【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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エセ理事長、旭川トレセン学園から去る

 スウェーデンの視察団をもてなしてから数日経った。

 時は3月末、春の訪れが遅い北海道の雪の下で寝ていた花が、芽を咲かす時を今か今かと息を潜めている時だ。雪が溶ければ、すぐに緑が蘇るだろう。

 

 学期が変わる合間には妙な静けさがあると、五年間経験してきた俺は思う。

 一部の生徒は卒業して学園を去り、残った生徒も実家に帰るなどしているためか、いつにも増して人の気配が薄く、静かだ。

 

 学友と共に学び、そしてトレーニングをして6年間を過ごした生徒らは既に卒業し、自分が社会に出て大丈夫かと不安に思っている頃だろうか。

 大丈夫だ、社会に出て役に立つスキルは既に身に付けている筈なのだから、ケツとタッp…

胸を張って、自信を持ちなさい。と、鼓舞してあげたいところだ。

 社会というゴールなきレースに身を投じる彼女らの人生に幸多からん事を願いつつ、俺はここから去る準備をする。

 

「これは私物、これも私物……これはここに、こいつもここに…か。……ええっと、あんぱん???あ、賞味期限切れ間近じゃねぇか!」

 

 耳を澄まして周りに誰もいないことを確認するなり、勿体ないので、流れるような自然な動作で危険物の処理(意味深)をこなす。

 

 自分で掃き掃除をしたりして、日頃から見える所の整頓を心掛けているつもりだったが、改めて見てみると、普段客人に見せないような見えない所がまぁまぁ汚かった事が判明する。

 という訳で、後任の者に不快にさせないよう隅々まで念入りに掃除をしているのが現状だ。

 因みに、この部屋には俺しか居ないからか、無意識の内に独り言が多くなる。

 

「よし、これで全部かな……」

 

 あらかた整理を終え、段ボール箱の中に私物を詰め込んでいく。

 私物を入れた段ボール箱は一旦家に持ち帰り、札幌へ引っ越すついでに持っていく予定だ。

 

 それはともかく、綺麗になった理事長室を眺める。

 

「……うん、綺麗だ」

 

 理事長として過ごしたこの場所ともお別れである。

 

 俺は椅子に腰かけ、窓から景色を見渡す。

 

 今日も良い天気だ。

 窓の外には雲一つない青空が広がり、太陽が燦々と輝いている。

 

「今日で最後なんだな……」

 

 この景色を見るのもこれが最後かと思うと、やはり寂しさを感じるものだ。

 感傷に浸る俺は、目を閉じる。すると、数日前の出来事が脳内のスクリーンに映し出された。

 

 一番始めに映し出されたのは、俺の出世祝いに職員のみんなが盛大に祝ってくれた時の出来事だった。

 "出世祝い"と書かれた襷を掛けられ、職員のみんながカンパして買ったなんか凄そうな酒を貰った時、俺は感動するあまり嬉し泣きしてしまった。

 

 次に、色々な方面から俺の出世を祝う祝電が掛けられた事が映し出された。

 取引先の業者はもちろん、右派左派の地元の大物政治家や労働組合など、色々なところから祝電が掛けられた。

 

 また、俺が次期ホッカイドウシリーズの代表になる事を告げるメディアも映し出された。

 "ホッカイドウシリーズの次期代表はあの理事長!期待高まる!"だとか、"理事長、北海道を改革か!?"など、極めて好意的な記事が、主に地元メディアを中心に出されていた。

 その一方で、本土の方…特にURAの反応は芳しくなく、批判的な主張をするメディアが目立っていた印象がある。

 

 ひととおり思い出を再上映した後、目を開ける。

 

「よし、頑張るか」

 

 寂しさは決心に変わり、次なるプロジェクトを成し遂げようとする原動力になる。

 俺のレースは、まだまだ続くのだ。




第一章 完

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