【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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エセ理事長、何とかして誤魔化そうとする

=ホッカイドウシリーズの現状=1992

・崩壊

駄目だった

結局株価は上がらなかった

高いビルの屋上で、紙屑を捨てた大人の行列ができている

株と人、どちらが早く落ちるのか?

経済力が信じられないほど低下する

やる気が信じられないほど低下する

 

・起爆時期不明のリミッター爆弾、北海道植民銀行

先送りするな!今ならまだ間に合う!急いで爆弾を解除しろ!

経済力が少しずつ低下する

 

・レジェンド理事長

今代の理事長は、改革に意欲的なようだ

もっとも、成功するかどうかは置いておいての話だが……

話題性が少しずつ増加する

経済力が少しずつ増加する

やる気が少しずつ増加する

 

・勝負服需要の拡大

莫大な勝負服の需要はホッカイドウシリーズに巨万の富を呼び込んでいると同時に、大きな負担をもたらしている。

話題性が大幅に増加する

やる気が大幅に増加する

経済力が低下する

エースウマ娘出現率がUP

 

・中央、地方、北海道

ここ最近、レースの世界を志すウマ娘と親に新たな選択肢が浮上してきている。

スポーツ医学の大々的な導入や、卒業後の進路サポートなどといった改革が功を奏し、新たに北海道という枠の概念が浸透しつつある。

話題性が増加する

経済力が増加する

エースウマ娘出現率がUP

 

・有能な人材の流入

中央の怠慢は地方のチャンスであり、現状維持は緩やかな後退でもある

先見の明ある人材が、希望を求めてホッカイドウへ流れてきている

話題性が少し増加する

経済力が少し増加する

エースウマ娘出現率がUP

 

・陰の実力者

官・民・軍、名家、そして世界まで友好関係を広めた今代の理事長の活躍によって、我々の事業は成功しやすくなっている。

背中には気をつけろ

やる気が大幅に増加する

 

・命の手紙

選択肢はいくらでもある。

人道精神に則って受け入れるのもありだし、政治的判断から受け入れないことだってできる。

最善の選択をしなければ、恐ろしい結果を招くだろう。

 


 

 

「と、言うような手紙が来まして……」

 

「うーむ、これは……う~ん、反応に困りますね……」

 

「ハハハ(苦笑)……自分もです……」

 

 縦道北海道知事が手紙を読み終わるなり、なんとも言えない困惑した表情で手紙を返してくる。

 俺もまた、道知事と同じ"反応に困る"と言った感想を、読んで理解したその瞬間から抱いていた。

 だから、良くも悪くも感想がシンクロした事に苦笑せざるを得ない。

 

 苦笑でもしてこの緊迫した場を乗り切らねばならぬほど、これは深刻な問題なのだ。

 

「まぁ確かに……これは理事長が言うように、一個人、一企業で解決してよい問題ではありませんな」

 

 ――紛争地帯から人を受け入れる――

 これは単純な問題に見えて、かなり深刻な問題だ。

 

 そもそも、手紙の文脈は、「戦火の中にいる生徒を受け入れてほしい」というようなニュアンスである。

 

 これが指す事とは何か?

 ズバリ、どう頑張って解釈しようにも、紛争地帯の学生を受け入れるということは、"難民"を受け入れるのと全くもって同じ意味だと言うことだ。

 

 普通に帰国ができる一般人と異なり、母国の戦闘に巻き込まれないようにするために外国に避難する難民とでは、受け入れるハードルが高いという事は、もはや言うまでもないだろう。

 

 まず、一度goサインを出してしまうとブレーキが効かなくなり、思想や宗教、常識や習慣など全く異なる人が大量に流入する事になる。

 さらに、帰国のタイムリミットが"母国の戦争が終わるまで"という、「それ実質いくらでも延長できるよね?」と言いたくなるような滞在期間の不確定さがあるのだ。

 

――何もかもが違う人と、いつまで一緒に過ごさなければならないのかわからない――

 

 最初の内は善意で我慢していても、いつかは不安が善意を上回り、先行きが曇り模様な現状に耐えられなくなるだろう。

 

 日本人は一般生活レベルに宗教が馴染みすぎて(クリスマスや正月など)逆に宗教に関心が無いと言われているのであまり実感が無いかも知れないが、文化―特に宗教の違いから来る摩擦というものは、極めて深刻な問題なのだ。

 

 また、戦争が長期間化して難民が避難先の国で過ごすうちに、その避難先の国の文化などに順応することで、避難先の国の国民と同化して子孫繁栄するという可能性がありうる。

 

 「なんだ、母国で不幸になっても、避難先で幸福を掴んでまともな生活を送れるようになったらいいじゃん」という風に思うかも知れない。

 確かに、避難したご本人的にはいいのかも知れない。

 しかし、これには恐ろしい落とし穴があるのだ。

 

 それは何か?ズバリ、"大義名分"である。

 

 例えば、A国で内戦が起きて、隣のB国に逃げ込んだとする。

 その内戦では、反政府派が勝利して、A国から逃げた人はそのままB国で亡命生活を送ることとなる。

 すると、新A国は「B国にいるA国民が弾圧を受けている!」という謎理論を展開し、"抑圧されし同胞を解放する"という大義名分のもと、B国に侵略する……というような事態が起こる可能性が、決して少なくないのだ。

 

 「そんな無茶苦茶な理論で戦争なんて起きるの?」と、思うだろう。

 

 起こっちゃうんだよなぁそれが!(ゾルタン並みの感想)

 

