【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件   作:ホッケ貝

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エセ理事長、不況を耐える

 "就職氷河期"という言葉を、ご存知だろうか?

 身の毛が反り立つような恐ろしい単語の羅列に聞き覚えがない日本人は、殆どいないだろう。

 

「ゲホッ!……ついに来ちまったかチキショー」

 

 深夜、自宅のアパートにて半袖短パンで怠けてソファーに座っている俺は、某求人募集雑誌に就職倍率低下に関する記載を読んで、就職難が凄まじい勢いで本格化し始めている事を嫌なほど把握する。

 思わず数字から目を背けたくなるような、醜い現実である。

 

 そもそも、いったいなぜ大規模な就職難が起きてしまったのか?

 

 ずばり、"バブル景気でウハウハな企業が設備と人員に対して過剰な投資をしていた"からである。

 脳死で投資ブッパしまくってたらバブルが弾けて儲けがすっからかん。維持費だけでも支えるのに精一杯だから新規採用なんてもってのほか…というのが、就職氷河期のざっくりとした概要である。

 

 不正解な投資を大量に続けた企業らは徹底的に採用を絞り、おまけにリストラを強行して維持費を削ぎ落として未曾有の不景気を乗り越えようとしたのだ。

 

 結果、当時の若年層を中心に大量の就職困難者が生まれてしまい、数十年周期で訪れていたベビーブームに歯止めをかけて少子化を加速させ、非正規雇用や派遣などの低賃金&不安定な雇用でどうにかして食い繋がなければならない苦境に陥れられる事となったのである。

 

 一定世代の総貧困化、少子化加速、ブラック労働etc……

 その後に及ぼした影響が経済史でも希に見るレベルでヤバいのが、バブル崩壊である。

 

 そんな、1億もの日本人の人生に間違いなく影響を及ぼした激動の時代の真っ只中を、俺は今生きている。

 

「そういや、とーちゃんが就活してるのって今頃だったっけ……」

 

 ふと、前世の記憶を思い出す。

 小学校の入学式で一緒に写真を撮ったとき、家族で沖縄に旅行しに行ったとき、成人して一緒に酒を飲んだとき、そんなささやかな思い出が走馬灯かってぐらいポンッと沸き出てくる。

 急に思い出してきて逆に怖っ!フラグか?!(笑)

 

 ジョークはさておき、俺は年齢的に就職氷河期を経験していないから、ニュースやインターネット媒体で当時の状況を"知っているつもり"だった。

 

 しかし、今は違う。なんせ、今起きているからだ。

 

 ―あの頃はマジでキツかったぞ―と、面白おかしく当時を教えてくれたとーちゃんの話はガチだったんだって……小学生並みの感想になるほど、絶望的な現実に絶句する。

 

 対策に追われる官庁街の老人から就活に翻弄される若者まで、誰もがこの不景気は夢であり、いずれ覚めて元通りになるであろうという儚い希望を持ちつつ、具体的な解決策を見出だせずズルズルと長引くクソッタレで最悪な現実を受け入れなければならないという地獄の有り様が繰り広げられている。

 

 もうやめてくれ……と、叫びたくなる気持ちだ。

 

 未来知識があるのに、本領発揮できない自分が時々嫌になる。

 

 転生チートで日本を救う!なんて事にはならず、ホッカイドウシリーズだけでは対処不可能という苦い現実と身の丈を思い知らされる毎日である。

 

 そんなネガティブな考えが、ここ最近ふつふつと沸き出てくる。

 

 だが、そんな悪い思考に陥るよりも、今までのようにポジティブに考えて前を見た方がずっとずっといい結果に繋がると言うことを、俺は理解している。

 

 これから本格化する就活難で、全員を救うことはさすがにできない。

 だがしかし、たとえ少なくても救うことができる事は確かである。

 

 俺がやらなきゃ誰がやる!少しでも多く、救うために行動するのだ!!と、自分を鼓舞する。

 

 ってなわけで、早速行動する。

 

 主な内容を箇条書きにすると、こうなる。

・採用絞りを軟化させる

・北海道内で金の循環を完結させる

・投資を呼び込む

 

 まず、"採用絞りを軟化させる"事から説明しよう。

 

 既に説明したように、これ以上維持費が増えることを拒んだ企業が新規採用を絞った事が原因で就職難が起きた事は周知の事実であろう。

 

 この危機を解決する方法は案外シンプル。ずばり、今まで通り採用すれば良いだけなのだ。

 

 だから、俺の影響力が強い北海道の企業に焦点を絞って、採用絞りを緩めるよう説得するのである。

 

 しかしながら、理想の為に肝心の企業を度外視して採用絞りの停止を強要するのはやってはいけないことだ。

 求めるのなら、まず自分から差し出すというのが商売の常識である。

 

 自分から差し出すものとはなにか?

