【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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カイチョー、テイク・イット・イージー

=学園の状況=

中央の意地

1860年に横浜居留地競が行われた事を皮切りに、我が国のウマ娘レース産業は、幾度もの苦難にめげず、走者と夢と共に前進してきた。

未だに欧州をはじめとしたレース先進国には遠く及ばないが、先祖がやってきたように、血なまぐさい努力を続ければ、いずれ追いつくことができるだろう。

だが私は思う。前だけを見ていたら、足元が疎かになる。

話題性が大幅に増加する

経済力が大幅に増加する

やる気が大幅に増加する

エースウマ娘出現率がUP

 

中央の格

「中央はエリート集団」「地方は落ちこぼれ」誰かが言い始めたその言葉こそ、まさに我々がどれほど崇高な集団であるかを表すのに、これ以上ない言葉であろう。

実際、日本のウマ娘は中央に入ることを強く望んでいるし、地方に入ったり都落ちすることは恥だと考えているのが現在の風潮だ。

当分、この考えが変わることはないだろう。もし変わるとしたら、中央が落ちぶれて、地方が躍進するときぐらいだろう。

まぁ、到底ありえないだろうが……

話題性が大幅に増加する

経済力が大幅に増加する

やる気が大幅に増加する

エースウマ娘出現率がUP

 

中央の国際的承認

我らURAは、国際的に認められた組織である。

話題性が大幅に増加する

経済力が大幅に増加する

やる気が大幅に増加する

エースウマ娘出現率がUP

 

みんなの憧れ

誰もがレースに出たいと思っているし、誰もが栄光を掴みたいと思っている。

トゥインクルシリーズは永年民衆の憧れであり、希望である。

話題性が大幅に増加する

経済力が大幅に増加する

やる気が大幅に増加する

エースウマ娘出現率がUP

 

北より出でる旭日

ここ最近、奇妙なことに北海道のとある地方トレセン学園が話題になっている。

地方に頭を下げる事なんぞ言語道断であるが、そのような偏見と差別の色眼鏡を外した時、学べるものが見えるだろう。

日が二つ。天は一つ。

話題性が少し低下する

経済力が少し低下する

エースウマ娘出現率が少しDOWN

※手を打たない限り、デバフ効果が徐々に上乗せされていく

 

格好の天下り先

上層部の大半は、大手企業の元重鎮や元高級官僚だったりと、本来の専門職ではないものが大半である。土台ではなく、屋根から腐って崩壊するのが現実だ。

経済力が少し増加する

やる気が大幅に低下する

※手を打たない限り、デバフ効果が徐々に上乗せされていく

 


 

シンボリルドルフは、今まで経験したことのない困難の壁に阻まれていた。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

珍しく生徒会室で生徒会の仕事をしていたミスターシービーは、本部に直談判しに行った帰りのルドルフに対してニカッと笑って出迎える。

 

それに対してルドルフは、いつものように、自然なそぶりで「ただいま」と言った。

筈であった。

 

良き理解者であり、良き親友であるシービーは、ルドルフの"ちょっとした変化"を見逃さなかった。

 

肺と心の内に溜めていた苦難を含んだ空気をフゥと吐きつつ会長椅子に座るなり、律儀に揃えて置いてあったシャープペンシルを右手で一本手に取り、左手で生徒会主催のイベントに関する書類を取るなり、黙々と仕事を始める。

 

黙々と、ただひたすら、カリカリカリとペン先のなぞる音が生徒会室にこだまするのみであった。

 

そんな堅苦しくて重い雰囲気の中、シービーが話を切り出した。

 

「……そのテンションだと、またダメだったのかな?」

 

ルドルフの耳がぴくっと動いて、反応する。それと同時に、ペンのなぞる音がやむ。

空気がピリピリとしだす。

 

「……あぁ、ダメだったよ」

 

誰がこれを予想できただろうか?シービーだけなのか?

