【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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エセ理事長、汚れ役になる

 俺らが駐屯地から車に乗って出る際、雪がシンシンと降っているにも関わらず、駐屯地司令官が司令部玄関前で、去り際にビシッと敬礼をして俺らを見送る。

 

 敬礼だの軍隊だの俺はあまり詳しくないのだが、その粋な計らいに感銘を受けて、司令官の姿が見えなくなるまでこちらも敬礼をした。

 

「……学校で自衛隊を好意的に扱うのは、注意した方がいいかもしれません。理事長先生」

 

 肩がしこたま凝ったから適当に解していると、共に交渉しに来た校長が、何やら重い雰囲気を醸し出して話を切り出す。

 

「……やっぱりあれか。うん、わかってるよ」

 

「はい、もしこのままゴーサインを出してしまうと、間違いなく"連中"が反発するでしょう」

 

 校長が言う"連中"が何を指すのか?

 具体的に言葉にせずとも、俺は何となく理解していた。

 

 連中とはズバリ、"左派"である。

 

 話が逸れてしまうが、ウマ娘というコンテンツはやさしいせかいである。

 大志を抱いている女の子が、仲間とともに切磋琢磨し、時には葛藤して、栄光の座に至るという綺麗なスポ根モノなのである。

 転生する前の俺は、そんな優しい世界観に魅力的なキャラクター、そして燃えるシナリオに感銘を受けて、ウマ娘の沼に嵌まったのだ。

 

 では、そこに左派だの右派だの、政治の話を混ぜたらどうなる?

 

 一瞬にして、汚くなる。

 

 例えるのなら、百合の間に野獣先輩を挟むようなものである。

 

 まぁつまり、混ぜるな危険!ってなわけだ。

 

 俺はウマ娘の優しい世界観が好きだったのだが、いざウマ娘が現実に実在していたらどうだろうか?嗚呼悲しいかな、嫌でも政治が絡むのである。

 

 二次創作だと、よくURAが悪役にされやすい。

 だが現実は、それこそ"実在していたら"というIFは、そんな生ぬるいものではなかった。

 

 純白無垢な少女の夢と希望で覆い隠されたヴェールの下には、様々な思惑と悪意と金が、闇鍋のように渦巻いている。

 夢を叶える権利を売り、それで得た金で贅を肥やし、叶えられなかったらそこでおしまいさようなら。

 

 なんてまぁ、夢がない現実なんだ。

 結局こっちも、大して変わらないんだなと俺はつくづく思う。

 

 今でこそ下火だが、成田闘争なりストライキ頻発なりで、1980年代は左派系がかなり幅を利かせていた時代なのである。

 また、それ以前に、1976年の皐月賞直前に中央トレーナー組合とURAが争った春闘ストの影響を受けて、流星の貴公子と今尚名高いテンポイントの調整予定が狂わされて、皐月賞に勝てなかったという事例がある。

 そんな史実、再現しなくていいから(良心)

 

 とまぁ夢がないことに、ウマ娘レース界隈はがっつり政治の影響を受けているのである。

 

 そんな現実に幻滅して、思想だとか政治だとかの黒い話には、あまり手を突っ込まないつもりでいた。

 

 しかし、いずれやらなければならなかった。

 

 下水の整備は誰がやる?ゴミの整理は誰がやる?汚れ作業は、誰がやるのだ?

 

 誰かがやらなければならない。

 誰かが汚れ役を買って出て、この世は回っているのだ。

 

 というわけで、学園に蔓延る"過激的反対派"に対する対策方法を考えなければならない。

 

 まず間違いなく、このままやろうものなら反発されるだろう。

 かといってやらなかったら、単純に約束を破ることになるし、職業への興味につながらない。

 しかも、職業への興味につながらないことは、就職ルートの確立が危ぶまれることになる。

 こうなると改革の意味がない。

 

 なんてこった!もう助からないゾ!(八方塞がり)

 

 どうしようもないと思ったその時、思いのほか呆気なく打開策が思い浮かんだ。

 

 それはずばり、オペレーション"替え玉"である。

 

 ざっくり表すと、自衛隊以上に他の職業を紹介しまくることで、注目を逸らして本命を隠すという作戦である。

 

Qそんな作戦で大丈夫か?

 

と、思うかもしれない。だが

 

A大丈夫だ、問題ない

 

である。

 

 ……とカッコつけて断言したが、実際は問題大有りだ。

 ちょっと紹介しただけでも過剰に反応するかもしれないし、何なら真の意図に気づかれるかもしれない。

 

 後から「ああしていれば、こんなことにならなかった」だとか「こうしていれば、もっとうまくいった」と言われるかもしれない。

 

 これが果たして最善の策なのかどうかは、結果のみが知る……のだが、うまくいった。

 

「ヨシ!」

 

 3月の末になって、いまだに大規模な反対が起こっていないことに、俺は安堵すると共にガッツポーズをする。

 

 就職ルート革命の取り組みをみっちり説明したことが幸いしたのか、今のところ職業紹介に自衛隊が混ざっていても特に問題ない。

 

 この冬はかなり緊張したが、雪解けと共に緊張も解かしていいかもしれない。

 

「ぬぁぁぁんもぉぉぉん、何とかなったぁ……!」

 

 今までの疲労がすべて抜けるかのようにして、椅子にパタンと座る。

 

 とりあえず、良い新学期を迎えられそうだと、頭の隅でふと思った。

 

 

 

 

学園運営に対する思いを熱く語ることでも有名だったんだぜ

彼の本気の想いに魅せられて、彼ならと考えを改めるものも多かったんだ

 

ただ理想を語るだけじゃなくて、それに至る計画をちゃんと説明したうえで、堅実に成果を出し続けた事が、右も左も、彼を信用して愛した理由なんだぜ

 

―【一勝よりも一生を】レジェンド理事長と呼ばれた男【ゆっくり企業解説】―




だいぶ扱いにくい題材でしたが
経営や教育、時代を扱ううえでどうしても外せない存在だったので、だいぶオブラートに包んで作りました。

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