【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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エセ理事長、出世が決まる

 春になってからというものの、ドクタースパートの布教活動に獅子奮迅の働きをしたり、その過程でさらにコネを広げまくったりと、中央に負けまいと言わんばかりに北海道の隅々まで頭を下げ、駆け巡った。

 

 相次ぐ長距離移動に体中が悲鳴を上げるのだが、その甲斐あってかプロジェクトは成功を収めることができた。

 

 ひとたびドクスパがレースに出ようものなら、北海道のメディアはドクスパ一色となり、役所と企業の絶妙な提携によってグッズ販売などといった事業がうまい具合に刺さり、お互いに儲けられてwin-winな関係になっている。

 

 そのような目に見える成果を収められたおかげか、大変嬉しい事に俺は出世することになった。

 

 出世先とはズバリ、ホッカイドウシリーズの運営の代表である。

 

 やったぜ

 

 より上の地位になることで、さらに大きな改革を推し進めることができるようことに胸が躍る半面、苦楽を共にし、慣れ親しんだここからおさらばになってしまうと思うと、なんだか寂しい気持ちになる。

 

「……5年か」

 

 陽に照らされた理事長室の窓際に立って、外に広がる田原と、その手前に並ぶ防風林というありふれた田舎の景色を眺めつつ、俺はひとり呟く。

 

 世間から『日本のゴルビー』と呼ばれるほど、この時代において進歩的な改革を行い、わずか五年で経営状態を大幅に改善した。

  

 ここまでやれば、しばらくの間は安泰だろう。

 そう考えると、もう俺の役割は終わったのかもしれない。

 

 しかし、どうやらまだ居場所があるようだ。

 今年度いっぱいで俺はここから離れ、札幌を拠点としたホッカイドウシリーズの頂点に立つのである。

 

 さぁ、後は後任を決めつつ、五年間共に歩んでくれた職員のみんなに対する感謝の方法を考えるとするかとのびのびしていると、トレセン学園理事長として最後の仕事が舞い込んできた。

 

 ずばり、"スウェーデンの王様をおもてなしする"ことだった。

 

 どうやら、3月に行われるクロスカントリースキー大会のゲストとして訪問する際、ついでに寄っていくとのことらしい。

 ざっくりとした説明だが、そのまんま過ぎてこれ以上でもこれ以下でもない。

 

 唐突なお偉いさんの来訪に、俺は思わず震え上がる。

 だが、ここぞとばかりにチャンスを見出すのが経営者たるもの…

 これは海外進出のチャンスであり、もし成功すれば、地方の中でホッカイドウシリーズは多大な影響力を持つことになるだろう。

 それに、最後の仕事が"王様をもてなす"だなんて、むしろ名誉なことじゃないか。と、自分を鼓舞する。

 

 かくして、俺は理事長として最後の大仕事に取り掛かるのであった。

 

 

 

 国際的な関わりの場合、相手を理解することが最も優先されるだろう。

 日本だと通用するジェスチャーポーズが、海外の場合実はとんでもない意味を持っていて…というような事態を避けるべく、最低限の知識が必要だ。

 そのため、スウェーデンの歴史や文化や風土など、ざっくりとだが一応の教養を身に着けるべく、臨時的に授業を行う。

 教員側もそうだが、俺も学ぶ。

 ましてや、俺はここの代表者である。

 代表者である以上、さらに深い知識が必要とされるので、俺は人一倍スウェーデンの勉強をする。

 

 その間、どのような方法でスウェーデンの王をもてなすのか、行政と民間会社と相談して、コネコネと案をまとめ上げる。

 めっちゃ大きな催しをするのかと身構えていたのだが、行政いわく、そんなに長く滞在する予定はないとのことなので、めっちゃ派手にしなければならないわけではないらしい。

 また、おそらく見たいのはレースではなく、学園の方らしい。

 

 行政以外にも、そういった国外のVIPを迎え入れた実績のある会社や、大使館からのアドバイスを取り入れたりして、どういったルートで案内したほうが良いのかを策定する。

 

 さらに、学園周辺の警備強化や、暴徒に襲われた際の対策方法を教授されたりと、警察方面との連携を深めていく。

 

 そうこうしていくうちに紅葉が舞う季節になり、葉が地面に落ちると次は冬虫が舞い、いよいよ雪が降ってきた。

 

 その間、俺はヒーヒー(50代おっさん迫真の息継ぎ)言いながら、必死にしがみつくが如く諸々の作業をこなしていく。

 また、職員や生徒、その他大勢が、皆一つの目標に向かって努力をしている。

 

 そうするうちに、北海道の長い冬はあっという間に過ぎ去っていった。

 

 そして3月、ついに時が来た。

 

「……ふぅー、よし、がんばるぞ」

 

 出勤前、武者震いを抑え、自宅の玄関で自分自身を鼓舞する。

 決戦の時が、来たのである。






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