大衆の面前では決して感情を露わにせず、皇帝の二つ名のままに凛とした態度で、そして一貫した態度で他人と接するあのルドルフが、悲しげな顔をしているではないか。

 

燃え尽きたといわんばかりの顔をするルドルフは、さらに話を続けた。

 

「――ぬぁあぁぁぁん!もう!ルナもう泣いちゃうもん!!」

 

「あ~よしよしルナちゃん、ルナは頑張り屋さんだからね~、よ~しよしよしよし……」

 

吹っ切れたルドルフ、まさかの幼児退行。

いったい誰が、これを予想できただろうか()

 

「みんな期待してくれてるんだよ、ルナが制服を新しくしてくれるって!でも、でも!それがなかなかうまくいかなくてさぁ……ルナ、みんなの期待を裏切っちゃうんじゃないかなって……」

 

「しょうがないよルドルフ、世の中うまくいかないことのほうがたくさんあるからね、しょうがないしょうがない、よしよし……」

 

為せば成る、何事もな人生を送ってきたルドルフにとって、公約に掲げていた制服の更新が滞っていることが、今までにない形の挫折であった。

全ウマ娘の幸福を願うという自分の理念と、生徒の民意というプレッシャーが、新たな敵を前にして弱っているルドルフの首を絞めていたのである。

 

「あぁぁ、もうどうすればいいんだと……」

 

「う~んどうすればいいんだろうね~、よしよし……」

 

「テイク・イット・イージーだぜ、ルドルフ」

 

「岡〇君。」

 

その時、突如ルドルフのトレーナーが現れる。

トレーナーを前にしてルナモードから皇帝モードへ移行するルドルフを前に、たまたま生徒会室前を通りすぎようとしたときに話が聞こえてきて、担当の愛が重すぎるがゆえについつい話を盗み聞きしていたら担当の意外な一面を知れてしまってちょっと複雑だけども理解を深めることができてよかったと思っている〇部。トレーナーは、担当のためならばとアドバイスをする。

 

「仕事だけど、気楽に行こうぜ。クリス(マッキャロン)じゃないけど、テイク・イット・イージーだぜ。」

 

「岡〇君。」

 

(要するに旅行にでも行って、気分をリフレッシュしようぜってことね)

 

 

 

 

 

 

 

かくいうわけでルドルフは、担当トレーナーからのアドバイスで、疲労というガスを抜くため実家へ帰るついでに北海道を旅行することになったのである。

いわば、ふるさと旅行といったところであろうか。

 

ちなみに、生徒会の諸々の仕事は、カツラギエースやギャロップダイナといった残りの生徒会の面々が代わりにすることになっている。

 

(わたしがいなくても大丈夫だろうか……)

 

自分がいなくてもうまくやれているのかどうか、仕事人のルドルフは不安になる。

と同時に、そのような心配は本末転倒であるとルドルフは我に返る。

 

シービーをはじめとした生徒会の面々、そして後輩や同期から、「ゆっくりしていってね!」と背中を押されて今に至るというのに、こんな時にも仕事のことが忘れられないというのはまさに本末転倒であるし、むしろシービーたちの想いに反することではないかと考え直したのである。

 

それに、曲がりなりにもシービーは一年だけではあるが生徒会会長を務めたノウハウがあって頼りになるはずだし、カツラギエースやギャロップダイナなどの優秀で真面目に仕事をこなす生徒会の面々がいるから、少しの間自分がいなくたって大丈夫なはずだと、自分を勇気づけると共に仲間を信頼する考えを改める。

 

「―――どうしたんだいルナ、ちょっと浮かない顔をしているようだが―――」

 

「いや、何でもないよ……ただねお父さん、決心がついたんだ」

 

「―――そうか―――お父さん不器用だけど応援してるからな、だから、頑張っておくれ――

 テイク・イット・イージー―――」

 

「うん、テイク・イット・イージー……!」

 

屋敷の玄関にて、二人は親指を立ててグータッチをする。

そして、上靴を履いたルドルフは、玄関の戸を開ける前に敬礼をしてみせた。

それに対して父であるシンボリ家当主は、ピシッと敬礼をする。

それから特に語ることもなく、父は去り行く愛娘の背中を、閉まる扉で見えなくなるその瞬間まで、敬礼をしながら見届けるのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁルドルフ、実家でしっかり休めたかい?」

 

「シービー、それにみんな……どうしてここにいるんだい?私には理解できない、説明してくれ」

 

まぁ、なんということでしょう(絶望)。本来であれば学園で仕事をしているはずの生徒会の面々が、旅行用の装備を持って実家の門の前にいるではありませんか。

 

ビフォーアフター怒りのナレーションでも飛んできそうな目の前の光景に、ルドルフの肝が冷える。

 

胸を張って任せられると思っていたのが間違いだったのかもしれないと、ルドルフは頭の中で前言撤回する。

 

