【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
千歳空港のラウンジにて、駐機場にズラーッと並ぶ飛行機がよく見える席に、とある二人のウマ娘はテーブルを挟んで向かい合うように座っていた。
「――"理屈で国を治めることはできない"……シービーは、シャルル・ド・ゴールという人物を知っているかい?」
「……んーっと、たしか、フランスの偉人でしょ?本土が陥落した後、国外で抵抗して最後に解放凱旋って、宿題で出てた」
「そう、御名答だよシービー」
シンボリルドルフに問われるなり、ミスターシービーはニンジンの燻製(パック入り)を頬張るのを一旦止めて、頭のなかで情報をアレだコレだと整理と取捨選択しつつ問いに答える。
普段の行動から自由人なイメージが先行しがちなシービーだが、意外なことに、最低限ながらも押さえるべきポイントをしっかり押さえ、日本人にとってマイナーなドゴールという人物を的確に表す。さすが天才と言われるウマ娘である。
「話の流れから察するに、ルドルフがURAじゃなくてホッカイドウシリーズに行くほんとの理由は、ホッカイドウで力を付けてからURAに乗り込むってこと?そのドゴールさんみたいに」
「うん、まぁ、それもある……」
「なるほどねぇ」
いつもなら濁すことなくはっきりと表すルドルフが、珍しく言葉を濁す。
ルドルフの不規則的な行動に対してシービーは、ワケを理解していたからこそあえて追及しなかった。
はっきり言って、ルドルフはURAに対して失望していた。
理由を詳細に述べれば小一時間ほど掛かってしまうからできるだけ短く要約すると、過剰な既得権益保護と足並み揃わぬ派閥闘争に嫌気が差したからである。
中央派の人間が「ライオンを飼い殺してやろう」と意気込んだ次の瞬間、改革派として名高い秋川氏から「この腐った中央に変革の風を吹かせよう!」という"二つの相反する中央の意思"が分かったときなど、苦笑いするしかなかった。
同時に、船頭多くして船員無しという中央の内部の有り様を察し、これは長くは持たないだろうなと感じさせたのであった。
――夢を叶える権利を売り、それで得た金で贅を肥やし、叶えられなかったらそこでおしまいさようなら――
そんな、健康と人生を対価にしてなお敗れた数多の
――結局、私のモットーも利用されていたに過ぎないのか……――と。
『すべてのウマ娘を幸せに』というモットーを掲げているルドルフにとって、この事実は耐え難いものだった。
ルドルフは静かに決意した。
かの邪知暴虐のURAを変えねばと。
ルドルフの憎悪の砲口がURAへ向けられるのに、そう時間はかからなかった。
皇帝が命じればすぐに砲撃できる状態である。
日頃抑えていたありとあらゆる冷静さを欠く感情が火を吹けば、恐らくとんでもない事になるだろう。
だからこそ慎重に扱わなければならない。
戦いの指揮官が冷静さを欠いて狂った判断を下すと大変な事になるのは、もはや言うまでも無いだろう。
ルドルフは最近、何ら突拍子もなく、まるでトラウマに魘されたかのようにURAの事を思い出すようになった。
その度に、「あぁ、冷静さを取り乱している」と自覚し、今はまだダメだと自分自身に自重を促して冷静になる。
途端に、自分は今、奴等のように闇の世界に足を突っ込もうとしているのではないか?と疑問に思うようにもなった。想いが拗れて害と化した奴等のように……。
そういうのは間違いなく病み始めている兆候であり、本来あるべき正しい姿から遠ざけようとする悪魔の悪戯であると考えて、自分の正義、それだけをただひたすらに信じて、ルドルフは自身が貫くべき正しき行動に身を投じるのである。
「……まっ!ルドルフならきっと大丈夫だよ。アタシが保証する」
「シービー…!」
「だって、ルドルフには強い信念があるじゃん。それに、ルドルフならどんな困難があっても乗り越えるって、アタシはそう確信してるから」
「ありがとう、シービー。自信が持てたよ……。正直、本当にこの決断で良かったのか不安で仕方なかったんだ……」
「なぁに、気楽に行こーよ。失敗しない人生なんて無いからさ」
シービーがそう言うと、パックの中に入っていたニンジンの燻製をひとつ摘まんで、ルドルフの前に持ってくる。
「……うん、そうするよ」
悩みが立ち消え、いつものような穏和な表情に戻ったルドルフは、シービーが差し出したニンジンの燻製を手に取って口に運ぶ。
そして、シービーもまた食べるのであった。
かくして、ルドルフはあのドゴールのように、自分にとって大切なものを捨ててでも改革を成し遂げる決意を決めた。
学舎でもあり、恩師でもあり、宿敵でもあるURAを腐敗から救うためには、さまざまな試練を乗り越えなければならない。
たくさんの名声に、協力者、資金が必要だ。その道程は長い月日を掛ける事になるだろう。
あのURAを相手に対等な地位まで持ち込んだ理事長の手腕を学ぶ事は必要不可欠だろう。
そのためには、獅子奮迅の如く活躍して出世し、少しでも早く理事長に近づかなければならないだろう。
果たして、自ら落第の道を選んだ皇帝の決断が正しかったのか?運命のサイコロの目が吉に出るか凶と出るかは、まだわからない。
しかし、これだけは分かる。
間違いは自然の理によって淘汰されるだろう
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