【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

32 / 57
エセ理事長、中央を相手にする

――もしも敵がいるのなら、倒すよりも味方にする事を心掛けるべし――

 

 敵を上手いこと味方に引き込むというやり方は、古来より受け継がれてきた処世術だ。

 こちらに牙を向けるほどの力があるのなら、敵に回して真っ向から戦うよりも、味方にして利用してしまった方が明らかに得だろう。

 

 そのようなワル知恵は、ある時には助けられ、またある時には仇となりつつ、個人間のやり取りから国家間の外交まで、やや卑怯ながらも今にまで受け継がれている立派な戦術である。

 

 このやり方無くして、生存はあり得ないだろう。

 どう頑張って立ち向かっても勝てない相手がいるのなら、大人しく下に付いて強者の利益を享受した方が、競争を仕掛けて一か八かの大博打を打つよりも、安定的に長生きできるはずだ。

 

 独立による貧困か、隷属による繁栄か、究極の選択である。

 

 と、ここまでなんちゃって哲学をひけらかしてきて、さも選択肢は二つしかないように見せたが、実はもう一つある。

 

 それはズバリ、真ん中……いわば、win-winの関係と呼ばれるものだ。

 

 win-winとはすなわち、両者が対等に、そして公正にメリットを享受できる関係の事だ。

 

 例えば、賃貸経営者と入居希望者がいるとする。

 経営者は入居希望者に対して家を貸す代わりに、賃貸料という対価を求める。そして、希望者は対価を払って家を手にする。

 こうして、賃貸料や家など形は違えど、目的にあったメリットを得ることができるのだ。

 

 この理想的なやり方で最も重視されるものは、どちらも対等な立ち位置であるという事だ。

 両者には両者なりの事情がある以上、100%のメリットを受ける事はまず無理なので、そこから折り合いをつけて妥協して、円満解決を目指す必要があるのだ。

 当然、相手を騙して自分だけメリットを得る事は、言語道断なのである。

 

 とまぁ、win-winな関係を説明してきたが、やっぱりどう頑張っても対等になるかどうかは、結局相手次第なところがある。

 

 その相手が天下の中央であるから、俺は絶望している。

 

「ぬぁぁぁん疲れたもぉぉぉん……」

 

 本土遠征から北海道に帰って来た俺は、疲れからか不幸にも黒塗りの高級車へ衝突……なんて事はなく、普通に自宅に帰って布団に寝転がる。中央との交渉キツすぎて頭お菓子なるで。

 

 スポーツ医学改革の時から、元中央の職員やトレーナー等から話を聞いて内部情報を収集し、「あっ(察し)、ふーん」ってな感じで覚悟していたが、一度面を向かって話し合ってみると、想像以上に保守的な体質(かなりオブラートな表現)であることが明らかになった。

 

 はっきり言って、ありゃ商人じゃない。

 とにかく利益さえ上げれればそれで良い…と言ったような面構えの者が多く、そのような考えは態度や喋り方に漏れているような有り様であり、そりゃルドルフの提案が通らないのも無理はないよな……と言うのが、率直な感想である。

 

 まぁつまり、今ある安定した利益を守る事がお仕事な人が多いのである。

 

 安定的な利益を守る事そのものは、皆は意外に思うかも知れないが、言うほど悪い訳では無いと俺は思う。

 常に綱渡りな経営状態な以上、どんなときでも安定して一定の利益が得られると言うのは、今後の経費や投資のバランスを考える事が容易くなり、それだけ金銭的にも精神的にも余裕が生まれるので、正直言うと羨ましい。

 

 と言うことはともかく、安定的な利益を守るあまり、他者(社)に対して盲目的に攻撃的になると言うのは、あまり頂けない。

 

 はっきり言って、今の中央は敵ながらこっちが不安になる程に浮かれてしまっている。

 オグリキャップブームで膨大な利益を得た事と、偽りの好景気によって、先人が築き上げてきた功績の効果をあたかも自分の成果のように錯覚すると共に、イケイケドンドン!な体勢になってしまっているのだ。ダメみたいですね……(達観)

 

 しかし、ここまで来るといっそ白々しくなると共に、攻略材料と言うものがよりハッキリと浮かび上がってくる。

 

 中央という敵を味方にするとっておきの攻略材料……それすなわち、"新しい既得権益"である。

 

 "新しい"と"既得"ってなんだよ一行矛盾するな、いい加減にしろ!と思うだろう。それは日本語の限界と言うものだ。多目に見てほしい。

 

 というジョークはともかく、中央は「とにかくお金がほしいんじゃ!」という人が多い事を、既に述べただろう。

 これはつまり、「うちと手を組めば、もっとお金稼げますよ」と金をチラつかせば、話を聞いてくれる可能性があるとも解釈できる。

 というか、この"手を組めばさらに稼げる"という事自体、win-winの基本中の基本である。

 

 シンプル・イズ・ザ・ベスト――難攻不落に思われた中央を攻略する術は、思いの外簡単なものであったと、俺は思い知らされる。

 それと同時に、攻略方法がより確実的なものとなった今、そこを重点的に攻める他あるまい。

 

 という訳で、早速攻めていく。攻撃戦だ!

 

 そもそもなぜ、敵である中央と協力する必要があるのか?

 ずばり、史実よりも早く"地方所属のまま中央のレースに出れるようにする"事によって、ホッカイドウシリーズの魅力増加と活性化を促すという目論見があるからだ。

 

 「地方所属のまま中央のレースに出したいんです!」と言ったところで、肝心の中央に対して、どれ程メリットがあるのか説明できていないため、簡単に受け入れられる訳がない。ましてや、地方に対して偏見を持っている以上「もしや、既得権益の崩壊を狙っているのでは?」と、誤解されかねない。

 だからこそ、俺は中央に対して、この協定による中央が享受できるメリットをとにかく説明しまくる。

 

 例えば、今まで前例のなかった"地方所属のまま中央のレースに出る"から来る話題性はなかなかのものであるとか、それによってオグリキャップのようなシンデレラストーリーが誕生する可能性が高まり、結果利益に繋がるなど、どんな小さな事でもとにかく説明して、どれ程時間が掛かろうとも気を少しずつ軟化の方向へ向けさせる。

 

 さらに、だめ押しと言わんばかりに、今までコネを築き上げてきたシンボリ家を始めとした名家に働きかけて、ホッカイドウシリーズと組む事を推させる。

 

 地方所属出走の他にも、さらに稼げる道とオプションを色々と提供することで、手を組む有効性をより高めるように努めるのであった。

読者年齢層調査

  • 10代以下
  • 10代
  • 20代
  • 30代
  • 40代
  • 50代
  • 60代以上

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。