【完】転生したら倒産確定地方トレセン学園の経営者になってた件 作:ホッケ貝
あの銃撃事件から、ちょうど一年経った。
それはつまり、ステパン理事長の一周忌でもあることを意味する。
あんまりにも突然の出来事で、俺は動揺して自信を失い、辞職しようかと思うほど精神にダメージを受けた。
だが、信頼している部下や、レース観戦仲間のおっちゃん、さらには同情的な世論など、たくさんの人の応援によって絶望の淵から立ち直り、今はこうして理事長の職務を全うしている。
もしも俺が襲撃者の存在に気付かなかったら、自分が狙われていると知る間もなく死んでいただろう。
もしかすると、あのまま精神的に立ち直る事ができず、義務感という糸によって動かされる操り人形と化していたかもしれないし、闇落ちして過激な思想に片寄っていたかもしれない。
逆に、金が掛かってでもオーストリアやスイスといったセルビア系住民が殆どいない国で会談を開けていれば、このような事態は未然に防げたかもしれない。
民族学のリサーチ不足や、ドクタースパート無断突撃取材事件の経験があるにも関わらず、警護に対して楽観的だったなど、はっきり言って"ツメが甘かった"と認めざるを得ない。
成功に次ぐ成功によって気持ちが弛んでしまった結果が、死人発生という最悪の結末を迎えることとなった。
しかし、地獄の底で苦しむウマ娘たちを助けようと悪戦苦闘する苦労人の命を対価に、教訓というデータを得ることができたのである。
まさに、―マニュアルは血で書かれている―という格言通りのことが起きたのだ。
過去に起こしてしまった失敗を真摯に受け止めて反省し、これからは二度と、血でマニュアルを書くような事態を起こさないように舵取りをするのだと、俺は誓った。
そして、俺は今、ガッチガチに警備されたブダペストトレセン学園にいる。理由はもちろん、ステパン理事長を追悼するためである。
「ゲホッゲホッ!すぅーっ…はーっ…ふう、冷静に、落ち着くんだ自分…」
これまで何度も大勢の前で語ることはあったが、やはり何度やっても緊張する。
ともかく、深呼吸をして落ち着かせるとともに、来るその時に備えて心身ともに準備するのであった。
・・・・・・
「もう始まってる!?」
上はノースリーブシャツ、下はジャージというどこか腑抜けた服装のウマ娘が、チーム部室の扉を開けるなり切羽詰まった様子で声を上げる。
「ふふwwまだだよ、スパちゃん」
「あーっ!よかった間に合ったぁ…」
間に合ったことに対して安堵した様子で、クロアチアからの留学生であるスパシテルは、手に持っていた入浴用の諸々の物品をテーブルに置くなり、テレビの前に置かれているパイプ椅子に腰を下ろす。
「わざわざこんな時間に生で見なくとも、録画で見た方がいいのでは?」
と、中央から"実質亡命"してきた樫本トレーナーが、テレビの前に集うチームメイトらに対して言う。
「朝まで待ちきれないし、絶対に歴史的な瞬間になるだろうから、もうこれは生で見るしかないっしょ!ねぇカッシー?」
もう待ちきれない!早く出してくれよ!とでも言わんばかりに笑みを溢すスパシテルを前に、普段ならお堅い性格、言動の樫本は思わず押される。
「うーん、そうですか…まぁ、多少ならいいでしょう。番組が終わったら、早く帰って明日に備えてしっかりと寝るように」
「はい!!わかりました!!」
スパシテルらチームメイトの笑顔を見るなり、多少の妥協も良いものかと思っていると、スパシテルらがテレビに反応する。
『敬愛する皆さん、こんにちは』
控えめな言葉使いで、生中継は始まる。
「あ、この人理事長じゃん!この人がいなかったら、今頃私らは戦場に行ってたかもしれないねぇ」
「おう、冗談きついぜスパ」
「ハハ、ごめんごめん!」
もしかしたらあったかもしれない世界線を想像して、お互いに茶化し合って場を和せつつ、テレビを見る。
『私たちは今日、ステパン理事長の死を悼むためにここに集まっています。彼は、生徒たちを守るため、献身的に尽力してきました。ですが、悲しいことに暗殺されてしまいました。私は、彼の犠牲を決して忘れず、彼の愛情と献身を常に記憶していくことを誓います』
もうこのころになると、皆は食い入るようにテレビをじっと見つめていた。
その光景は、会場にいる聴衆とそっくりそのままであった。
『ステパン理事長の死は、私たち人類が直面している繁栄と平和の問題を強調しています。世界中で戦争や紛争が続いている今、私たちは真の平和を求めるために、一生懸命に努力しなければなりません』
『平和を築くには、私たちが互いを尊重し、相互理解を深めることが必要です。また、強力な外交関係を行うことによって、国際的な協力を促進することも重要です。私たちは、協力して世界をより良い場所にし、未来の世代に平和と繁栄を遺すことが、今を生きる私たちの責任であることを肝に銘じなければなりません』
『ステパン理事長は、生徒を守るために献身的に尽力し、愛情を持って接してくれました。私たちは、ステパン理事長の遺志を継ぎ、平和を求めるために共に努力し、彼の精神を生かし続ける必要があります』
『最後に、心からの追悼の意を表し、ステパン理事長の遺志を継ぐことを誓います。そして、平和を求めて努力し、愛と相互理解に満ちた世界を作っていくことを、改めて誓います。ありがとうございました』
演説が終わるなり深々と頭を下げて、元に戻って壇上から立ち去る。
それと同時に、会場の至る所から拍手が沸く。
それは、テレビの向こう側の聴衆も同じであった。
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