【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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エセ理事長、経済破壊爆弾を見つける

暑いということは、暑いということなんです。(小泉構文)

 

状況がヤバすぎると一周回って冷静になることってあるよね、知らんけど。

 

現代ほど地球温暖化が進んでいないという事もあってか、心無しか涼しく感じる北海道の夏のある日、教育委員会とひとまず話し合いを終えた俺は、学校長と並んで建物を出る。

 

きっと冷たい空気と暖かい空気が相撲でもしていたのだろう、建物から出た瞬間、熱風に襲われる。

 

「暑いですねぇ…」

 

物静かな学校長が思わず声を上げるほどだ。やはり暑いものは暑い。

 

こんな時はキンッ!キンッ!に冷えたビール……じゃなくてアイスでも食べたいところだ。

たしかこの時代なら、チューペットがまだあった時だろうか?

 

というか、夏+スーツなんて誰も喜ばないクロスオーバー考えたやつ誰だよ!いい加減にしろ!

 

どうせならTシャツ短パンで過ごしたい(見るほうが地獄)、なんて思いつつ、汗を払いながら二人は社用車に乗り込む。

 

外とはうって変わって、車内は冷房が効いてて最高だ。

 

そんな愚痴はさておき、いったいなぜ俺は旭川市の中心部に来ていたのか?その理由は、市内の小中学校向けの体験入学、小学生の職業体験の選択肢の一つにする事と、およびにポスターとパンフレットの設置の交渉のためだ。

 

交渉は市側の理解もあり、おおむねうまくいっているが、やはりいくらか手順を踏まなければならないのが現実だ。パパっとやって、終わり!なんてことにはならないのだ。

 

「体験入学してくる生徒らにとって、思い出に残るような体験をしてあげてほしい。そのためなら、多少の出費は良しとするし、こっちもサポートする……頑張っておくれ」

 

「はい」

 

数字と睨めっこする経理ら経営陣よりも、現場に任せたほうがいいだろうと俺は判断した。

なんせ、小中学生に年間売上高を見せるよりも、地方とは言えど本物の競争ウマ娘と触れ合ったほうが楽しいだろうし、何よりも貴重な体験になるはずだ。

 

俺がなぜそこまでして小中学生にこだわるのか?

 

少し小汚い話になるが、ずばり"未来の財源を作り出す"ことだ。

 

もっと踏み込んで言うと、"思い出"という名の金を使ってくれる"きっかけ"を作るためだ。

 

思い出というのは一種の心の寄り所で、よほどのことがない限り忘れないものだ。

 

例えば、上京した男が、あることをきっかけに実家がある地元に帰ってくる。

地元へ帰ると、走馬灯のように懐かしくて楽しかった学生時代の思い出が、脳内を巡る。

 

『あー、修学旅行楽しかったなぁ…あいつ今何やってんのかな…あそこってまだやってるのかな…って、やってるやん!見に行ったろ!』

 

もうお分かりだろう。思い出がある限り、上記のような数値に現れない集客効果があるのだ。

しかもこれは、半永久的なものだ。良い評価の口コミが広がるように、金を使わずして客を呼び込めるのだ。

 

このような思い出商法は、先人の成功にあやかって模倣したものだ。

 

さらに言えば、入学体験やその他諸々の広報活動で、受験者数増加による受験料収入増加も見込めるうえ、体験を通して学園に入りたい!ここのトレーナーになりたい!という人が出れば、まさに一石二鳥どころか一石三鳥だ。

 

思い出を汚すな!いい加減にしろ!とヤジを飛ばしたいかもしれないが、こうでもしなければ、財源を確固たるものにできないのである。

 

先人の知恵に感謝…と思いながら、流れゆく旭川の市街地を見とれていると…

 

「北海道植民銀行…?」

 

略して植銀…あれ、なんかどっかで聞いたことがあるぞ?

 

「……どうしましたか?」

 

「いや、ちょっと今大事なことを思い出そうとしているんだ…」

 

唐突に体調が悪くなったのかと心配されるほど、俺は考え込んでいた。

何か大切な事を忘れている気が……あっ()

 

 

拓銀だ!!

 

 

デデドン!(絶望)

 

点と点が線で繋がった瞬間、俺は思わずパッと目を見開いて、迫真の目力を発揮する。

 

どうやら、この世界線では似たような名前で存在するようだ。

 

史実では、バブル期に大量に作った不良債権を消化しきれず、都銀初の倒産という日本史に残る大事件を引き起こした銀行である。

 

もちろん、倒産して終わり!な訳がなく、その後も現代に至るまで回復しない北海道経済の低迷を誘発することになるのである。

 

北海道が土台なのに、肝心の土台がガバガバになるのはヤバイ!何とかせねば!とは思うのだが、ひなびた地方都市の外れにある学校の理事長の俺に、拓銀改め植銀を動かせる訳がないので、ふるさとの北海道経済と共に死に行く様を見届けるしかないのである。それが堪らなく悔しい。

 

……しかしまぁ、本当にそうなるかは未知数だが、抱え込んだ爆弾が爆発する時期を把握しているだけまだマシである。

 

いわゆる、未来知識チートを使い、津波のように押し寄せてくる損害を最小限に抑えるのだ。

 

「これは研究せねばならんな……」

 

「……どうかされましたか??」

 

「有事の対応策を考えていたんだよ」

 

 

・・・

 

 

自販機だよ!全員集合!!

