもんですか?」
「なんとなく、雰囲気が……パシッ!と引き締まってたら、印を付けるようにはしてますね」
「要するに何となく……」
「う~んそうです……解説とかあれば判断材料になってもうちょっと楽になるんですけど……」
パドックで解説かぁなるほど……案外侮れない意見かもしれないなと考えつつ、駄弁りながら予想すること数分、何やら周りがいつもより騒がしいことに気が付く。
活気があることはいいことだ、と嬉しく思っていたのだが、どうやら毛色が不穏なもののようだった。
「う、うぁぁぁ!ル…ルドルフが地方レース場を練り歩いてる!」
えッ――――!?!?
「おいおいまじかよ!しかもルドルフだけじゃねぇ!中央の生徒会の面々もおる!」
えッ――――!?!?練り歩くが誤用じゃなi…
って、そんな誤用警察ムーヴをしているような場合じゃない!
大至急事態の対応に急ぐのである。
「うわー!サイン貰っていいですか!?」
「ツーショット取りたいです!」
「握手お願いしまーす!」
普段なら絶対にできないであろう群衆の囲いが発生しており、俺はその中を、おっちゃんと一緒に割って中に入る。
「私たちはあくまでもプライベート的に訪れたのであって、あまりそのような――あ」
「えッ――」
群衆の中から抜き出た瞬間、騒ぎの中心にいた本物のシンボリルドルフに俺は目を奪われた。
ラジオで声を聴き、テレビでその勇姿を眺めていた転生してからの幾星霜、ついに報われた!というような謎の幸福感が心の中に生まれた。
前世では画面越しに、ゆえに絶対に会うことができないはずのシンボリルドルフが、今俺の、それも1,2、メートルほど前に存在しているではないか。
これがウマ娘のシンボリルドルフ、間違いなく、生きている……!
俺は固唾を飲んで、ただ黙り込んでその場にたたずむ以外に、何の要求をすることもなく、何もしないでじっと眺めていた。本当に、嬉しいんだかよくわからない、複雑な気持ちだった。
――はっと我に返る。それと同時に、自分がしなければならないことを理解する。
「みなさーん!あまり邪魔にならないように!節度を持って!」
この場においては、俺はただのレース大好きおじさんだ。それも、加齢臭が漂うような男である。
なら、一般人なら一般人なりに、仕事を果たすまでだ。
なんとなく察したおっちゃんとともに、俺は誘導作業に徹するのであった。
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