「仕事は……?」

 

「全部終わらせたよ!」

 

「え?!」

 

ルドルフは前言撤回を前言撤回する。やっぱりやるときはすごいじゃないか。

 

「い、いやでも、明らかにみんな「今から旅行します」とでも言いたさげなカバンに服装をしているけd――」

 

「うん、するよ」

 

「え?」

 

「ルドルフと」

 

「え……!?」

 

「ルドルフと!」

 

「えッ―――!?」

 

大事なことなので二回言いました(すっとぼけ)

さすがのルドルフとは言えど、目の前の想定外の事態を理解し、なぜそうなったのかを思案するまでに時間がかかる。

 

「うーん、なんとなくわかってきたぞ……つまりこうだ、旅行に行く前に、私が「ルナちゃん一人だと寂しいよん」と言った事が発端なのだろう?違うか?」

 

「うん!その通り!(満面の笑み)だから、アタシたちめっちゃ急いで、それこそダービーの時の追い込み並みに追い込んで、仕事を全部終わらせたの」

 

「全部?」

 

「そう、全部!」

 

「!?!?」

 

まさかの大活躍に、ルドルフは言葉を失う。

それと同時に、もっと信じればよかったという罪悪感と後悔の念と、友の悩みに文字通り総出で駆けつけてくれる優しさに感銘を受ける気持ちがごちゃ混ぜになる。

 

「皇帝サマよ~、"全ウマ娘の幸福"のためとはいえよ、何も一人で溜め込むもんじゃないぜ……オレたちがいるってのを、忘れてもらっちゃぁ困る」

 

「そうよ!私たちに任せなさい!」

 

「エース先輩、ギャロップ先輩……」

 

かつての敵である先輩二人も、シービーに続く。

 

「……ありがとう……ありがとうございます」

 

「も~どうしたのさ!いきなり思い出したように敬語使っちゃってさ。そう畏まらないで、ほら!行こう!試される大地に!」

 

 

 

 

 

 

かくいうわけで、ルドルフは生徒会の一部のメンバーとともに、六泊七日で北海道各地を巡る慰安旅行に行くこととなった。

 

ルスツや函館、札幌などといった一連の旅で、着実に楽しい思い出と経験を蓄積していった。

ところが、最後を締めくくる旭川にて、事件は起きた。

 

「あれルドルフじゃないの……?」

 

最近何かと話題になっている旭川トレセン学園の隣にある旭川レース場にて、ばんえいレースを見に来たルドルフら一行に、聞き捨てならない言葉が耳に入る。

 

そう、変装すり抜けバグである。

 

ルドルフらとしては、世界的に有名なスターである以上、変装にかなり気を使ったつもりであった。

 

だが、ルドルフらの完璧な変装を見抜いた通りすがりの客は、只者ではなかった。

なんと、髪色の配置に耳飾り、さらには歩調まで注視した末にひねり出した結論だったのである。

 

「ルドルフ……?」

 

「はは、そんなばなな……」

 

たった一つの呟きが広がるスピードはなかなか恐ろしく、ものの数十秒ほどで周りの関心がそちらへ向けられたのである。

 

「うわー!サイン貰っていいですか!?」

 

「ツーショット取りたいです!」

 

「握手お願いしまーす!」

 

どう対応すべきキョドっている間に、周りが囲われてしまったのである。

 

「私たちはあくまでもプライベート的に訪れたのであって、あまりそのような――」

 

民の波に皇帝が飲まれていると、そこに意外な救世主が現れた。

 

「みなさーん!あまり邪魔にならないように!節度を持って!」

 

「jkに群がるのはよくない!(至言)」

 

スーツを着た40代後半の男と、土方作業着の40代後半の男の二人が、群衆の間に入って群がるファンを追い返し、誘導しはじめたのである。

驚いたことに、シンデレラを助けに来たのは白馬の王子ではなく、白髪のおじさんだったのである。

 

とはいえ、ルドルフらはこのようなギャップで文句を言うようなウマ娘ではない。

 

「助けてくれてありがとうございます!」

 

「いえいえ、自分達は当然のことをしたまでで――」

 

相手が謙虚な姿勢である以上、無駄に肩入れすることなく、お互いに形式的な礼の意を伝えて、その場を離れる。

 

