【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
「人間は力の面でウマ娘には敵いません。走りとなれば尚更です。ですが、慢心してはなりません。驚異的な身体能力を誇るウマ娘と言えども、銃弾や包丁の攻撃は普通に効きます。ですから、抵抗や返り討ちしようという考えはせず、逃げてください――」
体育館に集まる数百に及ぶ生徒を前にして、とある行事の為に札幌トレセン学園に訪れた道警のトップは、訓示を行う。
壇上の脇に立つ俺は、気を引き締めてその光景を見守る。
「――皆さんはアイドルであり、目立つ存在です。それ故に、恐ろしい悪意に狙われる可能性が一般人よりも大きいです――」
道警トップの言葉に、俺はうんうんと小さく頷く。
競走ウマ娘というのは世間から注目される存在であり、それ自体は輝かしいことだ。
しかしながら、光あるところに影ありしというのが世の常、そうした注目を悪用しようとするワルモノがいるのだ。
簡単に言うと、"テロ"である。
社会的弱者が己を誇示する為に、世間に与える影響力が強い存在を何らかの形で危害を加えて世間の注目を集めるというのが、テロリズムのざっくりとした内容だ。
テロと言えば、あさま山荘事件やミュンヘンオリンピック(黒い九月)事件、9.11などが有名どころだろう。
かなり治安が良くて非銃社会の日本と言えど、影響力のあるレースや競争ウマ娘を狙ったテロ等凶悪犯罪が起きる可能性は無いわけではない。起きてからでは遅いのだ。
また、"ステパン理事長の死を無駄にしてはいけない"という意志も、今回の行事の実行に影響している。
という訳で、休職明けすぐから道警と協議してなんとか実行の段階まで持っていき、消防や自衛隊との協力や、メディアを招いたりとかなり大がかりな対凶悪犯罪授業を行う事にしたのである。
我ながら、これほど大規模な対犯罪授業は一般の学校ではないだろうと自負する。
それほど、この行事に掛ける想いと期待、規模が大きいのだ。
最後に、もうひとつ重要なことがある。
それは、この訓練によって防犯力が高いことを大々的にアピールするという狙いである。
これによって、学園に生徒を預ける親や、遠征してくるウマ娘に海外のトレセン学園、さらに国内外から訪れる一般客を安心させる事で、回り回って数字には現れない利益に繋がるのである。
"安心"もまた、経営のステータスなのだ。
「――以上を持ちまして、私からの訓示を終了させていただきます」
パチパチパチパチ!!!!
訓示が終わると、生徒たちによる拍手の嵐に見送られながら道警トップは壇上から去る。
俺もその様子に満足げに微笑みつつ、壇上を去る。
こうして、道警と消防と自衛隊とホッカイドウシリーズ合同の対凶悪犯罪授業が始まるのであった。
「危険物を発見した場合、まず我々警察に通報してください。我々が到着するまで、発見した危険物をそのままにしておく事と、その危険物から人を離すように誘導してください」
授業を受けるのは、何も生徒だけではない。
俺らのような彼女らを支える側の人間、教員やレース場職員なども、対策を伝授するのである。
今説明されているのは、危険物によるテロ攻撃を受けた場合にどのような対策を取るべきかという内容である。
例えば、爆弾を仕掛けられた場合。
これは爆発する前に対処するのは難しいため、爆発物処理班と呼ばれる専門の部隊に任せることになる。
そしてその対応をしている間、警備員と警察官、消防士や救急隊員が協力して避難誘導や現場の安全確保をするのだ。
また、銃撃を受けた場合の訓練も行う。
パドック周回中のウマ娘に対して、観衆に紛れて至近距離まで接近して撃つという、俺が経験したのと全く同じものを今回は想定している。
他にも、毒ガス兵器が使用された場合を想定した訓練も行う。
毒ガス?!そんなバカな!と、この訓練を実施するのに懐疑的な意見が見られたが、そこは「常に最悪の事態を想定して行動すべし」とゴリ押して実行するに至った経緯がある。
この対毒ガス兵器訓練では、警察や職員らもそうだが、自衛隊の"化学科"と呼ばれる部隊が訓練に参加している。
化学科とは、ざっくり言うと、化学兵器による攻撃をなんとかする部隊であり、化学兵器を作って攻撃する部隊ではない。
後に起きる某教団が起こした地下鉄の事件が起きる前まで(良くも悪くも)実践経験が無く、それが原因で必要性が疑問視されているどころか、化学を用いて攻撃する部隊だと勘違いされて廃止を迫られているという不遇な立ち位置にいるのが、1992年時点の現状である。
このような訓練を行って本来の正しい部隊の目的をメディアを通じて国民にアピールすることで、差別と偏見を是正すると共に自衛隊に対する恩を作ることで、よりいっそう就職ルートを確固たるものにするという真の狙いがある。
観客席に向けて銃乱射、遠征バスをバスジャック、凶器を手に学校に乱入etc……様々な最悪の事態を想定した想定と訓練を行い、結果、露わとなった問題点を二人三脚で改善していく努力と行動をしていくうちに、あっという間に時間が過ぎていくのであった。
1992年度から始まった対凶悪犯罪授業は、学校法人による官民協力防犯訓練という前例のない規模のものであった。
後に起きる事件を鑑みるに、その内容は先進的なものだったと評される事が多い。
特に、化学科を主体とした対テロ攻撃訓練は、この際に培われたデータがとある大事件で活かされるのでした……
―2022年、理事長亡き後に放映されたドキュメンタリー番組のフレーズより引用―
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