 それは、"採用を絞るデメリットの説明"と"自らの行動"、あと箇条書きの二つ目と三つ目である。

 

 まず、"採用を絞るデメリットの説明"についてだ。

 

 これは、一定の世代がごっそり職場にいないことで、将来的に管理職適材者不足が起きてしまうという史実で起きた事例(人員不足によるブラック化はだいたいコレ)を元に、念のため経済や経営等の専門家の助言というお墨付きを貰った上で「今採用絞ったら将来マジでヤバい!」と説得するのである。

 

 今生きるだけでも精一杯なんだよ!と返される企業は決して少なくはないだろうが、それでも長期的に見て危機感を抱いてほんのちょっぴりだけでも採用枠を増やす企業が少しでもあれば良いのである。

 

 もう1つの"自らの行動"とは、採用絞りやめてと指示するのだから、自分の企業も採用絞りをやめるべきだよねという訳である。

 つまり、例年通り採用を続けるということである。

 

 バブル弾けて利益ヤバイんじゃないの?と、思うかもしれない。

 

 そこは安心してほしい。

 なぜなら、大半が赤字寸前だった各学園の経営状態は単体で自立可能なほどに建て直しに成功しており、レースやスターウマ娘アピール、グッズ販売協力体制等諸々の改革によって十分な利益を得る体制を作ることに成功しており、その勢いはバブル崩壊後という絶望的状況にも関わらず下火にはなっておらず、採用し続けられる余力が残っているのである。

 

 まさかここまで上手くいくとは自分自身でも思っておらず、今まで堅実に積み上げてきた結果が見事に華咲いたと自分でも安心するばかりである。

 

 それはともかく、自分で行動することで信頼を得て、採用絞りをやめさせる動きを加速させるというのが狙いだ。

 

 二つ目の"北海道内で金の循環を完結させる"とは、上で挙げた策を後押しするために必要な策である。

 

 これは、少し高く費用がついてでも徹底的に需要と供給を北海道内で完結させれれば、中小企業を中心に利益が回って経営と採用の余裕が生まれるはずという算段である。

 

 こうすることで経済の活性化を促し、人を雇うことができる利益をもたらす機会を訪れさせるという狙いがあるのだ。

 

 そもそも、いったいなぜ北海道限定なのか?

 

 ホッカイドウシリーズの地盤だからや卒業後の就職先を潰さないためなど、遠くの取引先が連鎖倒産に巻き込まれる事態を避ける為だとか色々あるが、一番大きな理由は"間接的に植銀を倒産から回避するため"である。

 

 そもそも、銀行の資金とはざっくり言えば預金であり、その預金が一気に引き出されたら維持費とか払えなくなって倒産するというのが、銀行倒産の流れである。他にも色々と理由はあるが、大抵コレが原因だ。

 

 北海道植民銀行は、数多くの北海道の中小企業に対して貸し出しを行っており、その影響力はけっこうすごい。

 そんな銀行が倒産したために、北海道の企業は軒並み厳しくなってしまう。これは、上二つの策を台無しにする最悪の結末を迎える事となる。

 

 それを回避するためには、植銀を救う、あるいは軟着陸させて最悪を回避しなければならない。

 

 そのためには、むしろ植銀に対する預金(資金)を増やして力を落とさせない――企業に力を付けさせる必要があるのである。

 

 ちなみに、俺と親しい植銀関係者曰く、ここ最近不良債権処理の動きを加速させ始めたとのことらしい。俺の必死の説得が効いて良かったと安心しかけるが、依然として慎重な目線で植銀の動向を見守る必要がある。

 

 最後に、"投資を呼び込む"について説明しよう。

 

 これは文字通りの意味を持つので、あまり引き伸ばすようなマネはやめておく。

 

 強いて言うのなら、本土本社の企業なり海外の企業なりが北海道に進出、投資することで雇用や利益の循環量を増やそうぜという狙いである。

 

 少し話は逸れるが、氷上レースやさっぽろ雪まつりの屋台誘致の話を海外に持っていったところ、カナダの名菓子で名高いビーバーテールズ社の誘致に成功し、開催時に屋台が出店することはもちろんのこと、それら屋台の商品補給の為に札幌市に常設店を構える……つまり日本進出されることが決定された。

 

 かくして、たとえどんな小さな変化や行動であろうとも、塵も積もれば山となるように、一つ一つ最善を心がけて、バブルが弾けた世を建て直そうと奮闘する。

 

 

 

 

 

 なんせ、崩壊はまだ始まったばかりだからだ。

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