思いのほか事態は早く解決することになったのだが、ルドルフは後に「もっと早く気づけばよかった……」と後悔することになる。

なぜなら、助けてくれた相手は、実は先進的な改革を成功させまくる凄腕の理事長であり、成功の秘訣など先駆者から話を聞くことができたはずだからである。

 

 

 

「あぁ、ソールズベリーさん負けちゃったよぉ……」

 

「推しが負けて悲しくなる気持ちはわかるぜぇよっちゃん……かくいう俺も、シービーさんが負けた時どれほど涙したことか……」

 

かくして、ルドルフら一行は、あのハプニング以降特にトラブルが起きることなく、無事に観戦を終えた。

 

「いやぁ、あの筋肉はすごいね!あれほどのは中央じゃ見たことないよ!」

 

タクシー乗り場にて、シービーはムッキムキな肉体を話しに挙げる。

中央のスターから見ても、あの筋肉は魔境なのである。

 

「あぁ、確かにそうだったな。迫力がすごいと、北海道帰りの子からよく話を聞いていたんだ。だから、ばんえいレースを生で見れてよかったよ」

 

そう言うルドルフの顔は、今回の旅を締めくくるのに縁起が良い満面の笑みをしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり記事になってるかぁ……!」

 

理事長室にて、迫真生徒会!慰安旅行の裏技!と書かれた新聞の見出しの記事を、俺は頭を抱えて読みふけていた。

 

世界に名を馳せる中央のスーパーウマ娘が、どこのウマの骨かもわからぬ地方のレース場を"視察"していたという事実は、面白おかしく世に解き放つメディアの方々にとって格好のネタになったようで、今俺が手に取っている新聞以外にも、様々な新聞社がこの事をネタにしているというのが、現状だ。

 

「いやぁ、気を利かせて内部を案内すべきだったかな……でも、あくまでも一般のお客って扱いだし……うわぁ、本当にあれでよかったんだろうか……!」

 

競輪なり競馬なり、ギャンブルを一度はやったら誰しも経験したことがあるであろうあのもどかしさ……そう、果たしてあれが最善の決断だったのか?という何とももどかしい悩みに、俺は悶々とする。

 

事前に視察したいという旨の連絡がなかったので、いくら名誉を積んでいようとも、所詮は一般の客と同じ待遇を受けなければならない。

というか、正直抜き打ち視察的なものかと思っていたので、ただ見て終わりでこっちが驚いたもんだ。「え?!本当にそれでいいの!?」ってね。

 

……大変苦しい言い訳になるが、おそらく本当に、一般の観客としてレース観戦を楽しみたかった筈なので、必要以上に干渉しなかった自分の判断は正しい!!!

と、自分に言い聞かせる。

 

こうでもして自己暗示をかけなければ、(後悔しすぎて)自我が保てなくなるので、失敗したらその分成功で盛り返すか、潔く諦めるというポジティブ思考に切り替え、もうそろそろいい加減に今すべきことに集中するため、気持ちを切り替えることにする。

 

――はずだったのだが、記事の最後辺りに、なかなか興味深い内容が記されていた。

 

内容を簡単にまとめると、”もし二度目があるとしたら、その時はプライベートという形ではないだろう”という感じである。

ルドルフらしく古い言い回しや堅苦しい口調、さらにはあからさまにのらりくらりとした、いわばぼかすような言い回しだったのでまとめるのに苦労したが、精一杯頑張ったつもりだ。

 

これはつまり、次もあるよ!と匂わせていると解釈できる。

なんなら、今度こそ正式な視察という形で、ここにやってくる可能性が大だ。

 

「ま、まじか……」

 

中央という黒船来航の可能性に、俺は恐れ慄く。

もしなんかやらかしたら、報復と言わんばかりに金がある限り骨の髄までしゃぶり尽くされるかもしれない。

 

「……いや、逆に考えるんだ。ピンチをチャンスに変えてこそ経営者ってね……よし!これならいけるぞ自分!!頑張るぞ!!」

 

ピンチをチャンスに変える……森羅万象の成功者(自称)が多用したせいで安っぽく感じるフレーズではあるが、言葉の真意自体は一応ちゃんとしている。

どんな困難が立ちはだかっても、それをバネに変えて乗り越えるという不屈の精神である。

そんな言葉を使って、自分を奮い立たせるのであった。




エセ理事長、実のところご本人自身はあまりメディア露出をしていない。

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