 

交渉から数日ほど経ったある日のこと、なんと記念すべきことに、校舎側の敷地内に新しく自販機を設置することが決まったのである!

というか、すでに設置されている。

 

バァン!!(落下音)

 

う”ん”ま”ぁ”あ”い”!!!

 

前世の建築現場でも愛用していたコーヒーはたまらねぇぜ!!

これから毎日缶コーヒーを買おう!(提案)

 

…ということはさておき、ただ単にコーヒーを買いたいがためにわざわざ設置したわけではない。これもまた、不満解消に繋がると考えたからだ。

 

実は、仕入れた自販機が一癖も二癖もある物なのだ。

生徒寮付近に設置した自販機は、普通の飲み物が売っている自販機だ。

 

目玉となるのは、職員寮内に設置した自販機である。

 

一癖も二癖もある自販機とはズバリ、煙草と酒類を扱える自販機である。

 

実は、教員側の悩みで「煙草や酒を買うのに町の方へ出なければならないのがめんどくさい」という不満が、いくらか送られてきたのである。

 

この問題を比較的安価に、なおかつ一気に二つとも解決できる方法が、煙草と酒類を扱える自販機であったのだ。

 

この自販機はすこぶる評判が良かったのだが、それが判明するのはもう少し経ってからだ。

 

 

・・・

 

 

「いやー、シンボリルドルフがまさか故障で宝塚記念を出走回避するとは思いませんでしたね~」

 

「そうですね、欧州遠征計画がどうなるのか、決行するのか中止するのかがまだ分からない事も不安ですねぇ」

 

俺がよく知るネームドウマ娘達は、今頃何をしているのだろうかと時々疑問に思う。

 

シンボリルドルフとミスターシービーは在学中だという事は判明している。

 

また、マルゼンスキーは父と同じくダンサーの道を歩んでいる事は分かったが、年代的に殆どウマ娘化されていないから、他はどのような道を歩んでいるかさっぱりだ。

 

というか、ゴルシ辺りになると、下手したらまだ生まれていないかもしれない。

 

まぁそんなことはさておき、ラジオに耳を傾けながら、部下から提出された新しい制服の案に俺は目を奪われていた。

 

「ははーん?これは面白い……」

 

俺は胸をときめかせていた。

その理由はもちろん、制服の更新は意識改革の目玉であるからだ。

 

契約料や、生徒全員分、さらにはばんえいウマ娘用のを一気に製造する事となるので、今年度の改革用予算の半分近くを使うという決して安くない出費をすることになったが、それを抜きにこんなにも早い時期に実行できるのは、幸先の良いスタートで嬉しい。

 

ちなみに、全体的な色合いはダークブルーで、腰回りに左右ともにポケットがついており、こちらから見て右の胸元に我が校の校章が刺繍されているというデザインのブレザーだ。

 

また、当然の如くスカートにも変更の手が加えられていた。

 

ダークグリーンとダークブルーを交互に繰り返すストライプ模様で、ミニスカートの夏期仕様と、ロングスカートの冬季仕様二種類が用意されていた。

 

また、ブレザーの中に着るシャツとネクタイは、今まで使っていた物を流用できるようになっており、一時的なコストカットができるようになっている。

 

ちなみにだが、新入生用のシャツとネクタイは、従来の契約を切り、新しく契約する業者に頼むことになっている。

 

これだけ見ると、よくあるブレザーとスカートのセットと思われるかもしれない。

だが、依然として戦後……下手したら戦前から大して変更が加えられていないセーラー服が跋扈する中でも、十分な改革の一歩と言えよう。

 

また、この試みは十分な話題性があるはずだ。

これを体験入学の時や、小中学校のパンフレットを通して大々的に宣伝すれば、我が校が本気で変わりつつあることを内外にアピールするチャンスだ。

 

「……えぇっと、午後からあれか……」

 

教育委員会との交渉がある程度終わったので、次は学校へ行って予定の打ち合わせをする段階である。すでに体験入学でどのような事をするかを生徒会と上層部で打ち合わせ済みなので、後はいつここへ来るかを打ち合わせるだけだ。

あと、ついでにパンフレットも配布する予定だ。

 

今回は、旭川市内のほぼ全ての小中学校が対象になるのに合わせて、旭川市の隣の町である美瑛町にもターゲットを広げるため、例年を上回る仕事量となる。

 

まるで居酒屋をはしごするが如く、学校を東西南北に駆け巡るため、この老練な転生肉体も相まって、体力的にも精神的にもかなりキツい。

 

だがそれでも、例え腰をやったとしても、俺はやり遂げなければならない義務があるのだ。

 

「いてててて!!!ヤバイゾ~コレ……!腰やったなクォレハ……」

 

状況がヤバすぎると一周回って冷静になることってあるよね、今まさにその状況だ。

 

改革を続ける前に、まず湿布を張らなければならないかもしれない()




※主人公は植銀を救いません!※

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