【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
「ふんぬぅぅぅんんんん!!!」
「おー!頑張ってんなぁ~」
ガシャンという乾いた金属音と共に特徴的なゲートが開かれると、ゆっくりとしたペースで、ソリを引くばんえいウマ娘らが飛び出る。
よく皆がイメージするウマ娘は、大抵モデル体型だ。
だが、ここ旭川トレセン学園に在籍するばんえいウマ娘は全くもって違う。
ホッカイドウシリーズは、世界的に見て珍しいレースが開催されている。
それは、"ばんえいレース"である。
最大1トンにも及ぶ鉄製ソリを引っ張るというもので、一概に速く走れれば良い訳では無いのが、通常のレースと最も異なる所だ。
当然、走りに変わって重要視されるのが"力"だ。
筋肉を付け過ぎると体重が増してしまい、かえって遅くなってしまうが、ばんえいの場合は足の速さなんてぶっちゃけ関係ないので、重い物を引けるように思う存分筋肉を付けてしまった方が有利になる。
結果、身長は女性にしては異例の2m越えが珍しくなく、身体中筋肉まみれでガッシリとしているケツとタッパがデカいウマ娘になるのだ。
また、現実のばんえい競馬と似たように、トレーナーがソリに乗って担当を指揮するそうだ。
なので、トレーナー自身の体重管理が必要になるので、この世界のばんえいウマ娘トレーナーは、現実のジョッキーと大差無いようだ。
ある意味ではこのウマ娘世界において、"人馬一体"という四字熟語が最も当てはまると言えるだろう。
ちょうどばんえいレースが開催されていたので見に来たのだが、その迫力に俺は圧倒される。
もはや言葉すら出ない。
「やっぱりつくづくウマ娘って不思議ですよね、なーんであんなにも力を出せるのか……」
「そうですねぇ……」
言葉出とるやないかい!というツッコミはさておき、すっかり顔見知りになった俺と土方のおっちゃんは、二人並んで椅子に座り、レースを眺める。
土方のおっちゃんは、ウマ娘のことを不思議だと言い、俺は頷く。
やはりウマ娘時空でも、ウマ娘の起源等は神秘的な謎に包まれているらしく、現代科学を持ってしても解明できていないようだ。その為、未だにエルフ的な妖精であるという考えが広く信じられてるとか、知らんけど。
まぁ、その原因が―そもそも大元の設定があやふやだったから―というのを俺は知っているのだが、それをバラしたら謎の死を遂げそうなので、今は忘れて目の前のレースを楽しむ。
「お!あともうちょい!あともうちょい!!」
「頑張れ……!頑張れ……!」
あーだこーだウマ娘の謎について語っていると、いよいよレースは終盤に差し掛かり、「頑張れ!」という声援が多くなる。
「「いけー!がんばれー!やったれー!」」
「うぉぉぉぉ!!!」
最後は雄叫びを上げて、レース板を横切る。
ゴールインすると、ウマ娘とトレーナーは両手を上げながら喜びの声を上げる。
そして観客も歓喜の声をあげ、勝者を讃えるように拍手をする。
これがばんえいレースなのか……と、俺は考える。
通常のレースと比べると、分かりやすい華が無くて見劣りするかもしれない。
だが、草の根のように、たくましく力強い、単純な"力"のぶつかり合いが、男心を刺激する。
だがしかし、例え魅力的であったとしても、売り上げ的に見れば、通常のレースと比べるとばんえいレースは劣ってしまう。また入場者数も、ただでさえ少ないのに、さらに少ないのが現状だ。
このような寂れた状況を変えるには、ばんえいレースの魅力をアピールする他無いだろう。
だがそれは、もう少し後の話だ。
今は今で、小さな改革をコツコツと積み重ねるしかない。
塵も積もれば山になるように、堅実にやっていけば、いずれ大きな成功に繋がるだろう。
できることなら全国規模で大胆にCM広告を打ちたい所だが、そんな余裕は微塵たりともないので、せいぜいパンフレットを配るのと、体験入学で説明するぐらいだ。
ちなみにだが、生徒会考案の新体験入学ではなんと、ばんえいウマ娘が引くソリに乗って、実際にばんえいレースを体験しよう!というコーナーが用意されているのである。
そのような体験は、おそらく人生で二度もない筈なので、とっておきの思い出になることが期待されている。あわよくば、将来はばんえいレース関係者になりたい!という人が出てくれば一石二鳥だ。
そんな事を考えながら、俺と土方のおっちゃんはライブステージに移動する。
ちなみに、ライブ内容はソーラン節である。
力強い踊りならぴったりだろうと思うのは、俺だけだろうか?
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