 冗談抜きで、マジでありうる。

 戦争なんて、それっぽい理由があればどうにかしてこじつけて起こすのだ。

 大変やるせない気持ちになるが、外交に倫理観を求める事は期待しない方が良い。

 

 とにかく、難民という存在が取り巻く政治的課題は非常に深刻で、それはもうマリアナ海溝よりも深しと言っても過言ではないほど、扱いに困る問題なのである。

 

 そんな触れたらヤバい爆弾が、向こうからやって来てしまったのである。

 

 海外で俺の名とホッカイドウシリーズが知られ渡っていて、頼れる存在として認識されている事が名誉ではあるものの、それ以上に、扱いにミスったら大爆発する問題がこっちに向かって自走してきている事に頭を悩ませる他あるまい。

 

 ―厄介事が向こうからやって来る―PR活動の弊害とも言うべきだろうか、着々と効果が出ている事に対して、素直に喜ぶ事ができなくてなんだかモヤモヤする。

 

「マジでどうすりゃいいんだ……」これが、この手紙を知るすべての者に共通する感想だろう。

 

 と言うか、ウマ娘世界ってやさしいせかいじゃなかったのかよ!ちきしょー!

 そんなところまで現実に寄せなくていいから(良心)

 

 ともかく、この問題は一人や企業で解決したら不味いタイプのものだ。

 だから、俺はとある組織を頼る事にした。

 

 すなわち、"外務省"である。

 

 しかし、あいにく俺には外務省に通ずるツテをまだ開拓していない。

 なので、現段階で俺が接触できる最大級の行政権力者である道知事に頼み、外務省にツテを作ってその道を行くプロの力を借り、問題をできるだけハッピーエンドに向けられるように努力するのである。

 

「――ところで、理事長はどう思ってるの?クロアチアの生徒を受け入れるかどうか」

 

「ゲホゲホッ!自分……としては」

 

 一瞬、言葉が詰まる。

 なんせ、文字数にして数十文字程度で、遥か彼方の戦地で苦しむウマ娘の生死を左右することになるからだ。

 安易に本音を述べてしまっていいのか?と、俺は不安になる。

 

 しかし、ここでうじうじしていたらみっともない。

 ここは漢として、自分の意志というものを見せるべきなのだと、自分を後押しして、率直な意見を言う。

 

「全員は厳しいでしょうけども、できるだけ多くの生徒を受け入れて、助けたいところです」

 

「ほぅ、なるほど。まぁ、理事長ならそう言うと思ってました……応援しますよ」

 

「――!…ありがとうございますっ…!」

 

 ささやかな応援に、俺は素直に嬉しい気持ちになる。

 もっと頑張れそうだと、俺は奮起するのであった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 あれから数日ほど経って、思いのほか早く外務省からの返事があった。

 返事の内容をざっくり表すと、こうなる。

 

「難民というスタンスではなければ、理論上ギリ行けなくもないです」

 

 とのこと(超意訳)

 

 これはつまり、かなり強引なやり方ではあるが、"難民じゃなければOK"という訳である。

 

 突破口が開かれれば、あとは重点的にそこを攻めるのみ。

 難民じゃなければよいと分かってからの解決策考案は、電光石火の如き速度で練られていく。

 そして、重鎮の間で練られ、専門家に押し通せるかどうか確認した末、捻り出された案はこうだ。

 

 それは、"特例で大幅に基準を下げた留学制度を作る"というものだった。

 

 そう、難民ではなく、留学生という形で日本に逃がす作戦である。

 

 ぶっちゃけた話、これが成功するかどうかはガチでマジの大博打である。

 当たれば命を救うことができるものの、外れれば命を救えないどころか、世間から信用を失う羽目になる。つまり、民衆の反応次第という訳だ。

 リターンに対して、リスクがかなりデカいし、難民受け入れという転生前でもシビアな問題を扱うがために、成功の見込みが分からないというありがたくないおまけ付きだ。

 

 そんなに利益がないというのなら、なぜやるのか?と、疑問に思うだろう。

 

 汚い話になるが、断った際の世間の反発が恐ろしいことになることが予想されているからだ。

 

 われらホッカイドウシリーズは、"一勝よりも一生を"というモットーを掲げている。

 これはつまり、ウマ娘の幸せを願っているという訳だ。

 

 では、そんなモットーを掲げる企業が、内戦で苦しんでいる学園から助けを求められて、それを拒否したらどうなるか?

 

 「お前ら教え(モットー)はどうした教え(モットー)は!?」「あれは嘘だったのか!?」となることが明白であり、そうなれば、企業としての信頼崩落間違いなしである。

 

 ホッカイドウシリーズは、お互いの信頼で成り立っている企業だ。

 生徒と教師、親と学園、そして、職員と俺……どれも崩れてはならない、大切な関係なのである。

 

 なので、有言実行のために行動せざるを得なかったという、「少しでも苦しい思いをするウマ娘を減らしたかった」というような輝かしい理想では誤魔化しきれない苦しい現実があったのだ。

 

 ともあれ、案が纏まれば、あとは相手と打ち合わせをして、正式に協定を結ぶのみ。

 

 どのような手段で打ち合わせをしようかと意見をまとめている最中、最後の最後で非常にまずい事態が起きてしまった。

 

『【真相に迫る】ホッカイドウシリーズ、紛争地帯から難民を受け入れか!?』

 

 と、全国規模の新聞に掲載されたのである。

 

 くそう、次から次へと問題がっ!!

 と、俺は思わず吐き捨てそうになった。

 

 ついに世論が動き出す。これは相当面倒な事態になるぞと、俺は肺が痛むような思いで悟るのであった。

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